左から、鈴村真奈さん(名古屋市緑政土木局道路建設部道路建設課事業計画係技師)、天野来春さん(名古屋市緑政土木局名東土木事務所)、尾崎仁美さん(名古屋市緑政土木局千種土木事務所維持係長)

「ドボジョ」というくくりはもう古い? 名古屋市の女性技術者が語る公務員の魅力とは?

大規模開発が進む名古屋のドボジョたち

名古屋といえば、東京、大阪に次ぐ三大都市圏の一つだ。高速道路や新幹線が通る交通の要衝であり、100m道路をはじめ、様々なインフラが集積している。

名古屋市内では現在、リニア新幹線開業を視野に入れ、名古屋駅周辺などで大規模な再開発が進められている。そんな名古屋市役所 緑政土木局には約50名の女性土木職がいる。彼女たちは、なぜ名古屋市役所を選んだのか。3名のドボジョに話を聞いてきた。

土木は「意味のわかりやすい学問」

大石(施工の神様ライター)

土木の世界に入ったきっかけは?

尾崎さん

私は名古屋市出身ですが、「大学に行くなら歴史ある関西に行きたい」と思っていました。歴史が好きだったからです。高校の先生に「ずっと名古屋におってかん。出てけ」みたいな感じで言われたというのもありました(笑)。

受験する学部を選ぶ際、工学部の中でなんとか入れそうな学科の中から、土木を選びました。「土木が一番わかりやすい、名前からして」と思ったので。それがきっかけです。漠然とですが、「人の生活が見える仕事につながるかな」と思いました。たぶん。入学したら、周りに「たまたま土木に入った」という学生がいっぱいいました(笑)。

実際に大学で土木を勉強していると、やっぱりわかりやすかったです。構造、土、水、計画という4分野があるわけですが、「なんのこと?」ということはなかったです。勉強自体はキライでしたが、土木は意味のわかる学問で良かったです。研究室は地盤力学でした。

尾崎仁美さん

鈴村さん

高校のときは、医療系の仕事をしたいと考えていました。高3のとき、仲の良かった数学の先生が「実は、自分は土木に行きたかったんだよ。大きなモノつくるってカッコ良くない?」といきなり言い出して、「でも、ヘルメットを被るとあまりにも似合わないので、あきらめたんだ」と言いました。それを聞いて、「大きなモノをつくるのはカッコ良いかも」と思うようになりました。

私の実家は川沿いにあって、買い物するときには対岸に渡っていたのですが、高3のあるとき、近くに橋ができたんです。橋ができてから、移動がスゴく便利になりました。それもあって、「大学では土木の学科に行こう」と決め、進学しました。私も地盤研究室でした。

鈴村真奈さん

天野さん

中学3年生のときの進路選択のときに、東日本大震災では、救助や物資を運ぶために道路を短期間で直したという話を聞きました。「土木はまちのいたるところに関わっているんだな」と知りました。将来は「人の助けになる仕事をしたい」と思っていたので、土木のある地元の工業高校に進学しました。

天野来春さん


「言われたモノをつくる」のではなく、「なにをつくるか決められる」

大石(施工の神様ライター)

名古屋市役所を選んだ理由は?

尾崎さん

進路については、大学を卒業する時点と大学院を修了する時点の2度考える機会がありました。

大学卒業するときは、「大学院に行くのが当たり前」みたいな雰囲気があったので、そのまま大学院に進みました。大学院に進んでからは、進路について「大きなモノをつくるのがカッコ良い」という夢みたいなモノと、「人に寄り添った仕事がしたいな」という思いの間で、揺れていました。とりあえずゼネコンを受けてみましたが、総合職は女性の採用が難しい状況でした。そこで「大きいモノをつくる夢」は捨て、「人に寄り添った仕事」を目指すことにしました。それが公務員だったわけです。

公務員は「言われたモノをつくる」のではなく、「なにをつくるか決められる」ので、面白いかなと思いました。それで、自分が生まれ育ったまちである名古屋市役所を受けました。

鈴村さん

就職に際して重視したのは、「土木の仕事であること」と「一生働ける仕事であること」の2つでした。「一生働ける仕事」としては、公務員がピッタリでした。私が就職したころは、ゼネコンやコンサルにも女性が就職していましたが、「女性の働きやすさ」に関しては、「公務員に勝るものはないだろう」ということで、公務員を選びました。もともとは「大きいモノをつくりたい」ということで土木を志したわけですが、自分の人生を考えると、やはり公務員という結論に至ったわけです。

私の出身は岐阜市ですが、名古屋の大学に6年間通っていたので、名古屋のまちに愛着が芽生えていました。名古屋市は政令市なので、いろいろな仕事ができて、やりがいにつながるんじゃないかと考えました。それで名古屋市役所を選びました。愛知県庁だと転勤があるので、私のライフプランと違うので、選択肢から外れました。

大石(施工の神様ライター)

転勤はイヤですか?

鈴村さん

イヤです(笑)。「単身赴任」とかはなかったですね。

大石(施工の神様ライター)

尾崎さんは転勤は?

尾崎さん

就職当時はあまり考えなかったですが。今となってみれば、転勤のない職を選んで良かったなと思います。夫や子供がいる状況で、仕事のために生活を変えるのは、望ましくないから。私にとっては「生活第一」で、生活の糧を得るために仕事をしているので(笑)。

天野さん

私の地元は安城市なので、地元の役所を受けたかったのですが、高卒の募集がなかったんです。それで名古屋市と国などを受けました。国は転勤があるので、市民と接する機会のある名古屋市が良いかなと思って、名古屋市役所を選びました。

最初の仕事は「恥ずかしくて、直視できない」

大石(施工の神様ライター)

これまでのお仕事を振り返っていただけますか?

尾崎さん

最初の配属先は道路建設課で、都市計画道路をつくる仕事をしていました。道のなかったところに道をつくるのには、住民の反対などたくさんの困難がありました。そういう困難にどう当たるかは、職場のチームごとに考えながらやっていくわけですが、初めての職場でそれをやったことが一番印象に残っています。

例えば、環境に配慮した工事をおこなうため、山のホタルの数を数える必要があったのですが、ホタルの数を数えるためには、どういう方法が一番効率的なのかを考え、山の中を歩き回ったことがあります。そういうことを夢中でやっていましたね。反対派の方々に囲まれて、説教されたこともありましたが、反対意見も聞きながら、どうやったら事業を動かせるかを考えていくのが、スゴく面白かったです。

その後は、名古屋高速道路公社に出向して現場監督をやったりしました。道路畑が長かったです。20年のうち、半分が出先の現場仕事でしたね。

鈴村さん

現在の職場が2つ目の職場ですが、私も今、ホタルを数えています(笑)。私も一番印象に残っているのは最初の職場である東土木事務所です。そこでの最初の仕事が交差点改良工事でした。

その交差点にはちょっとした緑のスペースの街園があって、上司から「街園は好きなように設計して良いよ」と言われたんです。どういう基準があるかよく知らないままに、「こうやったらカワイイんじゃないか」という感じで、上司や地元の人と相談しながら、つくっていったんです。この交差点を今でも通ることがあるのですが、恥ずかしくて、直視できないんです(笑)。

鈴村さんが設計した街園

大石(施工の神様ライター)

恥ずかしい?

鈴村さん

今ならもうちょっとうまくできるのにと思ってしまうからです。もともと街園部分は黒い石を組んだ部分があったので、石を活用しながら作り直したんですが、石を違う形に組み直すのは難しいということを、作業を始めてから知ったんです(笑)。

なかなかうまく組めなくて、最終的に間をモルタルで埋めたんです。モルタルは乾くと真っ白になるので、せっかく再利用したのに、白と黒のツギハギだらけになってしまいました。それを見るのが恥ずかしいんです(笑)。

天野さん

最初に配属されたときは、先輩についていろいろな現場を回ったり、CADの書き方を教わったり、設計書をつくったりしました。高校で習ったCADの書き方と名古屋市役所のCADの書き方が違っていたからです。

半年ほど経って、設計書づくりを任されるようになり、国道に接続する幹線道路の舗装工事の設計書を書いて、発注しました。切削オーバーレイでめくるだけの工事でしたが、発注してからも、業者さんに助けてもらいながら、完成させました。老朽管の対策工事、橋梁工事、側溝工事などいろいろな工事があるのですが、先輩に聞きながら、やっています。

現場をチェックする天野さん


「お前のその考えは間違っている!」「そんなことない!」

大石(施工の神様ライター)

仕事でツラかったことはありますか?

天野さん

先輩によって、仕事のやり方が違うことですね。以前に教わったやり方と違うやり方を言われることがあるので、戸惑ってしまうことがあります。

鈴村さん

ツライことはたくさんあるんですけど、自分の勉強不足でうまく対応できないときがツライです。本庁が設計して、土木事務所が工事監督をするパターンがあるのですが、ある工事で私が監督員をしたとき、自分で設計しないので、工事のうわべしか理解していませんでいた。ちょっとしたトラブルが起こったのですが、その処理をすべて本庁任せにしてしまったんです。

本来であれば、私が対応すべきトラブルだったのに、できなかったのが、ツラかったというか、反省している点です。そのときは、当時の上司から「クリアすべき基準は何だったのか」と問われ、即答できなかったんですが、その後は、背景や基準などをちゃんと意識して仕事するよう心がけています。

尾崎さん

3つ目の職場のときに、チームの中で、年齢が一番上になったんです。それまでは先輩に相談して仕事をクリアしていたのですが、いざ自分でやらなかんとなると、カラ回りしちゃったんです。私はアセットマネジメントのプランを立てる担当だったのですが、他のメンバーを巻き込むこともできず、どこに向かって良いかも見失ってしまいました。

ちょうど子どもを産んだばっかりで、仕事ができる時間にも制約がかかっていたころでした。私は不器用で考え込まないと物事を進められないタイプですし、自分の中で理想と現実をうまく消化できなくて、「わからない!」という感じになったのが、一番ツラかったですね。

大石(施工の神様ライター)

上司に相談しなかったんですか?

尾崎さん

上司も迷っていたと思います。担当者である私がエンジンで、上司がハンドルを切るイメージで、まずエンジンである私が、ハンドルを切るための材料を提供しないといけないのに、それが十分でないので、上司がその上の上司にレクしても方向が見えてこないのだと思っていました。私が上司に相談しても、こういくべきという方向性が見せられないからだと。

大石(施工の神様ライター)

仕事で泣いたことはありますか?

尾崎さん

あります。それは最初の職場でしたけど。酒の席で、上司と激論になって、いつも泣かされていたことはあります。「お前のその考えは間違っている!」、「そんなことない!」みたいなヤツです。今思えば、面白かったですけどね(笑)。

鈴村さん

その場で泣くとよけいに悔しいので、泣かないですけど、後で泣いたことはありますね。ある職場で、「なぜこうなのか」「他に考え方はないのか」ということについて、スゴく根をつめて考えなければならないときがあったのですが、結果的に、上司の要求に応えられなかったんです。

それが何度も続いて、抱えきれなくなって、「これ本当に必要なことなの?」と考え始めちゃったんです。ツラくて、帰りの電車で泣いちゃいました。当時はツラかったですけど、今は、必要な経験だったなと考えています。

天野さん

電話対応がうまくできなくて、悔しくて泣いちゃったことはあります。上司と意見が合わなくて、トイレで泣いたこともあります。そういうときは、女性の先輩に相談をしています。相談すると、心が軽くなります。昔の友達と話をして、ストレスを解消することもあります(笑)。

大石(施工の神様ライター)

中学の友達に仕事の話をすると、どんな反応?

天野さん

「すごいね〜」とは言われますけど、「私にはムリ」という感じの反応ですね。

「ドボジョ」というくくりは、もう古い

大石(施工の神様ライター)

いわゆる「ドボジョあるある」みたいなことはありますか?

天野さん

公務員の土木職は、現場で工事監督しているだけなので、「ドボジョ」とひとくくりにされると、施工業者の女性の方に申し訳ない部分はありますが、例えば、夜間工事の監督はちょっと不安を感じることはあります。でも、それは男も女も同じなので、「仕事を任されたんだから、頑張ろう」という気持ちで乗り切ることにしています。

電話に出たときに「男の人に変わって」と言われることはたまにありますが、基本的には周りの皆さんから可愛がってもらっています。上司の方とは、「自分の娘と同い年だ」ということで、話が弾むこともあります。

鈴村さん

台風などで職場待機するのは、私はもう慣れましたが、友達に話すと、「女性なのにそんなことしなきゃいけないの?」と言われます。そういわれることに、逆にビックリします(笑)。あとは、「土掘ってるの?」と聞かれたり、「建築?」と勘違いされることはありますね。

尾崎さん

私はそもそも「自分がドボジョだ」という認識がないですね。現場施工している方々と技術系公務員は仕事の中身がだいぶ違うので。その上で、土木業界の男性と女性の違いを考えてみても、とくに違いはないと思います。「女子だから」と言うより、「若くて、経験不足だから」いろいろ取り沙汰されるんじゃないかなと思います。自分が年をとってきて、だんだんわかってきました(笑)。

日焼けについても、私はあまり気にしなかったのですが、最近の若い子は、女子らしく、ちゃんと日焼け止めなどをして、働いています。今は、女子が女子らしく普通に働けるようになっているので、それはスゴく良いなと思います。

名古屋市役所でも、ここ数年女性の土木技師が増えています。今の女子はみんなカワイイですね。私が若いころは、男ばっかりの職場の数名女子がいる程度でしたが、研修で大勢集まると、女子がいても、パッと見、気づかない。男の世界に溶け込んじゃって(笑)。最近は、女子の比率が増えて、華やかです。「これ本当に土木の研修?」という感じがあります。ファッションなんかもその辺の女子大生と変わらない子が普通に座っているんです。

私からすると、技術系公務員という世界で言えば、「ドボジョ」というくくりは、もう古いと感じています。昔は女子の数が少なかったので、甘やかされてきたところがありましたので、女子が増えてくると、私的にはツラくなるかもしれませんが(笑)。

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