重機がないから、人力で掘削して漏水箇所を捜索させられた話

水がでない・・・

プロフィールにも書いていますが、私は海上自衛官として約15年勤務してきました。海上自衛隊には大きく分けて艦艇基地と航空基地があります。私はどちらかというと艦艇基地を主として勤務してきました。

艦艇基地は塩害が多いため、建屋が痛みやすいです。今回は、某南の島で平成20年頃に勤務していた際の塩害と老朽化に関する体験談です。

南の島の部隊はかなりの田舎にありましたが、自治体による上水道は整備されており、その水を基地の貯水槽に引き込んで使用していました。

この基地は海上自衛隊の中でも特殊な配置をしていました。なぜなら、基地すべてが米軍基地の中に所在しているからです。基地の出入門管理はすべて米軍が行っており、海上自衛隊の一部の施設は米軍の土地を借りて建設されています。

また、米軍の桟橋も日米地位協定に基づき共同使用していますので海上自衛隊の艦艇も出入港することができます。

海上自衛隊のこの基地は、昭和48年頃に新編されました。この基地の役割はこの島周辺で行動する護衛艦や潜水艦に対する補給(食料、燃料、水等)を主任務としていました。掃海艇等も配備されており、不発弾処理の任務にあたることもあります。

とある夏休み期間中、隊員は交代で休暇を取っていました。私は残留組として通常どおり部隊に出勤し勤務していました。早朝に一本の電話が鳴りました。

「〇〇科の△△です。朝から水が出ないんです。昨日は普通に出ていたんですが、見ていただけませんか?」

私は残留組の部下に現場に行くとともに、他に水が出ていない施設があるかどうかを確認するように指示しました。私は各基地に備えているインフラ台帳と竣工図を書庫に探しに行きました。すると・・・。

30年間まったく更新されていない給水管

まずは竣工図面を確認すると、電話がかかってきた〇〇科の建屋周辺の給水管は”樹枝状配管”で整備されていました。また、台帳を確認すると”CIP”と記載がありました。なんと”普通鋳鉄管”が使用されています。維持管理台帳を見ても記録がないので、整備された昭和50年頃に整備されてから全く更新されていないようです。

しかし、米軍とは給水ルートが別なので「海上自衛隊だけの問題で」となり、大きな問題はなさそうなので一安心しました。

先ほど現場に出かけた部下から連絡があり、科内の蛇口や建屋の配管ルートから水漏れはしていないこと、また断水しているのは電話が来た〇〇科のみであるとのことでした。結論として、枝管から漏水しているとしか考えられません。

この〇〇科は桟橋沿いに建っており、目の前は桟橋とビーチしかありません。地盤は当然のことながら砂です。

漏水場所を自力で特定しろ!

私も現場に行き、部下と図面を見ながら漏水箇所の範囲を推定しました。枝管とはいえ、最低でも建屋に引き込むまで7~8mはあり、一部はアスファルト舗装です。経理に給水管の臨時補修のために外注工事を出したいと調整をすると、「漏水場所を特定しピンポイントで補修すること」と言われてしまいました。

大きなお世話だ、と思いながらも部隊に重機がないことを説明して、業者に掘削して漏水箇所を特定し、補修することで発注してはどうか?と問うと、

「アスファルトの箇所に業者が入ることは認めますが、砂の部分は自力で掘って漏水箇所がないかどうか確認してからにしてください」

との塩対応。漏水していれば砂の部分は見ればわかるよなぁ、と思いながら部下と夏の暑い盛りを剣スコで掘っていきました。

案の定、砂の箇所は見当たらず、結局業者を呼んでアスファルトを剥がすことに・・・。その後はスムーズに補修も進み、次の日からは〇〇科も無事、水が使用できるようになりました。穴の開いた給水管は、海岸の砂まじりの塩と老朽化で痛々しい姿をしていました。

スズメの涙ほどの予算でインフラ更新ができるか!

夏休み明けにこの基地に長く勤めている電気担当技官に聞いたところ、「毎年どこかしら漏水してるさぁ。基地ができてからその都度補修しているけど、大規模な更新はしてないね。毎年、予算をつけてくれって言ってるみたいだけど、全く予算が付くような雰囲気はないさぁ」とのこと。

この数年後(記憶があいまいですが)に国土強靭化、インフラ長寿命化とやらの国家施策が声高に打ち出されていましたが、進捗はどうなのでしょうか? 少なくとも、私が在籍していた頃の海上自衛隊はスズメの涙程度の予算でインフラ更新を行っていました。

自然災害はいつ起きるかわかりません。皆さんの周りのインフラはどうですか? 住まいの周りのインフラ状況に応じて被害が変わるという視点を持ってみてもいいのではないかと思います。

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元海上自衛官。約15年間勤務ののち、建設業界に転職。 なんとか苦労して取得した一級建築士免許で細々仕事しております。
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