「土木をやる女」は変わり者ばっかり!? 女性土木技術者インタビュー

もともとは作業員になるつもりでした

国土交通省では、「もっと女性が活躍する建設業の推進」を標榜し、キャンペーンを打つなどさまざまな施策を講じていますが、建設現場で女性が働く姿は、一般的には、まだまだ珍しい光景だと思われます。実際に建設業界で働いている女性は、自分が女性であることを意識しながら、日頃お仕事をしているのでしょうか?今回、株式会社小島組の関本笑弥さんにインタビューし、その辺のところをレポートしてみました。

株式会社小島組土木部 関本笑弥さん

関本さんが土木の世界に入ったきっかけは、小さな建設会社を営んでいたご両親の存在。「子供のころから、私も土木の仕事をやると考えていました」。自然のなりゆきで、地元の工業高校の土木科に入学します。ただ当時は「土木の仕事は作業員のイメージしかありませんでした。土木を勉強したら、作業員になるつもりで、土木技術者の存在すら知りませんでした」(笑)。

高校卒業当時は就職難でしたが、高校の先生の計らいもあり、当時の小島組社長に「来ても良いよ」と言われ、お世話になることになりました。実際に土木の仕事をやってみて、驚愕の事実が明らかになったそうです。それは「高校での土木の勉強が実践でつかえない」ことでした。

「高校の授業では、水理とか設計などを学びましたが、土木技術者の勉強をした覚えがありません。トランシットなどの実習もありましたが、授業で教えられたのはアナログ式でした。入社時には光波が主流でしたので実践に役に立たない。理屈だけを教えられました」。

もともと土木技術者になるつもりがなかった関本さんですが、本人の意志とは無関係に、「父親世代」の先輩の指導のもと、OJTで土木技術を学ぶことになりました。入社11年目に1級土木施工管理技士の資格を取得。入社から20年間、道路、橋梁下部、河川改修、護岸工事、治山ダムなどさまざま現場を経験してきました。

工事前後の現場写真を見比べながらニヤニヤしています

思い出に残る仕事は、国道56号線の交差点改良工事で現場代理人を務めたこと。交通事故の多い交差点の改良工事だったため、作業中の事故はもちろんのこと、交通事故が起こらないように、交通規制のやり方や、作業手順などを一緒に現場を管理していた先輩方と策定しました。

国道56号線交差点改良工事 着手前の現場写真

国道56号線交差点改良工事 工事完了後の写真

「作業員さんが少しでも道にはみ出たら、車と接触する危険がありました。道路を往来する車や、現場に隣接する消防署の妨げにならないこと。とにかく事故が起こらないよう、毎日ピリピリしていました。恐怖とプレッシャーの日々でしたね」。約6ヶ月間の工期を経て、ついに工事が完了したときは、「やったぞ」と叫ぶほどの「達成感と開放感」がこみ上げてきたそうです。

「もう一回同じような現場をやれと言われたら、少し考えてしまうかもしれませんが(笑)、やっぱり、工事が完成したときのあの達成感を味わいたい、という気持ちのほうが、先に出てくると思います」。関本さんにとって、至福の時間は、「着工前の現場写真と完成後の写真を見比べる」こと。「ニヤニヤしながら見ています(笑)」と嬉しそうに話してくれました。

女性が少ないのは「さびしい」けど、現場に女性がいると驚く

「男も女も関係ない」土木の仕事を「自然なこと」だと考え、20年間それに打ち込んできた関本さんですが、それでも女性技術者が少ないことは「さびしい」と感じるそうです。

「高知県幡多郡にはお二人ほど女性技術者がいらっしゃるようですが、お会いしたことはありません。高校の同級生も先輩も以前はいましたが、今は辞められています。慣れたと言えば慣れましたが、同じ境遇の人がいないので、女特有の悩みなどの相談相手がいません。やはりさびしいですよね。最近は、国土交通省四国地方整備局や県職に女性の技術者の方が増えましたが、現場でお見かけすると、あ、現場に女が二人もいる、と逆に驚いてしまいます(笑)」。

「こんな場所によく作業服で来たね」

そんな関本さんは、以前、国土交通省四国地方整備局主催の女性技術者の意見交換会に出席したことがあるそうです。いつも通りの作業服で、JRに乗り、高松の会合場所まで行ったところ、「作業服は私一人。ほかの方々はみんなスーツ姿」。四国地方整備局の顔見知りの職員に「こんな場所によく作業服で来たね」と言われ、非常に恥ずかしかったそうです。

平成27年2月、国土交通省四国地方整備局が主催した「女性技術者による意見交換会」。左から二人目が作業服姿の関本さん。ある意味アッパレです!(写真提供:国土交通省四国地方整備局)

「その意見交換会では、女性の土木技術者、コンサルの女性、四国地方整備局の女性が出席していました。きれいな女性もいたのですが、お話を伺うと、みんな変わっているなあと思うような方々ばかりでした(笑)。土木をやる女は変わり者ばっかりじゃないですかね?(笑)」。

では、関本さんご自身、自分のことを変わりものだという自覚はありますか?と当然の質問。すると「私も変わり者です(笑)。もちろん、自覚はあります!!(笑)」という答えが返ってきました。どうやら「女性の土木技術者=変わり者」の図式は、ここでもバッチリ当てはまるようです。ふだんは「女性がいないのはさびしい」と感じている関本さんですが、「逆に、女ばかりだと機能しないでしょうね」とも感じるとのこと。なかなか難しいところがあるようです。

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