工程に悪影響を与える、玉掛け作業の実例紹介
海沿いの大型倉庫建設現場(5階建て)にて、3階部分を施工しているときの話です。
当時、鳶の職長として参加していた私は、鉄骨建方の段取りで、午前10時からクレーンを使用する予定でした。午前9時半頃に鉄筋のヤードへ向かいましたが、まだ早朝からクレーンを使用している鉄筋屋さんが柱筋をセット中でした。
地組みしてある柱筋を玉掛けしていたのは、若手の鉄筋工ひとり。見たところ、セット予定の柱筋本数は、まだかなり残っています。私はすぐに、鉄筋屋の職長に電話をしました。急いで3階スラブ上から降りてきた職長は、「すいません、この柱筋を全部納めたいので、昼まで掛かってしまいます」。私は仕方なく「次工程もあるのだから」と応えつつ、クレーンの使用予定時間が伸びている原因を問いました。
すると、次の問題点が浮かび上がってきました。
- 玉掛け作業は2人必要だが、人員が少なく、実質1人しか配置できない。
- ヤードで玉掛けをしている若手の鉄筋工は、玉掛けの資格は持っているが、不慣れで動作が遅い。
- 柱筋を縦にして地切りするが、吊り上げた瞬間から柱筋の回転が始まる。
- 海沿いの現場であるため、柱筋が建物の高さを超えると、海風の影響で回転が速くなり、レンフロークランプを解除するための被覆ワイヤーが柱筋に巻き付く。
- 柱筋を納めた後、吊り治具が帰ってくるたびに、手の届かない場所に絡みついたレンフロークランプの解除ワイヤーを解くため、柱筋をよじ登る必要がある。
以上のことが原因で、時間のロスと危険な行動が繰り返され、さらに、クレーンの使用時間が長引くことで、工程的にも悪影響が出ていました。
玉掛け作業を効率化させる「珍アイディア」
鉄筋屋の職長に、作業がスムースにできる条件を聞くと、次の2点が挙げられました。
- ヤードで玉掛けをする作業で、被覆ワイヤーが絡まず楽にできること。
- 強風でも、レンフロークランプの解除ワイヤーが、柱筋に絡まないこと。
これを聞いた私は、自分が担当する鉄骨建方の段取りを調整して、クレーンの使用時間を午後1時からに変更すると同時に、強風、建物の立地条件などを考慮し、上記2点を解消するアイディアを鉄筋屋の職長に提案しました。
- 太めのビニールホースを、レンフロークランプのリング部分にCリンクで下げ、その中に被覆ワイヤーを通して、まっすぐ下に下がるようにすれば、強風が吹いても絡まないのではないか?
- 玉掛け時も、絡まった被覆ワイヤーをほぐして伸ばすより、ホースを伸ばすだけの作業のほうが簡単ではないか?
早速その日の午後には、ビニールホースとCリンクをセットし、次の日に実験してみました(写真1)。

【写真1】レンフロークランプとホースの接合部
レンフロークランプを解除する操作のため、ビニールホースの先端から、L=500ぐらい被覆ワイヤーを出しています(写真2)。

【写真2】ホースの中を被覆ワイヤーが通っている状態
ビニールホース4本を利用することで、上空でのワイヤーの絡まりを防止することが可能となります(図1)。

【図1】絡まっていた被覆ワイヤーが、ほぼ垂直に下がる
玉掛け用具の収納はメッシュのカゴを使用しました(写真3)。レンフロークランプは重いため、ホースが潰れたり変形したりするのを防ぐ方法として、レンフロークランプを下げている長シャコに鉄筋を通して、カゴ内でレンフロークランプがぶら下がるようにしました。

【写真3】吊り治具の収納は、メッシュのカゴが便利
ビニールホース4本で、約1297万円のコスト削減を実現!
このアイディアの実践によって、玉掛け時の被覆ワイヤーの絡まりや、吊り込み時の柱筋への巻き付きがなくなり、よじ登りなどの危険行動がなくなりました。繰り返し作業のムダ、ムリ、ムラを解消し、実際にかかる時間は改善前の60%を達成。とても良い結果だったと鉄筋屋の職長から報告を受けました。
【改善前】
- 1本あたり玉掛けから柱筋セットまで20分/鉄筋工5人
- 1フロア:柱数260本×20分=86.6時間
- 86.6時間×5人工=433人工
【改善後】
- 1本あたり玉掛けから柱筋セットまで12分/鉄筋工5人
- 1フロア:柱数260本×12分=52時間
- 52時間×5人工=260人工
すなわち、1フロア当たりの柱セット延べ人工は433人工から260人工になり、173人工減ったことになります。一人当たりの賃金を25,000円で計算すると、 1フロア173人工×25,000円=432万5,000円のコストを削減。しかもこれを3階部分だけでなく、4階、5階と水平展開したため、単純計算で1297万5 ,000円のコスト削減に。
その後、もう1社にもこの改善策が展開されたことで、作業標準として現場に良い結果をもたらすことになりました。クレーンの使用時間も短縮でき、現場内の他業種にも良い改善の刺激になったことはいうまでもありません。施工管理の領域では最近、「生産性向上」が重要なテーマになっていますが、単なるビニールホースでもアイディア次第で、コスト削減・工期短縮につながるということを、どこかの場面で思い出してご応用いただけばと思います。
なお、この改善策での支出は、ホース4m×4本=8,000円、Cリンク×8個=1,760円、計9,760円でした。
人工の計算が間違っていないでしょうか?
記事中の計算だと1人工当たり25000円とされていますが
この計算だと1時間あたり25000円支払っていることになります。
【改善前】
1本あたり玉掛けから柱筋セットまで20分/鉄筋工5人
1フロア:柱数260本×20分=86.6時間
86.6時間÷8時間=11日
11日×5人工=55人工×25000円=1375000円
【改善後】
1本あたり玉掛けから柱筋セットまで12分/鉄筋工5人
1フロア:柱数260本×12分=52時間
52時間÷8時間=7日
7日×5人工=35人工×25000円=875000円
875000円-1375000円=-500000円
ではないですか?金額の桁があまりにも違いすぎるので修正したほうが良いのでは?
そうですよね?
1時間で2万5千円なんて、鉄筋工は、凄く高給取りと思ってしまいました…
1フロア辺り50万の3フロア分で150万円の節約ですよね。