群馬県 総合土木職 河川課・技師 原田玲香さん

「新卒の私がいきなり現場監督?」 “経験なし・知識なし”からの女性技師の奮闘記

県職員として働く、若き女性技師

原田玲香さんは、群馬県の総合土木職で働く女性技師。入庁してすぐに現場監督を任されるも、土木に関する経験も知識も浅かった原田さんは、年上の建設業者に指示することにやりにくいさを感じる日々が続いた。

それでも持ち前のひたむきさで現場での信頼を勝ち取っていき、「図面を見るだけでなく、現場を実際に歩いて確認することも大切だと、失敗を乗り越えて気づいた」と語るなど、徐々に技術者として成長していく。

現在は河川事業に関わっている原田さん。入庁してから今までどのような経験を積み、どんな思いを抱きながら仕事をしてきたのだろうか。若き女性技師として奮闘したエピソードを聞いてきた。

入庁してすぐ現場監督を任され「やりにくいな」

――群馬県の総合土木職に就いた理由は?

原田玲香 宇都宮大学の建設学科で土木を専攻していたため、学んだことを就職先につなげたいと思っていました。

大学3年生の時に市役所でのインターンシップで公務員の仕事を経験したことや、地元で働きたいと考えたこともきっかけとなり、群馬県の総合土木職を志望したんです。

――これまでどのような仕事を?

原田 2012年4月に入庁し、1~3年目は太田土木事務所で、4~5年目は館林土木事務所で勤務してきました。ほかの県では「道路を担当する人」「河川を担当する人」というように、1つの分野しか受け持たないケースが多いと聞いています。

群馬県では地域で分けるため、自分の担当地域で必要な工事があれば、道路・河川・公園・橋梁など分野を問わず手掛けられるのが魅力です。私は太田市と館林市の土木事務所で道路工事に関わることが多く、現場監督や工事の積算、設計書の作成などに携わりました。調節池の設計を担当したこともあります。

――入庁してすぐに現場監督を任されて大変だったのでは?

原田 現場で工事を行う建設業者の方は年配の男性が多く、新卒採用の私が発注者・現場監督として、年上の方に指示することに違和感がありました。「やりにくいな」という思いもありましたね。

ただ、女性に優しい方も多いので、いろいろな場面で気を使ってもらったおかげで業務をこなしていけたのだと思います。


公務員だからといってデスクワークが中心ではない

――女性として現場監督をしていて良かったと感じたことはありますか?

原田 私と建設業者さんとの間には、発注者・受注者という上下関係のようなものがありますが、経験が浅い当時の私は深い知識がなく、業者の方に常に的確な指示ができる立場でもありません。だから「業者の方と相談しながら一緒に現場を創り上げていこう」という気持ちで仕事をしてきました。

女性だからというより若手だったからなのかもしれませんが、私は「提案されたやり方でもできるけれど、別のやり方に変えたほうが作業しやすい」などの要望を、建設業者の方から言ってもらいやすいポジションだったと思います。

私には気軽に話しかけやすいし、世間話をしやすい方も多かったのではないでしょうか。若い業者の方も、私は年が近いから気が楽だったかもしれませんね。

――建設業者の方々とは良好な関係が築けている?

原田 そうですね。工事現場にいる時に「あとで事務所にコーヒーを飲みに来なよ」と声をかけてくれる建設業者の年配男性もいましたよ。現場が終わったあと一緒にコーヒーを飲みながら、仕事の話はもちろんプライベートなこともいろいろ話しました。

現場以外の場所でも語り合うことで打ち解けた分、現場でのコミュニケーションが円滑になって、作業が早く終わることも多くなったんです。建設業者の方と設計書などの書類をやり取りする際も、スムーズに進行できるようになりました。

――現場で作業する業者の方とたくさん話をすることも、大切な仕事の一つなんですね。

原田 そうですね。就職する前は公務員はデスクワークが中心だと思っていましたが、実際に働いてみて、事務所内だけでなく事務所外の方とも接することが多い仕事だと感じました。

群馬県では「地域ニーズを反映した」公共事業を展開しています。かつては行政が県民の方々に公共事業を押し付けたこともあったようですが、「事前に地域の意見を聴いたうえで計画を策定すれば反対者が少なく、工事も早く進められるから効率的だ」という考えに至り、方針の転換を図っています。県民の意見を聴くために、アンケートを取ったり地元説明会を頻繁に開催したりしています。

話すのが苦手な私も、現場監督をしていた時は事業の節目ごとに、公民館などで住民の方々を対象に説明会を実施し、PowerPointを使いながら事業の説明をしました。

私が担当したのは20人くらいの規模でしたが、事業の大きさによっては50人、100人と大勢が集まる説明会も開催されているのではないでしょうか。1対1で会話したり大勢の前で説明したりと、仕事をしていくうえで「話す力」を身に付けることもすごく大切だと実感しています。

信号機の移設申請を忘れ、工事がストップ

――印象に残っている出来事は?

原田 土木事務所に勤務している時、工期がとても短い道路改良工事を任されたことです。通常の作業で期間内に終わらせるのは不可能なので、工事に関る方々と頻繁に話し合い、工期に間に合うよういろいろ調整しました。

一例を挙げると、電気・ガス・水道の業者は通常、それぞれ日にちをずらして作業するのですが、同じ日に複数の業者が作業できるよう調整したことなどです。建設業者が現場に入れない日があれば、何が障害になっているのか理由を洗い出して、前倒しして現場作業ができるように配慮しました。

建設業者の方々は余裕日を見込んだ工期を提示してくるものですが、少ない日数でなんとか工事を終わらせてもらえるよう、がんばってもらいました。

結果的に、通常なら1年くらいかかる工事だったのですが、1年弱で完了し工期に間に合わせることができました。難しい条件のなかでも効率良く現場作業をしてもらうために、業者の方々と良好な人間関係を構築することも、現場監督として大切なのだと学んだ体験です。

――堅実な印象を受けますが、失敗してしまったこともあるのでしょうか?

原田 歩道の拡幅工事をした時、設計書や図面をよく見たつもりなのに、私も建設業者の方も信号機を見落としてしまったことがあります。事前に信号機の移設を申請していなかったため、工事の進行が止まってしまいました。気づいてから移設依頼を出し、早めに対応してもらえたのは助かりましたが…。

図面を見るだけでなく、現場を実際に歩いて障害物がないか確認することも、現場監督として重要な業務なのだと思い知りましたね。


「若い女性では話にならない」と住民から門前払い

――男性が多い現場で働くうえで苦労したことは?

原田 現場では、「女性だから」という理由で苦労したことはほとんどありません。ただ、住民の方からの苦情に対応する仕事では大変だった時もあります。

「道路がガタガタなので改善して」「川の草が伸びて邪魔だから刈って」などの連絡をしてきた住民の方に話を聞きに行った時、人によっては「もっと上の人を連れて来て」と言われたり、「あなたでは話にならない」とあしらわれたりすることもあるんです。

「女性だから」「若手だから」ということで頼りないのでしょうね。まず話をしてから「この人には任せられない」と判断されるなら仕方がないですが、門前払いですから。

また、現場監督をしている時に工事の現場で女性に出会ったことがなく、男性が多い職場ではありますが、女性技師の交流会に参加して話をしたり相談したりすることもできるので心強いです。

――女性技師の交流会とは、どのような集まりですか?

原田 群馬県建設技術協会が主催で、2年に1回、ホテルなどで開催されます。集まるのは県の職員が多いのですが、県内の建設会社の女性や建設コンサルタントに勤務する女性なども参加しています。

交流会以外の場所で「子育てしながら建設現場で働くのは正直厳しい」という話を聞いたこともありますが、交流会では子育てと仕事を両立させている先輩女性の話も聞くことができ、今後の参考になります。

――原田さんの職場も、出産後も仕事を続けられる環境が整っていますか?

原田 産休・育休の制度がきちんと整備されていて、時短勤務も利用できる職場です。私は2017年4月から、河川課に配属されました。現在はデスクワークが中心で、産休前も育休明けも働きやすい環境だと思います。現場監督の業務を担い、産休・育休・時短を利用し子育てと仕事を両立している女性もいますよ。

ただ、子どもの都合で急に休んだ時に現場監督員と連絡が取れず、工事が進まないと困るので、いつ休むかわからない時期は現場に出る仕事を少なくするなど、配慮してもらえると思います。

次は砂防の仕事に携わりたい

――現在は河川課で働いているのですね。

原田 はい。土木事務所ではほとんど河川に関わったことがなかったので、「やってみたい」と志望した課です。河川事業の予算管理や、土木事務所への技術的な指導などを行っています。私が所属する係には4人の係員がいて、県内に12ヶ所ある土木事務所のうち、1人で3つの土木事務所を担当しています。

技術的な指導は、「設計中の護岸をこのような構造にしたいのですが、大丈夫ですか?」など、土木事務所からの相談を受ける業務です。道路や県の施設などが関わる河川工事の相談も多く、河川課だけでは対処できない時はほかの課とも連携しながら業務を進行していきます。

事務所内での仕事が中心ですが、各土木事務所の予算の要望をまとめて国に要望しに行く仕事もあるため、年に1回は現場を見に行くようにしています。年1回とは言わず普段から現場を確認できれば良いのですが、片道1時間かかってしまう場所もあり、なかなか時間を取れないのが現実です。

――今後携わりたい分野はありますか?

原田 通常3年くらいで異動があるのですが、2019年度で河川課が3年目なので、来年は異動になるかもしれません。今度は現場で砂防の仕事をしてみたいですね。

土木事務所では街の中で道路工事に関わることが多く、今はデスクワーク中心で河川の事業に携わっている…。平地での仕事ばかりだったので、山地での業務も経験して仕事の幅を広げていけたらと考えています。

なかなか思い通りの課には配属されませんが、希望が通ることを願っています!

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群馬県在住。スポーツ用品業界紙の記者を経てフリーランスのライターに。飲食業界や住宅関係、お出かけスポットをはじめ、さまざまなジャンルの記事を執筆・取材しています。https://writer-ikue.jimdofree.com/
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