『安全書類』にまつわる現場のストレスは極めて大きい
中村建設の書庫。安全書類は、1現場だけでキングファイル数冊〜数十冊分になることもある
建設現場で残業が生じる原因の1つが書類業務の多さだ。
特に『安全書類』にまつわる現場のストレスは極めて大きく、多重請負構造から生じる社内外との煩雑なコミュニケーションや、1現場で数百枚以上にも及ぶ書類管理の負担が相まり「安全」という本来の目的とは裏腹に、安全書類業務そのものが二次的に過労働や事故に繋がりかねない危険を孕んでいる。
真面目にやるほど疲弊する。雑になるほどリスクになる
2025年で創立70周年を迎えた中村建設株式会社(静岡県浜松市)
かつての中村建設株式会社(静岡県浜松市)でも、法令遵守のために真面目に取り組む現場ほど安全書類に疲弊し、本来最も注力すべき現場の安全管理に時間を割けない状況が慢性化していた。
また、現場毎に管理意識に大きな差があったのも課題だった。「なんとなく」で管理されていた現場では、名簿に未記載の作業員が現場入場していたり、事故報告書の現場名や住所が違っていたりと、重大なヒヤリハットが散見される状況だった。
安全書類DXの決め手は「協力会社の使いやすさ」
安全書類DXをはじめ、様々な領域から現場を支援する施工支援部の方々
こうした課題に対し、中村建設は業務効率化と法令遵守を目的に、安全書類DXサービス『Greenfile.work(グリーンファイルドットワーク)』を導入。
当時から業界には複数の安全書類DXサービスが存在していたが、協力会社側の使いやすさに一際こだわっていたGreenfile.workを迷わず選んだ。安全書類は協力会社から提出されて初めて成り立つ業務だからこそ、協力会社の使いやすさを重視することが本質であり、それが回り回って元請である自社にとっての使いやすさにも繋がると考えた。
まずは料金面。協力会社の利用は完全無料で、支払いや契約の手間なく、使いたいその日に即日使ってもらえることがイメージできた。
システムにおいては、実際に操作画面を見てみると「これならパソコンやシステムに不慣れな方でも、マニュアルを見ずとも直感的に書類を提出できそうだ」と感じた。
サポートにおいては、わからないことがあったときにすぐに電話やメールで相談できるサポート窓口がある。特に気に入ったのは、完全内製で安全書類領域だけに特化した高品質なサポートであることだ。サポート窓口で解決できない問題は、最終的に元請側で対応しなければならないからこそ、サポート窓口にどれだけの対応力があるかは、効率化において重要な要素だと考えた。
この導入判断までは順調だった。
「導入止まりで風化」建設DXあるあるとの闘い
運用体制の再建を提案した全社システム担当の宮本さん(右)と、施工支援部の山本さん(左)
しかし、ここからが「建設DXあるある」との闘いだった。
導入当初の2020年はコロナ禍の真っ最中で、安全書類業務のDX化を十分な強度で全社へ周知することができなかった。ふと気付けば現場ではほぼ活用されておらず、月々の料金だけを支払い続けている状態になっていた。
実はこうした「導入止まりで実態として効率化されていない状況」は、建設DXの界隈では決して珍しくない。どんなDXも、導入しただけで自然と効率化が進むわけではなく、最終的にはそれを活かす「人」や「動き」がなければ何も始まらない。
事故や監査のときに困るのは現場なのに、まだ誰もDXを活かせていない。この状況に対し、全社システム担当と施工支援担当が危機感を持ち、運用体制の再建をすることになった。
この活動に魔法の一手はなく、草の根的な取り組みを続けるしかないことは分かっていた。
本当に便利なものであれば、必ず受け入れてもらえる
「諦めず地道に推進し続けるのが大切」と語る全社システム担当の宮本さん
一方で、希望もあった。
中村建設には、過去に電子契約・電子請求の導入プロジェクトで得た成功体験があったからだ。契約・請求のDX化においても当初は協力会社から「なんでやらないといけないんだ」と否定的な声が多かったが、実際に使い始めると、流れを変えたのはむしろ協力会社自身だった。
「中村建設さんが使っているあれ、便利だよ」と少数派だった利用者が周囲に広め始め、やがて他の元請も同じ仕組みを採用。今では地域にとって当たり前のインフラの1つとなっている。
本当に便利なものであれば、最終的には必ず協力会社にも自然と受け入れてもらえる。
この確信があったからこそ、一度風化した状況にも負けず、安全書類DXの意義と使い方を地道に現場へ伝え続けることができた。
当初は現場主導で運用していたものも、現場の後方支援を担う施工支援部が旗を振り、全社統一の運用体制とルールを明確化。新入社員研修においてもGreenfile.workを社内インフラの1つとして伝えるほど徹底した「安全書類DXの公式化」を行った。
再建のキーマンは、新卒入社2年目の彼女
当時、新卒入社2年目で安全書類DX再建のキーマンとなった施工支援部の三田さん(右)
運用再建において中心的な役割を果たしたのは、当時まだ新卒入社2年目で専門知識も経験もなかった、施工支援部の三田さんである。
「現場の空気を壊してしまわないか、内心とても不安でした」と当初の心境を振り返る彼女だが、印象的だったのは彼女の“巻き込み力”。実際に現場へ足を運び、現場の立場や慣習を尊重しながらも、「この作業、本当に現場にとって必要ですか?」「安全の本質に立ち返った運用にしませんか?」と、1つ1つ現場と一緒に見直していく姿勢が、現場のベテラン達からも受け入れられていった。
次第に「三田さん、ちょっとこれ教えて」と頼られる場面が増え、最終的には「わからないことがあったら三田さんに聞けば大丈夫」という空気感まで醸成された。
単にシステムの使い方を説明するのではなく、“現場と一緒に”制度を整えていくという姿勢が、ゼロからここまでの信頼を築いていった。
1日1〜2時間の業務削減。浜松市全体の現場インフラへ
「Greenfile.workで本当に楽になった」と語る、紙の安全書類業務を経験している土木部大石さん
その結果、現在では安全書類領域だけでも1現場あたり1日1〜2時間の業務削減を実現。「毎日1〜2時間も早く帰れるようになった」と考えると、Greenfile.workの現場への影響力は非常に大きい。
社内の効率化だけでなく、協力会社にとっても、紙のやり取りによる移動や郵送の負担と、同じ情報を何度も記入する二度手間がゼロになり、大幅な負担軽減が実現している。
さらに、Greenfile.workに一度入力された安全書類の情報は、会社の垣根を超えて、Greenfile.workを利用している全現場の安全書類に自動的に反映される仕組みだ。つまり自社が安全書類業務を行っていない間でも、常に地域全体、業界全体で安全書類業務の効率化が進んでいく構造になる。
Greenfile.workは、この仕組みで業界全体の安全書類業務の効率化を実現している
中村建設の所在地である静岡県浜松市では、この仕組みによって中村建設に限らず地域全体の安全書類業務が効率化されており、ほとんどの現場でGreenfile.workが活用されるまでにDX化が浸透している。今ではGreenfile.workは、中村建設、そして浜松市全体の現場にとって欠かせないインフラとなった。
そして、数字以上に大きな変化は社内の空気感だ。以前は「書類は現場がなんとかするもの」という無言の前提があったが、施工支援部の業務改革によって現場外から後方支援できる領域が拡大。その結果、現場はより書類業務以外の施工管理に集中できるようになっている。
推進力の源は、全社横断の徹底した働き方改革
全社横断で人事評価制度から根本的に整えた『働き方改革推進プロジェクト』
こうした変化の背景には、全社横断で進めてきた働き方改革推進プロジェクトの存在がある。
令和元年に発足した同プロジェクトは、年次や役職の異なる社員が集まり、残業削減や人材育成の仕組みを議論・実行。現場の実態調査から具体的な対策まで一貫して進めてきた取り組みが、Greenfile.workを軸とした後方支援体制の定着を後押しした。
こういった会社全体の取り組みと支援により、社員の残業時間は数年前から大幅に減少。これに伴い、育児やライフイベント後の復帰を希望する社員にとっても、より柔軟な働き方が可能になりつつある。
現在、20〜30代の若手を中心に14名の女性技術者が活躍し、育児休業後の復帰率も100%を維持。現場の負担を全社で分担する体制が、多様な人材が活躍できる基盤として着実に形になっている。
DXは「導入」ではなく「浸透」がゴール
DXは導入したその瞬間から生産性が向上するものではない。
中村建設が積み重ねてきた粘り強い取り組みが証明しているのは、どんなシステムも「人」が活かそうとし続けることで初めて価値を発揮するということだ。
昨今の建設業界も、ただDXに取り組んでいると発信するだけでは評価されにくい環境になりつつある。今後問われてくるのは「DXに取り組んでいるかどうか」ではなく「DXによって実際に働きやすくなっているかどうか」だ。特に人手の限られる地方の現場では、その差が売上や採用力に顕著に現れることが予想される。
Greenfile.workはその過程に寄り添い、導入止まりで終わらない「働きやすくなっているかどうか」で勝負する浸透のパートナーを目指している。