土木技術者として当たり前のこと
「土のことを知っておくのは、土木技術者として当たり前のこと」
ある時、私は上司にそう言われた。なぜかというと、土の上に土木構造物が造られるからだ。土の中に造られるものもあるが、その場合でも土の知識は必ず求められるし、正しく活用する必要がある。
つまり、土木技術者として、「土」を押さえていなければいけないということだ。それを痛感した出来事があった。
ある土構造物の設計をしていたとき、その土構造物の検討にあたり、物性値を逆算して求める必要があった。その物性値の持つ意味を理解せず検討していた私は、上司の質問に答えることができなかった。
土の持つ性質をきちんと押さえていなかったので、先に進めないどころか見当違いなことをやってしまい、その後いろいろな検討をせざるを得なくなり、むしろ仕事を増やしてしまった。
トンネルでも橋梁でも、あるいは擁壁でもカルバートでも、もちろん基礎構造物でも、土と関わりがある構造物は盛りだくさんだ。土のことを知っておかないと、先には進められない。間違った認識のまま仕事を進めてしまうと、大問題を引き起こすこともある。
土のことを知らなかった、知識不足だったばかりに法面の崩壊を招いてしまったり、トンネル掘削中に崩落が発生したり、重機を載せたとたん沈み込んで転倒事故を引き起こしてしまったり、ということが起こる可能性もある。
土のことを知らずに設計・工事を進めてしまうのは、とても危険だ。ましてや、工事中に人の生命を脅かす事故が発生してしまえば、刑事処罰だってあり得る。
粘着力って?内部摩擦角って?
土の特性を知るうえで必要な項目はたくさんあるが、たとえば粘着力や内部摩擦角などは、土の強度特性を知るうえで重要な物性値である。粘着力はすべり抵抗を知るうえで重要な要素、内部摩擦角はせん断特性を知るうえで重要な要素だ。
仮に、盛土の安定性照査を行うとしよう。盛土材料や盛土高さが基準(道路土工 盛土工指針など)に示されている条件を使っているのであれば、安定性照査は義務付けられていない。しかし、その条件に示されていない状態のときは、安定性照査を行うことになる。
その際、特に重要になるのが粘着力と内部摩擦角だ。この2つの物性値は、土の強度特性に関わる事項に大きく影響する。扱う土が粘性土なのか砂質土なのか、あるいは礫なのかで、その数字や扱いは異なる。
私もそうだが、粘着力が高いからどうだ、内部摩擦角が低いからどうだ、といった表面的なところだけを見て仕事をしようとすると、あとで痛烈なしっぺ返しを食らう。その数字の意味や背景を把握したうえで活用しないと、間違った答えを出してしまうことがあるからだ。
間違った答えを出してそのまま進めてしまうと、現場はそれを基に工事計画を立案し、工事に取り掛かることになる。その結果、工事中あるいは完成後に大きな問題が起きる可能性が高くなってしまう。
粘着力や内部摩擦角だけではなく、土の性質をあらわす重要な指標は他にもたくさんある。例えば、盛土工事をする際には、含水比が重要な指標となる。その他、粘性土や砂質土によって要求される指標もある。
物性値を正しく把握する意味
盛土や斜面安定の検討をする際に、物性値を逆算することがある。粘着力もしくは内部摩擦角のいずれか一つが与えられ、それを基にもう一方の物性値を逆算して求め、それらの物性値を活用して安定性などの照査を行うこととなる。このようなケースはそこかしこで見受けられる。
これについても、物性値の持つ意味を理解しているという前提があれば、物性値を逆算することの意味を理解できる。「こういう物性値があるとすると、こういう結果になる。じゃあ、こういう条件ではこうなるんじゃないか?こういう状態もあり得るんじゃないか?」といった仮説も出てくる。
擁壁にしても橋梁にしても、土の物性値を正しく把握することは、設計・施工どちらでも重要となる。一つ間違って認識したがゆえに、大きな事故を引き起こした事例もある。勉強している段階では重要性を認識できなかったが、仕事を通してその重要性を日々感じている。