大東建託が開発中のビス留めロボット「D-AVIS(デービス)」

深刻化する造作大工不足の救世主。石膏ボードのビス留め作業は自動化できるか?【大東建託】

造作大工不足の救世主となるか

住宅の下地から仕上げまでを担う造作大工が減少しているとともに、高齢化が進行している。この流れは大手でも例外ではなく、大東建託では造作大工の登録人数が2015~2019年の5年間で、1,475人減少。また、10~20代の造作大工の数が2012年度比で約半数まで減少しているなど、若手の確保が困難になっている。そのため、現場での職人不足の解決とともに生産性向上は待ったなしの状況にある。

造作大工の減少と高齢化は工期の遅れをもたらす。そこで、大東建託は、造作大工不足の救世主として急ピッチで賃貸住宅のビス留めロボット「D-AVIS(デービス)」の開発を進めている。これまでは人力により、壁面と天井に仮留めした石膏ボードのビス留め作業を行ってきたが、「デービス」が実用化されれば、全国での賃貸アパートなどのビス留め作業の自動化が期待される。

開発に当たっている、大東建託 執行役員 工事統括部長の泉和宏氏、施工品質管理部 施工管理課課長の安原健介氏、施工品質管理部 施工管理課チーフの川上真吾氏に話を聞いた。

著しく減少する造作大工

大東建託 執行役員 工事統括部長 泉和宏氏

――「デービス」開発の背景は?

大東建託 大東建託の造作大工の登録人数が、2015年時点では8,453人でしたが、2019年現在では6,978人と、約5年間で1,475人も減少しました。同時に高齢化も進み、50~60代が42.5%を占め、10~20代の若手はわずか14.4%しかいません。

高齢者になると作業の安全性、俊敏性も落ちます。さらに、5~10年後、次世代が育成できるかなどの懸念事項も多い。造作大工の減少、高齢化により、工期が長期化する懸念もあるため、造作大工によるメイン仕事の一部を効率化することで全体作業の軽減を目指した検討が社内で始まりました。

造作大工が5年間で1,475人減少 / 大東建託

著しい造作大工の高齢化と熟練工の減少 / 大東建託

中でも、石膏ボードの取り付けは施工ボリュームが多く、しかも天井に向かっての作業は体力的にも厳しい仕事です。脚立に乗り、長時間、上を向きながらの作業のため、バランスを崩して転落事故が起こります。また、ビスが跳ね返って目に当たるという事故事例もある。

弊社も2×4工法の現場を年間約8,000棟施工している中で、当然ながら事故撲滅を目指してはおりますが、残念なことにヒューマンエラー等の理由で事故が発生することもあります。ベテランの造作大工も、自身の技能への過信に起因する不安全行動により、事故が起きてしまうこともある。

最終的に、最も造作大工の作業を合理化でき、さらに事故防止の観点から見て効果が大きい作業を検討した結果、石膏ボードのビス留め作業の自動化を最重要で取り組むべきとの結論に達したのが開発背景です。

1部屋にビス留め1万500本

――今、「デービス」実用化に向いて動いていますが進捗は?

大東建託 「デービス」というネーミングと理念は、Disassembly(分解)、Assemble(組み立てる)、Variety(多様性)、Innovative(革新的な)、Smart(素早い)の頭文字から取っています。

大型機械を使用しない賃貸アパ―トなどの小規模建築で、作業員と協業することを目的に開発されたため、現場に導入しやすい軽量・小型で、安全面にも配慮しています。デービスにより、これまでのように、造作大工の熟練度に依存せず、施工品質を均一化することが可能となります。

「D-AVIS(デービス)」初号機

初号機は2019年3月に開発しましたが、現在はより現場に導入しやすい2号機を開発中です。初号機は電気で稼働していましたが、現在は配線をなくしたバッテリーでの稼働を目指しています。

また、初号機では図面を読み込んで、自動で動き、既定の場所にビスを留めていましたが、2号機では、図面を読み込まなくても、ガイドを使って石膏ボードのジョイントを見つけ、ビス留めを実施できるよう改良しているところです。このほか、重量も初号機の60kgから半分に軽減しています。

大東建託 施工品質管理部 施工管理課課長 安原健介氏

――1部屋の中でのビス留めはどのくらい行うものなのでしょうか?

大東建託 石膏ボードのビス留め作業は、ねじ長さや施工間隔などが国土交通大臣認定で規定されておりますが、大東建託でのアパートでは1部屋あたり約1万500本のビス留めをします。

このうち大部分は、今後デービスが担うことになり、造作大工によるビス留めは、約1,000本にまで減少します。造作大工はより熟練度の高い作業に専念できることになります。

今、大東建託協力会の30社に初号機をリースし、様々な現場で試行しながら防じん等の問題点を抽出し、2号機開発に取り組んでいるところで、2020年12月の実用化を目指しています。

自動で部屋中を回ってビス留めできる

――操作方法は?

大東建託 初号機はカメラで場所を認識していますが、部屋の明るさによっては釘の色やカタチの識別の難易度が高くなり、誤差が生じることが分かりました。そのため、2号機では、接触型でビス留めの場所を確認する方式を採用しています。

壁から離れたところにセットをして、スイッチを押すと、1部屋をぐるりと周りながらビス留めを行います。天井でのビス留めを行う時も、天井向けにセットし稼働させます。

当初、デービスの操作方法は、タブレット端末などで施工状況などのデータを一元管理する大東建託独自の現場管理システム「名監督システム」と連動して行うことを検討していましたが、それでは他社が使えず広く普及しないことも考え、「名監督システム」との連動はとりやめています。

――デービスは、2×4工法現場への導入を想定している?

大東建託 2×4工法現場以外の在来木造軸組工法や大型店舗で広い敷地の現場にも導入可能です。先ほども申した通り、デービスの理念の一つに多様性があります。

現状では、市販のビスを留めることができるデービスですが、将来的には釘も打てる、さらに構想段階ですが、クロスのパテを均一にならす作業もできるような改良も検討しています。

今後、造作大工だけではなく、建設職人全体が高齢化するため、デービスをより多能工化できればと考えています。

大東建託 施工品質管理部 施工管理課チーフ 川上真吾氏

――販売・リース先は色々と考えていると思いますが。

大東建託 東京・大阪・名古屋など全国5地区の展示会に出展したところ、店舗系の方から「こんなことはできませんか」など色々と質問を受けました。パネル製作工場で、ラインを増設するのは難しいが、「デービス」を使うと石膏ボードのビス留め作業が自動化でき、生産性が向上するとの声もあり、商品建築分野やパネル工場に需要があることも分かりました。

主な開発は大東建託が実施していますが、製造・販売・メンテナンスの三つを揃えた会社と連携し、将来的な外販に備えています。

アパート1棟の施工で約4人工分を省力化

――「デービス」を使用された工務店からの声にはどのようなものがありましたか?

大東建託 持ち運びについて、「部屋から部屋、または1階から2階に移動する時はどうすればいいか?」という声がありました。初号機は60kgと重いため、移動が難しいんです。また、作業自体は人の手で行ったほうが早いため、作業速度に関する指摘もあります。

しかし、デービスの開発趣旨は造作大工の仕事を奪うことではなく、仕事を補助することにあります。ロボットは、人よりも作業が早いというイメージがありますが、速度ばかり重視すると重量が重くなり、部屋に入れなくなるなどのジレンマも生じます。そうなると、住宅建築では使えなくなってしまいます。

そのため、現場からのニーズをくみ取りつつも、実作業とのバランスを考えて改良を進めています。今後はデービスと造作大工が同時並行で作業する流れも生まれてくるでしょう。造作大工が石膏ボードを仮留めし、デービスがビス留めを行う流れ作業が実現すれば、アパート1棟の施工で約4人工分の省力化が実現する見込みです。

ピックアップコメント

高齢の職人が引退するのはどうしようもないが、若い職人が増えないのは、仕事内容と金額の乖離でしょ、そこを出し渋って安い外国人労働者や機械化してる。生活出来ないから弟子を育てる事も出来ない。

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建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。
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