土木技術者が足りない!苦悩する地方自治体の実情とは?高知県土木部に聞く

土木技術者が足りない!苦悩する地方自治体の実情とは?高知県土木部に聞く

高知県土木部が直面する老朽化と地震・津波への対応

四国の南半分に位置する高知県は、森林が県域の80%以上を占める日本一の森林県であり、人口は約71万5374人(平成29年4月現在)。全国有数の過疎県です。

そんな高知県では、最大で30mを超える津波を伴う南海巨大トラフ地震による甚大な被害が予想されており、限られた財源のもと、ハード・ソフト両面での対応が進められています。

今回は、高知県のインフラ整備の要、高知県土木部にスポットを当て、官民の人材育成に関する取り組みなどについて、高知県土木部土木政策課土木企画監の汲田信幸さんと同課長補佐(企画調整担当)の黒岩章さん、そして技術管理課課長の弘嶋浩明さんと同課長補佐(土木政策課課長補佐兼務)の黒岩敬一朗さんにそれぞれお話を伺いました。

民間企業との競争、土木離れで、技術者が足りない

まずは高知県土木部土木政策課のインタビューです。

高知県土木部には、13課15事務所があります。土木政策課は、平成29年4月1日付で土木企画課と建設管理課の統合により設置されました。同課は、土木部の総合的な企画、調整などを担当するセクションで、職員の採用や育成も手がけています。

今回は主に、土木部におけるマンパワー確保に関する取り組みについてお話を伺いました。

高知県土木部土木政策課土木企画監の汲田信幸さん(右)と、課長補佐の黒岩章さん

ーー高知県の土木系技術職員は今、足りているのですか。

汲田 全体的には足りていません。平成21年度を境に、いわゆる団塊の世代の退職者数が毎年20名前後で推移してきました。また、行革のため、採用者を絞っていた時期も長く続きました。平成21年度以降、人員の維持を目的に採用を進めてきたところですが、今度は逆に、こちらが欲しい人数を採用できない、採用枠からマイナスの人数しか採用できない状況が続いています。

ーーその理由は?

汲田 民間企業との競争が激しくなったことや、若者の土木離れもあると推察しています。

ーー民間の方が給与が良いからということですか?

汲田 そういったことも大きな一因であると思います。

ーー平成23年度以降、採用枠からのマイナスが続いている理由は?

黒岩 東日本大震災が発生し、東北での民間企業の技術者の需要が非常に高まったからです。それが落ち着いたら、今度は東京オリンピックの建設需要が増えました。民間企業の景気が良くなり、給与が上がったことはもちろん、少子化や職業の多様化など複合的な理由があります。

バブル崩壊後、三位一体改革により、自治体の予算がどんどん削られました。退職者があっても、新規補充できない状況が続いていました。高知県の場合、かつて4000名を超える職員がいましたが、今は3300名に減っています。この流れの中で、当然技術職員も減っているわけです。

採用者数は、基本的には退職者数と合わせるのですが、それではいびつな年齢構成が変わらないので、昨年度は退職者4名に対し、13名を新たに採用するなど、中期的な視点に立った採用を行なっているところです。

汲田 希望の採用者数には達しなかったけども、退職者以上の職員数はクリアしています。

土木技術者の人手不足分は、外郭団体やコンサルが頼り

ーー土木技術職員の確保に困っている状況ということですか。

黒岩 困っていますね。退職者の再任用など、工夫しながら仕事をこなしている形です。

ーー職員数が不足していても仕事が回るんですか?

汲田 そこは外部委託に頼っている状況です。

ーーどういった業務を委託するのですか?

汲田 監督、積算業務などです。高知県が出資している高知県建設技術公社にお願いしています。監督業の補助であれば、民間のコンサルタントにもお任せしています。

土木は経験工学。現場を見て、現場で習うのが基本

ーー土木技術者の育成はやはりOJTですか?

汲田 基本はOJTですが、公社に委託して、18日間の新採職員の研修を行っています。これは必須の研修です。国や民間企業が主催する研修は、任意の研修として、積極的に参加してもらっています。

黒岩 OJTでは、現場の直属の上司などがついて指導をします。土木というのは、経験工学的なところがあるので、現場を見て、現場で習うというところが大きいです。

ーー新規の事業と改築更新とではOJTの中身が違ってくるように思われますが、その辺の仕事の振り分けは?

汲田 職員にどういうOJTをさせるかは、基本的に土木事務所の所長に任せています。所長は毎年職員から聞き取りをして、できるだけ職員がやりたい仕事をやってもらうというスタンスで臨んでいます。

ーー土木技術者に占める女性の割合は?

汲田 1割ぐらいです。年々増えつつあります。

黒岩 女性の土木技術者の第1号が今40歳ぐらいですが、この20年ぐらいで徐々に増えていきてはいます。

人手不足なのに、市町村には国や県から仕事が下りてくる

ーー県内自治体への県土木職員の派遣の状況は?

汲田 市町村のご要望に応じてですが、現在8名を派遣しています。期間は2〜3年間が基本です。それでも足りない市町村は、技術公社の力を借りて、監督や積算などの業務をこなしている状況です。

ーー派遣はベテラン職員が多いんですか?

汲田 市町村の要望、ニーズによります。例えば、南国市は平成29年度から都市開発の許認可に関する業務を自らされるので、都市計画に精通した職員に行ってもらっています。

黒岩 これまでは県がまとめて業務を行なっていたのですが、平成30年度から南国市に権限を委譲しようとしているわけです。南国市にはノウハウが不足しているので、県から職員を派遣しているわけです。

ただ、これはレアなケースです。市町村によっては、災害対応や用地買収などの必須業と並行して大規模事業などを進めるための職員が不足しているので、県の職員を派遣している市町村もあります。

市町村は、人が少ないのに、国や県などから下りてくる仕事が多いところがあります。国交省の仕事も農水省の仕事も水産省の仕事も、一人の職員が全部やらなければならない自治体も少なくありません。一人ではどうしても時間と経験が足りません。工事に関する技術の仕事ではなくて、行政の手続きの仕事なので、各省庁とのパイプや行政手続きの速さなどについて、派遣職員がお手伝いするということです。土木職員は行政の知識も土木の知識もありますから。


 

……団塊の世代の大量退職による人手不足、いわゆる「2007年問題」「2012年問題」は当時世間で騒がれた問題でした。退職・不補充で定数削減を実行した結果、マンパワーが足りなくなったとしても、それは身から出た錆ですが、土木離れなどの外的要因により、採用枠に満たない人員しか確保できないのは、看過できない事態です。

魅力ある職場づくりなど自助努力はもちろんですが、国や業界全体としての事態打開に向けた取り組みが求められるところです。

無料の担い手研修で施工技術者をバックアップ

次は、高知県土木部技術管理課へのインタビューです。

技術管理課は、工事の検査・監督、業者の研修などを担当するセクションです。高知県では平成27年3月に「高知県建設業活性化プラン」を策定し、「公共工事の品質と担い手の確保」などに取り組んでいます。

数年前、四国地方整備局土佐国道事務所などの発注案件で発生した談合事件により、大きく揺らいだ高知県の建設業界ですが、現状はどうなっているのでしょうか?業者の技術力の確保などに関する取り組みについて、お話を伺いました。

高知県土木部技術管理課課長の弘嶋浩明氏(右)と、課長補佐(土木政策課課長補佐兼務)の黒岩敬一朗氏

ーー技術管理課が担当する建設業者の技術力向上などに関する取り組みは?

弘嶋 建設業活性化プランは平成26年2月に策定しました。その後、「担い手三法」の改正に合わせて見直しを行い、平成27年3月版、Ver.2として改訂しています。この中で技術管理課が所管するメニューとしては、「適正な維持管理に向けた人材育成の取組」(以下、適正な維持管理)と「建設生産システムの効率化に向けた情報化技術の活用促進」(以下、情報化技術の活用促進)が主になります。

適正な維持管理については、平成26年度から「維持管理エキスパート研修会」として、県内の建設業者を対象に、橋梁、法面・擁壁、トンネルの3分野の維持管理について、初級、中級、上級の各コースをそれぞれ段階的に学ぶ研修制度を設けています。これまでに294社から510名(実受講者数)が受講しています。これはCPDS(継続学習制度)の講習にもなっています。非常に評判が良くて、研修会1回当たり30名の定員枠があるのですが、拡充の要望もあります。

情報化技術の活用促進は、UAV(無人航空機)による現地実証実験や、三次元モデル図面の作成講習会などを行なっています。いわゆるICT(情報通信技術)の取り組みです。

ーー適正な維持管理の初級、中級、上級の各コースの区分は?

弘嶋 初級は主に点検です。中級は、初級の3分野すべて受講した方が対象で、点検をもとに診断を行うコースです。異常の原因の分析や腐食などの進行の度合いを目視で判断します。上級は、それらをもとに、補修、補強計画を立てるコースです。また、初級、中級ではそれぞれ現地研修が含まれています。

ーー研修は有料ですか?

弘嶋 無料です。

ーー無料だから評判が良い?

弘嶋 そうですね。

維持補修の仕事の受け皿づくりが必要

ーー受講による仕事の上でのメリットがあるのですか?

黒岩 受講すれば、それが仕事に直結するわけではありません。ただ、高知県でも社会資本のストックが増えてきているので、長寿命化に向けた維持修繕、補修の仕事を幅広い業者に請け負っていただく必要があります。修繕、補修の専門業者は従前からいらっしゃいますが、その業者さんだけでは、これから加速度的に増えていく発注量に対して、到底対応できません。地域地域にいらっしゃる建設業者に講習を通じて、こういう仕事に慣れ親しんでいただきたいという思いがあります。

研修を受けたからといって、非常に高度な修繕は難しいですが、例えば、欠損したコンクリート構造物の断面修復を行うなどの対処であれば、それほど難しくありません。われわれとしては、地元で作ったものは地元で修復するのが一番望ましい姿だと考えているので、地元業者にどんどん手を挙げていただきたいという思いです。

ーーこういった研修はいつまで続けるのですか?

黒岩 当面は充足率を見ながら続けていく考えです。建設業者の技術力向上は永遠の課題ですから、何人受講したから終わりにするという線を引きづらいところがあります。

ーーしばらくは維持管理に特化した研修に力を入れていく?

黒岩 公共投資の姿も、新規着工から維持管理へと変化しています。道路関係予算も5割ほどが維持管理へとシフトしているので、耐震補強も含めて維持管理の予算が増えています。

ICTは、まずは簡易ソフトでメリットの浸透から始める

ーーICTに関する取り組みには、高知県独自のものはあるのですか?

黒岩 高知県オリジナルのものはありません。国交省が平成28年度に「i-Construction」を打ち出しましたが、高知県では、こういった技術もあるということで、ゆるりと動き出しているところです。

弘嶋 いきなり高等なICTを使うのは、大手の企業であれば可能でしょうが、中小、零細企業が中心の高知県の場合、図面の三次元化を行うにも、高級なソフトではなくて、インターネットでダウンロードできるような簡易なソフトを使いながら、土木の仕事をする上でどういうメリットがあるのかということを認識してもらう、という段階にあります。今のところは小さなところでの対応です。

大事なことは、災害時に地元業者にすぐに駆けつけてもらうこと

ーー地元の建設業者と県外の大手企業などとのJV発注の考え方はどうなっていますか?

黒岩 基本的には、県内業者へ優先して発注することとしています。ただ、例えば、橋梁メーカーは県内に2社しかなく、技術的にも鋼材重量300トン前後の橋梁までが限界で、それ以上になると、県外の大手企業と県内企業のJVでの発注を考えています。PC造の橋の場合、県内に技術を持った業者はありませんので、県外の専業企業にお願いせざるを得ない状況です。

また、金額が24億7000万円以上のWTOの政府調達の場合は、地域要件を設定できません。ただ、県内業者をその他構成員に入れた場合は総合評価で加点するなどの誘導は行なっています。

弘嶋 橋梁でも、分離可能であれば、橋台部分については地元企業に発注することにしています。

ーーそのような発注方式は他県でも採用されているのですか?

黒岩 経済を地元に還流させる観点からも、同じような囲い込みは行なっていると思います。

弘嶋 一番大事なのは、何か災害があった時にすぐ動けるように、地元企業が地域で仕事を継続できるようにしておくことです。

有資格者配置にインセンティブを与える発注へ

ーー土木施工管理技士などの有資格者を業者が確保するよう、指導などをすることはあるのですか?

黒岩 高知県には12の土木事務所があります。事務所で5,000万円以上、1億円以下の工事を総合評価方式で発注する場合、2級、1級の技術員を配置すると、5点の加点対象となります。1億円を越えると、監理技術者の配置が要件の工事が多くなるので、1級、2級で評価することはありません。比較的小さな規模の工事であれば、技術員の設置が加点評価の対象になる場合はあります。

高知県には技士会がありますが、県と会との意見交換でも、土木施工管理技士の資格が際立つような取り扱いをしてもらいたいという要請は出ています。

技士のほか、登録基幹技能者制度もあります。高知県では今年度からこの制度を試行していくことにしています。総合評価方式において、登録基幹技能者を配置する場合には、加点対象になります。国交省では平成20年度以降この制度を活用していますが、高知県の場合、登録基幹技能士の数が少なく、特定の業者に偏りが見られたことから、一定すそ野が広がるまでは実施は難しいとの思いがありました。近年、設備工事業者を中心に資格取得率が上がっているようなので、今年度から試行することにしました。


 

……地方の建設業者は「まちのお医者さん」とも呼ばれ、まちのインフラに何か問題があった時にすぐに駆けつけてくれる重要な存在です。

地方の県や市町村にとっては、遠くにある大手ゼネコンより、まちを熟知した地元の中小零細企業を頼りにする場面は少なくありません。その点、建設業者はその地域の公共財産といっても過言ではありません。行政サイドの建設業者へのフォローは必要ですが、それぞれの建設業者が使命感を持ち、行動することが大事だと思われます。

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