「ホームインスペクション」は、日本にどこまでなじむのか?

「ホームインスペクション」は、日本にどこまでなじむのか?

ホームインスペクションの意義を考える

過去、某住宅リフォーム会社が独自で要請する点検員を要する点検部門で仕事をしていたことがありました。当然、点検対象は自社の親会社が建設した住宅や商業施設が対象でした。

一般的にホームインスペクション(建物状況調査)は、建築士等の資格を有したそれなりの知見がある者が点検をすることが望ましいのでしょうが、会社では住宅棟を規格化しているため、自前の教育ができる環境を整えて自社専門の点検員を養成し、現場に送り込んでいました。

その中で違和感を覚えたのが、建築を勉強したことがない、もしくは建築関係の仕事が初めての人間が、社内資格として点検員になって実際にお客様のお宅で点検を行い、報告書を作成しお金を頂戴しているということでした。

私の体験も踏まえて、ホームインスペクションの意義等を考えていきたいと思います。

ホームインスペクション(建物状況調査)とは

ご存じの方も多いとは思いますが、ホームインスペクションの発祥の地はアメリカです。聞く話によりますと、不動産取引の7~9割でホームインスペクションが行われているそうです。そもそも日本と異なり、アメリカは中古物件の流通が多いのです。

中古物件の資産価値を定めるうえで物件の状況を点検、不具合状況等を把握し、不動産会社がその物件に対するリスクや評価を買い手に認識させる必要があるからです。

そこで、建物の専門知識を有する者が事前に点検を行い、中古物件の価格等を不動産会社が設定するというのが、今では一般的になっているようです。すなわち「住宅ストック社会」を確立しているのです。

しかし、その道のりは平たんではなかったようで、ホームインスペクション制度が根付くまでは、様々な問題がありました。点検制度の問題や、ホームインスペクターと不動産業者の癒着等の問題を乗り越えて、今に至っているわけです。

日本では、「ホームインスペクション説明義務化」においては、不動産業者が売り主に対してホームインスペクターをあっせんしているのが一般的なようなので、アメリカと同様、癒着等の問題が明るみに出るのも時間の問題なのかもしれません。

所属していたリフォーム会社での点検業務

私が所属していたリフォーム会社では、どちらかというと親会社の建てた住宅をお客様に長く使用してもらうという観点と、点検結果に基づき屋根防水や不具合個所の補修等の業務を受注するための、資料を作成するための営業活動の一環に近いものであったと今では感じています。

点検項目がすべてマニュアル化されており、建築材料も親会社が制作したものなので、コツをつかめばある程度の点検をすることは可能ですし、不具合を見つけることはできます。

ただし、初回点検でよくある問題として、親会社の施工不良による不具合を見つけた時の対応です。施工不良については、無償で修繕するという契約となっています。

修繕は子会社である私が所属していたリフォーム会社が行い、その経費を親会社に請求するという流れなのですが、本当に施工不良なのかどうかを親会社と事前に相談しなければならない手続きとなっていることから闇に葬られ、そのまま放置されることもあると聞きました。

お客様からしてみれば、自分の知らないうちに放置され、ある程度年数がたってからお金を取られてリフォームをするわけですから、ふざけた話だと思います。そんな体質が嫌で、私はこの会社を辞めました。

日本人の国民性にはなじまない

私が体験した点検とホームインスペクションは、内容が異なることを承知で筆を取らせていただきました。いずれにせよ、ホームインスペクションはリスクヘッジとして機能させなければならないシステムのはずです。

そのようなシステムに利害関係を絡ませると、被害者が出てしまうのです。当然、会社ですから利益を上げるのは大切です。しかし、お客様の信用を失うような仕事の仕方をしていると、そのツケはいつか跳ね返ってきます。そのような組織や人間は根元から腐って、感覚がマヒしてしまいます。

空き家問題が加速する今だからこそ、「住宅ストック社会」として日本の住宅事情を勘案した施策を推し進めるよう国家は舵を切りました。しかし、理想と現実の乖離が埋まる気配を、私は全く感じ取れません。

この制度は、日本人の国民性にはなじまないのではないかと私自身は考えています。皆さんの感想を教えてください。ご意見お待ちしています。

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元海上自衛官。約15年間勤務ののち、建設業界に転職。 なんとか苦労して取得した一級建築士免許で細々仕事しております。
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