瀬尾 高宏さん(JFEエンジニアリング株式会社 社会インフラ本部 橋梁事業部 改築プロジェクト部 プロジェクト推進室長)

瀬尾 高宏さん(JFEエンジニアリング株式会社 社会インフラ本部 橋梁事業部 改築プロジェクト部 プロジェクト推進室長)

「コワイけど、おもしろい」 JFEエンジ現場代理人が語る”改築工事こその魅力”

「改築のプロ」が思う仕事のやりがい

鋼橋の設計施工などを手掛けるJFEエンジニアリング株式会社(東京本社:東京都千代田区、以下JFEエンジ)には、中途採用の土木技術者もいる。首都高速川口線耐震補強工事の現場代理人の瀬尾高宏さんもその一人だ。

大学卒業後、橋梁会社に就職。12年間、設計・施工の実務経験を積んだが、その会社が倒産。JFEエンジに転職した。

JFEエンジでは、東日本大震災の復旧工事、首都高の大規模更新工事の現場を経験し、現在、改築プロジェクト推進室長として、複数の改築工事を担当する。言わば「改築のプロ」だ。

そんな瀬尾さんにとって、改築のやりがい、魅力とはなんなのか。日頃の心構えなどを含め、話を聞いてきた。

橋梁会社が倒産し、JFEエンジに転職

――土木の世界に入ったきっかけは?

瀬尾さん 私が小さいころは、青函トンネル、瀬戸大橋、レインボーブリッジなど土木が華やかな時代で、そういう大きな土木構造物が次々にできあがるのを見ながら育ちました。

「大きな構造物をつくりたい」ということで、土木を志し、日本大学理工学部に進学しました。学部では橋梁の勉強をしていましたが、阪神淡路大震災をきっかけに、大学院では耐震関係の研究をしました。

――ご出身は?

瀬尾さん 出身は福島県南相馬市です。大学で地震の研究をしていましたが、どこか他人事のようなところがありました。

自分の出身のまちが地震に伴う津波被害を受けたのを目の当たりにして、「まさか」という感じでショックでした。幸い、家族は避難して無事でした。

――大学卒業後、JFEエンジに入社したのですか?

瀬尾さん いえ、大学卒業後、別の橋梁会社に就職しました。仕事は設計と現場半々ぐらいで、鋼橋の新設、補修などをやっていました。

ところが、入社12年目に、その会社が倒産してしまいました。それで2012年にJFEエンジに中途で入社したのです。

「良い会社に入ったなあ」

――JFEエンジに転職してどうですか。

瀬尾さん JFEエンジは、プロパーと中途採用者のカベがなく、仕事がしやすい環境で、中途入社でも能力を公正に評価してもらえていると感じます。「良い会社に入ったなあ」と感謝しています(笑)。

仕事の内容は前の会社と基本的に変わりませんが、とにかく仕事の規模が大きくなりました。大きなモノを動かす緊張感は増しましたね。

――JFEエンジではどんな仕事を?

瀬尾さん まず携わったのは、東日本大震災で壊れた橋の復旧工事の現場です。宮城県内の角田市と柴田町の2箇所を担当しました。

その後、首都高の大規模更新事業を担当しました。この現場は、中央環状線の利便性向上を目的として、東京都板橋区の板橋JCT〜熊野町JCT間で2層3車線の高架橋を4車線化するという工事でした。そして、今の現場に来ました。

――今の現場はどういう現場ですか?

瀬尾さん 東京都足立区の江北JCTから埼玉県川口市の川口JCTを結ぶ首都高速川口線の耐震補強工事の現場です。延長で言うと、10kmほどあります。

橋桁を支える支承部の交換、落橋防止装置の設置が主な仕事で、5つの現場に分かれています。交換する支承部は全部で2,523箇所、落橋防止装置は1,288箇所に設置します。事業費は180億円ぐらいです。

首都高速川口線の耐震補強工事の現場

私は、これら5つの現場の総括として、現場に入っています。この現場には、設計部隊を含め、50名ほど入っています。

2018年にそれぞれの現場で工事に入って、いくつかの橋脚ではすでに支承部の交換が終わっており、塗装をやった後、足場を解体していくながれになります。一橋脚ずつ完成させていく感じで、完了は2022年の予定です。

取替えが完了した支承部

「改築の仕事は、現場の人間が図面を書くんだ」

――改築がメインですか。

瀬尾さん そうですね。私は「新設よりも改築の仕事のほうがおもしろい」と思っているので、やりがいのある現場ばかりです。

とくに前の首都高の現場は、橋脚そのものを取り替えるという大規模な工事でした。車を通しながら、橋脚を取り替えていったのですが、こういう工事は、既存の工法などを使っただけでは、うまくできません。新しい方法を考えたり、新しい機械を使ったりしながら工事を進めたわけですが、それがおもしろかったです。

「改築工事の本質はなんなのか」というと、なにかに書いてあることをやるのではなく、その「ウラ側に何があるのか」を考えることだと思っています。マニュアル通りにやること「だけ」ではありません。そのためには、現場を見て感じて、その現場に合ったものをやることが大事だと考えています。

ただ、改築の仕事はやはりコワイです。ドキドキします(笑)。例えば、橋桁をジャッキアップして支承部を取り替えるのですが、道路には当然オートバイも走っています。橋桁にちょっとでも段差が生じると、大事故につながります。

従来は普通にジャッキをもんでジャッキアップしていましたが、実際の変位を可視化するなど、絶対に間違いがないように工夫しています。

――「改築のほうが面白い」というのは昔からですか?

瀬尾さん だんだんそう考えるようになった感じですね。若いころは、やはり「新設の大きな構造物をやりたい」という思いがありました。

ただ、ちょうど私が土木の仕事を始めたころから、長大橋プロジェクトがなくなって、メンテナンスの時代になりました。そういう時代の流れもあって、大きな構造物をドーンとつくるのではなく、改築での難しい仕事をやり遂げるおもしろさにだんだん目覚めていったようなところがあります。

大きな構造物であったとしても、危ない工事はある一点だったりすることが少なくないんです。高いレベルの品質を求めていく上でも、現場の安全管理を徹底する上でも、局所的なところを詰めていくのが楽しいです。

周りには「改築の仕事は、現場の人間が図面を書くんだ」と言っています。竣工図をもとに工事を進めると、手戻りが多くなりますし、まず失敗します。やはり、実際にモノをつくるのは現場なので。

困っている人がいる限り、土木技術者はやんなきゃいけいない

――応急復旧などの緊急工事を担当することもあるのですか?

瀬尾さん ありますね。緊急工事で言えば、台風で大きな屋根が飛んで、道路に覆いかぶさったことがあったのですが、その撤去作業を担当したこともあります。夜中の作業で大変でしたが、そういう仕事もやりがいを感じます。

現地でCADを引くわけにはいきませんから、電卓を叩いて、こうするああすると決めてやっていく感じが好きです。困っている人がいる限り、土木技術者としては、やんなきゃいけないんです。

――大変だった現場は?

瀬尾さん 首都高の4車線化の現場ですね。2層構造の高架橋を支えるラケット型の橋脚だったのですが、道路の上にも橋脚の梁があるような構造だったので、これの取替えは大変でした。しかも3車線のうち1車線は車を通さないといけませんでした。

当然、機械のテストなど事前に色々準備をするのですが、アタックするのは一発勝負なので、その瞬間はものスゴく大変でしたし、ピリピリしますが、スゴく興奮しました。

橋桁をジャッキアップする際、設計段階でひずみや反力などをシミュレーションした数字はあるのですが、現場では、実際に車が通ったりして荷重がかかったりするので、まったく違う場合があります。それをどう読むかが難しいところです。数ミリ単位で橋桁を上げていくのですが、問題が起こらないよう見極めながら慎重に行いました。

支承を取り替えて、橋桁を戻す際にも、設計思想通り戻す必要があります。橋桁の反力をうまく橋脚に伝えないと、工事そのものが無意味になってしまいます。

例えば、4つ主桁があったとして、真ん中の主桁が全然効いていない施工をしてしまったら、「改良工事」ではなく、「改悪工事」になってしまいます。

「事故があって、良い勉強になった」は大きな間違い

――日々の仕事で気をつけていることはありますか?

瀬尾さん 自分自身のチェックですね。自分で自分をチェックするのは難しいです。自分が「こうだ」と思ったことが正しいかどうかは、自分でチェックできないからです。自分が現場のトップだとしても、周りからなにか指摘された場合には、真摯に耳を傾けるようにしています。

会議などのかしこまった場だけでなく、雑談中でも確認することにしています。自分で落とし穴を掘ちゃうこともあると思うので、自分では気づかない落とし穴を埋めるような感じです。

中には、自分の考えを押し通そうとする人がいますが、選択肢が一つしかないということはないので、私はそういうことはしないよう心がけています。

――安全管理のためにやっていることは?

瀬尾さん 毎日夕方の5時半に全員集めて、10分間ほど工事のポイントなどを伝え、情報共有するようにしています。メールなどで情報共有する手段もありますが、「読んどけよ」と言っても、誰も読まないので(笑)。

たまに「事故があって、良い勉強になった」という人がいるんですが、絶対そんなことはなくて、そういうことを言う人は考え方が根本的に間違っていると思います。過去の事故事例なんか沢山ありますから、経験して覚える必要はないです。

若いもんは、失敗しても良い。ベストを尽くせ。

――若い社員の育成はいかがですか?

瀬尾さん とにかくいろいろな経験をさせることですね。発注者との打ち合わせなどにも若い社員を同行させます。パソコンが得意だ、書類づくりが上手だといって、そればかりさせるのはもったいないです。

フィールドワークをさせないのは、この業界のおもしろさをわからないままにさせることだと考えています。荷が重いかもしれないけど、とりあえず任せて、なにかあったら私が最後責任をとるという考えでやっています。

もし、「なんで発注者にあんなことを話した」と叱ると、もうしゃべれなくなっちゃいます。現場の雰囲気が縮こまっちゃうと、二度と元には戻せません。

「若い社員がベストを尽くしたんだったら、それはそれで良い」「多少間違えても、前に進んでいれば良い」というスタンスで見守ることにしています。足場を組んで、モノを見ながら、なにをどうするということを決めていくことにしています。

自分のやっている仕事を対外的に発表することも大事なので、例えば土木学会全国大会で発表する論文作成などもやらせています。土木のプレイヤーはわれわれ現場の人間であり、われわれがどんどん発信していくものだと思っています。

発表して、困っている人にその技術を使ってもらえれば、土木技術者としてこんな嬉しいことはありません。

――発注者への説明で工夫していることは?

瀬尾さん 3Dの映像で説明したり、模型をつくって説明することもあります。橋の経験の少ない若い発注者の方が、橋のウラ側に何がどのようについているか、規模とか寸法をイメージしやすいように工夫をしています。

発注者などへの説明のためにつくった橋桁支承部の模型

品質を高めるため、3Dや模型以外で、お互いの感覚の差を埋め合わせる良い方法はないかいろいろ考えているところです。

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