水畑 知博さん 平成30-32年度 日下川新規放水路(吐口側)工事 熊谷組・大豊建設JV 日下川放水路作業所長

水畑 知博さん 平成30-32年度 日下川新規放水路(吐口側)工事 熊谷組・大豊建設JV 日下川放水路作業所長

トンネル屋に必要なスキルは「先を読むチカラ」

トンネル工事に25年。大ベテランの仕事の流儀

国土交通省(高知河川国道事務所)は、床上浸水対策特別緊急事業として、仁淀川水系の日下川新規放水路(総延長5,368m)の整備を進めている。すでに掘削、覆工は完了しており、2023年3月末の放水路トンネルの完成に向け、カウントダウンの段階にある。

先日、呑口側の区間を担当する鹿島建設の藤井広志さんの記事を出したところだが、今回は、吐口側の区間を担当する熊谷組の水畑知博さんにお話を伺った。今の現場をはじめ、これまでのお仕事を振り返っていただきつつ、トンネル工事の魅力などについて聞いてきた。

小さい断面、湧水対策には苦労したが、順調に来れた

――工事の進捗はいかがですか?

水畑さん 98%ぐらいです。令和5年3月31日が工期ですが、これまでのところ順調に進捗しています。

――こちらの現場で苦労したポイントなどはありますか?

水畑さん トンネル工事というものは、実際に掘ってみないとなにもわからないものです。こちらの現場では、湧水がたくさん出ましたので、その対策には苦労しました。トンネル以外に、県道の直下での掘削ケーソン工事などもあったので、その辺の対策にも気を使いました。

放水路トンネルということで、道路トンネルと比べ、断面が小さいんです。このため、あらかじめコンパクトな機械を選定した上で、作業を進めていくことも配慮した点です。

AI解析システムの導入により、安全に掘ることができた

――新しい技術は使ったのですか?

水畑さん トンネルを掘るに当たり、地盤の固さ、柔らかさなどを判断するため、AI解析システムを用いました。本社のICT推進室と連携しながら施工しました。

トンネル工事は、基本的には実際に掘らないとわからないものではありますが、AIを用いることで、地山がどういう状態なのか、亀裂、地層、湧水状況などがどうなっているのか、ある程度予測することが可能になりました。

現場をあずかる者としては、安全に掘ることができましたし、いろいろな面で助かりました。

貫通後、若い社員が感動しているのを見て「良かったな」

坑内の様子

――貫通の瞬間はどうでしたか?

水畑さん 貫通したのは2021年8月末で、ちょうどコロナ真っ最中のころでした。呑口側の区間を担当する鹿島建設さんのほうが先に到達していたのですが、ほぼ誤差なく、貫通できました。鹿島建設さんと一緒に鏡割りをしました。

貫通式は、コロナ対策としてJVのメンバーだけで祝いました。この現場がスタートしたときは、熊谷組のメンバーは、トンネル工事を経験したことがない若い社員ばっかりだったんですが、現場で苦労しながら経験を積んだ結果、貫通の瞬間に立ち会い、非常に感動していました。それを見たとき、「ああ、良かったな」と思いました。

――意図的に若い社員を集めたのですか?

水畑さん 「トンネルをやりたい」という若い社員がたまたま集まったという感じです。

「どうしたら良いですか」ではなく、「こうしたいんです」を期待

――現場のマネジメントで配慮したことはありましたか?

水畑さん トンネル工事は基本的に昼夜の作業になるので、トンネルの現場では宿舎を建てるのが一般的です。ただ、仕事とプライベートの区別がつかなくなりやすいです。なので、この現場では、宿舎暮らしではなく、近くにワンルームを借りて、そこでそれぞれ暮らしています。休みの日は完全に仕事から離れ、社員がリフレッシュできるよう配慮しています。まあ、ボクは宿舎のほうが良いんですが(笑)。

――人を育てる上で、気をつけていることなどはありますか?

水畑さん 若い社員に対しては、「自分たちで考えてやりなさい」と言っています。「聞いてくるな」が基本スタンスです。聞いてくるにしても、「どうしたら良いですか」ではなく、「こうしたいんです」を期待しています。本人にある程度任せないと、成長しないからです。もちろん、できる範囲のことを任せます。

最初のころは、材料を多く注文したり、失敗することもありました。ただ、実際に失敗したことで、材料や原価といったことについて、より真剣に考えるようになっています。最近は、私のところに聞きにくることもほとんどなくなりました。

――細かいことを言っても、人は育たないと?

水畑さん そうですね。上司から毎日細かいことばっかり聞かれたら、私でもイヤになりますからね(笑)。

最低でも2日後の状況を読まないと、施工管理はキビシイ

――トンネル工事に必要なスキルはなんだとお考えですか?

水畑さん あまり偉そうなことは言えないですが、若い社員には「先々のことを考えなさい」と言っています。「先を読むチカラ」ですね。

施工管理する身としては、少なくとも2日後の状況を読んでおかないと、キビしいんじゃないかと思っています。ボクなんかは、先を読んでも当たらないこともありますが(笑)。

トンネル屋として四半世紀に上るキャリア

――ところで、水畑さんはトンネル現場が長いのですか?

水畑さん そうですね。熊谷組に入社してからだいたい3分の2の期間がトンネルの現場です。私は今年(取材時は2022年12月)で定年なので、38年中25年ほどトンネル工事に携わっています。来年以降は、シニア社員として仕事は続けますが。

――トンネルをやりたいということで、熊谷組に入社したのですか?

水畑さん いえ、とくにありませんでしたが、最初に配属された現場がたまたまトンネルだったんです。それ以降、トンネルの現場が続いたということです。道路トンネルばかりで、放水路トンネルは今回が初めてです。

――最初にトンネルの現場に入ってどう思いましたか?

水畑さん 最初の現場は、NATM工法などではなく、矢板工法でした。その後はずっとNATM工法をやってきました。当時は日曜日以外はずっと仕事でした。最初のころは、毎日測量ばかりしていましたが、べつに苦にはならなかったです。貫通にも立ち会えました。出会い貫通ではありませんでしたが。

――全国飛び回ってきたのですか?

水畑さん そうでもありません。東は岐阜、西は大分までです。

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みんなが同じ方向を向いて、仕事ができるようにする

――初めての出合い貫通はどちらでしたか?

水畑さん 東九州道のトンネルでした。全延長2,800mほどのトンネルで、当社の区間が1,600mぐらいでした。それまで現場は、片押しの現場ばかりでした。

――監理技術者として入った現場はどちらでしたか?

水畑さん 広島の都市高速1号線のトンネル現場でした。2本のトンネルを掘っていく現場でした。当時35才でしたが、最初はなにをしたら良いのかわかりませんでした。いろいろな人に教えてもらいながら、なんとか仕事をこなしました。

――現場を司る上で、気をつけたことはなんですか?

水畑さん しっかり打ち合わせをして、みんなが同じ方向を向いて、仕事ができるようにするということですね。とくに東九州道の現場の場合、全国いろいろな支店から人が集まっていたので、知らない者同士で仕事をするようなところがありました。この現場ではコミュニケーションの大切さを痛感しました。日下川作業所でもコミュニケーションを大切にしています。

――現場を転々とする生活はどうですか?

水畑さん 私自身は楽しく過ごしましたが、家族には迷惑をかけたと思っていますね(笑)。私の家は岡山にあるのですが、子どもの参観日にも卒業式にも行ったことがないですし。連休をとって、月一ペースで帰省してはいたのですが、家族と過ごす時間としては短いものでした。

熊谷組の魅力は「家族的な雰囲気」

――トンネル工事の魅力はなんでしょうか?

水畑さん いろいろ対策しながら、シンドイ思いをして掘っていった結果、やっと貫通を迎えたときに得られる感触ですかね。これはなかなか忘れがたいものがあります。

――熊谷組という会社の魅力はいかがですか?

水畑さん なんでも相談できる「家族的な雰囲気」があるのが魅力だと思っています。勤務先や現場などに関する希望も聞いてくれます。

――大ベテランとして、若い人に向けてメッセージをお願いします。

水畑さん ゼネコンの仕事は、自分たちがつくったモノが残っていく仕事です。この現場に限らず、実際に動いている現場を見てほしいと思っています。

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