1100本の方立PCを「6倍の早さ」で荷下ろしする職長のアイディア

超高層ビル建設現場でコスト削減したアイディア

某大手企業の本社ビルを建設した際、私のひょっとしたアイディアが、コスト削減に役立ちました。

建物は地下2階、地上25階、高さ約125m、延べ床面積約98,000平方メートルの超高層ビルです。

用いた工法は、地上先打ち工法で、1階の床のコンクリートを先に打設して、そこに設けられた開口部から地下を掘削し、躯体工事を進めます。

その一方で、地上からは別の工程で、上部へ進むという、工事が2方向へ進んで行く工法でした。建物の地下外部はSMW(シールドミキシドウォール)の工法を用いました。

1100本の方立PCを荷卸しする際の問題点

高層建屋部分が3節に入った頃、私は某大手ゼネコンの主任から「中国から送られてきたコンテナから、モックアップ用の方立PCを荷卸しする」ように頼まれました。

オープントップの20フィートコンテナを開けると、その中に棒状の方立PCが12本程入っていました(写真1)。

【写真1】棒状の方立PC

取り出し方は次の手順です。

  1. コンテナ上部の分厚いシートを止めてあるワイヤーを、シートをめくる位置まで抜く。
  2. シートを後方から、運転席側へ畳むようにめくり、同時進行で後方の扉も開ける。
  3. コンテナの中の、方立PCを固定してある垂木、ワイヤーを外す。
    ※船で輸送中に荷崩れを起こさないように、がんじがらめに固定されている。
  4. 玉掛けは、小口に開けられたインサートを使い、12mmのプレートを当てて、ハイテンションボルトで締め込んで吊り上げる(写真2)。

【写真2】玉掛け用プレート図

しかし、上記の方法ではいくつかの問題がありました。

方立PCの形状は、W=500、L=4m、重量2.4t。方立PCの荷卸し作業に、1本当たり鳶3人で15分もかかり、プレートを使用して荷卸しすることは、効率的にも時間が相当かかります。プレートが重すぎて、穴に合わせてボルトを差し込むのは大変です。

かといって、ナイロンスリングで、ふくろ吊りしようとしても、両脇の隙間が10cm以下で、重ね部分も同じ隙間のため、スリング自体が入らず不可能でした。運よくスリングが入ったとしても、ゴンドラレール(アルミ製)の部分を変形させてしまう危険があるため、この方法も使えません。

この方立PCは1,100本が建物の外壁に、化粧として取付けられます。上記の玉掛方法で、1,100本を荷卸しするのは、大きな無駄(時間と人工、クレーンの使用)が発生します。

方立PCを効率的に荷卸しするアイディア

そこで私は、方立PCの荷卸し専用の「吊り治具」を製作しました。

これが方立PCの荷卸し用の吊り治具です(写真3、4)。

【写真3】方立PC荷卸し用の吊り治具

【写真4】方立PC荷卸し用の吊り治具

製作にあたって、方立PCの図面、コンテナの荷姿を考慮して、治具の形状と鋼材のサイズや種類を選定しました。強度計算した上で、制作会社に1基25万円で発注。治具の長さは約2m。吊りもとは4カ所で、鋼材の向きは10cmの隙間でも、楽に入れられるようにしました(厚肉を使用)。

吊り治具上部のレバーは、治具の縦の骨組みの中を通って、下の旋回フレームと連結されています。レバーの向きと旋回フレームの向きは同じで、レバーを回すとフレームも回る仕組みです(写真5、6)。

【写真5】吊り治具上部のレバー

【写真6】吊り治具の旋回フレーム

【写真6】は旋回フレームを収納した形。この状態で吊り治具を方立PCの上部から落とし込み、レバーを回すと、旋回フレームは、方立PCの下に回りこみ、PCを持ち上げることができる、というわけです。

この旋回フレームは、吊り治具の前後2箇所に付いています。旋回フレームを回す時は、レバーを持ち上げてから回転させますが、この時、レバー軸に溶接してある円形プレートBと、治具本体に隙間(約2cm)ができるので、下部のフレームの状態B’がきちんと収まっているか、レバーの角度と高さで確認できます(写真7、8)。

【写真7】円形プレートB

【写真8】旋回フレームの先端を受ける部分

【写真9】は旋回フレームが回転し、受け部分に収まった状態。Cは旋回フレームの先端が収納される場所。旋回フレームの先端を受ける、脱落防止のプレートも付けてあります。

【写真9】旋回フレームが受け部分に収まった状態

専用吊り治具によって工程短縮!

このフレームを使用することで、今まで大変だった荷卸しの作業がかなり楽になり、短時間で玉掛け、外しの作業ができるようになりました。1台3時間かかっていた作業が、30分で終了することができました。

◎改善前

  • 鳶3人で15分/1本
  • コンテナ1台で3時間(シート剥がしや固定材外しを除く)

◎改善後

  • 鳶3人で2.5分/1本
  • コンテナ1台で30分

方立PCに関する2つ目の問題が浮上!

次に、新たな問題が浮上してきました。

中国で製作された方立PCは、塗装がされておらず、現場で下塗り、中塗り、仕上げ塗りの3工程が予定されていました。そのため、高層棟が5階以上に進んだ頃、建物脇に塗装するための屋根付きのスペースを作りました(図1)。

【図1】塗装するための屋根付きスペース

その中に4.9tのミニクレーン3台が用意されて、塗装の工程ごとに、内部で移動しながら仕上げていく計画です。

この青写真を見た私は、このテントの中にPCを出し入れするのは、フォークリフトしかないと考えました。

しかし、フォークリフトで移動するときに問題になるのは、PC版の欠けです。PCの構造は、軽量化を図るため、軽量コンクリートを使用していました。

そのため、少しのバランスがずれただけでも欠けが生じるのです。

吊り治具をフォークリフト用に改良

そこで、当初は玉掛け用に作った上記の吊り治具でしたが、改良して再活用することにしました。

フォークリフトでも使用できるように、チャンネル75×250を治具の上部に取り付けました(写真10)。

ちなみに、チャンネルはスクラップから拾ったものを使用。チャンネルの溶接部分が破断しないように、9mmのプレートで補強しました。

【写真10】フォークリフトで使用できるように改良

このアイディアのおかげで、テント内におけるミニクレーン3台のリースと運転手が不要になり、コスト面と工程短縮の面で、予想外の効果を生む結果となりました。

削減できたコストは、ミニクレーン3台の半年分のリース料、運転手3人の半年分の賃金など。

そして実際に、超高層ビルに取り付けた方立PCがこちらです(写真11)。

【写真11】実際に取り付けた方立PC

なお、全部で1,100本あるPC版を1本ずつでなく、2本同時に吊り上げて、収める方法も提案しましたが、こちらは実施しませんでした。しかし、実施していれば取付けのコストが3分の1に減ったと確信しています。

現場での、いちアイディアとしてご参考ください。

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大手ゼネコンの鳶仕事に38年間従事し、大規模工事の職長会会長を数多く経験。清水建設社長表彰 ・建設大臣顕彰受賞。現役の職人でありながら、職長会向けセミナーの開催、現場改善・技術発明などのアドバイスを精力的に行っている。若手に仕事の面白さを伝えることが生きがい。
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