【マイナス60.3の衝撃】建コンで働く人の「幸せ」を測ってみた。

建コンで働く人の「幸せ」ってどのくらい?

建設コンサルタンツ協会の若手の会では、2年前の2017年に「若手のシゴト観アンケート調査(1,199サンプル)」を行い、現状と理想のギャップを感じ日々悶々と働いている若手の姿を浮き彫りにしました。

そして、そのギャップを解消し理想の働き方を実現するために、サイボウズやGrow with Google、パソナなど異業種の先進企業とコラボし、勉強会やアイデアソンの開催を通して最先端の人事制度やノウハウを学んできました。

すると、徐々に勉強会に参加したメンバーが自社内で企業変革のためのアクションを提案し、採用されたという事例がぽつぽつと出始めました。若手の会では、こうしたアクションを多くの建コン企業で連鎖させたいと考え、各社の企業変革アクションを集積するプラットフォームとして「オンラインサロン建コンアップデート研究所」の運営を始めました。2020年4月現在、約100名が参加し、日常的に情報交換を行っています。

しかし、こうした業界変革の動きはまだまだマイノリティ。大きなムーブメントにするためには、業界変革に向けて熱量高く自走する人を一人でも増やしていくことが必要です。

とはいえ、建コンで働く人たちが、現状どのくらいモチベーションを持っているのか、逆にどのくらい不満があるのか全く分かりません。そんな状況では、どうやって熱量を高めていけばよいのかも分かりません。

そこで、建コンで働く人たちを対象に、近年HRの領域で注目されているeNPS調査(employee Net Promoter Score)を行い、エンゲージメントスコアを把握し、エンゲージメントを高めるための処方箋を考えていくことにしました。

建コン業界のエンゲージメントとeNPSスコア

そもそも”エンゲージメント”とは、「組織に対する自発的な貢献意欲や、主体的に仕事に取り組んでいる心理状態を指標化したもの」と定義されています。すごく分かりにくいのですが、「従業員の会社や仕事に対する愛着心や思い入れ、つまり会社や仕事における幸せ度をあらわすもの」と解釈してよいのではないでしょうか。

そのエンゲージメントを測定する指標がeNPSスコアです。そして、このeNPSスコアを測定する質問は、「あなたはどれだけ親しい知人や友人に建コン業界で働くことを勧めたいと思いますか?」を10段階評価するものです。マーケティング業界の界隈では、究極の質問と呼ばれているようです。

eNPSスコアの算出式 / NTTコム

建コン業界eNPS調査は、建コン企業で働く従業員に対して行い、1,564部と多くの回答が集まりました。建コン業界内の調査でこれだけ多くの回答を集める調査はなかなかないのではないでしょうか。

  • 対象者:建コン企業で働く従業員(正社員のみ)、年齢不問
  • 調査期間:2019年10月28日(月)~11月4日(月)
  • 調査方法:Googleフォームにより実施
  • 回収数:1,564人
  • 主な設問
    Q.自社(建設コンサルタント会社)への入社を親しい知人や友人に勧める可能性はどのくらいありますか?0~10点で評価してください。
    Q.【健康】従業員が仕事の中で、過度なストレスや疲労を感じているか。
    Q.【環境】給与、福利厚生、職場環境といった従業員を取り巻く会社環境に満足を感じているか。
    Q.【職務】今の職務に対して満足を感じているか。
    Q.【理念戦略】企業の理念・戦略・事業内容に対して納得・共感しているか。
    Q.【組織風土】企業の組織風土が従業員にとって良い状態と感じているか。
    Q.【支援】上司や仕事仲間から、業務上又は自己成長の支援を受けていると感じているか。
    Q.【人間関係】上司や仕事仲間と良好な関係を築けていると感じているか。
    Q.【承認】周りの従業員から認められていると感じているか。
    Q.【自己成長】仕事を通して、自分が成長できていると感じているか。

回答者の属性は以下の通り。

  • 性別 :男性 83%、女性 17%
  • 年齢 :10~20代 31%、30代 21%、40代 25%、50代 16%、60代以上 7%
  • 部門 :技術系 84%、営業系 8%、管理系(総務・経理・人事・情報等) 8%
  • 企業規模 :広域コンサル 73%、地域コンサル 27%
    ※広域コンサル:本社のある都道府県内での営業活動が中心で、かつ単一ブロック(国土交通省地方整備局)内で営業活動を行っている企業
    ※地域コンサル:営業活動の範囲を全国的に展開している企業


マイナス60.3の衝撃

建コン業界のeNPSスコアは、-60.3でした。「え、マイナス!?やばっ」とお思いでしょうが、全業界平均は-61.1なので、平均よりは高いんです。ただ、建設業全体の-55よりは下回っており、低いと判断せざるを得ない結果となっています。

さらに、特にeNPSスコアに相関が高い項目を見ると、1位「職務(今の職務に対して満足を感じているか)」、2位「組織風土(企業の組織風土が従業員にとって良い状態と感じているか)」、3位「理念戦略(企業の理念・戦略・事業内容に対して納得・共感しているか)」であることが分かりました。

残業を含む「健康」が上位だろうと思っていましたが、相関は高くない結果でした。ただし、eNPSスコアに関わらず満足度ワースト1位とどの指標よりも低い結果であり、解決すべき課題であることに間違いはありませんでした。

ちなみに、推奨者(採点9~10)の採点理由をテキストマイニングしてみると、出現頻度の高い特徴的なキーワードには、「やりがい」とか「社風」、「社会貢献」、「技術力」などが挙がっており、ポジティブな評価がされていることが分かりました。

「幸せ」にフォーカスせよ!

調査結果を総括してみると、

  • 建コン業界のeNPSスコアは-60.3であり、全業界平均-61.1よりは高いものの、建設業全体-55の中では低い。
  • eNPSスコアと相関が高い指標は、「職務」、「組織風土」、「理念戦略」であった。
  • 残業を含む「健康」は、相関は見られないものの、満足度がワースト1位であった。

さらに、「職務」、「組織風土」、「理念戦略」における幸せ度が高い状態とはどんなものか、アンケート自由回答から紐解いてみると、

  • 職務:仕事のやりがいや自由裁量の実感など、「個人」単位で幸せな働き方ができている状態
  • 組織風土:チームで協力してワークすることや感謝・承認があること、チャレンジングの文化の定着など、「チーム」単位で心理的安全性が確保されている状態
  • 理念戦略:ミッションやビジョンに共感でき、会社(経営陣)に対する信頼がある状態

のような状態だと言えます。

そして、若手の会では、『建コン業界全体のエンゲージメントを高めるためには、幸せ(=ウェルビーイング)な働き方を実現することを目指し、「個人でやること」、「チームでやること」、「会社でやること」をそれぞれの単位で実践していく』ことが必要だと結論づけました。

建コン業界でも「ウェルビーイング」な働き方を

ここで、ウェルビーイングとは何か?について解説します。

厚生労働省職業安定局の雇用政策研究会報告書(2019年7月)では、我が国が目指すべき姿として「一人ひとりの豊かで健康的な職業人生の実現、人口減少下での我が国の経済の維持・発展」を掲げ、そのための働き方の方向性として、次のような報告がなされています。

「労働者一人ひとりが、自ら望む生き方に沿った豊かで健康的な職業人生を安心して送れる社会を築いていくためには、公正な労働条件の下、失業等を経ても職業キャリアの安定が図られ、かつ、労働者が自らの希望に応じて働き方を選択できる多様性が確保されることによって、就業面からのウェルビーイングの向上を図ることが重要である。(中略)就業面からのウェルビーイングの向上が、労働者一人ひとりの能力発揮を通じ、企業の生産性の向上に寄与し、また、企業の生産性向上は、就業面からのウェルビーイングの向上を図るための原資をもたらすものである。」

ここで言うウェルビーイングとは、「個人の権利や自己実現が保障され、身体的、精神的、社会的に良好な状態にあること」を意味する概念と定義され、「幸福」と翻訳される場合も多い言葉です。

そして、この幸福に関する研究は、実に年に1,000件もの論文が発表されるほど注目されており、「幸福感の高い社員は、そうでない社員に比べ生産性が31%、売上が37%、創造性が3倍高い(出典:ハーバードビジネスレビュー(ダイヤモンド社)2012年5月号)」というような成果が実証されています。

こう見ていくと、生産性の向上はスタート地点ではなく、あくまでスタート地点は、一人ひとりの幸せな働き方の実現であって、生産性向上はその結果、つまりゴールであると言えるような気がします。

今の世の中の議論は、生産性向上しかフォーカスされず、一人ひとりの幸せな働き方はないがしろにされているような気もします。

若手の会では、ここに本質的な問題があるとして、まず一人ひとりの幸せ(=ウェルビーイング)な働き方の実現を目指して、具体的なアクションを行っていくこととしています。

【第1弾】内発的モチベーション向上セミナー(個人)

  • 自分のやりたいこと(=WILL)に向き合い、その実現に向け自ら決断し、自走するモチベーション高い状態をつくるためのセルフコーチングを学ぶ。

【第2段】コーチ型リーダシップセミナー(チーム)

  • チームの心理的安全性を高めるため、トップダウンによる指示・命令ではなく、メンバーの主体性を引き出し、自立した行動を促すコーチ型リーダーリップを学ぶ。

業界変革に向けて、熱量高く自走できる人が一人でも増えるように。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
「愛人いるんですか?」と聞かれて、「良い社員」と思える「建設コンサル」社長の経営マインドとは?
「設計事務所は儲からない!」30歳で建設コンサルから独立した設計士からの忠告
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
「出すぎた杭は打たれない!」建コン業界をざわつかせる若手リーダーの野望
「土木の仕事は、単純にカッコイイ!」つまらないと思うのは、土木を知らないだけ
「日本人は外国人を差別しすぎ!」海外進出するゼネコンの傲慢さとは?
1976年 広島県生まれ。2001年、(株)オリエンタルコンサルタンツに入社し、交通エンジニアとしてキャリアをスタート。2011年、志願し本社へ異動。2018年からグループ会社の株式会社エイテックに出向し経営企画リーダー。 2015年、建コン協会内に若手有志組織「業界展望を考える若手技術者の会(若手の会)」設立。2017年には、リクナビ主催「Good ActionAward」受賞。同年建コン協会「功績賞」受賞。 2019年、オンラインサロン「建コンアップデート研究所」設立。同年、土木学生有志と「ツナガルドボク」設立。
モバイルバージョンを終了