株式会社麻生 建設コンサルティング事業部の近田孝夫シニアアドバイザー

「三つ子の魂、百まで」 施工の初期不良こそコンクリート構造物の劣化を招く最大要因

コンクリートの第一人者 近田孝夫

高品質なコンクリート構造物の築造することを目的に、発注者・工事施工者・生コン生産者の3者が連携した「QC(クオリティー・コントロール/品質改善)活動」を推進している「熊本県南コンクリート構造物品質確保推進協議会」。熊本地震を契機に2017年に立ち上がった同協議会では、定期的に研修会を開き、その手法に磨きをかけている。

このほど行われた研修会では「施工の初期不良がコンクリート構造物の劣化に及ぼす影響」について学んだ。講師としてこの難題の解消策を伝授したのは、株式会社麻生の建設コンサルティング事業部で活躍する近田孝夫(工学博士)だ。

近田は、これまで産・官・学のコンクリートに関するあらゆる分野で活躍した実績を持つコンクリートの第一人者だ。コンクリートメーカーに在籍中は、施工現場にも赴き、コンクリート技術者としての手腕も発揮した。

「施工の良否がコンクリート構造物の性能を左右する」と訴える近田。施工者に求められる、コンクリートに対する正しいアプローチとはどういったものなのか、話を聞いた。

施工の良否がコンクリートの性能を左右する

生コンは、国が認めた工業製品(JIS製品)として、施工現場で施工者に商品で引き渡される。責任範囲は、それまでは生コン製造業者。現場で生コン荷卸、受入検査OKの時点で、その所在が施工者に移行する。しかし、この時点では生コンの性能しか判明しておらず、硬化後の性能は不明であるばかりか未だ半製品でしかない。

硬化後の性能は、現場内での運搬、打込み、締固め、仕上げ、養生―といった施工のやり方次第。コンクリート全般の性能が明確になるのは、強度が28(91)日後、耐久性に至っては数年後となる。

このようにコンクリート構造物は性能発揮の完了までに長い工程が掛かるのだが、近田は工程の初期にあたる施工こそがコンクリート構造物の性能の良否を分ける極めて重要な役割を担うと語る。

これを近田は「三つ子の魂、百まで」と比喩し、施工者に注意を喚起する。

「生コンの状態は、未だ分離しやすいという認識を持っておられる方が少ないのではないでしょうか。JISの工場できちんと練り交ぜて、アジテーター車という専用の車で運搬しても材料分離するのが生コンの本質です。『一体化したものだから手軽に施工できる』と現場の方が思われていることに不安を感じています」

近田は、生コンの基本を理解して取り扱うことの重要性を説く。

作業が細分化され、コンクリートの本質が理解されていない

施工面での課題を指摘する一方、近田は「今さら言ってもしょうがない」と前置きした上で、日本での建設業システムの問題について言及する。

「生コンを打設する場合、生コン製造業者、ポンプ業者、施工業者などが携わるため、責任の所在が分散しています。非常に合理的で効率的、コストダウンにもつながっていますが、構造物に不具合があった時には起こるのは、責任のなすり合いです。

もっと酷いのは、施工を請け負った施工業者が、さらにポンプ業者に生コンの現場内運搬を再委託するなど、コンクリート構造物を造り上げる作業全般の分担が細分化して、生コンの性能、性質が一貫して理解されにくいシステムに動いていることです。コンクリートに携わる全ての人たちが、その本質を理解して扱い方を学ぶことが本来の姿なのではないでしょうか」

また、コンクリート構造物を施工する際は、工程毎にその基本事項が共通仕様書に記してあり、それを遵守することで、施工のクオリティを担保している。だが、近田は様々な大型構造物の施工現場で試験施工に携わった経験から、その特異性を指摘する。

「土木工事の場合、現場によって環境条件が大きく異なることが品質確保に影響します。海なのか、川なのか、山なのか、季節はいつなのか。常に条件が変わるんです。さらに現場が遠いのか、近いのか地理的条件も違ってきます」と、建設業が持つ独自な作業形態が品質確保に及ぼす変化についても言及する。

コンクリートは優しく、丁寧に扱って

コンクリート構造物の品質確保に関して、効果的な手立てはあるのか。近田は「一般的なことかもしれませんが、技術者の経験知は大きなウエイトを占めるでしょう。これを積み上げていくしかないような気がします」と語る。

その上で「事後評価することは有効な手段だと思います。山口県からはじまって熊本県へと受け継がれているQC活動は、技術者に幅広い知見を促す観点から非常に成果を上げているのではないでしょうか。

長野県や群馬県でも竣工時にチェックする取り組みが広がっています。特に発注者、施工者、生コン製造業者が相互に生コンクリートを理解する統一した組織があることは素晴らしいことです」と、全国的に広がっているコンクリート構造物の品質確保に対する取り組みを高く評価する。

最後に、近田は良質なコンクリート構造物を造るヒントを明かす。

「コンクリートは建設材料としてコストも低く良質なものです。セメントを除く骨材などは地産地消で、それをうまく使い練り混ぜたものですから、何度も言いますが固まるまでに分離しやすい性質を有しています。

そのことを理解して、コンクリートは優しく、丁寧に取り扱ってほしいです」

近田孝夫・プロフィール

1977年九州大学大学院修士課程修了後、新日鉄化学(株)入社。在籍中は耶馬渓ダム、明石海峡大橋、多々羅大橋、東京横断道路海底トンネルなどの大型構造物のコンクリート配合試験・試験施工などに従事。新日鉄高炉セメント(株)・技術部門管掌取締役を経て、現在、(株)麻生/建設コンサルティング事業部でシニアアドバイザーとして後進の指導にあたる。この間、九州大学大学院博士課程修了後は、九州大学大学院、宮崎大学、福岡建設専門学校で教鞭を執るなど、学識者として活躍。さらに国土交通省のコンクリート構造物品質評価委員、経済産業省地球温暖化ガス抑制対策調査研修委員を歴任し、産・官・学に精通するコンクリートの第一人者。2016年から日本コンクリート工学会九州支部検査役。

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建設業専門紙に32年間勤務し、現場第一主義で取材・編集に従事。時代にマッチした特集記事を通して、現場の声を読者に届けることを使命感とし、業界に課題を投げかけながら進むべき道筋を示す。建産プレスくまもとを主宰。情報発信により地方の建設業が果たすべき役割について考える場を提供する。
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