「金はいくらでも払うので進めてほしい」
変更工事が建設工事一式に含まれるかどうかは争点になりがちです。下記の事案も裁判所に持ち込まれることとなりました。
平成16年8月9日、XはYから発注を受けて本件基本工事の請負契約を締結しました。工事内容は「建築工事一式(じゅうたんの張替え、壁・天井の塗装、壁のクロス張り)」でした。この工事は駐留米海軍がYに発注し、YがXに下請発注したものです。工事代金は1,121万9,236円でした。
室内壁の塗装工事はXの下請であるA社が担当しました。この工事に先立ち、被告Yの現場代理人BはA社に対し「室内壁のブツブツ(ラフトン)をフラットにしてほしい」と要請し、A社はラフトンを削ってパテを塗り、その上で塗装を行いました。しかし、米軍側の担当者は数回にわたり工事のやり直しを命じました。A社は平成17年1月27日まで塗装工事をやり直すこととなりました。
A社は、Yのプロジェクトマネージャー(代金等の決定権者)Cに対し、やり直し工事分の代金はYが支払ってくれるのかと確認したところ、Cは「金はいくらでも払うので、とにかくやり直し工事を進めてほしい」と明言しました。
「責任を持って支払う」という念書
廊下の壁の塗装工事の着工前、Yの現場代理人BはXに対して「スペックにおいては『クロスをはがした後にパテを施工する』とあるが、クロスをはがさずにパテを施工する」ように指示し、Xはこの指示に基づき施工しました。しかしその後、米軍からクロスをはがした後にパテを施工するように要請があったとして、工事のやり直しを求めました。
これに対して、Xは工事をやり直しました。現場代理人Bは、「同工事の費用及び修復にかかる費用の一切はYが責任を持って支払う」旨の念書を作成し、Xに渡しました。
塗料の艶について、米軍からの指示は半ツヤであったにもかかわらず現場代理人BはXにツヤ消しで行うように指示しました。その結果、米軍の検査でやり直しを命じられ、半ツヤで塗り直しました。
これについても現場代理人Bは「塗り直しに関して発生するすべての費用はYが支払う」旨の念書を作成してXに渡しました。
争点に対する裁判所の判断
こうした経緯を踏まえ、裁判所は次のような判断を下しました。
『室内壁や廊下の壁の塗装工事に関する費用についてYが支払う旨の念書を現場代理人Bが作成していること、プロジェクトマネージャー(代金等の決定権者)Cが「金はいくらでも払うので、とにかく工事を進めて欲しい」と述べていたこと、現場代理人Bの指示ミス等の問題があったと認められることなどからすれば、本件基本工事の範囲を超える部分の工事については、これを原告Xが請負、被告Yがこれに対して代金を支払うという合意が成立していたと認められる』
・基本工事代金1,121万9,236円
・追加工事代金2,669万5,432円
合計3,791万4,668円
うち1,792万円が既に支払われているので残額は1,999万4,668円となる。
判決
「YはXに対して1,999万4,668円及びこれに対する平成17年2月1日から支払い済みまで年6分の割合による金員を支払え」(平成20年10月29日 東京地裁)
さまざまな一式
他にもさまざまな一式があります。『一式』の範囲をめぐってトラブルに発展してしまった、いくつかのケースを見てみましょう。
「トイレ一式」
住宅会社A社が設計・施工を請け負った住宅で、竣工間際になって建築現場を訪れた施主は、完成したトイレを見るなり、クレームを付けました。
「今の住宅では、トイレは温水洗浄便座付きが常識なんじゃないの?」
見積もりには「トイレ一式」としか書いていませんでした。担当者は、温水洗浄便座は含まれていないと反論しました。
トイレへの不満は、その後の施主の目を厳しくさせました。「和室に天袋が付いていない。こんな和室はあり得ない」など、施主が「当然」だと主張する追加の要求が続きました。
慌てたA社が追加工事費として改めて見積もりを提出したところ、施主は、既に請負契約を結んでいること、見積もりにはそれぞれが「一式」と書かれていることなどから、不当請求だと言って取り合いませんでした。
この後、担当者と施主の間で論争となり、ついには建設業法に基づく紛争処理機関、建設工事紛争審査会に持ち込むことになったそうです。
「リビングの床、壁、天井の一新一式」
リフォームを依頼したところ、元の腰壁部分がそのまま残してあり、コンセントも古いままでした。
施主はコンセントも含め、全面的に新しくしてくれるものと思い込んでいたので、事業者に対応を求めると、工事のやり直しが必要で、多額の費用が追加になると言われたそうです。
「不用品回収一式」
- 作業日当日に見積もり書にはないオプション料金が追加された。
- 同じ大きさのトラックでもタイプによって積み込める量は異なり、トラックの説明を十分にされないまま、追加料金を請求された。
- 「無料回収」を謳っていたが、回収そのものは無料でもリサイクル料金を請求された。
「法律と刃物は素人が振り回すものではない」(毛利小五郎)
「一式」という表記は、内訳の詳細が不明なため、「ぼったくり」の温床になりやすいと指摘されています。
「法律と刃物は素人が振り回すものではない」というのは『名探偵コナン』に登場する毛利小五郎の言葉です。
「一式」も諸刃の剣のようで、禁じ手にしてしまうと不便でしょうが、取り扱いは慎重にしたほうが良さそうです。

