ドボジョに聞いた。仕事のやりがい、魅力とは何か
香川県は、「日本一小さい県(約1876km2)」、あるいは「うどん県」として知られるが、四国地方整備局などの国の出先機関、司法機関(高等裁判所)、電力会社やJRの本社、大手企業の支店などが集積する四国の拠点県という顔も持つ。
土木関連の近年のトピックスとしては、その小さな面積を活かした(?)、全国初の県内水道の一元化(広域化)の実現が挙げられる。そんな香川県庁の土木職女性職員(ドボジョ)に取材する機会を得た。香川県庁を選んだ理由、仕事のやりがいなどについて、話を聞いてきた。
- 岡林 小霧さん
香川県中讃土木事務所道路第二課 課長(入庁25年目) - 鈴木 絢子さん
香川県長尾土木事務所道路課 主任(入庁19年目) - 牟禮 瞳さん
香川県土木部技術企画課積算・市町支援グループ(入庁8年目)
なんで土木?ドカタするん?
岡林さん
――土木に興味を持ったきっかけはありましたか?
岡林さん 中学生のころ、瀬戸大橋が建設中というニュースを見て、「スゴイものをつくっているなあ」と思ったのがきっかけです。私は小豆島出身なのですが、高松などに行く手段は船しかありませんでした。船だと行動時間が限られるなど不便なことがあるので、橋でつながるのは便利だろうなと思いました。
それで、橋や道路といった地図に残るモノをつくる土木の仕事に興味を持つようになり、高専に進学しました。友だちからは「なんで土木?」「ドカタするん?」と驚かれましけど(笑)。
鈴木さん
――鈴木さんはどうでしたか?
鈴木さん 私は、小さいころから絵を書いたり、工作したり、なにかカタチのあるものをつくるのが好きでした。大学に進むときは、なんとなくモノを生み出す勉強をしたいと考えていました。それで、大学は県外の環境デザイン工学科を選びました。
入学時のオリエンテーションのとき、大学の先生が「ここは土木ですよ。みなさん大丈夫ですか」と言いました。そのとき初めて土木だと知ったわけですが、環境とか計画とか、けっこう幅広い学問だなと思ったので、「これはこれで良い学科に来たのかな」ということで、土木を勉強しようと心に決めました。
牟禮さん
――牟禮さんは?
牟禮さん 私は、高校生のころから、ずっとデスクワークするような仕事は「違うかな」と思っていて、「外に出る仕事」のことだけを考えていました。大学に進学する際、友だちに誘われて地元大学の工学部オープンキャンパスに行ったのですが、工学部のパンフレットに屋外で測量などをしている写真が目に止まったんです。「この学部に入れば、外の仕事に就けるのかな」ということで、その工学部に進学しました。それが土木との出会いでした。
――土木のなにを学びましたか?
岡林さん 高専の研究室は土質工学でした。構造力学も好きだったので、どちらにするか悩みましたが、構造力学は当時人気があったので土質工学にしました。高専の後は、県外の大学に進学しました。
――当時の高専には女子はどれだけいたのですか?
岡林さん 私が入学した年は、全校生徒800名のうち女子は9名で、私のクラスは2名でした。なので、年齢関係なく女子同士はかなりフレンドリーで、昼休みは全員で集まっておしゃべりをしたりして、楽しかったです。
――鈴木さん、何を学びましたか?
鈴木さん 私は水理学の研究室に入りました。本当は都市計画をやりたかったんですけど、そこぐらいしか残っていなかったからです(笑)。ただ、実際に入ってみると、けっこう良い研究室でした。
――牟禮さんはどうでしたか?
牟禮さん 研究室は水圏環境工学や水産工学で、アサリの浮遊幼生の研究をしていました。この研究室を選んだ理由は、正直とくにありませんでしたが(笑)、公務員になった先輩が多かったので、それで選んだところはあります。
香川県庁なら、ワークライフバランスを保てる
――香川県庁を選んだ理由はなんだったのですか?
岡林さん 結婚・出産しても働き続けたいという思いがあり、公務員志望でした。大学時代は県外にいたのですが、香川に帰省すると、「やっぱり自分は香川が好き」と改めて実感しました。それで、香川県庁を選びました。香川県は県土面積が小さいので、県内のどの職場からも通勤が可能なのも魅力でした。
――市役所などよりは県庁だと?
岡林さん 市役所も考えましたが、やはり、県庁のほうが幅広く仕事ができそうだと考えました。地元のコンサルなども回りましたが、最終的に県庁を選びました。
――県庁でこれをやりたいというのはありましたか?
岡林さん とくにこれというのはなく、インフラをつくる仕事に携わりたいぐらいでした。
――鈴木さん、どうですか?
鈴木さん 私が就職活動したころは、就職氷河期でした。民間企業への就職は、ものスゴい数のエントリーシートを書いても、ほぼ受からないという状況でした。そういう状況を横目に見ながら、いろいろと考えているうちに岡林さんと同じく、「やっぱり香川に帰ろう」と思うようになりました。
地元のコンサルも考えましたが、残業も多そうなイメージがあったので、仕事として不安がありました。その点、公務員だったら、家庭も守りつつ仕事をできそうだということで、公務員を志望しました。
私は高松市出身でして、自分の住んでいるまちに貢献したいということで、高松市役所が第一志望でした。ですが、私が受験したときは採用がゼロでした。それで、やむなく第二志望の香川県庁にしました(笑)。
――県庁でやりたいことはありましたか?
鈴木さん とくになく、「なんでもやります」という感じで入りました。
――牟禮さんはどうでしたか?
牟禮さん 私の就職活動は公務員一択で、民間はまったく考えていませんでした。インターンシップは四国地方整備局でしたが、計画から維持管理までできる公務員は「やっぱり良いな」と思いました。ただ、四国地方整備局は転勤があるので、断念しました。
香川県庁か高松市役所かどちらにしようか悩んでいたとき、大学に香川県庁の方が仕事の紹介に来られました。香川県庁と国や市役所との違いについて質問したら、「県庁は事業規模もそれなりにあるので、わりと自分がやりたいことができる」というお話をいただきました。それで香川県庁を第一志望にしました。
――県庁でやりたいことはありましたか?
牟禮さん そこは全然思い描いていなかったです。
ドボジョの仲間とやりがいを持って仕事をしていきたい
――県庁でこれまでどのようなお仕事をしてきましたか?
岡林さん 最初の配属先は、高松港頭地区開発事務所という今はもうない部署でした。高松駅や高松港周辺のサンポート地区の再開発に伴う道路整備や港湾整備や区画整理などを担当する部署で、私は道路整備を担当しました。当時、事務所ができて間もないころだったので、最初に配属先を聞いたときは、どこにある事務所なのか分かりませんでした(笑)が、今思えば、規模の大きな事業に携われたのは、ラッキーだったと思っています。
その後は、出先の土木事務所や本庁を転々としてきました。本庁が12年、出先が15年ぐらいです。土木事務所では道路改良や街路事業など主に道路関係の仕事に携わってきました。本庁では都市計画課で都市公園や都市政策、技術企画課で入札関係、道路課で直轄事業や企画関連といった仕事を担当してきました。
――配属先の希望が叶ったということはありましたか?
岡林さん 私の場合は、希望がけっこう叶いました。例えば、「都市計画をやりたい」と書いたら、都市計画課に配属されましたし、「総合評価の勉強をしたい」と希望したら、技術企画課で担当させていただくことができました。
――キャリアアップについて、どうお考えですか?
岡林さん 私の後輩に当たる土木職の女性職員が増えているので、彼女たちと一緒に、やりがいを持ちながら長く仕事をしていきたいという思いがあります。キャリアアップを考えてこなかったわけではないですが、勤務年数の長い私が頑張って、少しでも「良いお手本」になればと思っています。私としては、どんな仕事を任されたとしても、誠意を持って真面目に仕事に向き合うことを心がけています。
災害対応で記憶がないぐらい徹夜した
現場で打ち合わせする鈴木さん(右) (香川県庁提供)
――鈴木さんはこれまでどのようなお仕事を?
鈴木さん 最初は高松土木事務所の維持課というところで、河川維持、ダム管理、災害を担当しました。「高松土木で働きたい」と希望を書いたら、その通りになりました。その年は、香川県としては戦後最大規模の災害が発生した年でした。右も左もわからない状態でしたが、災害担当として、記憶がないぐらいたくさん徹夜しながら、仕事をしました。
本庁勤務は都市計画課と河川砂防課にそれぞれ配属されました。都市計画課では都市施設整備関係と景観法関係などを担当しました。河川砂防課では砂防と河川を担当しました。現在は長尾土木事務所勤務で、道路の改修事業、維持管理などを担当しています。
――高松市内と市外の勤務年数の割合は?
鈴木さん 半々ぐらいです。
――高松市外での仕事はどうですか?
鈴木さん 実際にやってみると、自分にとって良いことだなと思っています。地元の方々とも顔なじみになって、すぐ声をかけていただけたり、良い関係を築けています。地元の方々と仲良くなると、受け入れられにくいことでも、「鈴木さんが言うんやったら、しゃあないか」みたいなことを言ってくれることがあるので、太いコミュニケーションができます。
デスクワークより外で仕事したい
大好きな現場仕事中の牟禮さん(香川県庁提供)
――牟禮さん、これまでのお仕事は?
牟禮さん 最初の配属先は長尾土木事務所でした。主に道路の舗装や拡幅工事を担当しました。次が高松土木事務所の河川砂防課で、河川改修や用地交渉、地元要望への対応などに携わりました。現在は本庁で積算に関する業務を担当しています。
――出先と本庁では仕事は違いますか?
牟禮さん 本庁は基本的にデスクワークになります。「あれ?」みたいな感じで、慣れるまでに時間がかかりました(笑)。
――どっちが楽しいですか?
牟禮さん 断然出先ですね(笑)。外に出て、受注者や地元の方とお話しながら仕事できるので。
――本庁勤務は希望を出したのですか?
牟禮さん はい。出先が続き、一度本庁に行きたいと思ったので。
自分がやりたいことは激しく主張する
――嬉しかったことはありますか?
牟禮さん 高松土木にいたときに、河川の拡幅に伴う橋梁の架替えを担当したことです。この橋梁は地元の方々の生活道だったので、工程などの調整ごとや相談ごとが頻発しました。上司や施工業者さんと相談しながら、毎日のように現場に出て、一つひとつ対応しました。2年ほどかかりましたが、工事が最終的に完了したときに、「やった〜」という感じで、達成感を覚えました。
――ツラかったことはありましたか?
牟禮さん 長尾土木事務所で道路を担当していたときに、大雪が降ったことがありました。山中の現場に出て、職員が交通整理の対応をすることになったのですが、私だけ現場に行かせてもらえなかったんです。上司としては、私が女性なので、体力的にキビしいという判断をしたのだと思いますが、私としては現場に行けないのはツラかったです。
――現場に行けなかったのがツラかった?
牟禮さん こういう緊急対応は現場経験が一番だと思っていたので、とにかく現場に行きたかったんです。「行きたい」とメチャクチャ言いまくったら、最後は行かせてくれました(笑)。
――言えば、行かせてもらえるんですね。
牟禮さん そうでしたね。自分がやりたいことは、激しく主張するところがあるので(笑)。
岡林さん 当時私も同じ職場にいたので、良く覚えています。「スゴいな」と思いました(笑)。牟禮さんは、このとき以外も、常にポジティブと言うか、なんでも「やりたい」という非常にアグレッシブな人物なんです。周りが「これ以上仕事したらダメでしょ」と思っている状況でも、牟禮さんだけは「私やります」という感じなんです。土木職として、非常に頼もしい職員です。男性職員にも、こういうタイプはなかなかいないんじゃないでしょうか。
牟禮さん 最初の上司から「若いころの経験は買ってでもするもんや」というお話を伺ったので、この言葉を素直に受け止めて、体力があるうちにできることはなんでもやっておこう、ということでやっています(笑)。
一同 (笑)。
岡林さん 自分の限界を試そうとしているの?
牟禮さん むしろ、自分の限界を超えられるんじゃないかという気がしています(笑)。限界チャレンジです。
一同 (笑)。
――積極性が裏目に出たことはありますか?
牟禮さん いろいろ手を出した結果、ラチがあかない状況に陥ってしまい、連日残業が続いてしまったことがありました。ただ、すべての仕事をどうにかやり遂げることができたので、「じゃあ、もうちょっとできるかな」と気持ちになりました。
一同 (笑)。
――次やりたい仕事はありますか?
牟禮さん 道路と河川は経験したので、次はどうしても港湾をやりたいです。港湾をやった土木職の女性はまだ誰もいないそうなので、ぜひ第一号になりたいです。
災害対応はスピードが勝負
――鈴木さん、仕事で嬉しかったことはありますか?
鈴木さん 嬉しかったことと言うより、印象に残っていることですが、河川砂防課で砂防を担当していたときに、西日本豪雨が発生し、災害対応に携わったことです。広島県や岡山県などで大きな被害が出ましたが、実は香川県でもかなりの土砂災害が出ていたんです。
雨が振り始めたとき、私はちょうど、国土交通省の本省で会議に参加していました。すると、気象庁の緊急記者会見が始まりました。「これはヤバいな」と思いました。なんとか香川に戻ってきたら、すでに被害が出ていました。
土砂災害担当として、災害関連事業の採択の申請手続きを行うことになりました。災害関連の予算は、その都度申請するので、とにかくスピード勝負なんです。私ともう一人の職員で、被害状況などの資料を急ぎとり集め、申請資料を徹夜で作成して、本省に持っていくという仕事に没頭しました。
直近に災害のあった県は、どんな資料を揃えれば良いかといったノウハウがわかっているので、申請作業も早いのです。しかし、経験の少ない私たちにはそのノウハウが乏しかったので、昔の資料を引っ張り出して、「これってどうやったんですか」と当時の職員の方に聞いたりしながら、苦労して資料をつくりました。災害対応はシンドいですが、やりがいがあります。
最初「帰れ」と言われた住民と世間話
――岡林さん、仕事で嬉しかったことは?
岡林さん 難しい住民の方との用地交渉がうまくいったことです。最初は「話することはない、帰れ!」と言っていた人が、徐々に打ち解けて世間話をしてくれるようになって、最終的に交渉を成立させることができました。このときは嬉しかったですね。あとは、道路の歩道の拡幅工事が完了して、住民の方が「良くなったわ〜」と話しているのを聞いたときです。
ご高齢の女性の方などは、男性職員よりも女性職員のほうが話しやすいと思われている方もおり、私が現場に行くと、喜んでくれる住民の方がいらっしゃいました。
――土木職の女性職員が増えてほしいと思いますか?
岡林さん 道路などのインフラ施設を整備する土木の仕事は、生活に必要な仕事なので、女性にも関心を持ってもらいたいという思いはありますし、できれば、一人でも多くの女性に仕事の選択肢として選んでもらいたいと思っています。ものづくりの魅力、楽しさというものをもっと知っていただきたいです。
作業服に抵抗がある自分に気づいて「これはいかん」
―― 一般論として、世間の土木の対するイメージは悪いと言われていますが。
鈴木さん 建設業のイメージでいくと、作業服に対して抵抗があります。例えば、作業服を着て、保育所に子どもを迎えに行きたくないと思ってしまいます。ちょっと汚れがついていたりするからです。つまり、私自身の中にも、土木の作業着は恥ずかしいという意識があるということです。それに気づいたとき、「これはいかん」とハッとしました。
私が今思っているのは、土木を勉強している学生へのアピールと、一般の人へのアピールは、ターゲットとして全然違うんじゃないかということです。土木の仕事には、イメージだけでなく、リアルに3Kな部分もありますが、昔に比べるとかなり改善されてきました。土木を学ぶ学生には、良いところも悪いところも仕事のリアルをなるべく伝えたほうが良いと思います。一方、一般の人には、土木の大事さや魅力を発見できるようなアピールをしたら良いのではないかと思っています。
私自身、県庁で働いてから発見した土木の素晴らしさというものがありました。率直に「あ、すごーい」と思ったものです。学生はもちろん一般の人にも、そういう感覚を味わってほしいという思いがあるので、例えば、「感動」を与えるアピールをする必要があると感じています。
牟禮さん 私自身、車を運転しているときに、工事に伴い通行規制がかかっていると、正直「規制がなかったら良いな」と思ったり、現場の騒音がうるさいと感じたりすることはあります。なので、一般の方々が土木に対して良いイメージがないのは、わかる気がします。工事をしないと、快適に走れる道路は維持できないわけですが、それを一般の方々が理解するのは難しいと思います。
コケむした古い土木構造物を見るとモエる
――香川県庁の仕事のやりがい、魅力はなんでしょうか?
岡林さん 前にも言いましたが、県の面積が小さいので、異動してもだいたい自宅から通えるところです。また、土木職員同士の団結力が強いので、一つの目標に向かってみんなで取り組むことができるところです。あと、香川県は比較的災害が少ないので、その分、働きやすさにつながっていると考えています。
鈴木さん 岡林さんのお話と同じですが、どこの土木事務所に配属になっても、自宅から通えるのが魅力です。もう一つは、本庁勤務を経験して感じたことですが、国の政策が自分の生活にどうつながっているかが見えるので、そこにやりがいを感じることがあります。
私は、古い土木構造物が好きで、それを見るのが個人的にツボになっています。逆に、ピカピカの新しい土木構造物にはそこまでの魅力を感じません。歴史とか愛着みたいなものを、あまり感じられないからです。コケむした古い護岸や砂防えん堤などを見ると、「これは○年ごろの石積みやな。いいな〜」という感じで、一人で萌えたりしているんです(笑)。「このコたちをできるだけ延命させたい」という思いで、日々仕事をしていたりします。
牟禮さん お二人のお話とカブりますが、どこで働くことになっても、自宅から通えるのが、香川県庁の一番の魅力だと考えています。土木職という意味では、やはり発注者なので、土木の計画から維持管理まで幅広く携わることができるほか、自分が携わった一つひとつの仕事を身近で見続けられるのも魅力だと感じています。「なんでもやりたい精神」を貫くには最高の職場です(笑)。