橋梁補修工事

「橋梁の劣化は加速度的に進んでいる」 九州の現場監督が抱く危機感

設計にないひび割れやコンクリートの剥落

私は九州地方でPC(プレストレストコンクリート)橋梁や鋼橋の補修工事を行っています。

建設業界で働き始めて7年がたちますが、最近は橋梁補修工事の施工管理に3年間携わってきました。そんな中でも印象に残るある現場がありました。

補修の対象となる橋梁は山奥にありました。設計では桁下のコンクリートのひび割れのひび割れ注入工や浮きがある箇所の断面修復工があり、1カ月程度で終わる工事と見込んでいました。ところが、現地調査をしたところ橋面を見ただけで凍害や融雪剤による塩害、鉄筋腐食による地覆の欠損が多くみられる状況でした。

嫌な予感がしつつも、私たちは吊り足場を組み桁下の損傷を点検しました。すると設計にはなかったような疲労によるひび割れやコンクリートの剥落が膨大にあり、慌てて発注者の監督員を呼びました。

監督員は現地の状況と設計図を見比べたあと、「すべて設計変更の対象とするので、調査結果の図面と写真を提出してください」と言い残し、そそくさと帰っていきました。

その後、再点検を終えて結果を集計したところ、ひび割れ注入の延長や断面修復の面積が当初の設計数量から約3割増となりました。そのために工法の変更や材料の追加発注、工期の延長、現場作業員の確保など当初は見込んでいなかった作業が発生してしまいました。

「現場は生き物」とよくいいますが、この現場では設計と現地の状況があまりにかけ離れていたため深く印象に残りました。


加速度的に進む橋梁の劣化

それにしても、どうしてこれほどまでに設計と現地の状況に差があったのでしょう? 気になった私は、監督員にお願いして設計コンサルが作った設計資料を借りて調べることにしました。

すると意外な事実が判明しました。コンサルによる調査日はなんと工事の4年前、その時点で橋梁の塩害や疲労などの劣化が進展期に突入していたのです。コンクリートの劣化が外観に現れてくると内部への劣化因子の侵入が増え、劣化が加速度的に進展します。そのため、すぐにでも補修をしなければならない状況だったことがわかったのです。

どうして点検から4年もの間、補修工事が発注されなかったのでしょう。たまたま今回の橋梁は大きな事故が起きる前に補修することができたので良かったものの、日本全国には老朽化した橋梁が多くあり、その大半が補修のしようがないまま今日も供用されています。土木に携わるものとして背筋が凍るような思いです。


取り返しがつかなくなる前に、橋梁の補修を

日本の橋梁は、高度経済成長期に集中的に整備されてきました。当時は橋梁の長寿命化について考えた設計でなかったため、建設後50年も経つと激しく劣化してしまいます。

国土交通省の「社会資本の老朽化の現状と将来予測」 によりますと、道路橋等のインフラについて、3年後の2023年3月には橋梁のうち建設後50年以上経過する割合が約39%にも及ぶとの予測が発表されています(出典:「社会資本の老朽化の現状と将来 – インフラメンテナンス情報」)。

こうしている間にも、橋梁の劣化は刻々と進んでいます。今はまだ橋梁の劣化が外観に現れていなかったとしても、その内部では鉄筋の腐食やコンクリートの微細なひび割れなどの劣化が確実に進行しています。

やがて橋梁の機能が低下すれば、耐荷重が下がり供用に制限がかかったり、最悪の場合通行止めせざるを得なくなったりすることで社会に大きな損失を与えてしまいかねないのです。

こうした補修は、地味なだけに市民の理解が得られにくく、予算が十分に割り当てられなかったり、そもそも発注者の土木職員が不足していたりすることで発注にも限界があることは重々承知しています。それでも発注者の皆様には、今以上に早く補修工事の発注をしていただきたいと一介の現場監督として強く願っています。

取り返しがつかなくなる前に。

ピックアップコメント

多くの役所のの技術系職員は予算と計画の中で順番に対応しているだけで、定期的な構造物の点検を行うこともせず、また点検するだけの技術力を持っていないのが現実です。過去の経験から考察するに役人根性丸出しの方も多く見受けられます。また、都合が悪いと資料すら見せてくれない方もいます。熱意をもって一生懸命取り組んでおられる方もいるので非常に残念です。

この記事のコメントをもっと見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!
“月3万円~”で水害大国・日本を守る。河川工事でも水位計の設置がスタンダードとなるか?
「国内76万か所の橋を全部撮る」 土木素人が”橋梁写真”に魅せられたワケ
BIMを活用したいけれど、どうすればいい? アウトソーシングや人材派遣で解決しよう
九州で橋梁補修工事の現場監督として働きながら、土木系VTuberとしてツイッターで情報発信したりコンクリートにまつわる動画を投稿したりしています。
1級土木施工管理技士とコンクリート技士の資格を持っています。コンクリート診断士の勉強中です。
Twitter:https://twitter.com/nodoka_taira
モバイルバージョンを終了