北九州市役所で働く土木職の女性職員3名
北九州市と言えば、一般的には工業都市のイメージが強いが、個人的には、旦過市場に象徴されるように、わりと人情あふれるまちという印象がある。
そんな北九州市役所で働く土木職の若手女性職員3名に取材する機会を得た。土木の仕事を選んだ理由、職場としての北九州市役所の魅力、これまでの仕事などについて、お話を聞いてきた。
角田 裕香(かどた ゆうか)さん 北九州市建設局道路部街路課 8年目
小林 未来(こばやし みらい)さん 北九州市八幡西区役所まちづくり整備課 5年目
白石 真弓(しらいし まゆみ)さん 北九州市建設局河川部河川整備課 9年目
土木の道は人それぞれ
――土木に興味を持ったきっかけはどのようなものでしたか?
角田さん もともとは建築に興味があったので、大学は建築系の学科に進みました。当時は建築と土木の違いがよくわかっていなかったので、建築と土木どちらも学べるカリキュラムを採用している学科を選びました。大学で両方学んでいるうちに、「建築より土木のほうが自分に向いているかな」と考えるようになりました。それがきっかけでした。
小林さん 両親がクレーン業に従事していたので、幼いころから、土木や建築は身近な存在でした。私も最初は建築に興味があったので、大学は建築を学ぶつもりで、建築と土木どちらも学べる学科を選んだのですが、角田さんと同じく、両方学んだ結果、土木を選びました。
白石さん インテリア系に興味があったので、地元鹿児島の工業高校に進みました。高校の授業で土木を学んだのがきっかけです。2年生になるとき、高校の先生から「公務員になりやすいのは土木ですよ」というお話もあったので、それで土木を学ぶことにしました。
研究室は、たまたま選ぶもの?
――学校で土木のなにを学びましたか?
角田さん 研究室は水環境工学研究室というところで、河川に設置する魚道について研究していました。研究室の中に魚道の模型をつくって、獲ってきたアユなどを放流し、より多く遡上する魚道の形状を調べていました。
――その研究室を選んだ理由はなんでしたか?
角田さん たまたまです(笑)。ただ、河川に関する研究はしたいとは思っていました。
――小林さん、土木のなにを学びましたか?
小林さん 交通工学研究室というところで、歩車分離信号機の有効性について研究していました。
――楽しかったですか?
小林さん 楽しかったかと言われるとよく分かりませんが、人の動きを数値化していくのはおもしろかったです。
――白石さん、土木の授業で興味を持った分野とかはありましたか?
白石さん 興味を持った分野というのはとくにありませんでしたが、測量などの実習とか、アーチ橋の模型を製作して、土木の日に行われるイベントで展示したことは楽しかった印象があります。橋梁工事の現場見学にも行ったことがありますが、規模が大き過ぎて、当時は、正直どんな工事をしているのか分からなかった覚えがあります(笑)。
なんとなく北九州市役所を受けた
――就活はどんな感じでしたか?
角田さん 当初はコンサル志望だったのですが、インターンシップに行ったほか、ゼネコンや公務員の先輩方にも相談した結果、「定年まで働き続けるなら、公務員かな」と考えるようになりました。
――公務員の中で、北九州市役所を選んだ理由はなんだったのですか?
角田さん 私は生まれも育ちもずっと北九州市で、北九州市に住み続けたいという気持ちがあったからです。
――北九州市でどういう仕事をしたいというのはありましたか?
角田さん これをしたいというのはとくになかったのですが、先輩から「いろいろな仕事に携われる」というお話を聞いていたので、それは「楽しそうだな」とは思っていました。
――小林さん、就活はどうでしたか?
小林さん 私は佐賀出身で、大学に入学するまで、北九州市には一度も来たことはなかったのですが、4年間暮らすうちに、都会過ぎないけど、生活するのに困らないという、ほど良い感じが好きになりました。
私は性格的にコツコツやるタイプなので、公務員が向いているのかなという思いもありました。そういうことで、北九州市役所を志望しました。
――北九州市役所でどういう仕事をやりたいというものはあったのですか?
小林さん ハードよりもソフト的な仕事に興味がありました。枠組みづくりや制度づくりといったことです。
――白石さん、就活はどんな感じでしたか?
白石さん もともと公務員になりたいとは考えていましたが、とくに行きたい会社がなかったので、やはり公務員になろうと思いました。
就職を機に、地元を出てみたいという思いもありました(笑)。福岡県は都会なので、いろいろなことをやれるのかなと思い、学校に試験募集が来ていた北九州市役所を受けました。夏休みに学校の先生に土木の専門分野を教えてもらったり、公務員試験の夏期講習を受けて受験対策をしていました。
熊本地震の復旧支援に行き、炎天下で土嚢を積んだ
――北九州市役所ではどのようなお仕事をしてきましたか?
角田さん 最初の配属先は上下水道局の配水管理課というところで、配水管理システムの管理とか、水道管の漏水調査などを担当していました。あと、熊本地震の災害復旧支援として、発災後2ヶ月ぐらいのころに、益城町での活動に数日間参加しました。水道水が出ないという状況は、自分のふだんの生活からは考えられないことなので、貴重な経験でした。
私たち職員自ら仮設の配水管を設置したのですが、水道水が出た瞬間に住民の方々がスゴく喜んで、「北九州市の方々が応援に来てくれたおかげです」と直に感謝の言葉をいただけました。そこで改めて、日常業務で行っているインフラ整備の重要さを実感しました。夏場の暑い中、土嚢を積む肉体労働もして、かなりツラかったのですが、この仕事に就いて良かったと思いました。
上下水道局に3年間いた後、八幡西区区役所のまちづくり整備課に異動し、公園の維持管理業務などに携わりました。「公園の仕事がしたい」と希望を出したので、希望が叶ったカタチです。市民の方々と直接お会いする機会を持てたので、いろいろ勉強になりました。ここも3年間いました。今は建設局の街路課というところで、小倉北区にある大門木町線という都市計画道路の拡幅に関する設計などを担当しています。大変ですが、やりがいがあるので今の仕事が一番楽しいです。
私ってホント使えないな
――小林さん、これまでどのようなお仕事を?
小林さん 最初の配属先は建設局の街路課でした。八幡西区の都市計画道路中央町穴生線などの設計、発注を担当しました。そこは3年間いました。
――普通にハード整備のようですが、大丈夫でしたか?
小林さん 幸い、ガッツリ現場というわけではなかったので、必死で食らいついて、なんとか頑張りました(笑)。
――その次が今の職場ですか?
小林さん はい。八幡西区のまちづくり整備課で、市民の方々の要望を聞き取って、対応するという仕事だったので、すぐに成果が出るのが、前の職場との大きな違いでした。
都市計画道路の仕事は何十年もかかるので、仕事の成果を見届けられるということは、あまりありません。区役所の仕事は、早いときはその日に結果が出るので、市民から個人的に感謝のお言葉をいただくこともあります。すべてが身近なんです。もちろん、身近であるがゆえに難しいところはありますが。
――当然現場にも出ていたわけですよね。
小林さん そうです。現場監督もやりました。前の職場で道路の仕事に携わっていたとは言え、「私ってホント使えないな」と思うことがありました。たとえば、業者さんとやりとりするとき、言葉がわからないということがザラにありました。業者さんには、今でもいろいろ教えてもらっています。なので、分からないことがあったら、ドンドン質問するようにしています。
ベテラン職員さんとお話しするのが楽しい
――白石さん、これまでのお仕事について教えてください。
白石さん 最初の配属先は小倉南区のまちづくり整備課というところで、舗装工事など道路の維持管理などの積算、工事監督を担当しました。
――仕事はもちろん、土地に慣れるのも大変だったのではないですか?
白石さん 最初のころは、地名も読めないことも多くて、大変でした。仕事に慣れると言うより、社会に慣れるのに精一杯でした。
今は、「ブラザーシスター制度」といって、新人ごとに決まった先輩がついて指導するようになっているのですが、私が新人のときはその制度はまだありませんでした。もちろん、職場の先輩に聞けば教えてくれるのですが、決まった人ではありませんでした。なので、聞きづらいんです。聞きたいのに聞けないので、モジモジしていました(笑)。
その次に、建設局の東部整備事務所の公園河川係というところに異動しました。整備事務所は、本庁と区役所の中間のような出先事務所で、東部は門司区、小倉北区、小倉南区を管轄しています。私は、河川工事の設計、監督などを担当していました。
今は、建設局の河川整備課で、一級河川、二級河川の工事の設計、発注などを担当しています。前の職場と同じ河川の仕事ですが、工事の規模などが大きくなりました。予算のことも考えないといけないのも、違いでした。国や県のお金も入ってくるので、学ぶところが多かったです。
――仕事は楽しいですか?
白石さん 基本的には楽しいです。ただ、今の職場はけっこう忙しいので、ちょっと楽しさが薄れている気がしています(笑)。
――楽しかったときはどんなときですか?
白石さん ベテランの職員さんが揃っている職場にいたときです。お話をするのも楽しかったですし、どう対応するかを一緒に考えてくれるのも楽しかったです。なんかクリエイティブなことをしているという感じがして、そういう時間が楽しかったです。ベテランさんに触発されて、自分のアイデアを出したりすると、「私ちょっと成長したかも」と思いました(笑)。
小林さん それ、スゴくわかります(笑)。最初は言われるがままにやっていたのが、自分で気づいて、意見を出せるようになったときは、ちゃんと会話できて楽しかったです。
悔しくて、飲み会の席で泣いた
――泣いたことはありますか?
角田さん 泣いたことはないです。
小林さん あります。でも、なんで泣いたか覚えていません(笑)。市民の方とお電話でやりとりしていたのですが、行き違いがあって怒鳴られ、それで泣いてしまいました。
白石さん 私は3回あります(笑)。区役所で2回、今の職場で1回です。区役所のときは、「なんでこんなこともできないんだ」という悔し泣きでした。2回目は、日ごろのプチストレスで泣きました。3回目は、今の仕事が忙し過ぎて泣きました。みんな小さなお子さんが居たりで家庭も忙しいのに、自分がチカラになれていないのが申しわけなくて。飲み会の席で泣きました(笑)。
市民から直接感謝されるのが、公務員の魅力
――北九州市役所の仕事の魅力はなんですか?
角田さん 市民の暮らしを支えていることを実感したとき、スゴくやりがいを感じます。公園の仕事をしていたとき、遊具を設置したのですが、子どもたちが遊んでいるのを見て、自分の仕事が役立って良かったと思いました。直接、感謝やお叱りの言葉を聞くことも多いですね。そういう経験ができるのが、魅力だと思います。
小林さん 市役所に入って思ったのは、「意外と土木の女性が多い職場だな」ということでした。もちろん事務職に比べたら少ないのですが、今の職場にも同じ係に3人います。たんに、私の中で女性が少ないイメージが強すぎただけかもしれませんけど(笑)。管理職の女性もいらっしゃいますし、長く働き続けるなら、やっぱり公務員は魅力的だなと思っています。
白石さん 北九州市は政令指定都市ということで、市役所だけど、県庁と同程度の仕事ができるのが、魅力だと思っています。