株式会社オープンハウスグループ事業開発部長の横瀬 寛隆氏

株式会社オープンハウスグループ事業開発部長の横瀬 寛隆氏

「日本中に好立地を生み出す」群馬県での地域共創プロジェクトで、ハウスメーカーから総合デベロッパーへ

株式会社オープンハウスグループは、主力の戸建事業で用地の仕入から施工、販売の製販一体体制を整備、顧客に対して好立地に手の届きやすい価格で住宅を提供することで大きな存在感を示してきた。

首都圏のほか名古屋、関西、福岡にも営業エリアを広げ、マンション、収益不動産、アメリカ不動産も含めて、住まいや暮らしに関連する各種サービスを展開する同社が、社会貢献として取り組む「地域共創プロジェクト」に注目が集まっている。日本は少子高齢化や人口減少などの社会課題を抱え、特に地方は投資や人流の循環が弱まっている。オープンハウスグループは、地方で街を再生し、人流を作り、仕事を生む循環を取り戻し、「日本中に好立地を生み出す」という壮大で持続可能な社会の実現に向けチャレンジ中だ。

群馬県のみなかみ町の温泉街の再生や太田市でのスポーツを核とした街づくりなど、ハウスメーカーとしての枠組みを超えた幅広いプロジェクトに取り組むオープンハウスグループ事業開発部長の横瀬寛隆氏に話を聞いた。

地域課題解決に挑戦し、循環を取り戻す

――ハウスメーカーのイメージが強いオープンハウスグループですが、なぜ地域共創事業に取り組まれているのでしょうか。

横瀬 寛隆氏(以下、横瀬氏) 都心には人や仕事と様々なものが集まり、いい循環がなされています。オープンハウスグループもこうした首都圏を中心とした都市圏で、ビジネスを展開してきました。ですが、日本が持続的に成長していくためには、都心の周辺にも目を向けていく必要があると考えたためです。

そこで、オープンハウスグループでは5年ほど前から地方での街づくりに取り組みはじめました。まち・ひと・しごとの循環が途切れかけつつある地方で、まちづくりを通してその循環を取り戻し、人が居住を続けられ、仕事を生み出すことで、最終的には本業の住宅販売につなげていく考えです。

持続可能な社会の実現に向け「地域共創」に取り組む

――地域共創プロジェクトを見ると群馬県がメインですね。

横瀬氏 オープンハウスグループの創業者・荒井正昭社長の出身地である群馬県内で積極的に地域共創プロジェクトを進めています。きっかけは、群馬銀行や地方自治体から「こういう物件があり困っているのですが、何とかなりませんか?」との相談が寄せられたことが始まりです。オープンハウスグループとしても、まずは地縁のある群馬県で地域の課題解決に向けた取組みを始めることで知見を蓄え、いずれは他県への展開を目指しています。

温泉街の再生に”企業版ふるさと納税”を活用

――次に個別の地域共創プロジェクトの内容を伺います。まず、みなかみ町の取組みから教えてください。

横瀬氏 みなかみ町は、首都圏の水がめの機能を持つ利根川の源流域に位置しています。また、年間を通して、様々な特性のある温泉を楽しめる温泉街が点在しており、夏は利根川を中心とした水のアクティビティ、冬はスキーが楽しめる観光地として栄えてきました。

しかし、バブル時代には社員旅行先として人気のあった水上温泉も、バブル時代が終わると団体旅行から個人旅行へとシフトし、大宴会会場を持つ旅館は取り残され、廃墟化が進んでいきました。また、スキー場も最盛期には多くの観光客が訪れた時期がありましたが、現在はその数が大幅に減少しました。

こうした一連の課題を解決するために、オープンハウスグループがみなかみ町の地域共創プロジェクトを開始したのが2018年の春です。町役場に課題をヒアリングしたところ、「温泉街の廃墟は民間が所有しているため、行政としては手が出せない。また、第三セクターが運営しているスキー場が年々赤字で、このままでは今年でたたむ可能性がある」とのことで、協力の要請がありました。そこでみなかみ町、群馬銀行、東京大学大学院、オープンハウスグループの4者で「産官学金包括連携協定」を結び、連携することになりました。

“水上温泉街廃墟再生事業”では、建物はいったん前所有者からみなかみ町に寄付され、オープンハウスグループは土地と一部の建物を引き取ります。建物の解体は民間がすべて実施すると多額の費用が必要になりますが、国も積極的に観光地の廃墟を減らす方針で、観光庁は補助制度を創設しており、この制度を活用することとオープンハウスグループがみなかみ町へ地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)を実施することで、町と我々の負担を最小限にするかたちで段階的に解体・再生を行っています。

水上温泉廃墟再生事業のイメージ / 出典:みなかみ町資料

この企業版ふるさと納税は2016年度に創設された制度で、企業が地方自治体の地方創生の取組みに寄付をすると、法人関係税から税額を控除する仕組みです。2020年4月の税制改正で、当初約6割だった税の軽減効果が、最大約9割まで引き上げられました。みなかみ町やのちに説明する太田市の事業については、企業版ふるさと納税を活用することで、通常と比較して負担は1割と大幅に抑制されました。

企業版ふるさと納税の内容 / 出典:内閣府地方創生推進事務局パンフレット

事業を実施している場所は温泉街再生拠点の旧一葉亭(旧ひがきホテル)で、遊技場はすべて解体が完了し、新館は1階を除きすべて減築を終えました。かつては人の往来も多く、旅館も増改築を繰り返していましたが、これからは人が増えていく時代ではないので、最適な規模に抑制していく方針です。

一部解体した「旧一葉亭」

みなかみ町は、2023年12月18日に旧一葉亭の対象施設を宿泊や飲食等の観光施設として活用する事業者を選定する公募をしました。旧一葉亭を活用する意向のある民間事業者による見学会、2024年2月から3月末までの応募書類受付などを経て、2024年5月に優先交渉権者を決める日程が組まれており、2026年以降に旧一葉亭をリニューアルした上での運営開始を目指しています。

新たな施設の内容は、街の中へ積極的に出ていけるような宿泊施設として、地元の住民やお子さんが気軽に立ち寄れ、街の周遊を活発にできればと考えています。

新アリーナ「オープンハウスアリーナ太田」は太田市民の拠り所に

――次に太田市での取組みは。

横瀬氏 太田市は、群馬県の中で高崎市、前橋市の次に人口が多い第3番目の地方都市です。SUBARU(スバル)の企業城下町としても有名で製造業が強い市です。ただ一方で観光業としての魅力が不足しており、太田市民が自信を持って周りにオススメできるものを増やせないか、といった課題がありました。

太田市は元々、スポーツによる街づくりに注力し、過去にはラグビートップリーグの「パナソニックワイルドナイツ」が拠点を置いていましたが、現在は熊谷市に移転しています。スポーツによる市民の一体感はとても大切なものですから、この事態に太田市は危機感を抱いていました。

一方で、オープンハウスグループは、2019年にプロバスケットボールチーム「群馬クレインサンダーズ」を買収しましたが、リーグの将来構想における新B1基準の「B.LEAGUE PREMIER」の参入条件として、集客規模が5000席以上のアリーナが必要でした。また、1試合当たりの平均集客が4000人以上、売上が12億円以上の基準も2026年開催までにクリアする必要があり、アリーナ新設は必須でした。

そんな折、太田市から「うちに是非」とお声を掛けていただきました。あわせて「令和元年東日本台風」における川の氾濫では、太田市の避難所不足の課題も露呈しましたので、男子Bリーグの基準に沿ったアリーナと避難所の機能を合わせた施設「オープンハウスアリーナ太田」が誕生しました。

事業スキームとしてはみなかみ町と同様、オープンハウスグループが太田市へ企業版ふるさと納税を行いました。同制度を活用することで、地方自治体や民間が単独で建設するに比べ、両者とも負担が少なく、高スペックのアリーナ建設が実現しました。

完成した「オープンハウスアリーナ太田」は太田市民の拠り所となった

――太田市の活性化に、「オープンハウスアリーナ太田」は大きく寄与されたのでは。

横瀬氏 太田市も「太田市をバスケの聖地にする」と非常に協力的です。「オープンハウスアリーナ太田」の完成は2023年4月ですが、群馬クレインサンダーズはアリーナができる以前の2021年には前橋市から太田市にホームを移転し、古い体育館を活用していましたが、集客は2倍に伸び、熱のこもった応援をいただいたことは大変ありがたいことでした。市長をはじめ、太田市民を挙げて、全員で群馬クレインサンダーズを応援するという強い意志を感じましたね。街中ではバスケットゴールが設置されたり、選手の垂れ幕を飾っていただいたり、さらには、太田市と日本郵便にも協力いただき、群馬クレインサンダーズのチームカラーの黄色い郵便ポストも設置され、多くの太田市民の間に応援ムードが浸透しています。

「シビックプライド」という言葉に代表されるように、「地域への誇りと愛着」はとても大切です。「オープンハウスアリーナ太田」のこけら落としには、涙を流されているお客様がいらっしゃるなど、群馬クレインサンダーズは太田市民のシビックプライドに大きく貢献しています。

オープンハウスグループとしても、「オープンハウスアリーナ太田」には想像以上に手ごたえを感じています。我々が創り上げた空間の中で、最も多く人の心を動かし、実際に住まわれている方が誇りと思える場にもなりました。

プロバスケットボールチーム「群馬クレインサンダーズ」を応援する太田市民の熱量は高い

「オープンハウスアリーナ太田」があるからこそ、ここに住みたい、子どもをここで育て、バスケットボール選手になってほしい。そんな方々も今後出てくると考えています。街に誇りを抱き、定住される方も増えてくるでしょう。そして、最終的には住まわれる方に住宅を提案するという好循環のサイクルが生まれてくるのです。

桐生南高校跡地をレンタルスペースに

――桐生市での取組みはいかがでしょうか。

横瀬氏 こちらは人口減少で他校と統合された群馬県立旧桐生南高校跡地の利活用の取組みです。学校は廃校になってしまうとその歴史が止まってしまいます。そこで群馬県は2021年3月に桐生南高校跡地などの公募プロポーザルを実施し、オープンハウスグループが優先交渉権者として選ばれました。現在は「KIRINAN BASE」として2023年夏に生まれ変わっています。「KIRINAN BASE」のKIRINANは、桐生南高校のかつて親しまれた略称「桐南(きりなん)」にちなみ、BASEには、人々が集う交流拠点という意味を込めました。

学校運営者が学校を利用する際は、建築基準法の縛りが若干緩くなりますが、民間事業者が引き取ると事務所扱いとなり、消防施設を増設する必要があるため、順序だてて工事を進めつつ、同時に地域の方に向けて屋内・屋外問わずさまざまな用途でレンタルしています。

体育館でバスケットボールの練習などをされる方や校庭でドローンを飛ばされる方もいますし、映画やテレビのロケ撮影についても問い合わせがあります。また、群馬クレインサンダーズのユースチームの練習場として利用することも考えています。

桐生南高校跡地は「KIRINAN BASE」として再生

ほかにも、桐生市はかつて養蚕で栄えた街で関連企業や職人さんも多いのですが、アトリエが手狭になってきているという声もあるため、養蚕技術を職人から学べる場としての活用も検討しているところです。

みどり市の国民宿舎の設計・運営も担う

――最後に、みどり市での取組みをお願いします。

横瀬氏 みどり市は、2023年7月に「国民宿舎サンレイク草木」の老朽化等による利用客数の低迷、維持管理費の負担増などの課題を解決し、みどり市東町草木湖周辺地域の再生や地域の活性化を図るため、施設の建て替えを実施することとしました。そこで基本設計、解体設計業務の委託、施設の管理運者の経営的な視点を設計業務に反映させるため、管理運営事業予定者を公募し、オープンハウスグループが同事業の運営者となり、公設民営として運営方針を転換することになりました。

みどり市の「国民宿舎サンレイク草木建替」の事業スキームは、設計と運営がオープンハウスグループとホテル運営会社がJVを組んで担当します。工事は未定ですが、市からの発注が予想されます。敷地内を回遊する宿泊施設を検討しており、今は基本設計の段階で、2026年度の開館を目指しています。

宿泊場所は戸建て型で、少し歩いたところに飲食棟を設けます。近隣には「草木湖」があり、散策コースもあるため、なるべくアクティブに自然の中を回遊して楽しんで頂けるような仕掛けをつくります。

みどり市の「国民宿舎サンレイク草木」の建て替え / 出典:みどり市の「国民宿舎サンレイク草木再生基本計画」

街づくりが戸建て事業とのシナジー効果を生む

――こうした地方の街づくりと主力事業の戸建て住宅のシナジー効果についてどのようにお考えでしょうか。

横瀬氏 冒頭にお話したように、街をしっかりと再生したうえで、最終的に戸建て住宅販売につなげていく考えです。また、国民宿舎サンレイク草木建替工事では、基本設計業務を子会社が受注していますが、戸建て住宅以外の能力を広げ、次の事業に繋げるための種まきの場にもなっています。

また、戸建て事業の強みは製販一体です。結果、住宅を安く供給できます。それは家以外でも同様で、たとえばホテルの施工を安価でできれば、お客様の宿泊費も抑えることが可能です。今後の地方での街づくりの展開では、同じく施工での請負を目指し、良いものを安く提供するという根底の部分が実現できます。そのためには自社を育てていくこととM&Aにより事業を拡大することも重要だと考えています。

――オープンハウスのイメージも大きく変わっているように感じます。

横瀬氏 我々は今、”総合デベロッパー”を標榜しています。これまでは都心部で手の届く価格の住宅を提供してきましたが、足元の数字はしっかりと固めつつも、現在は街全体をつくるフェーズに入ったと考えています。

そして、東京には八重洲、丸の内、秋葉原、渋谷、新宿などすでに多くの核が存在しますが、東京から少し離れた場所にあり、移住者も多く、環境も良い群馬県のようなポテンシャルのある地域にこそ街づくりのニーズがあります。

街の中心をつくると、シャンパンタワーのように周辺に人やモノが流れ、街全体が発展していく、非常にやりがいのある仕事です。私自身も、次はどんな街づくりをしようかと日々考え、ワクワクしています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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