独自開発した機材を活用し、隙間なく断熱材を吹き込む

独自開発した機材を活用し、隙間なく断熱材を吹き込む

「隙間なく壁に吹き込み結露を防げ」地域工務店が断熱材を自社開発したワケ

地域工務店が断熱材を開発

25年ほど前、株式会社安成工務店は、新聞紙をリサイクルしたセルロースファイバー断熱材「デコスファイバー」と断熱欠損の生じない乾式吹込み工法「デコスドライ工法」の開発に成功した。その後、子会社を断熱事業専業に業態変更。株式会社デコスは、親会社が地域工務店である初の断熱材メーカーとして事業展開している。

断熱材は戸建て住宅にとって重要な建材であり、壁の中に隙間なく詰め込まなければ、結露が発生する可能性もある。シミュレーション通りに温度設定にならない現象が起きるどころか、シロアリに木材が食われる原因にもなりうる。

そこで、デコスは材料と施工一式でノウハウを施工代理店に提供し、結露を起こさない体制を整えている。今回、デコス東京OFFICE所長兼企画部長の田所憲一氏に話を聞いた。

グラスウールよりもセルロースファイバー

――「デコスファイバー」の開発の経緯は?

田所憲一氏(以下、田所氏) デコスの親会社、株式会社安成工務店が、太陽熱で床暖房しながら換気する「OMソーラーシステム」のFC(フランチャイズ)に加盟したことがきっかけです。

「OMソーラーシステム」は設計段階で、どのくらいの室温になるかのシミュレーションができるのですが、最初の1棟めに施工した物件を冬場に実測すると、シミュレーション通りに温度が上がりませんでした。要は、家の中が寒かったということです。

原因の一つは窓の性能が不足していたこと、もう一つは当時、断熱材として使用していたグラスウールが壁の中にきちんと隙間なく施工出来ていなかったためです。窓は性能の良い製品に取り換えれば解決出来ますが、グラスウールは隙間なく詰めることが技能的に難しいという声が出てきました。

そうすると断熱材を変える必要が出てきたため、日本中からさまざまな断熱材を取り寄せ、比較検討を行いました。その中で最も良さそうだったのがセルロースファイバーでした。セルロースファイバーは、アメリカ発祥の断熱材です。もともとは新聞紙がもったいないので、それを有効利用しようという発想から始まったそうです。1棟めの現場で施工済みのグラスウールを撤去し、セルロースファイバーを吹き込んだところ、シミュレーションに近い温度になったんです。

これきっかけとなり、社長もセルロースファイバーを気に入り、断熱材はグラスウールからセルロースファイバーに切り替えることになりました。

工務店の社長がセルロースファイバー製造を決意

田所氏 最初は他社製品を採用していました。ところが使いたい防火構造認定や省エネ基準を満たしていない製品が多かったんです。メーカーには認定を取得してほしいとお願いしましたが、「手間とカネが掛かるから」と断られてしまいました。「だったら、セルロースファイバーを自社開発しよう」ということになったんです。

そこで元々、安成工務店の不動産部門の子会社だったデコスを断熱材メーカーへ業態変更しました。自社工場もつくり、様々な認定も取得しました。「デコスを安成工務店のみで独占するのはもったいない」ということで、今では「デコスドライ工法」として全国展開しています。販売にあたっては施工代理店制度を設け、現在70社が加盟しています。

原材料の8割が新聞紙でできている断熱材「デコスファイバー」

――販売は施工代理店に限定?

田所氏 そうです。普通の断熱材メーカーは商社に製品を卸したら、そこで終わりです。しかし、デコスは顔が見える施工代理店にしか売らない。なおかつ、木造住宅内部結露被害20年保証制度も行っているため、最終ユーザーまで分かっています。ですから、他の断熱材メーカーとは、販売方法が異なります。

――商社に売り切りのほうが商売的には楽だと思いますが、そこまで徹底したワケは。

田所氏 一番は、施工です。住宅の断熱施工は、正しい施工が欠かせません。断熱材と施工をセットで担保できるかが大きなポイントです。断熱材は、大工さんと専門業者が断熱施工する二つのケースがあります。大工さんにまかせると、断熱材を入れた後、石膏ボードを張る作業を行うのも大工さんです。適当な入れ方をして塞がれてしまっては見えないですから、チェックできません。

また、現場監督も正しい断熱施工を理解していない場合もあり、最悪いい加減な施工をしても分からないのです。確かに商社に売れば楽ですが、断熱施工が正確にできる人材の育成にも重点に置きました。ですから、材料と施工で保証がつけられる制度としています。

断熱性能確保には施工が重要

――「デコスファイバー」を使った「デコスドライ工法」の特長は?

田所氏 壁の中には配線、配管や補強金物などいろんなものが入っています。そこに隙間なく断熱材を入れるというのは至難の業です。どうしても必ず隙間ができます。もちろん、手詰めできれいに詰め込む職人もいますが、かなり大変です。このくらいであればOKという判断もまちまちです。

しかし、隙間があると断熱欠損という現象が起こり、結露が発生します。そうなると、カビが発生し、木も腐食し、シロアリが木材を食べる等いろんな弊害が起こります。断熱材を施工する時は、隙間をつくってはいけないというのはこれが理由なのです。

そこで、断熱欠損をつくらないために「デコスドライ工法」を開発しました。まず、「デコスファイバー」は、新聞紙を綿状にして薬剤加工したものです。独自の機材や熟練した職人の施工により綿状の「デコスファイバー」を水や接着剤を一切使わず乾式で吹き込み、手の届かない場所にも充填出来ます。マットやボード状の断熱材施工とは異なり、断熱欠損がなく、設計通りの断熱性能を発揮します。

しかし、パンパンに入れすぎるとその後、大工さんが石膏ボードを張れなくなります。その点にも配慮して、いい塩梅で吹込みます。

研修を受け熟練した施工者が「デコスドライ工法」を使用

――施工について注意している点は?

田所氏 デコス社員が自分たちで施工して、そのノウハウをマニュアル化しました。施工技術を習得するにあたっては、山口県・下関市に研修施設がありますので、そこで施工者は一週間しっかりと、座学、実技と現場研修を受けてもらい、合格した方に免許を発行しています。そして一棟目の時は、施工指導に行き、一緒に施工します。そこで復習しつつ、しっかりと施工出来るようにしています。

熊本地震や豪雨災害後の木造仮設住宅でも採用

――熊本地震の被災地での木造仮設住宅にも、「デコスファイバー」が導入されましたが。

田所氏 東日本大震災での仮設住宅は、寒さだけでなく、結露が発生したためにカビが蔓延し、それを吸い込んだ住民が体調を悪くされた事例もありました。

熊本地震の際は、被災地での木造仮設住宅の建設を主に担ったのは、県内の60社以上の地域工務店が参加する一般社団法人熊本工務店ネットワーク(KKN)で、同協会の会長を務める株式会社エバフィールドの久原英司社長が、デコスを標準採用されていました。

久原社長は、東日本大震災の事例もご存知だったので、「寒くなく、暑くもない、心地よい仮設住宅を建設したい」と国と県に折衝され、デコスを導入していただくことになりました。まず、50棟を木造で建築しデコスを導入しましたが、入居された方からの反響も大きく、最終的には190棟563戸の全棟に標準仕様していただきました。

その後、2020年7月熊本豪雨災害でも、KNNが建設を担当した仮設住宅612戸すべてに、デコスを採用いただきました。

熊本での仮設住宅

――今後については。

田所氏 今まで断熱材は冬対策メインでしたが、これからは地球温暖化もあり、夏に強い「デコスファイバー」をPRしているところです。元々、セルロースファイバーは木からできています。木から紙、新聞紙となっていて、セルロースファイバーはその新聞紙をリサイクルしたものですから、素材特性は木と同じです。

木は、湿気を吸ってためて吐く”調湿性”を持っています。夏場、室内の湿度が下がれば、より涼しく感じるようになります。エアコンのドライ運転をしているイメージですね。ですから、調湿性を活かすデコスは夏場に適した断熱材なのです。昨今、問題になっている夏型結露対策としても提案しています。

――夏でも結露するのですか?

田所氏 今、在宅勤務が増えていますが、夏になるとエアコンがフル回転し室内は涼しいですが、その一方で外は暑い。この温度差によって壁体内部の防湿フィルムでも結露が発生します。昨年の夏頃から、この夏型結露(逆転結露)は大きな問題になっています。これから工務店業界は夏対策に力を入れていることもあり、当社もシフトして行きます。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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