コスモスイニシアとリコーがタッグ
新型コロナウイルスの影響でテレワークがかつてないほど広がり、新しい住環境の在り方が模索されている。
こうした中、大和ハウスグループのコスモスイニシアとリコーは、”住空間×働き方”をテーマに「コモリワーク」や「ドマワーク」といった、住環境の新たな価値を創造しようとしている。
「”仕事とプライベートの融合”をテーマとしたリノベーションマンションは今後、一般化していく」と語る株式会社コスモスイニシア流通事業部 商品企画部の岸本泰明氏に、新しい働き方を生み出すためのリノベーションについて話を聞いた。
リクルートグループだったコスモスイニシア
株式会社コスモスイニシア 流通事業部 商品企画部 建築課課長の岸本泰明氏
――大和ハウスグループの中でコスモスイニシアの位置づけは?
岸本さん 発祥はリクルートグループで、業態も設立時は映画会社でした。その後、1974年に業態と社名を変更し不動産業を開始し、2005年にリクルートグループから独立。2013年6月には大和ハウス工業と資本業務契約を締結し、現在は大和ハウスグループとなっています。大和ハウス工業とマンションの共同事業を推進するほか、各事業での連携を進めています。
当社の主な事業はマンション分譲、新築戸建て、リノベーションマンション等のレジデンシャル事業のほか、投資用不動産売買・仲介や賃貸におけるサブリース等のソリューション事業、アパートメントホテル「MIMARU」というブランドのホテル等の開発・運営を行う宿泊事業を展開しています。
――ちなみに、リクルート独特の企業文化は残っている?
岸本さん 私はリクルートグループ時代から在籍しておりますが、文化は根付いていると思います。比較的自由度が高く、リクルートが社訓として掲げていた、「自ら機会をつくりだし、機会によって自らを変えよ」という価値観は大切にされており、今回のリコーとのタッグも現場主導で進めています。
また、余談ではありますが、私の新卒入社当時は建築系学部出身者も入社1年目は必ず営業を担当するというルールがありました。まず新築マンションの販売に携わり、翌年からは工事現場を知るためにゼネコンへ出向し、現場を担当しました。
営業と現場の両方を熟知していると、お客様へのヒアリングの結果を、現場に具体的に反映することができます。とくにリノベーションは勘どころが重要なビジネスですし、ジョブローテーションによる営業と現場の複合的な知識を備えることは大切なことです。
ゼネコンや設計事務所を経て、当社に中途入社した社員は、入社当日に衝撃を受ける人も多いですね。ほかにも、リクルートの文化として、役職で呼びあわず、上下関わらず意見交換し、すぐに行動に移すなど、自由度の高さが良いアイディアの創出にも繋がっていると思います。
仕事とプライベートが融合する「コモリワーク」とは?
――今回、リコーとの共同アイディアによるリノベーションマンションが完成しました。
岸本さん 現在、新型コロナウイルスの影響でテレワークが広がっていますが、このプロジェクトはウイルスが拡大する以前から、テレワークで創造的な働き方を実現するための住まいの在り方を、リコーと共同で模索していたんです。
当社は住まい領域に、リコーは働く領域にそれぞれ強みを持ち、双方の強みを活かせば何かイノベーションが生まれるのではないかと考えたのがきっかけで、「仕事とプライベートが融(と)ける家」というコンセプトでプロジェクトがスタートしました。
当社とリコーのそれぞれテレワークしている社員にヒアリングをし、「家の中で仕事に集中する」ことと「仕事以外の空気に触れ、気分転換や着想を得る」ことができる住宅を、晴海と西早稲田の物件で実現しました。
「仕事とプライベートが融(と)ける家」の空間コンセプト
――通常のリノベーションとの違いは?
岸本さん 家族との連続性を確保しつつ、自宅で創造的な仕事を生み出せる。そんな新たな価値の創出を目指した点です。テレワークでは、まず働くスイッチに切り替えることが必要です。さらに、家にいながらも仕事のアイディアを生み出せるような環境も必須です。そのためにはクローズな環境ではなく、家の雰囲気を感じながら働けるような環境でなければなりません。
今回の取材現場である「エド・コモン西早稲田」の物件では、家の中にこもれる空間をつくり、集中して作業できつつも、デスクから家族の様子や窓の外を眺められるよう工夫しています。このスペースを私たちは、「コモリワーク」と命名しました。
「コモリワーク」にて。作業に集中しつつも、家族とコミュニケーションが取れる設計。
このスペースに入る際に、ステップを3段登ることで”仕事をする”というスイッチに切り替わり、右を向けば、キッチンの様子も分かります。また、掘りごたつのように足が伸ばせるため、仕事をする際もリラックスできる環境です。
ほかにも、超至近投影が可能なリコーの「超短焦点プロジェクター」(別売)を設置できるようにし、会社の様子や社員のプレゼンなどを投影することもできます。
リノベ工事で重要なのは”レスの速さ”
――施工のポイントは?
岸本さん リノベーションマンションですので、躯体の高さが限られる中でワークスペースと収納が重層したスペースを設置するために、それぞれの天井高さをどう確保するかに苦労がありましたね。また、新ガラス建材を採用したため、納まりについても議論しながら施工しました。
――マンション一室をリノベーションする際に、施工会社に求めることは?
岸本さん 発注者として200戸、元請として50戸を、30~40の業者にバランスよく発注していますが、リノベーション工事において、施工会社に求めることはレスポンスの早さです。リノベーションでは、可能な限り事業期間を短縮しなければなりません。リノベーションでは図面通り納まらないことも多いため、報告は早くいただけるとありがたいですね。
やり取りも多くなるため、施工会社にはご苦労をお掛けしていることもあります。ですが、当社としては施工会社に対して「現場でうまく納めておいて」と丸投げしたくないので、一緒により良いものをつくっていくためにご理解いただいております。
晴海の物件で実用化された「ドマワーク」。“家の中に外がある”をコンセプトに、玄関と一体となる土間のような空間を設けている。
――これからの展開については。
岸本さん 「仕事とプライベートの融合」(仕事と生活はバランスを取り合うものではなく、どちらも充実させて互いに融合するもの)というテーマでのリノベーションマンションは今後、一般化していくものと思いますので、リコーと継続して議論を行っているところです。
また、満員電車に乗って都心の会社へ毎日通勤する生活が今後も続いていくとは考えにくいため、住まいでもなくオフィスでもない、新たな働く環境の創出も目指しています。例えば、1階の共用スペースにワークスペースを設置し、そこで仕事ができる環境を備えた新築マンションもこれまで販売しており、今後もより時代に合わせた仕掛けを考えたいと思います。
今、当社は「Next GOOD」と称し、不動産業界の中でいち早く新しい価値を提供する試みを展開しています。今回の「仕事とプライベートが融ける家」もその取り組みの一環です。住宅を通した社会課題の解決に邁進しています。