リーマンショック直撃…紆余曲折あり建設業界へ転職
中国の故事「人間万事塞翁が馬(※)」という言葉を地で行くような人生を歩んでいる技術者に出会った。
空調設備などの建築設備工事を手掛ける株式会社リノベートファーム(本社:広島県広島市)の技術チームで働いている高宮雄貴さんだ。
工業大学の情報学科を卒業したのに、リーマンショックで畑違いの着物や宝石の販売会社に入社。しかも、その会社も2年で倒産。
何か身に着けようと職業訓練校で電気技術を学んだことがきっかけで建設業界へ転身した。
「空調工事の現場を任せられるような仕事に就くとは思いもよらなかった」「夏場のエアコン工事は地獄だ」と語る、若き技術者に話を聞いてきた。
株式会社リノベートファーム・技術チームの高宮雄貴さん
※人間万事塞翁が馬:老人(塞翁)の飼っていた馬が逃げ、人々が気の毒がっていたところ、逃げた馬が優れた別の馬を連れて帰ってきた。今度は老人の子供がその馬から落馬して足を折ったが、そのおかげで兵役を逃れて命が助かった――つまり、人の幸せや不幸は予測ができないので安易に喜んだり悲しんだりすべきではないという例え。
IT企業を志望するも、宝石と着物の販売会社へ
――まだお若いですね。高宮さんの経歴をお聞かせください。
高宮雄貴 島根県出身で、1988年生まれの31歳です。広島工業大学の情報学部でシステムなどを専攻したので、卒業後は一応IT企業を志望していました。
ただ、当時はリーマンショックの影響で大手企業も、中小企業も軒並み新卒採用を控えていたので、行く先がありませんでした。
残っていたのは、飲食業やサービス業くらい。選り好みを出来る状況ではなく、新卒で就職したのは、大学で勉強してきたこととは全く関係のない着物や宝石を販売する会社でした。
リーマンショックで着物・宝石販売へ。紆余曲折あり建設業界へ転身
――なぜ建設業界に?
高宮 入社から2年頑張って、着物や宝石の販売や接客の仕事にもようやく慣れてきたところで、その会社が倒産してしまったんです。
他に行くあてもなかったので、「何か技術を身に着けるため、新しい勉強をしてみよう」と一念発起。職業訓練校の電気学科の門を叩きました。
そこで半年間、電気工事の基礎を学びました。
電気工事で採用されたのに、警棒持って交通誘導
――結果的に、建設業界に転職する第一歩となった。
高宮 はい。職業訓練校を卒業してすぐに、運よく土木・電気工事や施設管理を行う地元企業に採用してもらえました。
ただ、新卒で畑違いの販売職に就いたときと同様に、昔からモノづくりや工事といった建設の分野に興味や適正があったわけではありません。自分が建設業や職人の世界に身を投じるとは思いもよりませんでした。
――再就職した建設会社では、どんな仕事を?
高宮 その会社は官公庁の工事が主力でした。電気工事部門に採用されたのですが、入社初日にいきなりヘルメットと警棒を手渡され、交通誘導を命じられました。
結局、電気工事部門から土木部門に回されて、またイチから勉強です。今となっては、その会社のいろんな現場で仕事のイロハを教わり、技術や知識を実務で習得できて良かった気がします。
――結局、その会社も辞めてしまった?
高宮 そこで2年ほど経験を積んだ頃、仲の良かった先輩に「ここよりもやりがいのある会社に移ってみてはどうか?」と紹介されました。
それが今のリノベートファームです。入社して今年で3年目に入りました。
巡り巡って空調設備工事の技術者へ
――今の会社はどんな会社ですか?
高宮 リノベートファームは、地元の大手空調設備企業に17年間勤めた社長(岡田真規氏)が独立して2009年10月に興した建築設備会社です。空調設備、給排水設備、住宅リノベーションの企画設計・施工・販売を行っています。
――従業員は何名ぐらい?
高宮 従業員は11人で、若い社員が多く平均年齢は30代半ばくらいです。「営業チーム」、「管理チーム」、「技術チーム」で構成されていて、私と建築畑出身の方をメンバーとする技術チームが、現場の施工管理を担当しています。
リノベートファームは「快適で地球にやさしい住環境創りの提供」がテーマです。ほかにも、省エネ設備・省メンテナンス企画設計など、住環境に関する業務を幅広く手掛けています。
土日、祝日や夜間が多い空調設備工事に精を出す高宮さん
――技術チームで高宮さんが担当する現場は?
高宮 主に空調工事です。それまでやってきた工事の分野とは異なっていましたが、前の会社で数多くの現場を踏ませてもらっていたので、対応に戸惑うことはありませんでした。
ただ、入社当初はまだ空調の知識や施工経験が少なかったので、疑問があると先輩や協力業者の職人さんに教わっていました。
現場を管理する私の役目は、お客様から仕事をいただいて、納期とか工事日程を協力業者や職人さんと打ち合わせ、内容をお客様に説明したのち工事に移行する・・・のが基本の流れです。
――業務で心掛けていることは?
高宮 一番気を遣うのは、お客様の意に沿った工事をできるよう対応や連携をきちんとフォローすることですね。
自分としてはお客様、協力業者や職人さんに対して常に相手の立場で物事を考えるように心がけています。
まだまだ勉強することがたくさんあります。管工事施工管理技士の資格を持っていないので、この取得も自分の課題の一つです。
夏場のエアコン工事は地獄…天敵はネズミ
――空調工事現場では、具体的にどのような仕事をしていますか?
高宮 主に飲食店などの新店舗、介護施設、福祉施設などのエアコン設置工事や厨房設備の換気工事といった空調関連を請け負っています。
原則として、作業は人が動いている時間帯にはできないので、土日や祝日に行うことが多いです。飲食店などは閉店後の10時くらいから深夜までというのが通常のパターンですね。
――大変な仕事ですね。
高宮 普通のエアコンなら2時間くらいで工事完了ですが、飲食店の業務用エアコンのように大型で天井の中に潜り込んで作業しなければならない場合は手間も多くて、朝までかかることもしばしばです。
専門の職人さんが動けないときは私もパネルを貼ったり、リモコンを付けたりして作業をサポートしています。
――想定外のことも多い?
高宮 現場では何が起こるかわかりません。お客様の都合で急に予定を変えられたり、「今日すぐにやってくれ」とか無理な注文をされたり、いざ天井をはぐってみたら中の形状が違っていて、当初のスペースにエアコンが設置できなかったり・・・。
不測の事態もよくあります。そんなときは、作業を全部最初から組み直しになるので大変ですね。
工事エリアは限定していません。広島県内に限らず、お話があればどこにでも足を運びます。会社の男性陣では私が一番若いので、とりあえず自分が動かないと・・・。
――ずばり空調設備工事の仕事で辛いことは?
高宮 エアコンを筆頭とする空調設備の工事は、暑い場所か寒い場所での作業が基本で、快適な場所で行うことはまずありません。
真夏の暑い日に天井の中に入る時は地獄です。何しろ、家中の熱気が集まるところですから。
長時間作業していると、タオルを絞ると水たまりができるくらい汗が出ます。年配のベテラン職人さんになると、現場のルールとして暑さや寒さへの自分の対処法を持っているようです。
――大変な環境ですね。
高宮 あとツラいのは飲食店の工事でよく出会うネズミですね。天井の蓋についている点検口を開けた途端、大きなネズミが飛び出してきてビックリすることがあります。
厨房の天井裏には彼らの通り道があるのか、エアコンの電気配線をかじったネズミが感電して死んでいたり・・・。
気持ちの良いものではありませんね。空調設備工事を行う私たちにとって、ネズミは一番の天敵です。
畑違いの空調設備会社への入社も”必然”
――会社の雰囲気はどうですか?
高宮 社員の平均年齢が30代なので、各部署とも元気いっぱいで活気があります。
社員の親睦を図るためのレクリエーションも多彩です。
――たとえば?
高宮 ざっと挙げてみても「バーベキュー大会」「忘・新年会」「決算お疲れ会」「ゴルフコンペ」、そして「社員研修旅行」。年間を通じて社員みんなで楽しむ企画が目白押しです。
――よそに自慢できるイベントは?
高宮 社員研修旅行は、2017年が北海道、2018年がタイといったふうに行く先も豪華になっているので、周りからうらやましがられています。
昨年はタイへ研修旅行。年々豪華になる旅行先、今年はどこに行く?
――楽しそうな雰囲気の会社ですね。
高宮 チームワークとフットワークの良さには他社に負けない自信があります。社長がチームワークを含め、会社としての組織づくりに重点を置いているのでありがたいですね。
私たちも、仕事は大変でも一丸となる仲間意識も高まり、明日への活力につながります。
――今後の抱負は。
高宮 仕事の面では最近、現場でいろんな業種の方と接する機会が増えたので、空調だけでなく他の分野の知識を増やしていきたいという欲が出てきました。約20社あるリノベートファームの協力業者の方々とも、これまで以上に連携を深めていきたいです。
プライベートでは昨年、結婚して今年5月に子供が生まれる予定です。妻のお腹も大きくなってきたので、休日は家にいるか、買い物に付き合って家庭サービスに努め、好きなお酒もほどほどにするようになりました。
考えてみると、就職難だったから大学とは畑違いの会社に就職することになり、その会社が倒産したから、また違うことを勉強する羽目になりました。でも、だからこそ建設の世界に入ることができて、今があります。
紆余曲折ありましたが、仕事のやり甲斐や目標もできたし、これまでの流れは必然だったのかもしれません。やっと落ち着けそうです(笑)。
リノベートファームの会社概要
株式会社リノベートファーム(本社・広島県広島市)は、2009年10月1日設立。資本金300万円。従業員11人。各種設備工事の企画設計・施工・監理並びにメンテナンス、建築設備リニューアルに関わる企画・導入・保全管理、建築物の空間におけるるフォーム企画の立案などを手掛けている。社名の由来は「住環境設備を新しい付加価値設備に刷新(リ・イノベーション)」。