東急建設とACSD社4名の皆さん

東急建設とACSD社4名の皆さん

【東急建設×ACSD】建築生産現場でのBIM活用高度化の協業で、デジタル活用の共同開発目指す

東急建設株式会社(寺田光宏社長)は、ベトナムのAureole Construction Software Development Inc.(オレオ・コンストラクション・ソフトウェア・デベロップメント、ACSD社)と、建築生産現場のデジタル化の推進から定着、さらにその先の活用に向けた協業に関する基本協定を締結した。

東急建設は、BIMなどのデジタルデータを活用した建築生産システムの変革を目指し、ACSD社との協業を通じて、データ活用を通した顧客への価値提供や、BIMファーストモデルの拡大、ソフトウェア開発などを展開してきた。今回の協定では、さらに生産設計業務を加え、生産現場でのBIM活用の高度化、建築生産バリューチェーンにおけるデジタル活用に関する共同開発を推進する。

また、ACSD社の技術者が東急建設で業務を行い、技術習得しながら人的交流を積極的に推進、相互の技術力向上と持続的な協力体制を構築する。この一連の取組みで、建築生産プロセスで作成したデジタルデータをバリューチェーンに活用し、専門工事会社やメーカー、さらには顧客とともに、データ起点による連携を模索しながら、建築生産システムの変革を目指す。

なお、この協業は、同協定に基づきACSD社内に新設した「BIMエンジニアリングセンター」での最初のプロジェクトだ。

今回は、基本協定の今後の動向などについて東急建設建築事業本部技術統括部長の林征弥氏、技術統括部デジタルエンジニアリング部長の能登大氏、ACSD社取締役会長の三浦秀平氏、取締役社長の数野博義氏に話を聞いた。

進展する「BIMファーストモデル」

――今回の協業の内容について。

能登大氏(以下、能登氏)  ACSD社との協業については、設計図書をBIMで表現する「BIMファーストモデル」がスタートした2019年1月から開始しており、今年で5年目になります。2023年度に社内にBIM生産設計グループを設置し、施工時における検討事項を設計段階で、デジタルを活用してフロントローディングする目的で設計との連携を深めながら、生産設計モデルの作成を行っています。

BIMファーストモデルや生産設計モデルはそれをもとにどのような価値を提供できるかがポイントです。施工ではデジタルファブリケーション(デジタルデータをもとに製品を製作する自動加工などの技術)を期待していますが、その際に必要となるデータ加工の業務なども今後、ACSD社に担っていただきたいと考えています。

我々は、施工の場面だけではなく、バリューチェーン全体でのデジタル活用を目指しており、その中の一つとして積算の自動化については協業して取組んでいます。この取組みでは、ACSD社と自動積算システムを共同で開発しており、現在は同システムのブラッシュアップを行っています。

BIMデータを活用する際の注意点として、そのデータが設計図書通りであるか、正しいデータであるかが重要になります。これまでは紙の設計図を見ながら、現場監督がひとつひとつ手作業で施工図を作成・チェックしていましたが、BIMデータについては、デジタルの強みを活かして、自動チェックも可能になってきます。すべてが自動でできるわけではありませんが、今後、AI技術の発展により、その範囲が広がっていくことが期待されます。

ACSD社は、技術開発の分野でも能力の高い技術者を多く抱えていますので、こういった部分の開発でも今後、協業していきたいと考えております。

技術統括部デジタルエンジニアリング部長の能登大氏

――3年前では受注額が5億円以上の現場には「統合BIMモデル」を投入されるとの方針を示していましたが。

能登氏 ACSD社にBIMモデル作成をご協力いただき、現状、ほとんどの案件で活用・展開しています。これはベトナムのACSD社の豊富なリソースがあってこそ実現していることです。今はまだ一部手探りの部分もありますが、これを当たり前のように運用できる体制の整備や仕組みづくりを両社で検討中です。

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ベトナム人エンジニアが日本語で直接対応

ACSD社の三浦秀平取締役会長、数野博義取締役社長

――ACSD社の強みについて教えてください。

三浦秀平氏(以下、三浦氏) ACSD社は三谷産業株式会社の100%子会社として2001年に設立され、建築関連の設計図・施工図の製作、BIMモデリング、積算・見積作成などのサービスを提供しています。

設立当初は三谷産業の空調工事部門における設計や積算の支援を中心に事業を展開していましたが、現在は東急建設様をはじめとするゼネコンやサブコン、メーカーなど多くの建設関連会社とお取引させていただいております。

ACSD社のホーチミンオフィス

ACSD社の強みは、第一にお取引各社からのご依頼を通して経験したBIM/CIMモデルなど多様なデータ作成実績に基づくノウハウの蓄積です。このノウハウを実践に用いることで、お客さまのオーダーや課題に対し、より先進的で高品質な提案を打ち出すことができます。さらに、今年新設した「BIMエンジニアリングセンター」は、ノウハウを集約して即時共有する構造が備わっているため、今後一層強化できる長所ですね。

また、優秀なベトナム人の人材が充足していることも特徴です。ベトナムは国を挙げてIT全般に関わる能力を向上させる政策を実施しており、学生は大学在籍中にITの基礎教育を受けていますから、BIMソフトの活用能力が高いのです。こうした優秀なベトナム人エンジニアが日本語で直接対応し、プロジェクトを推進する点もACSD社の強みであると言えますね。

――ベトナム人が日本人を介さずプロジェクトマネジメントするメリットは?

三浦氏 日本人がプロジェクトマネジメントを担当し、ベトナム人エンジニアと顧客との間に入るとコストも高くなりますし、ベトナム人エンジニアのキャリア的にも育ちにくく、業務へのモチベーションも上がりません。

ACSD社の場合、在越の日本人は私と数野社長の2人だけです。そのため、ベトナム人エンジニアが昇進を目指そうとすれば実現できる会社となっています。実際にベトナム人エンジニア約700名のうち2割が管理職を務めており、モチベーションやキャリアアップの面で従業員と堅い信頼関係で結ばれていると考えています。

また、他社であれば通訳を間に挟むわけですが、通訳者は専門用語を理解することが難しいため、専門的な技術の話は一定のレベルで止まってしまい、顧客に意思疎通の面で負担をかけることになります。ACSD社はベトナム人エンジニアが日本語に堪能であるため、顧客とのコミュニケーションをスムーズに行うことができます。

――ベトナムのBIM/CIMエンジニアの技術力の高さについては。

三浦氏 ベトナム人エンジニアの技術力の高さを支えているのは教育です。ベトナム産業界は、大学に”即戦力であること”を求めています。ソフトウェアを使いこなす実践力を向上させる教育は大学1年生から始まり、大学卒業時までRevitやアプリケーション開発能力に関する様々な講義を受けるため、非常に能力が高いです。

――東急建設から見て、ACSD社と協業されてどのような点で仕事がやりやすいと感じますか。

能登氏 三浦会長が指摘されたように、ベトナム人エンジニアとの間に日本人を挟むとコミュニケーションロスが発生します。また、日本にはベトナムと違った建築生産システムや納まりの細部へのこだわりといったものがありますが、親会社の三谷産業は日系企業の業務をメインにされている企業ですから、この点も協業しやすい点です。私も6月にACSD社を訪問し、実際にオフィスを拝見し、働いている方々とも会話をしましたが、仕事に向き合う熱量は高く皆さん真剣です。


まるで社内組織のような「BIMエンジニアリングセンター」

――日本におけるBIM人材の市況をどのように見ていますか?

林氏 私は、三浦会長や数野社長を含めたACSD社の顧客に寄り添う姿勢と仕事への熱意にほれ込んで、長年お付き合いしています。常に日本のカルチャーを持って当社のBIMファーストモデル、BIM生産設計業務を遠いベトナムから日本の現場に提供していただいています。またBIM人材の数と日本スタイルで教育されている社員の皆さんに大いに魅力を感じています。

BIMオペレーターはいても、BIM関連ソフトを幅広く実務運用できる人材は、日本にはなかなかいません。デジタルによって生産性を上げようという声は大きいですが、当社ではなかなか進んでいません。理由を考えるとプロジェクトマネジメントとデータマネジメントを自ら出来る人材が少ない事が大きな原因ではないかと考えています。

建設業界にデジタルのメリットを広めるためには、前段でご説明した課題から早く脱却することが必要ですが、一旦理想からステップダウンし、施工図BIMのような「3D活用」からの成功体験を数多く作っていきたいと思います。そして段階的にデータ活用へステップアップを再開し、面的な広がりで社内に浸透することに期待しています。

これから人材不足が進む一方、今まで以上に早く「正しい形状と情報を、正しくステークホルダーに提供」していかなくてはなりません。そのためには、長年お世話になっているACSD社とのパートナーシップを強化し成長していきたい所存です。

建築事業本部技術統括部長の林征弥氏

――建設業界でも技術者の外製化が活発になっていますね。

林氏 BIMに限らず技術に優れた企業とのパートナーシップは拡大しオープンマインドで連携することが戦略上重要になってきます。もはや大量の技術者がいた時代には戻れない中、同業他社の皆さんとも協調領域であれば是非ご一緒すべきと思っています。建築生産改革としては、時代の変化を先取りしつつ長期目線でバランスを取りデジタルシフトを進めていきたいと考えています。

――話は変わりますが、ACSD社で200名超の「BIMエンジニアリングセンター」が新たに設立されました。どのような組織なのでしょうか?

数野博義氏(以下、数野氏) BIM関連業務を専属体制で受注しているプロジェクトチームを従来の組織から分離させた、プロフェッショナルで総合的なBIM技術を有する部門です。

実践を通じてあらゆるノウハウやスキルを蓄積しており、お客さまのニーズに対して専属体制での対応が可能な組織となっています。お客さまの要望にスムーズにお応えすることはもちろん、課題の解決策の提案も積極的に行います。

また、お客さまとセンターとの間だけでデータの受け渡しが完結し、セキュアな環境でのデータ管理が実現しているため、お客さまにとっては社内組織に近い安心感のもと当センターを運用していただけるのではないかと自負しております。

「BIMエンジニアリングセンター」組織図

――センター設立の経緯は?

数野氏 数年前からBIMに関する仕事が急増し、部署をまたぐかたちで業務を進めていることに不便さを感じていたため、BIMのエンジニアを集約することが必要だと考えました。組織の集約には労力がかかりますが、それ以上に、お客さまに対しての価値提供の観点から考えれば意義深い取組みだと思っています。

当社は、実践を通じて得た経験を生かすことで組織全体が着実に成長してきました。これからも実践主義の体制を貫き、東急建設さまをはじめとする多くの建設会社やゼネコン各社に様々な技術を提供してまいります。

――DX分野で他社との協業について何かビジョンがありましたら教えてください。

能登氏 建物は、様々な協力会社と連携してつくり上げていくので、BIMデータを活用するうえでデータの連携は重要ですから、協力会社、メーカーとの協業は検討すべき点です。ただ、協業は個社ではなく業界全体として取り組まなければなりません。また、現場レベルではなくバリューチェーン全体でBIMが当然のように使用される環境構築がポイントです。

また、建物をつくるだけではなく、完成した後にBIMをどう活用するかも課題になってきます。施主が徐々にBIMの使用にシフトすれば、施主との連携も浮上するでしょう。また、建物の維持管理でのBIM活用がもっと進めば、ビル管理会社との協業もあり得ます。

三浦氏 今後、BIM技術がさらに発展していくと、これまで独立していたデータが相互に連結し、より活発なデータ活用が可能となります。効率的なデータ活用が実現すれば、生産性や施工品質も向上していくでしょう。

当社としても、こうした進化に後れを取ることなく、お客さまへの価値提供を基軸とした事業拡大に注力し続けていきたいです。そのためには、お取引している企業さまとの協業による連携プレーも重要視していきたいと考えています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。