大東建託グループはこのほど、メディア向けに2023年度事業説明会を開催した。内容は今年度の各役員から戦略を示したものといえる。
2024年6月に創業50周年を迎えるにあたり、グループパーパス(会社の存在意義)として「託すをつなぎ、未来をひらく。」や2030年のあるべき姿である「DAITO Group VISION2030」を策定した「DAITO Group VISION2030」では、まちの活性化・地方創生を実現するために、「生活インフラ・くらしサービス拡充」「建設・不動産領域の拡大」「パーパスに基づく考動」と3つの取組みを推進することも発表した。
これまで大東建託は賃貸住宅の建設から運営までをコア事業とした、いわば一本足事業であったが、これに商業・物流・公共施設なども新たなコア事業として拡大し、強固で揺るがない体制を整備していく。とくに建設業での取組みはどのようなものか。各役員が発表した内容をリポートする。
3期の増収増益を目指し、キャンセル率低下へ

守義浩・取締役 常務執行役員 不動産事業本部長
冒頭、守義浩・取締役 常務執行役員 不動産事業本部長がコア事業の強化について説明した。2期連続の増収増益を実現し、さらに今期も増収増益を狙い、「DAITO Group VISION2030」の体制固めの年と位置付けた。
建設事業の受注契約では営業効率化を図っていく。2021年3月期にはコロナ禍と融資厳格化という事業環境にあり、キャンセル率は35.6%までに至った。現在はピーク時より半減し、18.7%まで減少。2000億円近かったキャンセル額が1000億円近くまで低下している。今後は15%以下を目指し、キャンセル抑制につとめていく。
ゼネコンの領域まで事業拡大へ

天野豊・取締役 上席執行役員 不動産流通開発本部長
続いて、天野豊・取締役 上席執行役員 不動産流通開発本部長が「新たな領域」を解説した。不動産流通開発本部では、既存の首都圏(4支店)、静岡、名古屋、大阪、広島、福岡の各支店に加え、2023年度には手薄な東日本地区の札幌、仙台に支店を新設、合計11支店体制。人員も110人から前年度比63%増の180人に拡充し、「ビルドセット」「買取・リノベ再販」「非住宅分野の強化・拡大」を新領域と位置付けた。
「ビルドセット」とは、土地付き賃貸住宅の販売を指す。大東建託が用地を取得し、賃貸住宅を建築。規模に応じて不動産会社・ファンド・一般投資家・顧客へ売却し、結果多様な仕入れが可能になるという。これまでの大東建託は土地所有者に提案・営業し、施工を請け負う企業であったが、新たに土地用地を取得し、建物をセットに販売する事業に乗り出す。
説明会では、千葉県千葉市と東京都足立区での既存実績を示した。まず千葉市の物件(RC造14階建て97戸、建築面積299.51m2、延床面積3739.87m2)の売却金額は17.4億円、足立区の物件(RC造5階建て91戸、建築面積1009.5m2、延床面積3845.98m2)の売却金額は19.3億円となっている。大東建託はアパート事業では1棟当たり1億円規模だが、両物件ともに10倍以上の規模だ。ちなみに足立区の物件はファンドへの売却を今期中に完了予定で第1号案件となる。現在、東京都とその周辺を中心に展開しているが、今後名古屋・大阪・福岡・仙台・札幌などでも十分需要はあると見込んでおり、進めていく。
また、大東建託が開発するZEH仕様の賃貸住宅を投資対象とするファンドの組成を目的に、このほどSBI証券とファンド組成協定締結している。「今後、中身を詰めて実際の販売につなげ、全国展開を考えている」(天野氏)
次に、賃貸住宅の「買取・リノベ再販事業」も強化する。中古の自社・他社物件を取得し、収益性向上を狙う目的でリノベーションを施し、大東建託と取引きのあるオーナーなどに販売。もともと大東建託は相続対策で土地所有者に提案をし、賃貸住宅事業を伸ばしてきた経緯がある。しかし、相続した新たな土地所有者が不動産賃貸業にタッチしないなどの理由で、物件が役割を終えたケースもあるという。そこでタイムリーに物件を取得し、リノベーション工事を行い、別のオーナーなどに販売する事業を強化することになった。2022年度では約19億円の事業だが、2023年度は70億円、今後はさらに加速化し、2027年度には300億円規模に成長させる。
3つ目の「非住宅分野の強化・拡大」にも注目が集まる。コア事業は賃貸住宅だが、顧客の中には、事業用の土地についても有効活用したいとの希望があった。新規出店計画に最適な土地を求める企業と、土地活用を考えるオーナーをつなぐ「ジョイントシステム」により、非住宅分野の建築も強化していく。愛知県江南市の「フィットネスジム」や東京都世田谷区の「医療モール」などが実績の代表例だ。
公的な機関への入札物件の応札にも意欲的だ。福岡県宗像市の「宗像東郷郵便局」、三重県津市の「一身田郵便局」の工事を民間入札で落札、環境配慮型郵便局 「+(ぷらす)エコ郵便局 」として完成した。また、材料にはCLT材を使っている。
このほか、物流施設では神奈川県厚木市で、商業施設では東京都港区でそれぞれ実績を持つ。これは賃貸住宅と同様に施設の開発から携わったケースだ。物流施設は出資から入った事例で、ここで物流のノウハウを吸収、2022年度には物流施設向けの土地を2か所(千葉県柏市、栃木県鹿沼市)を取得した。それぞれ50~70億円の開発費用となり、テナント付けを行い、状況が見えた段階で不動産投資ファンドに売却する予定だ。
商業施設は2023年6月に用地を取得。施工は大東建託が担当し、すでに不動産デベロッパー売却に関する協定を結んでいる。
ゼネコンのM&Aも検討

舘正文・取締役 上席執行役員 設計統括部長
舘正文・取締役 上席執行役員 設計統括部長は「施工時期の平準化」「環境配慮型住宅の推進」について説明した。
大東建託での工事量は9月と3月に集中し、逆に4月と10月は工事量が少ない施工体制となっており、これらを平準化していく。9月と3月に工事量が多い理由は、単に引っ越しが多いことに起因するが、それに合わせて技能者の応援の手配、運搬のコストも掛かっているのも実情だった。今後、建設労働者全体の減少や建設業の「2024年問題」などが控えており、働き方改革は待ったなしだ。
平準化することでのメリットは、まず対外的にはサッシ、キッチンなどの取引メーカーが計画的な生産・運搬が可能になり、コストメリットを押し出せる。また、協力業者の繁閑の波を小さくし、職人の手配なども定量化できる。最終的に一定検査や養生も含めて建物全体の品質が向上していく。社内的には、働き方改革の促進、エンゲージメントの向上、コスト削減、原価抑制に効果がある。「たとえば、現場では土曜日も工事をするケースもあるが、近隣住民からも土日は静かな街でありたいという希望にも貢献できる」(舘氏)
また、これからゼネコン領域への参入に向け、施工分野の強化も検討する。「今、ゼネコンも含めて専任技術者の数が減少している。大東建託の工事の10%はRC造だが、複数棟の現場を管理する非専任技術者が9割を占める。今後、物件が大型化していくとゼネコンとの協業、場合によってはM&Aを進めることもありえる。当社には前職でゼネコンの所長をつとめていた技術者が全国にいるが、いま彼らはツーバイフォーの物件を担当している。これから大きな物件を施工するにあたり、ゼネコンでの所長経験者を集中的に集め、処遇改善を進め、高いレベルの人材配置を実施していく。大東建託はRC造・SRC造・S造マンションなどの施工専門会社・大東建設株式会社もグループ会社にあるが、今後は施工会社のM&Aについても検討していく」(舘氏)
「環境配慮型住宅の推進」では、環境にやさしい賃貸住宅の販売・商品開発を強化する。一例ではZEHの比率を今後とも向上を続け、2023年度の目標はZEH賃貸集合住宅(ZEHオリエンテッドを含めない)が1万戸で、LCCM賃貸集合住宅を830戸としている。
新卒社員の賃上げとインフレ手当を支給

田中良昌・取締役 上席執行役員 業務本部長
田中良昌・取締役 上席執行役員 業務本部長からは「人材の確保・定着」の説明があった。優秀な人材の確保を経営の最重要課題と位置づけ、「報酬・評価」「働き方改革」「ダイバーシティ」の3点の動向について語った。
「報酬・評価」については、新卒社員の賃上げとインフレ手当の支給を行う。新卒社員の初任給は一律2万円引き上げ(大学卒初任給24万円)、2023年3月31日までに入社した従業員には一律10万円を支給した。これに伴い、既存の社員もさかのぼって同様に引き上げている。また、仕事のプロセスや取組みを評価する表彰制度を拡充し、モチベーションアップにつなげ、「ほめる」という企業文化の醸成を行っていく。
「働き方改革」では、多様な働き方を推進するため、テレワークを継続。東京勤務でも地元で本社業務を可能とする独自の勤務形態を2020年から開始しており、これも継続している。「帰省が困難なコロナ禍でスタートした。現在は38名の社員が全国10道府県でご家族のもとで業務を行っている」(田中氏)
そのほか、2022年度実績では、「有給休暇取得率」が83.3%、「フレックス・在宅勤務利用者率」が95.8%、「平均残業時間」が16.8時間だった。不要な会議・ミーティングなども廃止し、仕事の効率化を図っている。
「ダイバーシティ」については、女性活躍推進にフォーカスをあてた。2022年度は女性社員比率が15.6%、女性管理職比率が5.6%。これを2023年度には社員比率20.3%、管理職比率6.0%を目標とした。エンゲージメントスコアの計画では、2022年度は57.5(BBB)だったが、2024年度には60(A)まで向上させる目標だ。
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