高度経済成長期からバブル期にかけて整備された膨大な数のマンションストック。その内部を走る給排水管がいま、一斉に耐用年数の限界を迎えようとしている。しかし、私有財産であるマンションの配管は「見えない場所」にあるため、劣化対策が先送りにされるケースが後を絶たない。
この社会課題に対し、独自の特許技術「FRPライニング工法」を武器に急成長を遂げているのが、株式会社P・C・Gテクニカ(愛知県名古屋市)だ。2023年12月期に25億7,400万円だった売上高は、2025年12月期には31億円超を見込むなど、管更生(かんこうせい)業界を牽引する存在として躍進を続けている。
2024年1月に就任した藤井要社長に、同社の成長を支える技術力の背景から、「文系新卒の早期育成」や「生成AIの全社導入」といった独自の人材戦略まで話を伺った。
漏水を根本から防ぐ「FRPライニング工法」
名古屋市にあるP・C・Gテクニカ本社
――現在、管更生業界のトップランナーとして急成長を遂げている貴社ですが、藤井社長の経営の根底にある「現場主義」の原点について、お聞かせください。
藤井要社長(以下、藤井社長) 入社した年の8月に所長という肩書きをいただきましたが、実態は私一人でのスタートでした。営業に回って工事の提案をし、職人さんを手配して、現場監督として現場に立ち会う。建設業の入り口から出口までの、すべてのプロセスを自分一人でこなしていく、非常に泥臭い毎日でしたね。
――その経験が、現在の経営にも活きているのでしょうか。
藤井社長 はい。常に「現場の視点」を忘れないようにしています。たとえば、阪神営業所を開設するときも、経営側の効率よりも「働く側の環境」を最優先しました「どこに事務所を構えれば、新しい従業員が来てくれるだろうか」「現場へのアクセスをどう最適化すれば、監督や職人の日々の負担を減らせるか」。現場の声や働きやすさを立地に反映させました。私自身が一人で現場を回していた経験があるからこそ、環境づくりには徹底してこだわっています。
――貴社の急成長を牽引するコア技術はどのようなものですか?
藤井社長 当社の主力はマンションの排水管リニューアル工事です。 一般的に排水管のリニューアルといえば、壁を壊して古い管を撤去し、新しい管に取り替える「更新工事」をイメージされると思いますが、当社の主力は建物を壊さない特許技術「FRPライニング更生工法」です。これは、築30〜40年が経過して老朽化した配管の内側をクリーニングし、既存の管の中に現地で新しい樹脂のパイプを丸ごと作ってしまうという技術です。
P・C・Gテクニカのサンプル管
――配管の「更生」というと、従来からある樹脂コーティングのような工法とは何が違うのでしょうか。
藤井社長 従来の更生工事は、エポキシ樹脂やビニルエステル樹脂などを「塗装する(塗る)」工事です。しかし、現在の築古マンションはすでに配管が限界を迎え、漏水事故が始まっているケースが少なくありません。すでに穴が開き、構造的に弱った管にいくら樹脂を塗っても、根本的な強度は戻らないのです。
そこで力を発揮するのが、当社の「FRPライニング工法」です。これは単に塗るのではなく、既存の管のなかに強靭なFRP(強化プラスチック)の管を新しく形成する「Pipe in Pipe(パイプ・イン・パイプ)」の工事です。建物を壊さずに、新管と同等以上の強度へ完全に復活させられるのが最大の強みです。
さらに他社との違いは、本管だけでなく、技術的に難しい枝管分岐部(浴室合流部など)まで、隙間なく一体的にFRPライニングができる点にあります。
――具体的な施工のフローを教えていただけますか。
藤井社長 まずは「下地処理」として、チェーンカッターや高圧ジェット洗浄を用いて、管内のサビや汚れを徹底的に落として研磨します。そこから、空気圧を利用して「たて管ライニング」を行い、その後、「分岐部を削孔」して、最後に「FRP仕上げ」を行うという流れです。
FRPライニング工法の施工フロー
この施工の様子は、管理組合などのお客様にもモニターで確認していただけるようにしています。見えない場所の工事だからこそ、透明性を持って確実な仕事をお見せすることが、お客様の安心感と厚い信頼に繋がると考えています。
迫る600万戸の限界。需要過多の管更生市場
――マンションの老朽化が進む中、給排水管の劣化は大きな社会問題になっていますね。
藤井社長 今、当社で対象となっている建物はもう築30~40年、中には築50年くらいで「あらゆる所から漏水している」といった現場が非常に多くなっています。2022年頃のデータになりますが、築30年を超えているマンションは全国で約250万世帯ほどあります。これが20年後の2037年頃には倍以上の600万世帯以上へと膨れ上がります。
――すさまじい数のマンションが改修の時期を迎えるわけですね。
藤井社長 先日、当社のような管の中にパイプを作る業者や、塗装ライニングを行う業者が集まる「日本管更生工業会」の理事会でも話題になったのですが、この業界団体に所属している全社がフル回転で工事をしたとしても、年に1%〜2%程度しか対応できないというレベルの需要過多な状況なのです。
――それほどまでに施工側が足りていないと。
藤井社長 本当に困っていてリニューアルをしたいというお客様がいっぱいいる状況です。ですから、昔はライバルだった企業同士も「お互いに値段の叩き合いをしている場合じゃない」と話しています。一つの案件にみんなで群がって争うのではなく、「自分のところへ来たら、自社が責任を持ってリニューアルしていきましょう」というように、業界全体の考え方が随分と変わりましたね。
劣化したマンションの給排水管
「1級技士常駐」の壁と文系新卒の育成
――それほどの需要がありながら、工事を進めるには「施工管理技士の不足」という壁があります。現場のリアルな状況をどう見ていますか?
藤井社長 建設業法上の配置義務とは別に、現在の現場には「仕様の壁」が厳然と存在します。たとえば、マンションの給排水管リニューアル工事においては、請負金額が300万円や500万円といった比較的小規模な案件であっても、元請けの管理会社や管理組合の仕様書で「1級管工事施工管理技士の常駐」が求められるケースがほとんどなんです。
――法律上は必須でなくても、現場のルールとして求められるんですね。
藤井社長 よほど自主管理されている物件以外は、「規模に関わらず1級を常駐させなさい」という仕様です。つまり、有資格者がいなければ、どれほど素晴らしい特許技術を持っていても工事を請け負う土俵にすら上がれない。これが今の状況です。
――その高いハードルに対し、貴社では新卒社員の資格取得で対応されていますね。
藤井社長 数年前に受験資格が緩和されたことを機に、新卒社員に対する早期の資格取得支援へ舵を切りました。
社内には1級管工事の資格を持つ先輩社員たちがいます。新卒社員は全員が文系出身ですし、現場を知らない状態でテキストを読んでも何のことかさっぱりわからないので、先輩社員が実際の現場写真を見せながら、「問題文で言っているのは、現場のこの部分のことだよ」と噛み砕いて教えています。
――先輩たちが現場とテキストという「点と点」を繋いでいるのですね。
藤井社長 当社は給排水管(衛生配管)の工事がメインですので、試験で空調設備の問題が出ても若手はピンときません。そこも先輩社員が丁寧に翻訳して教えてあげる。こうした「人から人への教育体制」があったからこそ、文系からでも合格できているのだと思います。
現在、大卒で入社して1級を取得し、管理者として立派に現場を回している30歳前後の社員が確実に育ってきています。この層をさらに厚くするため、2026年入社予定の12名には、いきなり2級管工事施工管理技士に受検いたします。
転記を削ぎ、対話を生む。全社横断の生成AIプロジェクト
――話は変わって、全従業員の8割を対象にした「AI人材育成」もスタートされました。このスピード感ある導入の狙いと、背景にある危機感についてお聞かせください。
藤井社長 当社の主戦場であるマンション管理業界は、いまだに「報告書や竣工図書はキングファイルにまとめて紙で持ってきてくれ」と言われる世界です。一方でスーパーゼネコンの現場では、すでに紙の図面は一切なく、デジタル化が当たり前になっています。このギャップの中で、セキュリティを理由に足踏みしていれば、世の中からどんどん置いていかれてしまいます。
また、「採用ブランディング」も狙いの一つです。古いやり方に縛られたままでは、優秀な若手に見透かされてしまう。入社してすぐに最新技術に触れられる環境こそが、今の時代、選ばれる企業の必須条件だと考えています。
――どのような研修をされていますか?
藤井社長 オンライン動画での学習が基本ですが、個人の自習に任せると、どうしてもやる人とやらない人の差が生まれます。なので、外部のトレーナーに間に入っていただき、月に一度、個別に進捗を確認し、「自分の実務にAIをどう落とし込めばいいか」をアナログな対話を通じて教えてもらっています。導入してまだ1ヶ月半ですが、この伴走者がいることで、着実に現場の意識が変わっていると思います。
AI講習のオンライン受講風景
――実務において、具体的にAIでどのような課題を解決し、生まれた時間を何に充てていきますか?
藤井社長 とくに工事部での「転記業務」の削減です。竣工図書や安全書類など、ゼネコンやサブコンによって様式が違うだけで、同じ現場の情報をあっちのファイルにもこっちのファイルにも書き込まなければならない。これを、忙しく飛び回っている1級施工管理技士が自分で「ポチポチ」と転記をしているんです。まさに何の生産性もない時間です。
営業部でも、未だに提案書を作るのにパワーポイントを切り貼りして、たたき台を作るだけで2〜3日かかっていました。現場での住民対応の案内文にしても、ご年配の方や外国籍の方など、住民の方に合わせて案内文を作り変える必要があります。これらをすべてAIで圧縮したいと考えています。
書類作成の時間をAIで減らし、その分、生まれた時間はすべて「人間にしかできない接触や対話」に全振りしたい。管理組合の皆様に足を運び、まだ書類に残っていない隠れたお困りごとを直接聞き出す。そんな人同士のコミュニケーションの回数を増やすことが理想です。
変化に適応し、100億円企業へ
――総務などの事務職だけでなく、施工管理やリソース配分の世界でもAIが大幅な効率化をもたらす未来が見えます。中期的な経営ビジョンをお聞かせください。
藤井社長 当社は今年、経済産業省に「100億宣言」を提出しました。逆算すると、あと2年で売上50億円を達成しなければなりません。今の成長スピードと人材育成を進めれば、2年後の50億は間違いなく達成できるでしょう。そして、その先の「10年以内に100億円企業になる」という目標。これを達成するための人材獲得と育成において、間違いなくAIは「規格外の起爆剤」になると確信しています。
――貴社のグループビジョンには「マンション設備改修企業ナンバーワンになる」と並び、「若者が働きたい管工事企業ナンバーワンになる」と掲げられています。
藤井社長 当社の経営の根底にあるのは「大切なものを大切にする」という考え方です。会社にとって大切な人とは、働く従業員とその家族、協力業者とその家族、お客様、そして地域社会の人たちです。大切なものとは「幸せ、働きがい、成長」です。それらを大切にする経営こそが、P・C・Gテクニカが存在する理由です。
――最後に、藤井社長ご自身の哲学についてお聞かせください。趣味は「釣り」や「山籠もり」と伺っていますが、自然と触れ合う中で経営に通じる学びはありますか?
藤井社長 休日はマグロや深海魚を追いかけて釣りをしたり、山に入ったり、最近は自宅でキノコ栽培も始めていて、いつかイノシシも狩ってみたいと笑っているんです(笑)。ただ、そうやって自然の厳格な掟にどっぷり触れていると、強く感じる理(ことわり)があります。
それは「強い者が生き残るのではない。変化に適応する者のみが生き残る」ということです。当社は1964年の創業から60年以上の歴史がありますが、この伝統を守るためにこそ、私たちは常に変わり続けなければなりません。AI技術の導入も、若手の教育改革も、すべては適応のための変化です。これからも技術と人の両輪で、マンションの配管というインフラを守り抜いていきます。

