魅力を伝える急所は、"家"!?職業教育の講師が教える「建設業の魅力の伝え方」

魅力を伝える急所は「家」 職業教育の講師が教える”建設業の魅力の伝え方”

皆さんは、建設業の魅力をどう伝えていますか?

この記事は、中学校での職業教育の講師経験に基づいて、子どもたち(小学生、中学生、高校生)に建設業の魅力をどう伝えたらいいかに関して思うところをまとめたものです。

タイトルにもあるように、急所は「家」だと考えています。高校生等に業界説明する採用担当の方や、私同様に職業教育の講師をなさる方に読んで頂き、何かのヒントにして頂ければ幸いです。

中学校で職業教育の講師をしています

土木系建設会社に勤める私は、ここ3年間ほど地元中学校からオファーを頂き、職業教育カリキュラムの一環として、建設業の仕事内容やその魅力を伝える講義の講師というものを務めている。講義といっても、20人程度のグループに分かれた生徒を前に45分間程度、ざっくばらんに話をするというもので大袈裟なものではない。

最近の中学生というのは大変なもので、14歳くらいから将来の夢やキャリア、なりたい自分のようなものと向き合い、さらには、学校によっては他の生徒の前で発表するらしい。就職活動の早期教育のようなものだろう。とはいえ、中学生の置かれた世界といえば、家族とクラスと部活くらいで非常に狭い。そこで、外部講師を学校に招き、仕事の世界や世の中というものを生徒に知ってもらおうというのが、この講義の目的である。


建設業について中学生が知っていること

この講義をする際、冒頭に必ず、「建設業について知っていることは何ですか?」という質問をしている。それは、目の前の生徒がどの程度の知識を持っているかを把握してから講義を始めたいからである。

また、各生徒のキャラクターを大まかにつかむことができる。最初の5分程度をこれに充てており、これまで100人程度に同じ質問をしてきた。その結果をまとめると次の通りである。

  • ダントツ1位 家に関する回答(家を作っている、家を設計している、大工など)
  • 2位 肉体労働に関する回答(筋肉、ヘルメット、日焼け、危険など)

この2つが圧倒的シェアを占め、3位以下は細かいものが並ぶ。あえて乱暴に言うと、中学生の頭の中にある建設業とは、「家」と「肉体労働」なのだろうと私的には理解している。

「建設業=家、肉体労働」というイメージが圧倒的に強い

「建設業=家」という認識が強いことには正直驚いた、というか意外であった。そりゃそうだろうと思われる方が多いのだろうか?私の頭の中では、「家=ハウスメーカー、工務店、大工」のイメージが強く、いわゆる建設業とは割と広めの距離を感じているところである。

また、肉体労働系が上位になる理由を考えたところ、中学生が最も目にするのは、現場で働く筋肉たくましい職人なのだろうと思い腑に落ちた。特に、土木職人は屋外仕事が多いので、「建設業=土木の職人」という認識が強いのかも知れない。なお、中学生のほとんどは、それを「土木」とは認識していないし、そもそも土木という語彙を有していない。

土木職人は建設業内の確固とした一側面であるが、ご承知の通り、それに限らず、建設中の建物内に入れば多様な室内工事をしている職人が働いているし、監督は現場巡回したり現場小屋でパソコン仕事をしたりしているし、その工事を設計した設計士がいるしと、そこには別世界が存在する。もちろん、そんなところまで想像力を膨らますよう中学生に求めるのは無茶な要求である。

この背景には、建設業の安全管理があると考えている。安全管理の名のもとに仮囲いをパーフェクトにやってしまうと、外からは何も見えなくなる。見えるのは、昼休みにコンビニに集まる職人達であろう。建設業は安全を追求した結果、その仕事をベールに包むことにした。その結果として、建設業のイメージ=家、又は、土木の職人となっているのだと思う。


興味がないわけではなく、何も知らないだけ

以上のアンケート結果と、その後の講義や質疑応答を通じて、中学生は建設業に興味がないのではなく、そもそも何も知らないということがわかった。「建設業は3Kだから人気が無い」などと言われることがあるが、実際には3Kというイメージさえ持っていない。

そこで、中学生に対しては、建設業のイメージアップという切り口ではなくて、そもそも建設業はこんなことをやっているよ、ということを伝えるのがよいと考えるようになった。このスタンスは初期から継続してきた。

講義の構成を「家」中心にすると、学生のノリが全然違う

さて、私は土木屋なので、土建屋としてのささやかなプライドがある。そのため、「家」と答える生徒達に、「家もあるけど、建設業はそれだけじゃない!道路もあるよ、災害対策もあるよ!」と建設業の広範さを伝えようとしてきた。

これはこれで生徒たちは興味深く聞いてくれたが、2年くらい続けるうちに、「建設業=家」という強固なイメージに対して、「家もあるけど…」と否定するのはイマイチではないかと思うようになった。そこで、ある時、「家」のイメージを全面肯定する構成を試してみた。

具体的には、1軒の家を建てるために必要な工事を1つ1つ解説するようにした。実際には、生徒に対して「みんなが住んでいる家を作るためには、どんな工事が必要ですか?」と質問し、その答えについて解説するというやり方を採用した。

例えば、「屋根!」と言われたら、木造住宅の屋根がどのような素材で、どのように施工するのかを説明した。また、「お風呂!」と言われたら、ユニットバスをどう組み立てるか、水道管をどうやってお風呂まで引っ張ってくるか説明をした。

よく考えてみると、家には、建設業のほとんどの工種が集まっている。建設業許可の一覧表を見ながら以下代表的なところを列挙すると、大工、左官、とび・土工、屋根、電気、管、板金、ガラス、塗装、防水、内装仕上、電気通信、造園、建具などである。そのため、家の作り方を解説することで、建設業の多様な工種を概ね全て解説することができた。また、ある時は、住宅設計図の見本を持参したところ、生徒たちは驚くほど熱心に図面を読んでくれた。

このように「家」中心の構成に変えた途端、生徒たちの食いつき、ノリが大きく変わった。生徒の発言や質問の数が増えたし、笑ったりびっくりしたりと表情豊かになった。よく知っている世界の話であるから、理解しやすいし、興味を持てるからだと思う。「建設業=家」を肯定することで、ずっと実のある講義ができた。最初からそうすればよかったと後悔している。


建設業の魅力を伝える急所は「家」である

建設業では人手不足が叫ばれている。しかし、よくよく考えてみると、人口減少の中でどの業種でも人手不足は叫ばれており、いわば業種ごとで、限られた若者を取り合う戦争をしているようなものである。そんな中、建設業が「家」を独占的に持っているのは強力な武器である。

子どもが置かれた世界は非常に狭いが、狭い世界の中心には、あらゆる工種が詰まった「家」がある。むしろその狭さを活用したいところである。特に、仕事内容を日頃ベールに包んでいるのであるから、なおさら積極的に活用していきたい。

もちろん、自身の仕事が「家」とはかけ離れているという方もいらっしゃるだろう。その場合であっても、ほんの少しでも家とのつながりを明示することで、子どもたちはぐっと身近な話題として受け止めてくれると思う。例えば、ダムの話をするとしたら、家の基礎にはコンクリートが使われることを説明した後に、同じくコンクリートを使ってダムを作っていることを説明する。大きなビルを建てる話であれば、戸建住宅と同じところ、違うところを挙げながら説明する、などがパッと思いつく。

・・・ここまでの「まず家から始めよう」が、私のこれまでの3年間の学びであり、4年目もさらに磨きを掛けていきたいと思っています。失敗を経てというのが若干恥ずかしいものの、これから学生向けに業界説明する採用担当の方や私同様に職業教育の講師をなさる方へのヒントとなれば幸いと思い記事にまとめました。お読みくださりありがとうございました。

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