父親から引き継いだ鉄工所。電気保安法人に再契約を断られ、1週間もせず廃業の危機!?

父親から引き継いだ鉄工所。電気保安法人に再契約を断られ、1週間もせず廃業の危機!?

T社長との出会い

ある日、私が電話番をしていると一本の電話が・・・。

今では一緒に笑い話もできるくらいの関係であるT社長ですが、最初に電話がかかってきたときは、取り乱し過ぎて何を話しているのか全く分からない状態でした。

ただ分かることは、一刻も早くキュービクルの外部委託先を探すこと。

そんなT社長のお仕事は、お父様から引き継いだ鉄工所。色々とあって一度は閉鎖しようと思った工場を、女性であるT社長が引き継ぐ宣言をしたそうです。

しかし、この宣言がたった1日遅かったために、まさかこんな騒動に巻き込まれるとは夢にも思わなかったと言っていました。

この一本の電話が、T社長と長いお付き合いになるきっかけでした。


再契約のお断り、挙句に電気停止予告

T社長のお父様は、まさか自分の娘が鉄工所を引き継ぐとは思っていなかったので、当時外部委託を受けていた電気保安法人に契約解除の連絡を入れたそうです。

「再来月で工場を閉鎖するため、契約を解除してほしい」

当時外部委託を受けていた電気保安法人は、契約解除の連絡を受け、自家用電気工作物の廃止届などを準備するため電力会社にも連絡をし、閉鎖する日にちの段取りを開始していました。

しかし、その翌日、娘のT社長が跡を継ぐということになり、お父様も娘のT社長と色々と引き継ぐための事務作業をし、その作業が落ち着いた3日後に電気保安法人に再契約の電話をしたそうです。

ところが・・・。

まさかまさかの再契約のお断り!そして電力会社から、「○月○日付で電気を停止します」という予告をされてしまったのです。

とにかくパニック!!廃業の危機

T社長は、その後も当時外部委託を受けていた電気保安法人の事務所まで訪問し、なんとか契約再開をお願いしたそうですが、「会社のルールなので、困っているのは理解できますがどうにもなりません」と断られたそうです。

今までは違う会社にお勤めをし、右も左も分からない状態で勇気を出して引き継ぐ宣言をしたT社長。

親が苦労して営んできた会社であり、自分を大学まで進学させてくれたのもこの会社があったから。そんな会社を、引き継ぐ宣言をして1週間もたたないうちに廃業させるわけにはいきません。

T社長は諦めずに、当時外部委託を受けていた電気保安法人にしつこく電話をかけました。そんな時、電話口の担当者から一言アドバイスをもらったそうです。

「電気保安法人と検索してください。そうすれば出てくるようですよ」

T社長は早速インターネットで調べ、そこで検索して出てきたのが私が働いている会社でした。すぐに電話をかけたそうです。

その電話に出たのが、私でした。電話を受け、とりあえずその日の午後の予定を空けて、すぐにT社長の会社に向かいました。


今にも事故が起こりそうなほど、ボロボロな設備

工場に到着した私の当時の感想は「マジか・・・」でした。お世辞にもきれいな工場ではありません。むしろボロボロ。

早速設備を見せていただいたのですが、自分の年齢より古い設備で、よく故障しないで耐えたなという状態でした。

そのあと点検票を見せていただいても、技術者の方も10年以上お手上げだったのでしょう。検査という検査ができていない状態でした。ここまでひどい設備は、後にも先にもここだけと言い切れるほど、ボロボロな状態でした。

「父が今まで忠告され続けていても、無視していたようです。なので、報告書もこの他に2枚しかないんです。」と困った様子でT社長が話してくれました。

正直ここを受けたとしても、一時的にお客様は救われるかもしれませんが、このまま放置しておけば、間違いなく波及事故(設備などで事故が起こり、あたり一帯が停電するような事故)が起こると確信できるほど危険な状態でした。

心配そうに私の顔を見続けるT社長。その眼にはうっすらと涙も見えました。私も正直断ろうと思うほど、どう見ても危ない状況でした。

一度電気を止めて、設備を改修してから再契約したいほどのボロボロだったのです。私は覚悟を決め、T社長にこう伝えました。

「酷なことを言いますよ。はっきり言って、この設備状態で受ける会社はないと思います。理由としては、波及事故といって、この設備が原因で辺り一帯が停電する事故を起こす危険が非常に高い状態なんですよ。仮に波及事故を起こしたら、自社の損害だけではなく付近一帯で起こる損害も負担しなくてはなりません。そうなったら会社復興どころじゃなくなります。」

そうお伝えし、一つだけ条件を出しました。それは、受変電設備を全て早急に更新すること。おそらくお金は数百万円かかると思います。

新たな船出としてはかなり痛い出費だと思いますが、T社長は覚悟を決め、この条件を飲んでくれました。ただし、半年は待ってほしいということで、こちらも了承しました。

会社復興のため、条件を守ったT社長

結果として、電気を止めずに新たに経営者として出発することができたT社長ですが、設備更新までの時間は刻々と過ぎていきました。

仕事の依頼を受けた私たちも、正直、波及事故になるのではないかと毎日ハラハラしながら過ごしました。

T社長との約束から3か月を過ぎたある日、改修工事担当の電気工事店から「切り替え日が決まりましたので、○月○日に竣工試験をしていただいて良いですか?」と連絡がありました。この竣工試験日は、約束の期日よりも2か月ほど前倒しでした。

初めてT社長とお会いしたあの日、帰り際に涙を流しながら必死にお願いされたことを今でも鮮明に覚えています。あれから数年経った今では、T社長の会社事務所でコーヒーをいただきながら、笑い話をするほどの仲になりました。

「あの時、本当に諦めなくてよかった」とおっしゃるT社長ですが、私たちが動かされたのは、そんなT社長の諦めない姿や心の強さが伝わったからだと思います。

今では運営も軌道に乗り、売り上げもかなり上がったとのことで、その原動力の一翼にでもなれたのかなと思っています。

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工業大学電気工学科卒業後、工務店、工事店、電気保安法人、太陽光のO&M会社などを経て、今現在は某電気保安法人にて、営業しております。もちろん、保安業務従事者としての登録済み(受託案件は0件)。
また、お客様と保安業者をつなげるサイト「キュービクル 保安点検価格比較サイト」のコラム及び業務のアドバイスを担当しております。
技術的な話よりも、業界を知らない方向けのお話を中心に執筆できればと思っております。
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