高知県土木部 高知土木事務所 道路建設課主幹・木下美喜さんにインタビュー
木下美喜さんは、高知県の土木職員の草分け的存在として平成10年4月に入庁。以来20年間、道路を中心に、高知県のインフラ整備などに携わってきました。
「今ではお局様的存在です」と笑う木下さんですが、土木への情熱があればこそ、様々な苦労を乗り越え、現在の地位を得たということでしょう。
例えば、真夏の炎天下、何時間も現場作業に立ち会う。身を切るような寒さの中、雪の降り積もった山道でトイレを探すーーとても過酷な環境ですが、土木に携わる人にとっては日常的な仕事風景です。
女性から見た土木の世界はどのようなものなのか、お話を伺いました。
土木は、みんなで力を合わせて初めてできる仕事

「人と話すのが好き」と言う高知県土木部 高知土木事務所 道路建設課主幹・木下美喜さん
施工の神様(以下、施工):高知県庁でのキャリアは?
木下美喜(以下、木下):入庁して20年目になります。土木の女性職員としては、3番目の入庁、年齢では上から2番目です。
施工:草分け的な存在?
木下:そうですね。本当に草分けしてきました(笑)。
施工:土木技術者を選んだ理由は?
木下:私の実家が建設業だったので、土木の世界に違和感がなかったことが大きいです。子供の頃から土遊びや砂遊びが好きでしたし、中学生ぐらいから「まちをつくる仕事」がしたいと思っていました。「魔女の宅急便」というアニメ映画で、主人公が空からまち並みを見て、「ここに住みたい」と決意するシーンがあったのですが、それを見たときに、まち並みとなる橋や道路をつくる仕事は、人の役に立つ仕事なんじゃないか、と思ったこともきっかけになっています。
ちょうどその頃、土木は環境を壊すという風潮がありましたが、近自然河川工法の話なども父から聞いていたので、「土木=環境破壊」とは思わなかったです。当時の数学の先生に「土木の仕事は縁の下の力持ちだ」と教えられ、その言葉にも惹かれました。建築デザイナーのように名前が社会に出ることは少ないけれど、みんなで力を合わせてこそできる仕事なので、土木の仕事を選ぶことにしました。土木を学んだのは大学からです。
相談相手がいないことに戸惑った新人時代

土木女子あるあるでストレス発散。後輩女性とのおしゃべりは、貴重なリフレッシュタイム?
施工:実家を継ぐ選択肢はなかったのですか?
木下:私は三人兄弟の末っ子で、上には兄がいたので、家業を継ぐつもりはなかったです。家業は兄が継いでいます。
施工:高知県庁を選んだ理由は?
木下:高知県の役に立ちたいと思ったからです。
施工:当時こそ、土木は男の世界だったと思いますが、気になりませんでしたか?
木下:気になりました。土木に入ったことに対して後悔はなかったですけど、圧倒的に女性が少なかったので、相談相手が少なかったことに戸惑いましたね。同期に女性が一人いましたが、配属先が違ったので、しょっちゅう会って話すこともできませんでしたし。慣れるのに3年ぐらいかかりました。
施工:最初の仕事はなんでしたか?
木下:最初の配属先は越知土木事務所で、道路の維持管理をやっていました。
施工:現場では業者の方々との打ち合わせなどもあったと思いますが、やりにくかったことは?
木下:初めての女性職員ということで、歓迎してくれました。物珍しさもあったと思います。土木事務所の男性職員よりも、優しく、気遣ってくれました(笑)。ハシゴを登るにしても、すぐに下を支えてくれたりとか。優しくしてもらった記憶しかないですね。当時は新米だったので、分からないことなどを業者の方々から色々教えてもらったり、現場で判断できないので、上司に確認する間待ってもらったり。今でも感謝しています。
施工:現場でトイレに困ったことは?
木下:山の現場で近くにトイレがないとか、あってもすごく汚かったことがあって、水分を控えたりしたことがありました。後々、近くの建設会社などのトイレを借りるとか、知恵を身につけました。
仕事に夢中でメット焼け、プライベートで恥ずかしい思いも
施工:やって良かったと思った仕事は?
木下:当時27才ぐらいでしたが、高知土木事務所で働いていた時、高須の五台山道路という新設道路の建設に携わったことです。地図に残る仕事に携わったという満足感がありました。舗装や標識設置などといった比較的簡単な仕事でしたが、毎日現場に通ううちに、業者の方々との一体感が生まれるなど、初めて達成感を得た仕事でした。
この仕事でメット焼け(ヘルメットのあご紐部分の日焼け)も経験しました(笑)。くっきりと日焼けあとが残ったので、プライベートでは恥ずかしい思いをしました。日焼け止めを塗っていたんですが、照り返しと汗で効果がありませんでした。それ以降、気をつけています。
施工:木下さん以降、女性職員は増えていますよね。
木下:仲間が増えたことで、安心感がありました。女性職員が5名ぐらいになった頃、県庁に集まって意見交換会が開かれたのですが、土木女子のあるあるなどを言い合って、気持ちを共有できたのは楽しかったですね。
自分のやりたいことより、誠意を持って目の前の仕事に取り組む

仕事は日々勉強。仕事の進捗などは上司にマメに報告。
施工:これからのキャリアアップのイメージは?
木下:30代の頃は、やりたい仕事、積みたいキャリアがありましたが、他の部署を含め、いろいろ経験をさせてもらった今となっては、自分が何をしたいというよりは、目の前にある仕事をきちんとやっていきたい、という気持ちが強くなっています。社会基盤を担う仕事を誠意を持って取り組み、それを1年1年積み重ねていくことが、今の私の課題だと考えています。
国土交通省では、建設業界での女性技術者の活躍を推進しています。建設業界で仕事をする上で、女性であることが大きな障害にならない職場環境を業界ぐるみで実現しようとしている真っ最中です。
ただ、職場環境が普通になったところで、女性が仕事にやりがいを感じるか、キャリアアップできるかどうかは、その人次第です。障害があっても頑張る人は人は頑張るし、どんなに周りがお膳立てしたところで、やらない人はやらない。木下さんのお話を聞いて、そんな印象を持ちました。
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