※まだ前編を読んでいない方は、こちらからお読みください。
検査前から不穏な雰囲気
検査当日。開始時間は9:30。あと20分ほどではじまるはずなのだが、現場には型枠の締めを行っている数名の作業員しかいない。
残り15分のところで、検査官2人と施主側の現場監理者3人がやってきた。検査時刻まで、型枠を上から覗き込んで確認をしていたのだが、彼らの表情はみるみるうちに曇っていった。明らかに不穏な雰囲気に包まれていた。
ほぼ同時刻、私の所属会社の施工管理2人とサブコンの管理者2人もやってきた。私の会社には施工管理が8人いるにも関わらず、検査に来ているのは、一番若手の入社2~3年目の社員だ。
きっと状況もわからず、上司に言われるがまま来たのだろう。本来来るべき上の人間たちは、誰一人顔を出さない。これは今回に限らず、私がここの現場で検査に立ち会うようになってからずっとだ。上の人間は検査から逃げているだけとしか思えない。
いよいよ検査開始
いよいよ検査がはじまった。
検査官と施主側の監理者が、開口一番「型枠底のほぼ全面に散らばってるベニヤの木くずが、あまりにひど過ぎる」と言い出した。ごもっともだ。
さらに、普段は温厚な施主側の監理者が、苛立ちを抑えながらこう続けた。
「まず第一に、ゴミなどの清掃ができなければ、とてもコンクリート打設など認めるわけにはいかない。これでは、まともな鉄筋の検査ができない。立ち上がりの型枠を外して、同時に清掃を実施してください。それが終わったら、本日18時に再度検査を行います」
そう言い放ち、施主側の人間は全員帰ってしまった。検査は強制終了。取り残された検査官たちも「今回ばかりは、かばいきれん!」と憮然とした表情で帰ってしまった。
おそらくこれまでは、工程のことを考え、いい加減な施工や態度に目をつぶってきたものの、今回のあまりに酷い状況に、堪忍袋の緒が切れたのだろう。当然だ。こんな最低な検査態度は見たことがない。
完璧にはできなくても、やれるところまでやりました!くらいの誠意は見せるのが普通だろう。こんなに馬鹿にされているような検査では、検査官や施主側の監理者たちがキレるのも無理はない。
無責任な管理者たち
検査官たちが帰った後、どうなったか。
当然、検査に参加していた全員で反省会を開き、「次はこんなことがないようにしましょう」くらいの話し合いがあってもいいくらいだが、この現場は違った。
サブコンの管理者は、型枠大工に「鉄筋検査ができるように型枠をバラし、底部の清掃を行うように」とだけ指示し、あろうことか帰ってしまった。
この現場にはまともな人間はいないのか…と唖然としながらも、私の会社の施工管理者たちが帰ってしまっては困ると思い、慌てて彼らに「清掃はもちろんだが、パラペット周りの鉄筋のカブリがしっかり確保できるように確認も必要ですね!」と伝えた。
自分の施工管理の経験をもとに、鉄筋のカブリの確保方法やどのように指示を出せばいいのかなどをアドバイスし、「これ以上は施工管理の上の人と相談してください」と話した後で、「素朴な疑問なんだけど、今日だけでなく、検査の時に長の人や別の施工管理者は全く顔を出さないのはどうしてなんですか?」と聞いてみた。
やや答えづらそうに「私たちもそう思うのですが…」と歯切れの悪い返事しか返ってこなかった。彼らを責めているわけではなく、彼らのせいではないことも理解してるが、この会社や現場の管理体制はどう考えてもおかしい。
再検査の結果やいかに
そしてあっという間に18時になり、再検査がはじまった。
型枠の約7~8割が撤去され、さすがに清掃はきちんと行われていたが、鉄筋のカブリ不足は解消されていなかった。鉄筋職人の手配ができなかったのか、理由はハッキリわからないが、明らかにこれでは検査は不合格になるだろうと思いながら静観していた。
案の定、清掃はできているが、カブリ調整ができていないと判断され、「明日のコンクリート打設は延期ですね」と検査官たちは帰っていってしまった…。
結論から言えば、その後、鉄筋作業員を入れ、なんとかカブリ確保ができる位置に鉄筋を移動し、どうにか検査に合格。無事コンクリート打設を行うことができたのだが、この現場の人間は、仕事に対する責任が欠如していると痛感する出来事となった。
最悪な現場をどう乗り切るか
実は、今の会社に入る前、友人たちからこの会社の噂は色々聞いていた。普通のゼネコンとは違う現場の進め方をする会社というところに興味を持ち、一度は中に入り、自分自身の目で見て体感して、良し悪しを見極めたいと思っていた。
その実態をハッキリ見てやろう!と意気込んで入った会社だったが、あまりの酷さにこちらのやる気までもぎ取られそうなありさまだ。この会社との契約はあと3か月。延長などさらさら考えていない。
もうこれ以上、首をひねりながら仕事するのはまっぴらごめんだ。とは言いつつ、残りの3か月、嫌な思いだけで過ごすのは私にとってもマイナスなので、先に繋がることを実践して去っていきたいと思っている。
やるべきことは何一つ抜かりなくやる。わけのわからない制約が多いので、自由にはできないかもしれないが、捨て鉢にだけはならないように、健康を維持し、感情を乱さないように残りの時間を過ごしていくつもりだ。