「名工建設総合技術研修センター」が本格始動

「名工建設総合技術研修センター」が本格始動

本物の新幹線線路が並ぶ圧倒的スケール。名工建設が80億円を投じて挑む「脱・現場OJT」

名工建設株式会社(本社:愛知県名古屋市、社長:鈴木広士)が総投資額80億円を投じ、愛知県春日井市に「名工建設総合技術研修センター」を開設した。

働き方改革と人手不足により、従来の「現場OJT主体の教育体制」が機能不全に陥りつつある今、日本最大級の木造研修施設であり、かつ土木・建築・軌道の3現業部門を網羅する実物大モックアップや、VR(仮想現実)を活用した最新鋭の危険体感設備をも備えるという異例のスケールを誇る同施設は、同社が下した次代の技術者育成への重い決断だ。

同センターは、単なる座学の場ではない。前述の圧倒的な設備群をフル活用し、「実際の現場では絶対に許されない失敗」も経験させるという、これまでにない実践的な教育アプローチを取り入れている。

今回は、同センターの運営を牽引するセンター長の鵜飼晃成氏にインタビューを実施。従来の教育体制からのドラスティックな転換、鉄道建設のプロフェッショナルならではのリアルな実習設備、そして部門の壁を越えた「横の繋がり」を醸成する仕掛けまで、次代の建設技術者育成に懸ける同社の戦略を詳細に聞いた。

限界を迎える現場OJTを、集合教育で補完・代替する

――「名工建設総合技術研修センター」設立の背景を教えてください。

鵜飼晃成氏(以下、鵜飼氏) 従来、当社や建設業界全体の技術者教育は、現場でのOJT(職場内訓練)をメインとして機能してきました。実際に社員が自ら行う仕事に対し、目の前にいる上司や先輩が直接付きっきりで技術を叩き込んでいく。教育効果の面から見れば非常に高く、現場でのOJTこそが技術伝承を支える根幹であったことは間違いありません。

しかし、今日の状況下でこの仕組みをそのまま維持することは、極めて困難な時代に突入しています。その大きな要因が、建設業界全体を襲っている人手不足と働き方改革の推進です。現場の最前線に立つ先輩社員や管理職が、日々の業務効率化や時間外労働の削減、週休2日の確保という対応に追われています。

その結果、若手社員の隣に張り付いてマンツーマンでじっくりと時間をかけることが、物理的にも困難になってきました。これは現場の努力だけで解決できるレベルを超えており、当社としても重く捉えていました。

定期的な集合教育も実施してきましたが、各地から社員を集めて機会均等に教えるメリットはあるものの、机上の座学だけでは、実際の現場で即座に役立つ生きた技術や、五感を使った判断力を養うには限界があります。「機能低下を起こしている現場OJTを、集合教育の場でいかに補完・代替していくか」が、以前からの明確な課題でした。

インタビューに応じる、名工建設 総合技術研修センター長の鵜飼晃成氏

――座学にとどまらない、新たな教育の場が必要だったということですね。

鵜飼氏 そうですね。当センターでは「単なる座学のハコを作るのではない」という方針を徹底しました。実習設備を備えれば、机上教育だけでなく、現場に即した設備を活用することで現場のOJTに非常に近い環境を実現できます。

研修期間中に、実際の現場OJTと同様の高い経験値を得られる環境を目指したわけです。実習設備をフル活用した新たな研修を計画の初期段階から盛り込み、長期間の準備を経て、2026年4月の新年度から実質的なスタートを迎えました。

本物の新幹線線路も敷設。圧倒的な規模とリアリティを誇る実習設備

――圧倒的な規模とリアリティですが、具体的な実習設備についてお聞かせください。

鵜飼氏 当社の組織構造として特徴的なのは、ゼネコンでありつつ、現業として「3つの部門」を持っていることです。一般的な「土木部門」と「建築部門」という2つの柱に加え、鉄道線路の維持・新設を行う「軌道部門」が加わります。

この3部門は、工事の内容も、必要とする技術や知識、守るべきルールもそれぞれ異なります。そのため当センターの開設にあたり、各部門で本当に教育に必要なものは何かを徹底的に議論し、すべてを設計の中に組み込みました。

――土木部門と建築部門には、どのような設備を配置したのでしょうか。

鵜飼氏 土木工事では現場で取り扱う構造物は巨大なものが多く、いかに施工プロセスを正しく管理するかが問われます。当センターでは、屋内にラーメン高架橋、屋外には道路橋やトンネル、盛土、さらには地下工事に用いる仮設構造物まで、実物大の「モックアップ(模型)」として配置しました。しかも、単に完成した状態を置くのではなく、コンクリートを流し込む前など「施工途中の状態」や「内部構造」が目で見て学べるよう工夫しています。

土木モックアップルーム

建築部門でも同様に、「完成形」と「施工途中」の両段階が分かるモデルを取り入れています。S造やRC造の建物を実物大モックアップを構築し、構造のカットモデルや実物設備機器なども配置しました。壁や床が仕上がると見えなくなる内部の配線や配管、骨組みの状態をあえて露出させ、図面だけでは理解しにくい箇所を「見て覚える・やって覚える」事で、深く理解できる設備に仕上げています。

建築モックアップルーム

――軌道部門の実習設備はいかがですか。

鵜飼氏 当社の最大の強みの一つである「軌道部門」は、屋外の広大な敷地を利用して本格的な線路設備を敷設しました。ここには本物の新幹線と在来線の線路をそのまま並べて設置し、総延長は700m以上に及びます。列車を安全に運行するために不可欠な信号・電気設備、駅のプラットフォーム、橋梁、トンネルに至るまで、実際の鉄道が走っている環境とほとんど変わらない、極めてリアルな「軌道実習線」を網羅しています。

屋外に設置された軌道実習設備

――軌道実習線は、現場の教育課題をどのように解決するのでしょうか。

鵜飼氏 前提として、鉄道に関わる仕事は、線路そのものを直接触る「軌道部門」の仕事だけにとどまりません。線路にきわめて近接した場所で行う「土木工事」もあり、駅舎などを新築・改修する「建築工事」もあります。当社の3現業部門すべてが、この鉄道というフィールドに深く関わっています。

とくに線路内で直接作業を行う「軌道部門」の教育は、これまで非常に大きなリスクと難しさを抱えていました。従来、若手が訓練できる場所は、列車が日常的に運行している線路の中やすぐ近くか、夜間の限られた時間帯が主体でした。

一瞬のミスも許されない非常に気が張った状況下で、先輩がゆっくり丁寧に教えることは実質的に不可能です。そればかりか、もし若手が少しでも手順を間違えれば、訓練中の失敗では済まされず、即座に輸送事故という社会的に甚大な影響を及ぼす事象につながります。そのため、これまでは若手が手を出せる範囲が限られていました。

しかし模擬環境であれば、新入社員でも時間を気にせず、しっかりと時間をかけながら安全に学ぶことができます。万が一手順を間違えても、実際の運行に影響を与えることはありません。現場のOJTを強力に補完し、若手育成の効率を飛躍的に高める設備です。

VRで”列車に接触する”。失敗と危険をあえて経験させる

――「失敗を経験して学ぶ」という点にも注力されているそうですね。

鵜飼氏 建設業は、基準通りに施工し、検査に合格して初めて価値が認められる世界です。しかし施工管理の視点に立つと、「正しい状態」を知っているだけの人と、「どうなれば失敗し、なぜそれが起きるのか」まで知っている人とでは、管理能力に大きな差が生じます。失敗のメカニズムを実体験として理解することは、優秀な技術者を育成する上で不可欠です。

とはいえ、実際の現場でわざと品質管理を怠って失敗することは、コストや工期、社会的信用の面から絶対に許されません。現場で失敗できないからこそ、当センターという安全な「実験場」で、あえて多くの失敗をリアルに体験してもらおうと考えました。

たとえば、土木部門のコンクリート構造物では、作業手順や管理をあえて怠った状態のものを用意し、表面に砂利が露出したり、ひび割れが発生したりといった施工不良となった状態を、「失敗例」として目の当たりにさせるわけです。

また、建築部門のタイル貼りでは、裏側のモルタルが十分に充填されておらず、叩くと「空洞音」がする不良箇所をモックアップに潜ませておきます。研修生自身に点検ハンマーで検査させ、音の違いや違和感から、自力で不良箇所を見つけ出す訓練を行っています。さらに軌道部門でも、踏切・信号関係の設備で軌道短絡や障検動作などを意図的に発生させ、「触れて、失敗する」体験を通して信号設備の仕組みや動作を理解させる取組みを行っています。

――現場で絶対に起こしてはならないという意味では「労働災害」などの安全面も同様かと思いますが、安全管理についても徹底した「体験型学習」を導入されていますね。

鵜飼氏 おっしゃる通りで、建設業において「安全はすべてに優先する」は絶対の原則ですが、実際の行動に結びつけるモチベーションを引き出すのは非常に難しいのです。人間が危険に対する意識を一番強く持つようになるのは、自分自身が実際に危険な状況に遭遇したときです。その瞬間に、危険に対するセンサーの感度が劇的に上がります。

そこで当センターでは、安全に対する意識を飛躍的に高めるために「安全探究ルーム」や「危険体感ルーム」を設け、怪我をしない安全な環境の中で、視覚的・体感的に危険な疑似体験をしてもらう取り組みをしています。

危険体感ルーム

一例では、高所からの墜落の衝撃を学ぶために、実際の人間と同重量の人形を、高さ約4mから落下させる体感訓練を行っています。凄まじい衝撃音とともに、人形が地面に叩きつけられる光景を間近で見ることで、フルハーネス安全帯着用の重要性が理屈抜きで脳裏に刻まれます。

また、最先端のVR安全教育設備も導入しました。VRゴーグルをはめて仮想空間の中で、高所から自分が真っ逆さまに墜落する体験や、線路内で列車に跳ねられる体験などを用意しています。研修生たちの様子を見ると、落ちる瞬間や列車が迫ってくる瞬間には凄く驚いて声を上げたり、身体をびくつかせて避けようとしたり、明確な恐怖が見て取れます。この本気で怖いと感じるリアルな心理的体験こそが、現場に戻ったときの強力な抑止力になります。

80億円の投資を社内に留めない

――教育カリキュラムや、併設された生活棟(宿泊施設)での工夫についてもお聞かせください。

鵜飼氏 今回、部門ごとの教育格差やばらつきをなくすため、部門をまたいで一括して安全と一般教養を学ぶ「共通研修」の枠組みも新たに設置しました。また新入社員から課長職クラスに至るまで、階層ごとに全部門の社員が同じタイミングで研修期間を設定しています。社内の同期や同年代の仲間が、部門の垣根を越えて一斉に集まり、絆を深めるシステムを構築しました。

併設された生活棟は、若手社員の意見も取り入れて検討を重ね、「行くのが楽しみな場、そしてまた来たくなる場」を目指して作られました。根本的に研修生が英気を養う場として計画されていましたが、ここに「コミュニティラウンジなどでの会話や対話を通じて社員同士の絆を醸成する」という要素を盛り込みました。

生活棟

非常に思い切った取り組みですが、生活棟の4人部屋の寝室を決める際、同じ部門の人間だけで固めることをせず、所属部門に関わらずランダムに部屋割りをする方法を導入しました。放っておけば気心の知れた同部門のメンバーだけで集まってしまうため、少し無理やりにでも他部門の人間と話さざるを得ない環境を作ったわけです。

また、部屋の外でも自然に対話が生まれるよう、ハード面にも徹底的にこだわりました。廊下の至る所にテーブルやベンチを置いて雑談スペースを設けたり、「多目的ラウンジ」にはゾーン別にソファーやAV機器、運動器具等を配置するなど、研修生が自然と集まる場所を仕掛けています。

――最後に、センターの今後の展望をお聞かせください。

鵜飼氏 教育体制の抜本的な再構築から、最先端の体感設備、生活棟におけるコミュニケーションの設計に至るまで、非常に多くの新しい取り組みを詰め込んでスタートを切りました。

これだけ新しいことを一気に始めたので、最初からすべてが100%うまくいくとは全く思っていません。運用の1年目に関しては過度な成果を急ぐのではなく、じっくりと全体の様子を見ながらトライアンドエラーを繰り返していく期間であると位置づけています。研修生たちのリアルな声を聞き、実習の効果が現場の実務に活きているかを確認しながら、まずはこの1年で新しい教育システムの足腰を鍛え上げることが最優先です。様々な職場から集まってきた研修生たちの声に耳を傾け、検証を重ねていきます。

そして次年度以降に向けては、社員研修に関するさらなる改善を継続することはもちろん、施設の様々な活用方法についても検討していきたいと考えています。将来的には、この施設や当社の教育に対する先進的な取組みを、社外、ひいては建設業界全体に対しても広くアピールしていきたいと考えています。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。