分業化は、現場監督をだめにする?

「余白」がより良い判断をもたらす

最近、こんな意見を見ました。「分業化、外注化は生産性を向上させるかもしれないが、その弊害として現場全体を把握できない監督が増える」というものです。確かに理解できますが、僕の意見は少し違います。「分業化は、むしろ全体を見渡す余裕を生む」と考えています。

仮に施工図を自動生成するシステムが導入されたとします。すると、今まで自分で図面を描いていた人から見ると、「内容が理解できていない」という意見も出るでしょう。しかしよく考えれば、論点が変わっています。「描く」能力と、「理解する」能力は別物。重要なのは、施工図を確認し、管理する能力のはずです。

もちろん書きながら理解するという方法もありますが、書かずに把握するスキルだってあるはず。サッシ図や鉄骨図は、自分では書かないが把握することはできていますよね。それと同じで、ツールが進化すればするほど、「描かなくても把握できる力」がますます重要になってくる。これは決して手を抜くという意味ではなく、役割が変わるということなんです。

パソコンによって漢字が書けなくなったように、失われるスキルがあったとしても、それを補う新たなスキルが必ず生まれるのです。それに、漢字を「書けなくなる」ことと「読めなくなる」ことは違う。読んで意味を理解できるなら、目的は果たせているとも言える。施工図もまた同じではないでしょうか。

そして何より、分業化によって、今まで自分で行っていた作業を他者に任せることができれば、当然その分の時間が生まれます。つまり、全体を見るための余裕が生まれるのです。自分であらゆる作業を抱え込んでいた今までよりも、むしろ高い視点からプロジェクト全体を把握する余裕が生まれるのです。

目の前の細かな作業に追われていた状態から一歩引いて、より俯瞰的に現場を見つめ直すことができるようになる。この「余白」が、より良い判断をもたらすのです。

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すべての業務を一人で完璧にこなすことは不可能

首相が国家のすべてを直接管理することはできないのと同じ。各省庁の報告を受け、判断を下すのが首相の役割です。同じように、現場監督も細部を分業化し、全体を把握する能力を高めるべきだと考えるのです。実際、どれだけ優秀な監督でも、すべての業務を一人で完璧にこなすことは不可能です。だからこそ、信頼できる仲間と役割分担をし、全体の流れを見極めていく力が求められるのです。

そもそも大規模な建設現場では、既に分業化が当たり前になっています。工事ごとの担当や施工図担当、安全担当などがそれぞれの責任を持ち、効率的に進めています。この「分けて任せる」仕組みがあるからこそ、複雑な現場でも混乱なく動いているわけです。この仕組みは、中小規模の現場でも縮小して取り入れることが可能です。もしそこに問題が生まれれば、改善を繰り返せば良いだけです。

施工管理は本来、「技術者」であり、「現場の管理運営」が本業です。ただその概念が漠然としているため、気が付けばあれもこれもやらなければいけないという仕事になっているのです。分業によってそれを分解して、他者にお願いすることができれば、もっともっと技術屋たる仕事ができるはずです。本来やるべき「品質・工程・安全の管理」に集中できるようになるのです。

要するに「分業化が進むと現場監督はダメになる」のではなく、より自分たちにしかできない、全体を見渡すことができるようになるのだと思うのです。

「うまくいかないかもしれない」と躊躇するよりも、「どうすればうまくいくか」を模索する姿勢こそが、建設業界を前進させる原動力となるのではないでしょうか。変化を恐れず、役割を見直し、柔軟に対応していくこと。それが、これからの現場監督に求められる力だと思うのです。

※この記事は、『 【インスタで学べる】1日たった3分で学べる建設コラム 』の記事を再編集したものです。


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【プロフィール】
武田 祐樹(たけだ ひろき)

総合建設業に17年在職し、所長歴は11年、官民問わず数多くの実績を積む。その後2020年に起業・独立。
「建設業をワクワクする業界へ」をスローガンに、DX化の推進や若手育成、魅力発信を行う。
「建設業効率化施策の仕掛け人」として、ABEMA Primeに出演。

◇保有資格◇
一級建築士
1級建築施工管理技士
1級土木施工管理技士

株式会社RaisePLAN 代表取締役

【運営・活動】
【現場ラボ】:建設業の変革をサポート
【現場ラボコンサルタント】:新人・若手の研修、教育
【Edu建(エデュケン)】:建築施工管理のeラーニング
【講師活動】:DX化、部下育成、建設業に関するセミナー・講演

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