高知県内の南海トラフ地震への備え、ドボクの木材利用とは
「いつ起きてもおかしくない」と言われ続けて、なかなか起きない南海トラフ地震。地震がないに越したことはないが、いつ起きるかわからない(起きないかもしれない)地震に備えなければならない状況が続くことは、行政や住民などにとって、それ自体が大きな負担につながる場合もあるように思われる。
南海トラフ地震による影響は、静岡県から宮崎県まで広範囲に及ぶと想定されているが、地震への備えは、各県ごとにバラツキがあるのが実情だ。なぜバラツキが出ているのかと言えば、県民の危機意識にバラツキがあるからだ。そもそも人という生き物は、「地震が起きるかもしれない」という緊張した状態に長く耐えられるものではないのだから。
10年ほど前、政府が南海トラフ地震による被害想定を出した。私が暮らす高知県では、最大高さ33mの津波に見舞われると言われた。この想定を機に、県内ではハードソフト両面の対策が進められている。しかし、これらの対策がどれだけの効果があるのか、県民は津波から逃げおおせられるのか、実際に地震が起きてみないことには、誰にもわからないのではないか。
そんなことをツラツラ考えているとき、高知県内の地震対策に詳しい高知大学の原忠教授に取材する機会を得た。そこで、高知県内の南海トラフ地震への備えに対する評価、足らざるところなどについて、お話を伺った。取材に際し、原教授が、ドボクへの木材利用についてもいろいろ活動しているという情報を得た。ドボクの木材利用の最近の動き、利用に際しての問題点などについてもお話を伺ってきた。
自治体職員は東北の被災地の今の姿を見るべき
――高知県の南海トラフ地震への備えについて、どう評価していますか?
原さん 東日本大震災から10年経ち、様々な対策が進展しています。10年という節目に際し、高知県の南海トラフ地震への備えに対してこれまでの地震対策を振り返ることは、重要な視点だと考えています。
私は東日本大震災発生後、現地に赴き、福島から青森に至る被災地の様々な場所で、定点観測を続けてきました。そこで感じたことは、地域によって、復興の進み具合にバラツキがあるということです。
高知県が南海トラフ地震への備えを進めていくうえで大事なことは、震災を機に東北のまちがどのように変わっていったかということについて、自治体の職員の方々を含め、実際に自分たちの目で見ることだと考えています。現在の東北のまちの姿は、未来の高知のまちの姿だからです。
そのうえで、高知県の南海トラフ地震への備えについて評価すれば、四国地域はもちろん、全国的に見ても、先進的な取り組みをしてきていると考えています。ハード、ソフト両面において、他県にはない充実した取り組みを今も続けています。高知県では、まちの被害を目の当たりにして、復興を見据えたまちの将来を自分事としてとらえ、着実に地震対策を実施してきた成果です。
一方、四国の他県では、南海トラフ地震への備えは他人事になってしまっているので、県内での議論がなかなか熟成されないところがあります。瀬戸内側と太平洋側は防災対策に温度差があります。
ハード整備は東北の被災地と遜色ないレベル
――県内のハード整備について、どうご覧になっていますか?
原さん ハード整備は、時間がかかることなので、計画的にかつ着実に進めていく必要があります。私が最も進んだと思うインフラ整備は、浦戸湾の3重防護対策をはじめとする防潮堤などの海岸整備です。高知の海岸整備については、全国初の工法も取り入れながら東北の被災地と比べても、遜色ないレベルで進んでいると思っています。
津波浸水対策についても、真剣に取り組んできました。高知県内の市町村には、庁舎の浸水が予想されたところがいくつかありましたが、この10年間で、移転事業が進展しました。庁舎移転は機能継続という観点からも、重要な取り組みになります。最初に黒潮町、その後安田町、中土佐町が移転しており、現在、宿毛市、安芸市が移転を進めています。庁舎移転が進んでいるということは、多くの住民が重要性を理解し、防災まちづくりに賛同していることを意味しています。
ため池の耐震化もかなり進みました。高知県は全国でも早い段階でため池の耐震化に着手しました。最近では国が特措法を制定し、全国的に事業が進展しつつあります。その他、流失防止タンクの整備など火災対策も、メイドイン高知の製品を使いながら進めてきました。津波避難タワーの整備や高台移転などは東日本大震災直後から事業を進め、現在ほぼ完了しています。国、県としてできるハード整備は、一通りのメニューに取り組んでいるわけです。
県民の防災意識が薄れかけている
――地震対策として足らざるところがあるとすれば、なんですか?
原さん 人々の防災意識の欠如です。防災意識というものは、時間が経つと、どうしても薄れてくるところがあります。地震対策はハードだけで成り立つものではありません。2016年に熊本地震が起きて、県民の耐震化への意識が一時的に高まりましたが、最近また薄れかけています。私はこの辺を危惧しています。
ハードについても、予算が付かず、着手できていないものがあります。例えば、液状化対策です。液状化に関するガイドラインは策定しましたが、具体的にはまだなにもできていません。
復興まちづくりに関する議論もまだ不十分です。従来型の壊れてから直すような対処療法に目が向きがちで、壊れないようにまちの将来の姿を創造するような根本的な議論にはまだ至っていません。
事前に復興まちづくりをつくり、実行することが、災害被害を出さないためには最善なのですが、実際に被害が出るまで実行できないで、足踏みしているところがあります。被害が起きてから実行しても手遅れです。事実、陸前高田市などの沿岸部では、高台整備に時間を要し、空き地が目立ち、元居た人口が戻っていません。甚大な被害を受けたまちの復興の在り方に対して、時間の壁を感じます。
高知県では、できることは一生懸命やってきているけれども、住民を巻き込む必要がある課題はまだ残っている。そう見ています。
――手を付けにくい問題を解決するにはどうすべきでしょうか?
原さん 冒頭にも申し上げましたが、高知県内の自治体職員は、自分たちの住むまちの将来の姿を創造する意味でも、東北の現場に赴き、実際の姿を見るべきだと考えています。発災直後は、多くの自治体が職員を東北に派遣していましたが、今の状況は案外知らない。自治体職員は本質的なところを理解しているかは疑問です。
CLTは調べてもメリットの話しか出てこないから信用していない。木と樹脂なんだからデメリットが無いわけが無い。デメリットが示されないと在来工法と比較ができないから、ほとんどが公共事業の土木で普及するのは難しいと思う。