インタビューに応じた進和建設工業の西田芳明代表取締役会長

インタビューに応じた進和建設工業の西田芳明代表取締役会長

経験10年の壁を「仕組み」で突破。進和建設工業が導き出した、若手を2年で高層建築の主役に変える方程式

建設業界における慢性的な「担い手不足」は、もはや一企業の懸案に留まらず、社会基盤の持続可能性を揺るがす深刻な命題となっている。とりわけ、育成に10年の歳月を要するとされる現場監督の領域において、旧態依然とした精神論や属人化からの脱却は、業界が等しく直面する喫緊の課題といえよう。

こうした状況下、進和建設工業株式会社(本社:大阪府堺市、西田芳明代表取締役会長)が示した一つの成果が、大きな反響を呼んだ。2026年3月末、同社は大阪市の商業地に位置する狭小地でRC造10階建マンション「(仮称)日本橋東2丁目マンション」を竣工させた。特筆すべきは、設計・工程・安全の各面で高度な練度を要するこの高層建築の現場を、入社わずか2年の新進気鋭の現場監督が全うした点にある。

同社がいかにして、従来の「経験則」という暗黙知を、若手にも共有可能な「形式知」へと昇華させたのか。その核心は、徹底した「仕組み化」にある。「建物の規格化」を端緒とし、「生産ライン化」による工程管理、さらには「逆算日報」や「三層チェック体制」といった多角的なシステムを構築。これにより、属人性を排し、誰が担当しても品質と進捗を担保し得る現場の構造を整備した。

「人が育たない」という構造的不全に対し、仕組みをもって挑む同社の思想は、建設業の未来にどのような示唆を与えるのか。同社の西田芳明代表取締役会長に、次世代の人材育成と組織論の神髄について聞いた。

暗黙知を形式知へ。入社2年目が10階建マンションを完遂できた理由

――まず御社の会社概要から教えてください。

西田芳明氏(以下、西田会長) 2026年をもちまして設立58年目、私が代表の重責を担い39年目を迎えます。関連会社を擁するグループ全体の売上高は約51億円規模に達しています。その陣容は、中核をなす進和建設工業をはじめ、不動産事業の進和不動産、戸建住宅を展開する進和ホーム、資産活用コンサルティングの資産パートナープランナーズ、不動産管理等の新規事業を担うサムズアップ、さらには教育事業に至るまで多角化しており、これらを進和ホールディングスが統括する体制を敷いています。

当社の財務的特質は「無借金経営」にあります。手形を発行せず、協力会社への支払いは「20日締め・6日払い」を厳守しています。この迅速な決済により、協力会社からは優先的に施工に当たっていただける堅い信頼関係を構築できたと自負しております。また、長年にわたる適正な申告と納税が評価され、税務署より「優良申告法人」としての認定を継続して受けています。

――人材育成については、どのような考え方をお持ちでしょうか?

西田会長 経営の本質とは、すなわち「人づくり」に集約されます。仕事という営みはあくまで手段であり、その真の目的は各人の人生をより豊かにすることにあります。私たちはその手段を通じて、社会に真に必要とされる人材を数多く輩出し、個々の人間的価値を最大化させることを念頭に、人材育成の全機能を傾注しているのです。

――人材育成を見据え、現場管理の「仕組み化」に着手された背景を教えてください。

西田会長 社長就任当時、私は技術者としての評価はいただいておりましたが、営業力の強化が喫緊の課題でした。一方で、施工管理を「仕組み化」できれば、組織的な統制が容易になると確信していました。技術者の持つ暗黙知を「規格化」し、その根底に「生産ライン」の概念を導入したのです。当初より設計・施工一括受注を推進していましたが、設計段階から適正利益の確保を精緻に計画し、その成果を職人へ利益還元することを基本思想としています。

――仕組み化の根底には、稲盛経営哲学の「アメーバ経営」も影響しているのでしょうか。

西田会長 はい、社員を「資本」と捉える「資本社員」の概念を重視しています。現場監督は一つの現場を預かる経営者であり、事業家としての視点を持つべきです。定型作業を徹底して仕組み化し、監督が未来の工法開発や事業構想に思考を割く。その知的な飛躍こそが、各人の人生をより良くしていくと確信しています。

――その仕組み化と事業家としてのマインドセットによって、入社2年目の若手現場監督が10階建てという案件で活躍できたのですね。

西田会長 当社では建設現場の工程を「杭」「基礎」「土間」「駆体」「内装前準備」「内装」「外装」「仕上げ」「設備・外構」まで9つのラインに分解し、徹底管理しています。各工程には標準日数とサイクルが設定され、例えば基礎は30日、土間は15日といった明確な基準があります。職人に対しては年間標準単価を提示しており、協力会社も当社の歩掛を熟知しているため、適正な人員配置が自律的に行われます。

この「現場生産ライン化」により、次工程の予測が容易となり、新卒2年目の若手現場監督でも、2026年3月末竣工の10階建てマンションという案件を完遂できました。他社が多大な時間を要する「段取り」や「交渉」がシステム化されているため、若手が実務に専念できる環境があるのです。これは建設業を「製造業」として再定義する、当社独自のパラダイムシフトと言えます。

入社2年目の若手現場監督が担当したRC造10階建マンション「(仮称)日本橋東2丁目マンション」



現場監督の仕事を「3原則・3作業」に絞り込む

――工程だけでなく、現場監督自身の業務も明確に定義されていますね。

西田会長 現場監督の仕事を「3原則・3作業」に絞っています。原則は「現場美化」「残工事ゼロ」「工期遵守」。作業は「墨出し」「施工図作成」「工程・写真管理」の3点です。この役割定義が若手の明確な判断基準となり、迷いのない現場運営を支えました。この軸を堅持することが、最終的な利益確保と次なる受注へと繋がるのです。

――役割が明確だからこそ、旧来の慣習のような「下積み」ではなく、若手が早期に活躍できるのですね。

西田会長 他業界の例ですが、板前の修業で半年間下働きばかりでは、志ある若者は離職してしまいます。現場監督も同様で、建築を志して入社した者が、自らの成長を実感できない雑務のみを強いられることが業界離れの本質ではないでしょうか。

また、職人との意思疎通に苦慮する若手も多いですが、当社の場合は固定の協力会社と「ライン化された工程」を共有しているため安心です。賃金体系も透明化されているため、コミュニケーションの障壁が極めて低く、結果として若手現場監督の定着率向上にも繋がっています。

今回、入社2年目で活躍した現場監督の能見竜馬氏

――仕組み化を徹底することで未経験者の育成スピードも上がる半面、経験者からの抵抗はありませんか。

西田会長 今回、文系出身にも関わらずやる気のある現場監督を半年間で徹底的に教育し、2年後にはRC造10階建マンションを担当し得る水準まで引き上げましたが、意欲さえあれば、専攻を問わず育成は可能です。

一方で、中途採用者の中には、自らの経験則に固執し、仕組み化に抵抗する向きもあります。建設業のコンサルタントも行っているのですが、ある会社では、「私はこのポジションを獲得するまでに10年かかった。誰でもできるようになっては困る」と抵抗されたこともあります。しかし今後の日本の将来を考えれば、私たちは「個の経験」を「組織の資産」へと昇華させる道を選びます。

逆算日報とDXで、現場を「製造業化」する

――業務の明確化に加え、「人工管理の徹底」についても独自の思想があると伺いました。

西田会長 一般的な現場管理が工期の積み上げであるのに対し、当社は「いかに少ない人工で完遂するか」を監督に問います。その中核をなすのが「逆算日報」の思想です。これにより工期短縮と品質向上、協力会社の利益確保を同時に実現します。また、施主との対話から価値ある情報を引き出すことや、新工法の開発も監督の職務として課しています。単なる「作業」に埋没せず、実務家としての責任を果たす業務に集中すべきだと考えているのです。

竣工物件の現場写真

――そうした管理の合理化を支えるDXも推進されていますね。

西田会長 現場管理システム「コックピット」を導入し、監督が事務作業に追われる旧来の構造を刷新しました。リアルタイムの遠隔監視や定点観測映像により、事務所にいながら現場の細部まで把握し、的確な指示を出すことが可能です。「現場に行かずとも管理できる」体制の構築により、施工管理の本質である品質確認に全力を注げる環境を実現しました。

現場管理システム「コックピット」

――BIMやAIの活用戦略についてはいかがでしょうか。

西田会長 BIMを経営プラットフォームと位置づけ、AIを掛け合わせた独自戦略を展開しています。仕様のパターン化により積算を自動化し、施工前の干渉チェックで手戻りを根絶します。また、AIにより数千の設計プランからコスト・工期・CO2排出量を最適化した案を自動生成します。将来的には、AIがBIMモデルを参照し、構造リスクを具体的に指摘する次元を目指しています。

――システム化だけでなく、現場監督自身が生み出した新工法・新構法もあるそうですね。

西田会長 技術開発の推進により、工期を30%削減いたしました。具体的には、施工を単純化した「システム型枠」の採用により、コスト低減と品質向上、さらには不要資材の削減による環境負荷低減を実現しました。また、プレストレストコンクリート(PC)技術の導入によるコンクリートの弱点克服のほか、鉄筋・型枠工程を同時完結させる「フェローデッキ」の活用など、省力化への投資を惜しみません。

職人の地位向上へ 高収益と「マイスター」への敬意

――現場の仕組み化は社内だけでなく、協力会社や職人さんへの還元にも繋がっていると伺いました。具体的にはどのような工夫をされていますか?

西田会長 職人の収益構造は「単価×数量×作業性」で決まります。当社はこの「作業性」を極限まで高めるため、独自の歩掛データを蓄積しました。たとえば、内装工の施工時間を精緻に算定し、材料配置や工程の管理、手待ち時間の削減まで含めて作業環境を整えた上で、1日1室の作業で終わらせるのではなく、より高い賃金を提示した上で「1日1.5室」の施工を指示します。これにより職人の日当は2万円から3万円へと飛躍し、高収入を担保することが可能となります。

ユニフォーム

――まさに職人さんとの強固なパートナーシップですね。職人の地位向上についてはどうお考えですか?

西田会長 建設業を真に魅力的な業界とするため、職人の地位向上と賃金増は不可避です。ドイツのマイスター制度のような、職人への深い敬意を育みたい。

その一環として、デザイン性の高いユニフォームを導入し、職人の「人格」と「品格」を高める取り組みを行っています。職人会を通じて将来設計の啓蒙も行い、態度の改善や社会的地位の向上を強力に推進しているところです。

人づくりの思想。稲盛哲学が支える「志」の継承

――最後に、今後の採用や人材育成への思いをお聞かせください。

西田会長 28年卒のリクルートでは、早期の内定と育成開始を目指しています。ドイツのように卒業即戦力となる教育が理想ですが、日本の現状では企業側がその重責を担わねばなりません。学生には「何のために生まれ、何をなすべきか」という根源的な問いに向き合ってほしい。私自身、自らの使命として特許取得やシステム整備に邁進してきました。

現場監督が単なる作業員で終わることは、業界にとっての大きな損失です。せっかく建築の仕事をするからには、後世に名を残すような人材に育ってほしいですし、私たちもそのための支援を惜しみません。どうすれば彼らの志を成就させられるかを肝に銘じ、現場の仕組み化を進めることで、真に社会の役に立つ人材へと羽ばたいてほしいと願っています。

また、以前の一部建設業界においては、現場監督が協力会社から個人的に金品を受け取るような悪弊が存在したことも事実です。しかし、職務や地位を私的利益のために用いることは絶対にあってはなりません。私たちが育成する現場監督には、高い倫理観を抱き、真の事業家として誇りを持って仕事に臨むことを求めています。

――次代を担う若手現場監督へ、どのような期待を寄せていますか?

西田会長 DXや仕組み化以上に、教育の本質が問われた結果です。現場は大学での学びを超えた生きた課題の宝庫です。

今の若手には、平和な時代ゆえの精神的脆弱も見受けられますが、理念を共有し、困難を自己成長の糧と捉えられる強靭な人材を形成していきたい。高い使命感を持ち、壁を乗り越える喜びを知る人材こそが、次代の建設業を担うのだと信じております。


進和建設工業が実践する「現場の製造業化」は、単なる効率化の手段ではない。それは、属人的な「経験則」という壁を取り払い、意欲ある若手が早期に主役として躍動できる舞台を整える、構造的なイノベーションである。

「2年で10階建てマンションを完遂させる」という育成の裏側には、徹底した工程のライン化やDXによる事務負担の軽減、そして協力会社との強固な信頼関係を築く財務・還元体制がある。同社において、現場監督はもはや「作業」に追われる存在ではなく、未来の工法や事業を構想する「経営者」へと昇華されているのだ。

「経営の本質は人づくりにある」と説く西田会長の眼差しは、常に建設業界の未来を見据えている。稲盛哲学を根幹に据え、仕組みによって生み出した「余白」で社員の志を育む同社の挑戦は、担い手不足に悩む業界全体にとって、持続可能な成長を実現するための極めて重要な指針となるだろう。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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