首都高技術とNTTドコモがドローン橋梁点検でコラボ
首都高技術株式会社と株式会社NTTドコモはこのほど、大型ドローンと小型ドローンを併用した橋梁点検手法を確立したと発表した。
ドローン運用には、NTTドコモが開発したドローンプラットフォーム「docomo sky®」を活用。非GPS環境下での飛行、撮影、場所の紐付けを実施したところ、従来の点検手法と同等の点検結果が得られたらしい。
首都高の橋梁点検はどう変わるのか。ドローンを活用した橋梁などのインフラ点検ビジネスは今後拡大するのか。首都高技術とNTTドコモの共同研究担当者に取材した。
- 加藤 穰さん
首都高技術株式会社 構造管理部構造管理課主査・構造物点検技術訓練室 - 木田 陽子さん
株式会社NTTドコモ 5G・IoTビジネス部ドローンビジネス推進担当課長 - 田仲 秀行さん
株式会社NTTドコモ 5G・IoTビジネス部ドローンビジネス推進担当主査 - 安中 智さん
首都高技術株式会社 インフラデジタル部長・技術開発室長(オブザーバー)
橋梁に特化したドローン点検が実現するかもしれない
まずは、今回の共同研究の経緯を確認しておこう。
首都高グループとNTTドコモとのコラボは、今回が初めてではない。首都高速道路は2018年4月、災害時の道路啓開を目的としたドローンシステムに関する共同研究を公募。
これにNTTドコモが手を挙げ、首都高速道路、首都高技術、NTTドコモの3者による共同研究がスタートしていた。ドローンによる被害状況などの情報収集、収集した情報のLTEによる伝送などについて、実証実験を行っていた。
左から、田仲さん(株式会社NTTドコモ)と加藤さん(首都高技術株式会社)
首都高技術がNTTドコモとの共同研究に乗り出したのは、3者での共同研究中、NTTドコモから「非GPS環境下でも飛行可能なドローンがありますよ」と提案されたのがきっかけだった。これは、GPS信号の取得が難しい高架下、橋梁下であっても、ドローンの自律制御飛行が可能なことを意味する。
「橋梁、高架に特化したドローン点検が実現するかもしれない」(加藤さん)ということで、首都高技術とNTTドコモは2019年4月、ドローンによる定期点検前スクリーニングに関する共同研究を新たにスタートさせた。そういう経緯があった。
『ドローンプラットフォーム docomo sky』のポータルサイトはコチラ
ドローン専用のプラットフォーム「docomo sky」
NTTドコモは以前から、ドローンビジネスに力を入れてきている。2016年10月には、セルラー回線を使った「ドコモ・ドローンプロジェクト」と銘打ち、防災減災、農業、物流といった分野で、ドローンを使ったソリューションビジネスの実証実験などをスタートさせている。docomo skyは、NTTドコモが提供する様々なドローンビジネスの中の一つに位置づけられる。
docomo skyとは、ドローンに特化したプラットフォームで、ドローンの飛行準備(飛行拠点、フライトプラン設定など)から撮影、データのアップロード、飛行後のデータ解析やレポート作成まで、すべてWEB上で一元管理できるクラウドサービスだ。
docomo skyはもともと、NTTドコモが所有する鉄塔などの通信インフラを点検するために開発された。それ以前にも、点検にドローンを活用していたが、ただドローンを飛ばして撮影するだけで、画像などを管理するプラットフォームがなかった。
「ドローンで撮影した画像がいつどこで撮影されたものか、正確かつ効率的に管理したい」という社内のニーズに応えるカタチで、2019年に社内用システムとしてのドローンプラットフォームの開発、運用がスタートした。
あくまで社内用としてスタートしたドローン点検システムだったが、運用開始からほどなく、「他のインフラ点検にも活用できるようにすれば、ビジネスチャンスになるかもしれない」という声が浮上。社内システムをベースに、ドローンプラットフォームサービスdocomo skyの開発が進められた。2020年7月、法人向けサービスをリリースした。
docomo skyの法人向けサービス展開に際し、NTTドコモは、本社法人ビジネス本部5G・IoTビジネス部内にドローン専門チームがおり、開発チーム、AI解析のチーム、営業チーム等を配置している。チームの中には、点検対象となるさまざまなインフラ、構造物、建設現場などについて熟知したスタッフが在籍しており、社内の本社支社の営業アカウントマネージャーがお客様からの相談を受けると、専門チームと連携しお客様対応をしている。
首都高技術とNTTドコモの共同研究でも、docomo skyはプラットフォームとして活用されている。なお、詳細は後述するが、今回docomo skyが活用されるのは、ドローンで撮影した画像、動画の管理までであり、画像解析以降のフローは含まれていない。
docomo skyのビューアは、鉄塔の撮影のための仕様になっている。鉄塔の場合は、3〜4ある面ごとに、撮影していくため、ビューア上には、面ごとに画像が並べられる。
首都高の橋梁を撮影するに当たり、撮影方法や仕様を首都高技術用にカスタマイズした。例えば、床版を撮影する場合は、カメラを上向きにしてドローンを飛ばし、床版の左から順番に撮影することで、床版の左、真ん中、右と規則的に画像を並ぶようにした。
ドローンで難点検箇所を攻略できるか
加藤さん(首都高技術株式会社)
首都高でのドローン点検実験に当たり、首都高速湾岸線荒川湾岸橋や辰巳橋など、点検箇所を絞り込んだ。いずれも点検員による近接点検が難しい、いわゆる首都高では点検困難箇所と言われている箇所だ。
中でも、荒川湾岸橋は、首都高の数ある構造物の中でも特殊構造物に指定されている難点検箇所の一つだ。従来は、吊り足場などを設置し、なんとか接近点検している箇所だ。この点、「今回の実証実験の最大のテーマは、点検が困難な箇所を効率的にどう点検するかにあった」(加藤さん)と振り返る。
ドローンの運用では、大型ドローンと小型ドローンの2つのドローンを併用する手法をとった。大型ドローンの飛行には、平面の離発着場所が必要。一方、小型ドローンは、手のひらなど、どこからでも離発着できるという違いがある。大型ドローンの離発着場所が確保できないところは、小型ドローンを飛ばすというのが、共同研究において確立した手法の一つだ。
首都高でのドローン点検実験の様子(画像提供:NTTドコモ)
大型ドローンは、株式会社自律制御システム研究所が開発した非GPS環境下でも自律飛行可能な「ACSL-PF2」。LiDARセンサーやフルサイズのステレオカメラ、ライトなどを装備する。
小型ドローンは「skydio 2」。AIによる自律飛行が可能で、上向き90度の画角調整が可能なカメラ(1200万画素)を搭載し、障害物回避機能も備える。飛行経路を任意で設定できる飛行経路導出機能を備えており、非GPS環境下でも飛行させることができる。
荒川湾岸橋での実験では、小型ドローンが大いに活躍した。荒川湾岸橋では大型ドローンの離発着場所を確保できなかったからだ。結果的に、小型ドローンのみで点検することになったわけだ。
小型ドローンでの点検も、決して「イージーに」とはいかなかった。
近接点検の様子(画像提供:NTTドコモ)
「橋には管理用のハシゴや通路などがあるが、人1人がやっと通れるほどの狭いスペースしかない。そこをよじ登り、橋桁の近くまで行って、小型ドローンを飛ばす必要があるが、ドローンを担いでハシゴを上ることはできず、まず人だけが上って、ヒモで吊るしたドローンを引き上げるしかなかった」(加藤さん)と言う。
ドローン点検では、離発着場所の確保がいかに大事かがわかる。
試行錯誤しながらのドローン点検だったが、結果は良好なものだった。「実際の定期点検にほぼ近い点検結果が得られた」(加藤さん)と評価する。「従来の定期点検では見つけられなかった損傷を見つけるという成果もあった」(同)と言う。
AI解析、報告書作成が今後の研究課題
田仲さん(株式会社NTTドコモ)
首都高技術とNTTドコモは、これまで実験結果を以って、「ドローンで橋梁点検する技術を確立した」としている。表現が少しわかりにくいが、「ドローン点検は実際に使えることがわかった」ということらしい。ただ、共同研究はこれで終わったわけではなく、実用に向けては、これからが本番のようだ。
この点、首都高技術は「最終的なゴールは、人手をかけずに報告書まで作成することだ」(加藤さん)と話す。NTTドコモも「同じゴールに向かって、より運用しやすいよう、いろいろと突き詰めていきたい」(田仲さん)と力を込める。
そのためには、AIによる解析が重要な研究課題になってくる。「プラットフォーム上の画像データは大きな財産。今後、教師データが揃ってくれば、AI解析なども十分に可能になる」(木田さん)と話す。
他のプラットフォームとの連携は「まだまだ先の話」
気になるのは、docomo skyと他のプラットフォームとの連携だ。首都高技術には、GISと3D点群データを活用した「InfraDoctor®」という独自のプラットフォームが運用中だからだ。この点、「ドローン点検した画像データなどをInfraDoctor®で一元管理する予定は今のところはない。当面は別々のプラットフォームとして運用していく」(加藤さん)としている。
ただ、「InfraDoctor®」を所管するセクションには、「ドローンで撮影した画像の位置情報をGISに付加することができれば、InfraDoctor®の中でデータ管理することも可能だ。ドコモさんもウチも考えていることは一緒だと思う」(安中さん)という意見もある。
木田さん(株式会社NTTドコモ)
NTTドコモは、「お客様から『docomo skyと他のシステムを連携させたい』というご要望が出てくることを想定し、API連携が可能な設計になっています。つまり、システム連携は可能です」(木田さん)と話す。
しかし、「現時点では、多くのお客様にとって、ドローン点検が実際に使えるかどうかを試している段階。その先のシステム連携はまだまだ先の話というのが現状だ」(木田さん)と指摘する。他のプラットフォームとの連携は、当面は「次のステップ」(田仲さん)になりそうだ。
今は、「ドローン点検市場」を育てていくステージ
海上で点検するドローン(画像提供:NTTドコモ)
もう一つ気になるのは、ドローン点検ビジネスを手がける他社との競合だ。近年、「Drone as a Service(DaaS)」という言葉とともに、ドローンで取得したデータを活動した様々なビジネスが生まれている。
とくに、株式会社ジャパン・インフラ・ウェイマーク(JIW)は、ドローンによるインフラ点検サービスという点で、ほぼ同じビジネスモデルのように見える。なにより、NTTドコモとJIWは、同じNTTグループだ。「同じグループ会社で、競業するのはどうなの?」という疑問があるわけだ。
この点、「現時点では、(JIWなどと)競合しているとは考えていません。今はまだ市場が成長している過程です。むしろ、いろいろな企業と連携し、市場の成長に寄与したいと考えています。」(木田さん)と指摘する。
その上で、「将来的には、誰も人がいないところで、ドローンが勝手に点検しているという世界が来ると考えています。ただ、そこに辿り着くまでには、いくつかのステップを踏みます。今回首都高技術さんと共同研究していることも、そのステップの一つです。これからも一つずつ確実にステップを重ねていきながら、われわれが目標としている世界に到達していきたい」(木田さん)と力を込める。
ドローンによるインフラ点検を巡っては、ここ数年、建設業界内外から高い注目を集めてきた。だが、その期待の高まりとは裏腹に、飛行可能エリアが限られるといった制約のほか、点検やAI解析の精度が確保できないといった課題は、未だに残り続けている現状がある。
そろそろ、インフラ点検分野で「実装されたDaaS」というものをこの目で見てみたいものだ。