後藤 尚樹さん(日本エンジニアリング株式会社 技術統括本部構造技術部 橋梁設計室長)

後藤 尚樹さん(日本エンジニアリング株式会社 技術統括本部構造技術部 橋梁設計室長)

「さばききれないほど仕事が舞い込む」とウワサの橋梁設計技術者が語る”メタル屋としての仕事術”

“ひときわ異彩を放つ”橋梁設計技術者に話を聞いてきた

日本エンジニアリング株式会社(本社:横浜市中区)には、橋梁設計室というセクションがある。

その名の通り、橋梁に関する耐震設計や鋼橋の詳細設計などの業務を担当するセクションだが、このセクションを司る室長さんが「かなりの技量を持っている」という情報を得た。

とにかく「仕事が舞い込んで舞い込んで、さばききれない」というウワサも耳にした。じゃあということで、日本エンジ橋梁設計室長を務める後藤尚樹さんにいろいろ話を聞いてきた。

まずは橋梁の施工管理会社で経験を積む

――日本エンジに入社して何年ぐらいですか?

後藤さん 19年ぐらいです。

――中途入社ですか?

後藤さん そうですね。大学を卒業して、まずとある橋梁メーカーに入社し、施工管理をしていました。現場仕事はそれはそれで面白かったのですが、それでも「やはり設計をやりたい」という気持ちがありました。それで設計会社に転職しました。その後、もっと大きな仕事をしたいということで、日本エンジに再び転職しました。

――土木に興味を持ったきっかけとかは?

後藤さん 高校生の頃は、漠然と「建築に行きたい」と思っていましたが、具体的に何を建てたいというものはありませんでした。高3の大学受験を控えた頃になって、「規模の大きな公共構造物をつくりたい」と考えるようになりました。それでとある大学の土木学科に進学したわけです。きっかけはだいたいこんな感じでした。

――大学の研究室とかは?

後藤さん 都市計画の研究室でした。実は、橋梁に関する研究室を希望していたのですが、その研究室がモノすごい人気で、入れなかったんです。

――就活は?

後藤さん 親から「早く就職してくれ」と言われたこともあって、大学院には行かず、学部卒で就職することにしました。就職先は、大学の先生のススメで、とある橋梁メーカーに決まりました。

――橋梁メーカーではどのようなお仕事を?

後藤さん 現場の施工管理です。実質的に担当した最初の現場は、旧日本道路公団発注の歩道橋の新設橋梁、鈑桁のランプ部橋梁、箱桁の本線橋梁の工事がセットになった現場でした。私が一番の若手だったのですが、ご指導いただきながら、いろいろ任せてもらい、非常に勉強になりました。勉強になったこととしては、頭で計算するだけでなく、実際にモノを持って重さ、大きさを知ることの大切さを学びました。

その後、東名高速の伸縮装置の交換工事を担当したんですが、これが面白い現場でした。夜間交通規制して、交換して、朝方開放するという工程を三晩ほど繰り返したのですが、こんな短時間でできるものなんだと感心しました。作業現場は、すぐ隣を夜行バスなどがスゴいスピードで走り抜ける所で、恐怖感を覚えながら施工管理していましたが、この現場も良い経験ができた現場として記憶に残っています。

構造設計をトコトン追求したい

――「設計をしたい」ということで、設計会社に転職されたと?

後藤さん そうです。ただ、当時は設計技術というものをほとんど知らなかったので、設計のノウハウを学ぶということで、入社した感じです。小さな設計会社でしたが、マンツーマンでしっかり指導していただいたので、いろいろな設計知識を吸収することができました。

――なぜ設計をやりたかったのですか?

後藤さん 私の性格なんですが、「気になったことはトコトン追求したくなる」んです。現場を見ていても、「なぜココにプレートが付いているのか」ということが気になってしまうんです。

そうこうするうちに、「もっとこうすれば良いんじゃないか」というようなことを考えるようになりました。「現場を少しでも経験した人間として、この部分はこういう設計であるべきだ」ということを自分なりに追求したくなったわけです。好奇心ですね。

橋梁を新設設計する場合、そこには構造上のいろいろなルールがありますが、すべてのルールを網羅する教科書的なものは存在しないんです。設計者が、一つひとつの構造を自分で確認しながら、考え、悩み、時には同僚に相談し、根拠を明確とした設計図を仕上げていく必要があります。

「自動設計」というソフトがあって、便利なソフトです。このソフトを使用すれば、一つひとつの構造についてなんの疑問も持たないままでも、とりあえず設計図ができてしまうんです。

ただ、現場、施工上、製作上などの要因にて、設計を修正する必要が生じ、ある部分の構造を少し変えても大丈夫なのか確認する必要が出た場合、自動設計では対応できないケースが考えられます。私が設計に興味を持ったのは、こういうところをちゃんと知っておきたいと考えたからです。

私は「人が知らないことを知っている」というのは、「技術者の醍醐味」だと考えています。ただ、その辺に深入りしすぎると、周りから「趣味の世界だろ」と言われてしまうんですが(笑)、イッコずつ納得して物事を進めていくのが、私の性分なんですよ。

より大きな仕事をしたい

――日本エンジに転職した理由は?

後藤さん 設計会社は小さな会社だったので、できる仕事も小さいモノばかりでした。もっと大きな仕事をしたいというのが、転職した理由です。

――日本エンジではこれまでどのような仕事を?

後藤さん 日本エンジに入社して、すぐにとある橋梁メーカーに出向しました。その会社では、設計技術者として、フィリピンに打ち合わせなどで1週間ほど滞在しました。他に国内のアーチ橋梁、斜張橋、複合構造など多数の橋梁設計業務に携わり、3年間ほど出向していました。

その後、日本エンジに戻ってからは、橋梁メーカーの依頼でシンガポールにも赴任しました。2ヶ月ほどいて、マリーナベイサンズの架設の架台などの設計に携わりました。それ以降も、ひたすら設計業務に携わりましたが、見た目がキレイな報告書をつくるといった仕事よりも、構造物に集中して、より良い橋梁をつくるということに力を入れてきました。


対価なしで、お客さんの相談に乗る営業スタイル

――橋梁設計室長になったのはいつですか?

後藤さん 10年ほど前です。

――橋梁設計室ではどのような業務を手掛けているのですか?

後藤さん 橋梁メーカーやコンサルから設計業務を受託するというのが、基本的な業務内容になります。ただ、私自身、「頼まれると断れない」ところがありまして(笑)、業務としては受注していないんだけども、お客さんから「こんなときどうしたら良い?」と相談されると、対価なしで相談に乗ったりしています。営業の一環としてやっているんですが、やりすぎてしまうこともあります(笑)

――「便利屋」みたいな?(笑)

後藤さん そうですね、私もそう思います(笑)。ただ、私としては「頼りにしてもらっている」と前向きに考えています。結果的に仕事の受注につながっていると思います。

通常の営業活動では、お客さんに対し、自分たちの「技術力」と「知識」をアピールしなければなりませんが、パンフレットを持って説明しても、あまり説得力が出ません。それよりは、普段から電話で相談を受けたりしながら、それに応えていくといったことを続けるほうがよほどアピールになると考えています。

「過去の実績」には説得力はない

――仕事をするうえで気をつけていることは?

後藤さん お客さんとのコミュニケーションをしっかりとることですね。お客さんとの意思疎通が滞ると、お互いの進みたい方向がズレてしまうので、やっぱり仕事はうまくいきません。コミュニケーションがしっかりとれなかった仕事は、だいたい痛い目をみています(笑)。

――臨機応変な対応力が必要ということでしょうか?

後藤さん そうですね。例えば、よく使う言葉で「過去に実績があるからコレは良い」という言い方がありますが、私は「過去の実績には説得力はない」と考えているんです。実績がある技術だとしても、現在進行系の事象であって、これから明らかになることもあるからです。やはり論理的、数値的に問題がないということを証明することこそが、われわれ技術者がとるべき説得力のある方法だと思っています。

現場を知らないと、「配慮に欠けた設計」になる

部下に業務内容を説明する後藤さん

――部下への指導、育成で気をつけていることは?

後藤さん 橋梁設計室では最近若い社員が増えていて、20才代が4名います。彼らには、参考図通りにやるのではなく、常に「なぜ?」ということを考えながら、成果物を見なさいと言っています。お客さんに成果物を持っていくと、必ず「これはなぜ?」と聞かれます。そこで即答できるかどうかが、技術力を問われる部分だからです。

あとは、先ほども申し上げたコミュニケーション能力ですね。「雑談でも良いので、周りの社員と話をしなさい」と指導しています。社内でのコミュニケーションは、社外でのコミュニケーションにつながるからです。

――現場を知ることの大切さについてはどうですか?

後藤さん 机上で図面を描いていると、モノの大きさがわからなくなることがあるんです。「現場を知らない」というのは、ウチに限らず、設計技術者の弱みだと思います。とくに補修補強の設計では、補強構造物を箱桁内に入れる場合、マンホールの中を通らないといけないとか、現地で設置するためには、人が持てる重量でなければならないとか、「現場に配慮した設計」にする必要があります。

ただ、そういうことが、現場を知らない若い社員にはなかなかわかりません。「配慮に欠けた設計」をしてしまうということですね。それを防ぐために、若い社員にはなるべく現場に行く機会を増やしてあげたいと考えています。見学レベルではありますが。あとは、インターネット画像などを使った勉強会なども実施しているところです。

コンクリート下部工の設計に挑戦中

――日本エンジの強みはなんだと考えますか?

後藤さん やはり、設計、現場調査、点検などをカバーする守備範囲の広さですね。それと、新しいことに挑戦できる社風だと思っています。新しいことへの挑戦にはリスクを伴います。会社からは、当然一定のリスク管理は問われますが、基本的には「新しいことはドンドンやってみろ」と後押ししてくれます。人の能力を伸ばすうえで、恵まれた環境だと感じています。

――後藤室長自身が今、挑戦していることはありますか?

後藤さん 私は大学を卒業して以来、25年間ずっと「メタル屋」として橋梁設計の仕事をしてきましたが、今、コンクリート下部工の設計に挑戦しようとしています。私は現在47才なので、「残り何年あるんだ」という話もありますが、コンクリート下部工の設計も含めトータルの設計ができてこそ、橋梁技術者として一人前になれるということで、勉強しているところです。

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