株式会社ナックの大場 直樹氏

株式会社ナックの大場 直樹氏

【工務店 大淘汰の時代】コンサルが語る再生の道は「モノからコトへ」

工務店特化型の経営コンサルとは?

中小零細工務店業界は次第に社数も減少し、事業承継もすんなりと進んでいない実情がある。効果的な集客、セールストーク、人材確保・育成・定着など、工務店業界にはさまざまな課題が山積している。

株式会社ナック(東京都)は、28年前から全国の中小零細のビルダー・工務店に特化した経営コンサルティングを行い、今や全国7,000社が活用する規模へと拡大。同社のコンサルを受け、全国的に有名となった工務店も多い。

コロナ禍により、一層の経営危機を迎える工務店も多い中、株式会社ナックの上席執行役員、建築コンサルティングカンパニー代表の大場 直樹氏に、工務店業界の再生について話を聞いた。


住宅建築業界はブラックボックス

――御社の概要からお願いします。

大場 直樹氏 株式会社ナックの特徴はコングロマリットであり、大きく分類すると、三つのカンパニー制を敷いております。大枠では、創業事業でありダスキン最大の加盟店等を運営するレンタル事業と宅配水のクリクラ事業、そして建築コンサルティング事業です。それ以外にも化粧品や健康食品を取り扱う「JIMOS」や、住宅事業の「ジェイウッド」、「ケイディアイ」「国木ハウス」などのグループ会社があります。

――建築コンサルティングの事業を開始した理由は?

大場 創業時より「暮らしのお役立ち」「消費者のお困りごとを担う」「つねに消費者と向き合う」ことを軸としたコングリマリットであることを基本戦略としていますが、ダスキン商品のレンタル事業の中で、住まいに対する不満の高さが分かったことがきっかけです。

建築コンサルティング事業では、「ビルダー・工務店」の永続化を念頭に、「住まいを通じ豊かな未来を創造する」をミッションとして、新たな価値創造に挑戦しています。

――具体的にはどのような事業?

大場 住宅建築業界はブラックボックスなんです。一般消費者は、家を建築するに当たって、経費がいくら掛かるのか見当がつきません。この経費を明確にし、さらには施工の標準化を図ることにより、材料などの購買が安価になり、工期も短縮化できるため、最終的に原価や売価も安くなります。

当社では、このシステムをパッケージ化し、全国7,000社のビルダーや工務店に提供しています。提案した商材を使い、ご自身の力でカスタマイズし、有名になった住宅建築企業も数多くあります。

毎回、盛況なナックのセミナー(コロナ禍においては少人数またはオンライン開催)

ハウスメーカーとの差別化は「モノからコトへ」

――中小零細工務店が解決すべき課題は?

大場 「モノからコトへ」をキーワードに、ビルダーやハウスメーカーとの差別化を図ることです。

住宅の機能や製品の差別化を、ハウスメーカーやビルダー、工務店が一斉に追求するとどうなると思いますか? 最終的には、住宅建築はコモディティ化(価値の同質化)するんです。すると、ハウスメーカーであろうが地元工務店であろうが、消費者にとってはどこに依頼しても品質に大差のない状態となり、結果的に価格競争に陥ります。つまり、レッドオーシャンの競争にさらされるわけです。

そうならないためには、「家を建てる」こと自体ではなく、その本質を問わなければなりません。例えば、スマホを購入するとき、その人はスマホ自体が欲しいのではなく、人とコミュニケーションを取りたい、仲間と情報共有したいからこそ、スマホを購入するわけですね。

新築住宅も同じなんです。機能・品質がしっかりしていることは大前提ですが、家族と長く楽しく幸せな生活をするために、消費者は高い住宅ローンを組んで家を建てるんです。ですから、工務店は住宅という「モノ」に加えて、「コト」のサービスを充実させるべきなんです。

――その「コト」とは、どのようなもの?

大場 例えば、家を建てられた方々を集めて、定期的なイベントを開催するなど、”オーナーズクラブ”のようなものを形成していくことが大切になります。つまり、「家を建てたら、こんな素敵な生活が待っている」ということをアピールするんです。

しかし、地元工務店でもそこまでやっているところは少ないのが実情です。各社とも契約をもらうまでは一生懸命にやりますが、購買後のアフターケアまでしっかりとやれば、紹介に次ぐ紹介でいい循環も生まれます。そうすれば、広告宣伝費ゼロでも工務店経営が成り立ちます。

とはいえ、最初は関係性を維持できても、それを長く定期的に続けることはやはり難しい。私どものソリューションでは、この顧客との関係性を定期的に長く続ける施策であったり、顧客向けのイベントで話すコンテンツ、さらには席の配置からSNSの運用方法など、具体的な施策を提案しています。同じセグメントで、同業者が実施しているコンテンツのため、蓋然性が高いことも特長の一つになります。

集客のポイントは”社員教育”

――工務店の集客のポイントは?

大場 集客には紙やPC・スマホ、SNS、リアル店舗の複数媒体を活用していくわけですが、ここで重要なのは、どのチャネルから問い合わせをしても、同じクオリティでの接客や回答が返ってくることです。

例えば、「今月契約したら、いつ頃完成するでしょうか?」と問い合わせがあったとしましょう。ある社員は「2か月くらいでしょうか」、別の社員は「今、込み合っているから半年はかかりますね」と話すことがバラバラでは、不信感を抱かせてしまう。そのため、クロスチャネル化による情報の共有、そして社員教育がポイントになります。

――人材を集め、育成する方法については。

大場 人材育成も、今お話した集客と共通する点があります。企業からすれば、たくさんの方に応募してもらい、その中から取捨選択し、さらに定着してもらう必要があります。

そこでポイントとなるのは、企業の「社会性」「事業性」「革新性」。つまり、企業の事業戦略を明確に掲げることです。「この事業に参加したい」という夢を持った人材が入社するのが最も望ましいからです。また、入社後のキャリアパス、教育モデルもしっかり明示しなければなりません。

こうした集客や人材確保・育成の手法については、他業界では当たり前のことです。ところが、中小零細の工務店では、こうしたモデルが用意されていない。ですから、工務店はまずは”普通の会社”とならなければなりません。

これからはしっかりした企業体制を組まなければ淘汰されていきます。お金が回らなくて倒産するのではありません。社会から必要とされずに、倒産していくんです。


勝ち残るには”競合をつくらないこと”

――これから工務店業界はどうなりますか?

大場 社数は減少し、強弱の2極化がより明確になっていきます。弱い工務店は廃業か下請けに特化するようになっていくと思います。

――その中で、勝ち残っていく工務店の在り方は?

大場 例として、奈良県のSOUSEI株式会社を挙げさせていただきますが、ここの創業者で前社長の乃村一政さんは、元吉本興業の芸人で類まれなるコミュニケーション能力をお持ちです。加えて、秀逸な経営戦略を基礎から積み上げ、自社の強みと弱みを明確に分析しました。そして、開発、製造、販売、サービスというバリューチェーンの中で、経営資源のすべてを販売とサービスに特化しました。商品の開発と製造は外注しています。

つまり、乃村さんは工務店をサービス業と定義し、競合に勝つ戦略ではなく、競合をつくらない戦略を図ったんですね。モノや機能だけを進化させていくとコモディティ化が進みますが、サービスに特化していくと敵と戦わず、自社の土俵を確立することができるわけです。

――新型コロナウィルスの影響も含め、これから工務店がやるべき対応は。

大場 今、新型コロナウィルスの影響で、焦ってあれもこれもやろうとする方がいます。ですが、まずすべきことは競合の分析、そして地域の消費者の分析です。その上で、先ほども申し上げましたが、接客の標準化をすることです。そのためには、無駄な打ち合わせを減らし、製品や商品の統一化、合理化していくこと。例えば、消費者との打ち合わせもオンライン予約制も検討していくべきです。

また、新型コロナウイルスにより、消費者も様子見をしている傾向が見受けられます。給与の削減や自身の失業に不安を抱いているからです。こうした不安を払拭するために、万が一失業した際には、住宅ローンを9か月総額45万円を補償するサービスを展開している工務店もあります。最終的には、消費者のライフスタイルに寄り添いながら、消費者が満足いくようなサービスの提供をしていくことに帰結します。

この記事のコメントを見る

この記事をSNSでシェア

こちらも合わせてどうぞ!

関連記事はありません

建設専門紙の記者などを経てフリーライターに。建設関連の事件・ビジネス・法規、国交省の動向などに精通。 長年、紙媒体で活躍してきたが、『施工の神様』の建設技術者を応援するという姿勢に魅せられてWeb媒体に進出開始。