今にも事故が起こりそうなほど、ボロボロな設備
工場に到着した私の当時の感想は「マジか・・・」でした。お世辞にもきれいな工場ではありません。むしろボロボロ。
早速設備を見せていただいたのですが、自分の年齢より古い設備で、よく故障しないで耐えたなという状態でした。
そのあと点検票を見せていただいても、技術者の方も10年以上お手上げだったのでしょう。検査という検査ができていない状態でした。ここまでひどい設備は、後にも先にもここだけと言い切れるほど、ボロボロな状態でした。
「父が今まで忠告され続けていても、無視していたようです。なので、報告書もこの他に2枚しかないんです。」と困った様子でT社長が話してくれました。
正直ここを受けたとしても、一時的にお客様は救われるかもしれませんが、このまま放置しておけば、間違いなく波及事故(設備などで事故が起こり、あたり一帯が停電するような事故)が起こると確信できるほど危険な状態でした。
心配そうに私の顔を見続けるT社長。その眼にはうっすらと涙も見えました。私も正直断ろうと思うほど、どう見ても危ない状況でした。
一度電気を止めて、設備を改修してから再契約したいほどのボロボロだったのです。私は覚悟を決め、T社長にこう伝えました。
「酷なことを言いますよ。はっきり言って、この設備状態で受ける会社はないと思います。理由としては、波及事故といって、この設備が原因で辺り一帯が停電する事故を起こす危険が非常に高い状態なんですよ。仮に波及事故を起こしたら、自社の損害だけではなく付近一帯で起こる損害も負担しなくてはなりません。そうなったら会社復興どころじゃなくなります。」
そうお伝えし、一つだけ条件を出しました。それは、受変電設備を全て早急に更新すること。おそらくお金は数百万円かかると思います。
新たな船出としてはかなり痛い出費だと思いますが、T社長は覚悟を決め、この条件を飲んでくれました。ただし、半年は待ってほしいということで、こちらも了承しました。
会社復興のため、条件を守ったT社長
結果として、電気を止めずに新たに経営者として出発することができたT社長ですが、設備更新までの時間は刻々と過ぎていきました。
仕事の依頼を受けた私たちも、正直、波及事故になるのではないかと毎日ハラハラしながら過ごしました。
T社長との約束から3か月を過ぎたある日、改修工事担当の電気工事店から「切り替え日が決まりましたので、○月○日に竣工試験をしていただいて良いですか?」と連絡がありました。この竣工試験日は、約束の期日よりも2か月ほど前倒しでした。
初めてT社長とお会いしたあの日、帰り際に涙を流しながら必死にお願いされたことを今でも鮮明に覚えています。あれから数年経った今では、T社長の会社事務所でコーヒーをいただきながら、笑い話をするほどの仲になりました。
「あの時、本当に諦めなくてよかった」とおっしゃるT社長ですが、私たちが動かされたのは、そんなT社長の諦めない姿や心の強さが伝わったからだと思います。
今では運営も軌道に乗り、売り上げもかなり上がったとのことで、その原動力の一翼にでもなれたのかなと思っています。