左から岩本 望さん、上林(うえばやし)恭子さん、前川 波奈江さん

“激動の大阪市役所”は、土木技術者にとって”アリ”な職場か?

ビッグプロジェクトが相次ぐ大阪市

駅チカに約8haの「みどり」を創出する再開発プロジェクト「うめきた」。大阪港に浮かぶ人工島夢洲で開催される「大阪・関西万博(EXPO2025)」。その夢洲に誘致予定の「IR(統合型リゾート)」――。大阪市内では近年、ビッグプロジェクトが相次いている。

これらに伴い、鉄道や都市高速などの様々なインフラ整備計画も進んでおり、土木技術者にとって、やりがいある環境が整っているように思われる。

その一方で、「大阪都構想」なるものが再び現実味を帯びてきている。都構想が実現すれば、大阪市役所はなくなり、市の職員、市のインフラもなくなる。いろいろな意味で激動にある中、大阪市役所の職員はどういう思いで働いているのだろうか。

ということで、大阪市建設局の女性土木職3名にいろいろ話を聞いてきた。

  • 上林(うえばやし) 恭子さん(大阪市建設局公園緑化部調整課企画運営担当課長)
  • 前川 波奈江さん(大阪市建設局下水道部調整課事業計画担当係長)
  • 岩本 望さん(大阪市建設局道路部街路課)


土木は「チームビルディング」なのが魅力

大石(施工の神様ライター)

まずは自己紹介を。

上林さん

私は1993年に入庁し、昨年勤続25年の表彰を受けました。以前はお休みをいただけたのですが、今はとくに特典がないので、残念な思いをしました(笑)。

道路畑が一番長く、入庁から13年ほどいました。河川、都市計画道路、区役所、下水道を経験した後、公園にきました。バラエティに富んだカタチで仕事をしてきました。区役所以外はずっと建設局にいます。

上林 恭子さん(大阪市建設局公園緑化部調整課企画運営担当課長)

前川さん

私は2005年入庁です。基本的に下水道畑で仕事をしてきました。下水道の設計、技術開発などをやってきて、今は事業計画を担当しています。

前川 波奈江さん(大阪市建設局下水道部調整課事業計画担当係長)

岩本さん

2019年に入庁しました。都市計画道路に関わる仕事をしています。

岩本 望さん(大阪市建設局道路部街路課)

大石(施工の神様ライター)

土木との出会いは?

上林さん

もともとものづくりをしたかったので、「大学は工学部に行きたい」と思っていました。建築が第一希望でしたが、合格したのは土木でした。40名ほどの土木のクラスに女子は私だけでしたが、学生生活は楽しかったです。河海工学研究室というところで、水系の研究をしていました。

最初は建築志望でしたが、土木はチームビルディングなので、土木のほうが私の性分に合っていました。結果的に土木を学んで良かったと思っています。

前川さん

「建築はカッコ良いな」というイメージがあったので、大阪大学を受験するときに、地球総合というグループを選びました。入学後、建築の勉強として、図面を手書きする授業があったのですが、これが非常に難しかったんです。

「私にはセンスがないので、建築は厳しそうだ」と思ったので、2年生になるときに、土木コースを選びました。鉄道や高速道路の仕事に興味があったからです。研究室は交通工学でした。

岩本さん

防災減災に関することを勉強したくて、神戸大学の市民工学科に進学しました。ただ、研究室は、橋梁の研究室で耐震の研究などをやっていました。

院試の練習で市役所を受験

大石(施工の神様ライター)

大阪市役所を選んだ理由は?

上林さん

まず、大阪市生まれの大阪市育ちだったので、大阪市内で働きたいというのがありました。「子どもを産んでも、ずっと仕事を続けたい」という思いもあったので、公務員を志望しました。大阪市役所は、転勤があっても自宅から通えるだろうというのもありましたね。大学の先輩に大阪市役所に入った方々も多かったのもありましたね。

ゼネコンは転勤があるので、まったく考えませんでした。コンサルも、出産したら仕事を続けるのが厳しいと聞いていたので、やはり公務員、大阪市役所しかないという感じでしたね。大阪市役所の土木職は、私が最初でした。

前川さん

大学4年生のとき、鉄道会社に就職するには修士号ぐらいは必要だろうと思って、大学院に行こうと思っていました。でも、将来的に公務員試験を受けることもあるかもと思い、練習として、院試だけでなく大阪市役所の試験も受けたんですが、大阪市役所に受かったので、「じゃあ就職しようか」ということで入ったんです。「先生、すいません」みたいな感じになりました(笑)。

大石(施工の神様ライター)

大阪市役所に入ったのはたまたまですか?

前川さん

そうですね(笑)。もし大学院に行っていたら、大阪市役所には入ってなかったでしょうね。2年後は市役所の採用ゼロでしたから。

岩本さん

私は体力がある方ではないので、休みが取りやすいということで、大阪市役所を志望しました。自宅が大阪なので、自宅から通える職場が良いなというのもありました。


「なんで子育てで休む人間よこしてん?」

大石(施工の神様ライター)

大阪市役所の仕事で印象の残ることは?

上林さん

13年ほど前、街路課の係長として、阪和線沿いの天王寺大和川線という都市計画道路の仕事です。6年ぐらいずっと担当していました。「地域の方々と一緒に道路をつくろう」ということで、ワークショップなどを行っていましたが、メッチャ大変でした。

これだけ長い間同じ担当を続けるのは、大阪市役所では珍しいことです。行政の窓口がコロコロ変わると、地域の方々から不信感を持たれるということで、ずっと同じ担当を続けました。ほぼ1人で担当していたので、地域にガッツリ入ってやっていましたね。それだけに印象に残っている仕事です。

天王寺大和川線は、都市計画道路ではあるけれども、「緑あふれる道にしよう」という位置づけの5.5kmほどの道路で、地域の声を聞きながら進めていくべき事業でした。今でも地元との話し合いが続いていて、完成までにはまだまだ長い期間が必要となります。

大石(施工の神様ライター)

初めての女性土木職ということで、大変だったことは?

上林さん

10ヶ月間の育休を取ったときに、当時の上司が「なんで子育てで休む人間よこしてん?」と人事担当に言ったというウワサが出ました。ちょっとイヤな思いをしました。

そこで私があきらめてしまうと、後輩の女性土木職が出産しにくくなるだろうなという思いがあったので、踏ん張りました。結果的に3人の子どもを産みました。もちろん、今ではそんな事を言う人はいないですよ。

前川さん

雨水滞水池という下水道施設を建設する事業で、その設計を担当しました。地元住民の方に説明した際に、建設反対というご意見をいただきました。

岩本さん

下水道施設は、大阪の水環境を良くするために必要な施設なのですが、施設の必要性は理解できるんだけども、どうしてこの地域に建設しないといけないのかみたいな。行政の難しさを初めて経験したという意味で、印象に残っています。技術論だけでモノができるわけではないということを実感しました。住民に理解してもらうためには、わかりやすく説明するスキルが必要だと思いました。

今のところは、自分に与えられた仕事をこなすのに精一杯なので、これから色々な仕事に携わって視野を広げていきたいと思っています。

前例にとらわれず、新しいことにチャレンジしてほしい

大石(施工の神様ライター)

今後やりたい仕事は?

岩本さん

耐震とか防災関係の仕事をやってみたいですね。「うめきた」の再開発プロジェクトも、プライベートで遊びに行くし、大きな事業なので、関わってみたいなという思いはありますが、まずは南海トラフ巨大地震関連のお仕事とか、橋や道路などのインフラ整備に携わりたいです。

前川さん

「下水道の仕事を極めたい」という思いがあります。建設業界的には、マニアックな世界かもしれませんが(笑)、下水道の仕事は、ちっちゃい仕事から大きな仕事まで、いろいろ幅広いところがあって、意外と奥深い世界です。設計して、モノをつくって、それを維持管理していくという一連の流れをもっと勉強していきたいです。

大石(施工の神様ライター)

後輩二人に言いたいことは?

上林さん

あきらめず、なんにでもチャレンジしてほしいと思っています。私自身、いっぱい失敗してきています、怒られたこともありますが、そのときはちゃんと謝って、その上で、次のチャレンジに向かってほしいです。

それと、前例にとらわれずに、切り開いていってほしいという思いがあります。行政なので、なにか新しいことをやろうとすると、政治的な横ヤリなども出てくると思いますが、一旦引いていろいろなやり方を試すとか、幅広く情報を収集しながら、柔軟な作戦がとれるような人材に育っていってほしいです。



大阪市役所は「欲張り」な人向き

大石(施工の神様ライター)

大阪市役所のやりがいは?

上林さん

大阪市役所は基礎自治体であり、政令市なので、いろいろな事業にチャレンジすることができます。いろいろやりたいという「欲張りな人」向きの職場だと思っています。そういう人にどんどん来てもらいたいですね。

前川さん

「下水道を極めたい」と言いましたが、結果論なんです。大阪市役所に限らず、公務員になりたいと考えている人は、「これをやりたい」という思いがあったとしても、それが叶うとは限りません。

「どんな仕事でも楽しめる人」が向いていると思います。「これじゃなきゃダメ」という人にとっては、やりづらいところがあるので。自分の「根っこの部分」は持っておいたほうが良いですが、「広く浅く」にも対応できる方が良いのかなと思っています。

大阪市役所は、他の自治体と比べて、組織体制が結構大きく変わります。今でももっと変える議論が行われています。その辺も含め、チャレンジ精神を持って、前向きにとらえられる人が望ましいと思います。

岩本さん

大阪市役所には小さな仕事から大きな仕事までありますが、実際に入ってみると、それらは全部つながっているんです。

入る前は、小さな仕事と大きな仕事は別々だと思っていたのですが、道路や下水道などの仕事も、うめきたや大阪万博といった大きなプロジェクトにつながっているんだということがわかってきました。いろいろなことに興味を持って、幅広い知識を身に着け、「なんでもできる人」になっていきたいです。

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基本的には従順ですが、たまに噛みつきます。