「建設に興味なかった」文系出身の施工管理技士が復興工事に参加する理由

復興工事で活躍する1級土木施工管理技士の細倉さんにインタビュー

1級土木施工管理技士の細倉さん

東日本大震災から6年が経過したが、津波で甚大な被害を受けた東北地域の沿岸部では、まだ多くの復興工事が続いている。復興工事には多くの施工管理技士が単身赴任で従事しており、彼らの活躍なくして東北の復興は成し得ない。

1級土木施工管理技士の細倉隆志さんも、単身赴任で復興工事に貢献している建設技術者の一人だ。細倉さんは、実は文系出身。大学卒業後、土木作業員を経て土木施工管理技士・鉄道工事管理者となり、自治体や国交省発注の工事を中心に、多様な工種を経験してきた。

そんな細倉さんに、復興工事での仕事や、建設業に就職した理由、施工管理技士の心構え、建設業の人材不足などについてお話を伺った。

なぜ私は土木施工管理技士になったのか?

施工の神様(以下、施工):最近、建設業の若者就業者が減少し、官民一体となった対策が色々と行われていますが、細倉さんが建設業に入った理由は何でしょうか?

細倉隆志さん(以下、細倉):正直、自分でもよくわかりません(笑)。大学では外国語学部で中国語を専攻し、海外留学も経験しました。まさか帰国後、建設業に就くとは自分でも想像していませんでした。そもそも建設業には何の興味もなかったのですが、あるきっかけでアルバイトとして携わるようになり、徐々にその面白さを感じるようになりました。気が付けば、多くの現場を渡り歩き、はや20数年です。

私のように実際に建設業に触れて初めて建設の面白さに目覚める、という若者も少なからずいると思うので、最近よく行われている学生を対象にした現場見学会は、若手技術者の増加に一役買うのではないでしょうか。

施工:建設業ならではの魅力がある一方で、建設業はよく3Kと言われますが、細倉さんが建設業に入ったときの最初の印象はどうでしたか?

細倉:アルバイトで建設業に携わっていた時は、いわゆるバブルの高度経済成長期で、とても浮ついた雰囲気でした。給与も良かったですし、3Kもそこまで酷いとは思いませんでした。私はバブルがはじけた頃に、本格的に職業として建設業に従事するようになったのですが、それから急に現場の環境が厳しくなりました。しかし、現場運営におけるコスト削減や合理化などに真正面から向き合わざるを得なくなった点は、いま振り返ると良い経験ですし、施工管理技士としての糧になっていると思います。

施工管理技士は「失敗」を経て成長する

施工:実際、細倉さんはこれまで施工管理技士として、どんな現場で働いてきましたか?

細倉:思い出せる範囲でですが、運動公園整備工事(公園造成・駐車場整備)で現場代理人・監理技術者を担当したのを皮切りに、河川上流支川改修事業(管理通路・水防林整備)の現場代理人・監理技術者、それから流域下水道整備工事(泥水式推進工法)の担当技術者、ダム周辺整備工事(河道切替による浚渫・護岸工事)の現場代理人、国道床版工工事の担当技術者、道路改良工事(オーバーレイ切削)の現場代理人、道路橋梁整備(山岳トンネルNATM)の主任技術者、駐車場整備工事(造成)の監理技術者などを経験しました。

施工:なかでも特に記憶に残っている苦労した現場はありますか?

細倉:そうですね。例えば国交省発注の国道床版工工事(L=400m)は、鉄筋工が完了した後、コンクリート打設の段階から、担当技術者となった現場でした。その現場は同時に現場代理人も変更になったため、前任者との受け継ぎがうまくいかず現場調整にたいへん苦労しました。工期も差し迫っていたため、やや突貫の工程となってしまいましたね。

最近苦労した現場ですと、現場代理人として参加した国道改良工事が記憶に残っています。東日本大震災直後の工事だったため、施工業者がなかなか決まらず、施工中も作業員や大型ダンプが不足し、資材の調達も困難で調整に手間取りました。世間で言われている建設業の人手不足を、当事者として初めて感じた現場でした。

施工:様々な工種を経験してきた細倉さんは、多角的な見識を持ってどんな工事にも対応できると思いますが、施工管理技士として日頃から心掛けていることは何かありますか?

細倉:現場での判断・指示を的確に行うことで、滞りなく潤滑に現場の作業を進めることです。私の場合、公共工事を担当することが多いのですが、特に公共事業では、過不足なく設計書に沿って仕上げていくのを念頭において仕事をしています。与えられた職務・責任を全うする、というのが自分の仕事だと肝に銘じていて、これまで20年以上、途中で投げ出さずに施工管理技士として仕事をやり続けてきたことは、我ながら誇りに思っています。自分の腕に自信を持つことも大切ですね。

施工:最近は失敗を恐れすぎて消極的な技術者が多いという意見を多く聞きますが、細倉さんも過去に失敗した経験などはございますか?

細倉:一つとして同じ現場はないので、誰にでも失敗はあると思います。私は現場管理の仕事を始めたての頃、経験不足と知識不足から検査の不合格とやり直しを命じられたことがあります。周囲の協力のおかげで、なんとか工期内にやり直しを完了し、再検査にも合格しましたが、いま思えばやり直し箇所の施工中にちょっとした“違和感”がありました。それを不具合と見抜けなかったのは、やはり経験と知識が不足していたからだと思います。今はそれを教訓にして、現場や設計書で少しでも“違和感”を感じたら、一度立ち止まって再確認するようにしていますし、後輩の技術者にもそう教えています。経験に基づく直感のようなものですが、もし自分の直感が間違っていて、正しい施工・設計が行われていたとしても、自分の見識を深めることにつながると思っています。

先輩施工管理技士が「若手技術者の増加策」について思うこと

施工:細倉さんの経験から、建設業に若手を増やすためには、どんな対策が必要だと思いますか?

細倉:私は最初、一般土木作業員でした。それから施工管理技士や鉄道工事管理者等の資格を取得し、現場を任されるようになりました。様々な現場と失敗を経験して今に至ります。なぜ作業員できつい仕事をしながらも、建設業を続けてこれたのかと言えば、給料が同年代よりも比較的良かったからです。

そして、当時の先輩方が仕事に対する豊富な経験と知識を持っており、それを思う存分に吸収し、自分のものにすることが出来たからだと思います。

働くモチベーションは人それぞれですが、自分のものにできる、という環境さえあれば人は集まります。私もそうしたものを若い人に提供できるようになりたいと思っています。

施工:これから施工管理技士になろうとしている方に、アドバイスはありますか?

細倉:建設業は、談合事件でニュースになったり、予算を使いすぎるとか、特に年度末などはそこらじゅうを掘り返して無駄な工事をしてるとか、まるで悪者扱いされたりする時期もありました。しかし、東日本大震災をきっかけに建設業の本来の力が見直されつつあると思います。

施工管理の仕事には、事務所の中にいるだけでは体験できないことがたくさんあり、人や物そして自然を相手に自己の資質を高める機会に恵まれた環境が揃っています。そこに関心を持てれば、一生の仕事になりうるのではないかと思います。

復興工事における土木施工管理業務とは?

施工:細倉さんは現在、どんな工事に携わっていますか?

細倉:東日本大震災で被害を受けた宮城県内の河川災害復旧工事に従事しています。沈下戻しの原型復旧工事、既設水門撤去工事、潮止め堰新設工事等を一体的に行う事業で、土木施工管理技士として主に品質管理・出来形管理・写真管理を担当しています。河川災害復旧工事ではありますが、河口に近い海岸堤防工事も伴うので、これまでに経験した河川堤防工事とは仕様がやや異なります。

現場で図面を確認する細倉さん

施工:復興工事ならではの苦労している点はありますか?

細倉:仕事内容は、これまでに経験してきた土木工事とあまり変わらないので、特に苦労していませんが、一般工事と復旧工事との違いは、とにかく復興事業は単体規模が大きいことではないでしょうか。

施工:現場の雰囲気や働きやすさはどうですか?

細倉:現場所長が気さくな方で、私の意見も積極的に取り入れてくださるので、とても仕事がしやすいです。施工管理の仕事では、スムーズに現場を運営するために、作業員さんたちとのコミュニケーションが不可欠となりますが、所長さんの振る舞いからも学ぶべき点が多いですね。

◎細倉さんの1日のスケジュール

 6時30分  起床
 6時50分  アパート出発(通勤は車で20分程度)
 7時10分  現場事務所に到着
 8時00分  現場事務所前の広場で朝礼
 8時30分 その日の作業工程により、現場管理または事務所内で書類作成
 13時00分 現場事務所において、当日および翌日の作業内容、人員、材料手配の確認
 (作業日誌作成)
 17時00分  現場作業終了の確認
 17時30分  帰宅
 17時50分  アパートに到着

施工管理スキルを磨く「復興工事」

施工:細倉さんは、なぜ復興事業に従事しようと思いましたか?

細倉:正直、特に復興事業に従事しようと言うつもりはありませんでした。私は福島県福島市出身で、震災当時、福島県内の建設会社に勤務していました。福島県における復興事業は、東電福島第一原発事故に伴う除染を進めることが第一の足掛かりで、当然、私も除染の現場担当を打診されました。

しかし私は復興に貢献したいと思う反面、除染ではなく、あくまで土木施工管理の技術力を高めたいと言う目標を抱いていました。除染に将来性がないというか、あっては困るので、土木技術者としての技術力を停滞させないため、除染現場への配属の話は断り、次第に転職も検討するようになりました。当時、私の中では、復興事業に従事する意志よりも、土木施工管理技士としてのスキルアップを目指し、関東地域の大型工事へ転職したいという意志のほうが勝っていました。

施工:それなのになぜ関東の現場ではなく、東北復興に従事することになったのでしょう?

細倉:まず『施工管理求人ナビ』に登録しましたが、当時の現場は工期が延長し、なかなか転職できる状況にありませんでした。しかし、その間も『施工管理求人ナビ』から多くの転職関連の情報が届き、色々と転職先を検討するうちに、自分の施工管理スキルも伸びて、東北復興の一助にもなる今の現場に出会いました。

施工:建設会社にとって施工管理技士に転職されることは相当の痛手だと思いますが、転職の一番の決め手は何でしたか?

細倉:キャリア的に次のステップに進みたいと思ったからです。それがちょうど東日本大震災の発生時期と同時期だったのですが、これまでに経験したことのない大規模な工事に挑戦してみたいという想いから、地場ゼネコンの正社員ではなく、現場を選べる派遣の道を選びました。自分の腕試し、というのもありますし、まだまだスキルアップしたいと思ったからです。

転職前に「施工管理求人ナビ」で情報収集すべし

施工:今、施工管理技士は売り手市場で、より良い条件の企業に転職するチャンスだと思いますが、転職を検討されている施工管理技士の皆さんにアドバイスなどはございますか?

細倉:知らない土地、知らない人、未経験の仕事などに一歩足を踏み出すのは怖さとストレスが付きものだとは思いますが、ぜひ思い切ってみてください。まず『施工管理求人ナビ』に登録すれば、正社員の転職でも、派遣社員の転職でも、施工管理技士専門の転職アドバイザーが将来のキャリアアップなどの相談も含め、丁寧にサポートしてくれます。

大手ゼネコンよりも中堅ゼネコンの待遇のほうが良かったり、将来も役立つ経験を積める現場だったり、色々と情報収集してから転職することをお勧めします。

施工:最後に、もしよろしければ、細倉さんの休日の過ごし方を教えてください。

細倉:暖かくて天気がよければ近所の公園でウクレレを弾いています。それか、海沿いの海産物がおいしい店探していますね(笑)

施工:ありがとうございました!これからも復興のためにご活躍ください。

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