国土交通省四国地方整備局にインタビュー
国土交通省四国地方整備局(本局:高松市)は、徳島県、香川県、愛媛県、高知県の四国4県を所管する国の出先機関で、四国各地に20の事務所、35の出張所などを配置し、河川、道路、港湾などのインフラ整備のほか、地震や洪水などの防災対応なども担っています。
ミッシングリンクの解消や地震対策、老朽化対策など多くの課題が残る四国のインフラ整備ですが、四国の建設力はどうなっているのでしょうか?
建設業におけるマンパワー確保、南海トラフ巨大地震などに関する取り組みについて、お話を伺いました。
四国の建設業就業者数はピーク時の44%減
施工の神様(以下、施工):四国管内の建設業者数、就業者数の推移は?
尾形優(以下、尾形):四国管内の建設許可業社数は、平成27年度末で1万5,732社で、平成11年度のピーク時に比べ、約24%の減となっています。就業者数は約14万人で、平成9年度比で約44%減少しています。
施工:東北の復興工事など他地域の需要増加による人手不足などの影響は?
尾形:四国においても人手不足の傾向にありますが、他地域の需要増加による目立った影響があるとは考えていません。
施工:就業者数がかなり減っているようですが。
尾形:建設投資そのものが減っているので、その影響を受けたものと考えています。
官民連携で「カッコ良い建設業」への転換を
施工:「担い手三法」の施工後2年が経過しましたが、効果は?
柳忠和(以下、柳):建設業者が適正な利潤を確保できるように、予定価格の適正な設定のため、5年連続となる労務単価の引き上げをはじめ、ダンピング対策としての調査基準価格の引き上げ、発注の平準化に努めています。総合評価においても、若手技術者の確保やワークライフバランス確保の取り組みを進めているところです。
四国4県の建設業協会との意見交換の中では、担い手三法の取り組みによって、建設業を取り巻く経営環境も好転しつつあり、協会として今後の展開に期待を寄せているという声をいただいています。さらに、地域の守り手としての使命を果たすためにも、安定的、持続的な事業量の確保をはじめ、地方自治体などを含めた発注者全体として、担い手三法の取り組みを進めていただきたいというお話もいただいているところです。
整備局としても、引き続き各発注機関と連携しながら、対応できるところは対応しつつ、社会資本整備の推進、促進に努めていきたいと考えています。
施工:建設業者の学生向けのPRは?
柳:若者に建設業界に目を向けてもらうため、各県協会には、インターンシップをはじめ、高校生の現場見学などを通じて、建設業のイメージを変えてもらう取り組みを行っていただいています。
そういった取り組みの成果として、従来の泥臭いイメージから、カッコ良いイメージを持つ若者が増えているようだという話は聞いています。
平成28年度からICT土工を導入した四国地方整備局
施工:「i-Construction」に関する取り組み状況は?
楠定晴(以下、楠):生産年齢人口が減少することが予想される中、建設分野における生産性向上は避けられない課題です。このため建設現場の生産性を向上させ、魅力ある建設現場を目指す取り組みである「i-Construction」を進めているところで、具体的には、ICTの活用、規格の標準化、施工時期の平準化の取り組みとなります。
このうち、ICTの活用について、四国地整管内では、平成28年度からICT土工を導入しており、本年3月時点で、20件の実績となっています。平成29年度からは舗装工でも導入しています。建設業者に対するアンケートなどでは、生産性の向上については、一定の効果が上がっているという声をいただいています。われわれ四国地方整備局としては、今後も引き続き、生産性向上と業界の魅力をアップさせるツールとして、建設業者の方々にICTを積極的に活用していただけるよう、普及促進に努めていきたいと考えています。
なお、当局では平成28年3月に「i-Construction推進本部会議」を設置しており、本年5月6日には、四国ICT施工活用促進部会を開き、現場目線に立ったICT導入の促進策について、議論しているところです。
施工:20件の実績の県別の数は?
楠:徳島9件、香川4件、愛媛2件、高知5件となっています。
施工:大手ゼネコンに比べ、中小零細企業ではICTの導入が遅れる傾向があるようですが?
楠:業者の規模によるICTの導入の進捗の違いについて、把握しているわけではありません。ただ、平成29年度からICTの基準類を改定し、小規模の工事でもICTを導入できるようにしています。
地元の業者さんも積極的にICT導入できるような環境づくりを進めています。
施工:維持補修での導入は?
楠:維持補修はこれからの分野になります。現場のニーズとICT技術をうまくマッチングさせた上で、進めていければと考えています。
TEC-FORCEで地震などへの即応態勢を構築
施工:南海トラフ巨大地震をはじめとする支援体制はどうなっていますか?
白川豪人(以下、白川):被災後の対応としては、緊急対応期と応急復旧期を分けて対応することにしています。緊急対応期とは、発災後、被災の規模など全体像をつかむまでの期間です。四国地方整備局でも「緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE:テックフォース、以下、TEC-FORCE)」を編成しています。TEC-FORCEは平成20年度に発足した制度ですが、東日本大震災において、初めて大規模に部隊が展開されました。
この制度以前には、被災した自治体が、災害の全体像をつかめないために、災害復旧を進めるのが難しかった際に、国土交通省の職員が資料収集などをお手伝いし、自治体の災害復旧を支援したということがありました。TEC-FORCEはこのような対応が制度化されたものです。
南海トラフ巨大地震により巨大災害が発生した場合には、緊急対応期に、どれぐらいの被害があったのか、応急復旧にどのような対応が必要かということを把握する必要があります。その際、TEC-FORCEでは、ヘリによる上空調査などを早期に行います。
津波災害では、壊れているものが水中に隠れている場合があるので、TEC-FORCEが応急的な排水活動を行う場合もあり、被災の内容を自治体と共有するほか、復旧に関する助言も行うことになっています。
施工:TEC-FORCEには民間企業も参加するのですか?
白川:TEC-FORCE隊員は、全国の地方整備局の職員が主ですが、通信車や排水ポンプ車、ヘリなどの運用には協力をいただく民間企業も必要になるなど、民間の会社も一体となって災害対応に当たります。
施工:排水活動の目的は?
白川:津波被害にあった場合、排水しないと道路復旧もできない場合もあります。東日本大震災では、浸水のため人命捜索が進まなかったという問題が起こりました。排水活動と人命捜索は連動してやっていく必要があります。それが終わって初めて復旧に移れるわけです。
施工:四国が被災した場合は、どこの地方整備局が応援に来るなどの取り決めはあるのですか?
白川:首都圏直下型地震や南海トラフ巨大地震など政府想定災害というものがあらかじめ決まっていて、各省庁を横断する具体的な応急対策活動に関する計画を内閣府が作っています。TEC-FORCEはこの計画にはまだ入っていないのですが、今後TEC-FORCEの内容を計画に組み込まれるよう取り組んでいます。
白川:国土交通省でも、被災後の活動計画的なものの準備、検討を進めているところで、例えば、四国が被災した際には、北海道をはじめ全国各地からTEC-FORCEの応援が駆けつけることとなっており、そのための具体的な計画づくりを進めています。
若者、女性の土木入職促進施策を展開中
施工:「女性が活躍できる建設業」に関する取り組みは?
西尾:四国地方整備局では、若手技術者の雇用機会の確保、活躍と並んで、女性技術者の活躍を推進しています。女性の技術者がどういう立場で、どういう境遇なのかを知るため、女性技術者による意見交換会を開いて意見を聴取しています。また、建設業に従事している女性技術者と女子大学生とで一緒に工事現場をパトロールしてもらい、女性の視点から見る工事現場ということで意見の聴取もしています。
昨年「建設フェア」を高知で開催しましたが、この中で、女性技術者と語ろうというイベントを企画し、女性の技術者と高専の女子学生との語らいを通して、土木入職を促進する取り組みも行っています。
国交省では数年前に、工事現場トイレの簡易水洗化を発注前から盛り込むことになりましたが、現場のトイレが綺麗になったことは、女性活躍に関する取り組みの成果の一つだと考えています。これからも女性の意見を聞きながら、いろいろな施策を進めるべきだと考えています。
施工:四国地方整備局として、女性技術者を積極的に採用する方針は?
西尾:採用試験というハードルはありますが、目標とする数字もありますので、目標達成に向けて女性の採用を促進したいとは思っています。
施工:将来の土木技術者の裾野を広げるため、教育機関などとの連携は?
西尾:四国管内の工業高校や高専などを、主にOB生の職員が回って、業務の説明会を行っています。
施工:自治体によっては、土木職の採用枠より少ない人数しか集まらないところもあるようですが、四国地方整備局のここ数年の採用の状況は?
西尾:平成26~29年度に、67人(内12人が女性職員)の土木系職員が四国地方整備局へ入省しています。優秀な学生さんが1人でも多く、四国地方整備局を希望してもらえるよう、業務説明会や現場見学会を積極的に開催しています。
今回の取材を通じて、一口に四国のインフラ整備と言っても、経済的、地理的条件などによって、各県、各自治体が抱えているインフラ面での課題は大きく異なっており、それによって、国に求められる仕事、役割なども当然異なる、ということが良く分かりました。
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