高知県で奮闘する現場代理人3名にインタビュー
南海トラフ巨大地震で大きな被害が出ると予想される高知県――その災害復旧工事での活躍が期待される、高知県の土木施工管理技士たちは、日々どんな思いで経験を積んでいるのでしょうか?
高知県高知市に本社を構える福留開発株式会社の現場代理人3名にお話を伺いました。
同社の大場智公社長は「うちは中途採用が多い」とおっしゃっていましたが、3名中2名が転職経験者で、2名とも会社倒産も経験済み。高知県の建設業を取り巻く環境の厳しさが垣間見えるところです。
彼らの生の声を聞いてみました。
土木施工管理技士の資格がないと、話にならない
施工の神様(以下、施工):まずは福留さんから、これまでの土木との関わりを教えてください。
福留慎吾(以下、福留):大学で土木科を専攻し、卒業後、平成14年に高知市内の建設会社に就職しました。そこで11年ほど働いた頃に、会社が倒産したので、福留開発に転職しました。
施工:生駒さんは?
生駒和久(以下、生駒):工業高校で土木を学んだ後、ある建設会社に入社しました。そこで国交省や高知県発注の仕事に3年間ほど携わったのですが、会社が倒産したので、別の建設会社に入りました。2年間ほど仕事をした後、福留開発にいた知り合いに声を掛けられて、4年前ほどに福留開発に入りました。
施工:井上さんはどうでしょう?
井上里沙(以下、井上):私は高専で土木を学んで、7年前に福留開発に入社しました。学校の勉強よりも、現場で学ぶことの方が多かったです。
施工:土木施工管理技士の資格を取られたのはいつ頃ですか?
福留:1級土木施工管理技士を取ったのは26才の頃です。
生駒:私は21才で2級土木施工管理技士を取って、1級土木施工管理技士を取ったのは28才、一昨年です。
井上:2級土木施工管理技士を取ったのは24才、1級土木施工管理技士を取ったのは29才、今年です。結婚して子供が生まれ、お休みしていた期間があったので、取るのに時間がかかりました。
施工:資格手当は?
井上:今は資格を持っていて当たり前なので、手当はつきません。
生駒:現場では資格がないと話になりませんから。
現場代理人のやりがいは「発注者からの評価」
施工:これまでに印象に残った現場は?
福留:昨年の国土交通省の高知西バイパス工事です。工期が短い上に、地元対応に追われましたが、その分、評価点数が良かったので、嬉しい思い出として残っています。
生駒:平成21年度に、高知土木事務所発注の橋脚(ピア)工事の現場代理人をした時に、県の評価で80点をもらったことです。自分の仕事をちゃんと評価されたことが嬉しかったです。
井上:平成25年度にケーソンをつくる工事があったのですが、初めて国土交通省発注工事の現場代理人をしました。その現場では、色々な作業が同時進行していたのですが、その段取りなどについて貴重な経験をさせてもらいました。役所対応や協力業者さんへの指示など、いろいろ判断しないといけないので、しんどかったです。
作業ヤードが足りない!ムリを楽しめてこそ現場代理人
施工:現場でうまくいったアイデアは?
福留:自分たちがやりやすく仕事が早く進むようにするため、役所と協議したり、地元に協力してもらって、それがうまくいったときは気持ち良いです。
生駒:工事の段取りはいつも考えていることなので、特にアイデアを出したという感覚はありません。ただ、山間部で道路の拡幅工事を担当した時に、通行止めの時間制限を設ける必要があったのですが、地元の方々がなるべく不便を感じないように、どういう風に交通規制をかけるか、どこに看板を出すかなどについて、色々工夫したということはありました。工事期間は3〜4ヶ月ほどでしたが、ほぼ毎日、時間調整しました。地元の方々には感謝してもらいました。
井上:先ほどのケーソンの現場で、ブロックの製作も同じヤードで行ったのですが、場所が限られていました。製作前にどういう配置にするか、下請けさんと一緒に何パターンか考え、製作に入ってからも何度もやり方を練り直した結果、運び出すヤードを確保した上で、すべてのブロックをヤード内に収めることができました。発注者や運び出す業者さんへの引き継ぎもうまくいきました。
生駒:現場によっては、製作ヤードがないことなどもあります。それをなんとかするのが現場代理人の仕事です。現場はそれが楽しいですけどね(笑)。
施工:ムリのある現場をなんとかするのが楽しい?
生駒:そうです(笑)。
福留:例えば、工事完了の期限が決まっているのに、多くの仕事が残っている場合、狭い場所で他の業者さんとどう作業を調整すればうまくいくかを考えることもあります。建設分野でもIT化が進んでいますが、現場作業ではアナログ対応しかできません。建設に関する情報処理のスピードが早くなっても、現場のスピードは同じようにはいきませんので。
現場代理人の仕事は、既存の設計図通りに現場を合わせることです。ただ、ここ最近は、設計変更の全くない現場はほとんどなく、現場でやってみないとわからないことが多いです。
現場代理人は地元対応が最重要ミッション
施工:失敗した現場は?
福留:高さ5mぐらいの擁壁を掘削した時に、蛇紋岩というあまり良くない土が一部崩壊したことがありました。抑え盛り土を行い、山が崩れないように観測しながら、擁壁を再施工したことです。そこに蛇紋岩があって、掘削すると応力解放されて崩れることは分かっていて、対策していたはずなのに、結果的に崩してしまったからです。発注者に怒られたわけではありませんが、自分の中では失敗でした。
井上:同じくケーソンの現場で、散水作業中に土ボコリが立って、地元の方にお叱りを受けました。
施工:現場では地元対応をおろそかにできない?
福留:そこが一番大事です。地元の協力なしには公共工事はできません。地元に迷惑をかけない施工計画がないと発注者も納得しません。
施工:現場の仕事はオーダーメイドですね。
福留:土木には、同じ条件の現場は絶対にありません。現場に合ったものを自分たちにできる方法でつくる仕事です。
現場代理人はイメージ力が大事
施工:現場代理人にとって大事なことは?
福留:コミュニケーション能力です。同僚、発注者、地元住民との会話を上手にできないと、良い仕事はできません。自分の考え、思いを相手に100%伝えることができないと、相手に気持ちは伝わらないので、現場で私が考えているものはできませんし、発注者にも納得してもらえません。現場では、年の離れた方々と仕事をしますが、自分の思いをしっかり伝えて、お互いなんでも言いたいことを言える雰囲気づくりが必要になります。
生駒:昔から土木現場で働いているベテランの方々と一緒に仕事をすることがありますが、そういう方々は観察眼が非常に鋭いんです。完成するもののイメージが頭の中にあって、現場をパッと見ただけで、違和感を感じ取れる力が、すごいと思います。自分も新人の頃に比べれば、そういうイメージする力はついてきた実感はありますが、経験を積まないと身につかない力だと思います。これからも勉強していきたいと考えています。
井上:当たり前かもしれませんが、常に現場にいることです。現場代理人がいないと、現場の方々が確認ができずに作業が滞るなどの問題が生じるからです。
施工:女性だとコミュニケーションとりづらいことは?
井上:男性の方がサッパリしているので、コミュニケーションは楽です。逆に、女性の方がネチネチしているじゃないですか(笑)。高専に行ったのも同じ理由です。会社や現場が男性ばかりだから苦痛ということはないですし、飲み会も三次会まで行きます(笑)。初めて現場監督をやった時に、ちょっと距離を置かれたことはありましたけど、慣れたら普通になったので、特に苦労はしていないですね。
南海トラフ巨大地震に対する土木技術者としての覚悟
施工:今後のキャリアアップは?
福留:高知県では今後、南海トラフ巨大地震が間違いなく発生するといわれていますが、地震発生時に、一人前の土木技術者として、地震対策や復旧作業の現場を立派に務められるように、これからもキャリアを積んでいきたいです。
生駒:高知県では、私と同年代の土木技術者は少ないですが、色々と経験を積んで、その中で抜きん出たいと思っています。
井上:現在は子育てのため本社勤務で、「i-Construction」関係で現場に出ていますが、落ち着いた頃には現場に復帰したいと思っています。現場は、朝早くて夜遅いので、難しいかもしれませんが、現場でも自分の名前を出してもらえるように頑張りたいですね。おばちゃんになっても、仕事を辞めずに現役を続けたいです(笑)。
2時間以上に及んだ収録は、オフレコ満載の本音トークが飛び交う楽しいものでした。記事にできないのが残念ですが、現場の裏話は今後の取材に役立ちそうです。
仕事である以上、当然いろいろなストレスはあるでしょうが、それを弾き飛ばすようなお三方の明るさが印象的でした。これも現場代理人必須のコミュ力のなせるワザでしょうか。こういう人間的な魅力が現場代理人の求められるスキルなのかもしれません。
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