部数を落とし続ける業界紙
ゼネコン各社や国土交通省などが購読している有力建設業界紙に「日刊建設工業新聞」や「日刊建設通信新聞」の2紙がある。最近まで、この2紙に加えて「日刊建設産業新聞」も存在していたが、2021年3月31日に廃刊、会社も日刊建設通信新聞社に吸収合併されることになった。これにより「日刊建設産業新聞」は廃刊したが、建設業界紙も淘汰の時代をうかがわせるニュースでもあった。
業界紙に限らず全国紙、地方紙、産業紙各紙も含めて紙の媒体は部数を落とし、経営はどの会社も楽ではない。「日刊建設産業新聞」の裏側と、建設業界紙の動向について、業界紙との関係が深いある建設会社の社員が解説した。
建設業界紙とのお付き合いアレコレ
私はある建設会社につとめ、業務の一つとして建設業界紙の記者や営業担当者の窓口の仕事もしています。広告を出稿するほか、時にはイベント、行事や技術などを記事にしてもらうウィンウィンな関係です。
担当者の営業は結構古典的です。弊社のように各建設業界紙への出稿予定金額が決まっている会社は、1月あたりから各社からメールで実績表を提出していただき、それをたたき台にして、広報部門は来年度の広告予算案を作成します。
その予算案に沿って広告を出稿しています。そして年間、何回か営業担当者が私を訪問し、広告のお願いに来ますが、予算案に明記されている広告出稿であれば問題がなく、そのまま通ります。イレギュラーな広告もありますが、その時は詳細を伺い、広告を出稿するかは上司と相談します。
2020年から現在に至るまでの特徴としてはやはり新型コロナウイルスです。前は、営業担当者に来ていただきましたが、よほどのことでなければ来社は断り、メールや電話での対応がほとんどです。
逆に取材もメールでのやり取りが増えましたが、それでもやはり恒例の新年社長インタビューはオフライン取材です。それ以外でも重要な取材は、オン・オフ両方を併用した取材形態となっています。
建設業界紙の記者は何をしているか
建設業界紙の財産は人がすべてですから、長く頑張っている方は好感が持てます。最初は、工事ニュースを担当し、それからゼネコン・設備へと昇進し、さらに国土交通省などの省庁や各県の建設会館を担当し、その後デスクになって管理職となることが多いようです。
一度、本社から有力支局の支局長を経て、今度は、本社に役員として戻ってくるケースもあります。ただ、いつまでも記者ばかりを担当することも難しいため、企画局や営業局に配属され、編集局と企画局の両方のトップを兼ねた方が将来の社長候補になります。
人生スゴロクでいうと「あがり」です。ただ、もちろんみんなが社長になれるわけがありません。多くは部長で終わる方もおりますが、役員へ登用される方もいて様々なようです。また、何か問題があった方は別の業界紙に移る方もいて、「業界紙ジプシー」と呼ばれる記者もいます。
日刊記者はそれなりに忙しく、ゼネコンや設備のプレス発表は10時~11時にかけて行われるため、会社を訪問するかオンラインで話を伺うかいずれかを行います。そこで大きな発表があれば、多くは産業面で大きく取り上げられます。加えて、建材企業からも発表がありますから、それらをこなし、1日分執筆する記事量はかなりの量になります。
また、これは建設業界以外にも言えることですが、業界紙全般リストラは難しいため、クビになることは少ないですが、中には記者としての適性にかける方は自然に退社に追い込まれるようです。これはどの会社にも言えますが、使えない方が長く在籍することは難しいので自然にいなくなるケースが多いです。そういう方は業界紙記者を諦めて、また別の世界に転職されるようです。
経営の厳しい建設業界紙の世界
世の中にはいろんな業界紙がありますが、中でも建設業界紙が一番多いでしょう。何しろ、各都道府県すべてに必ず1紙が存在しますので、その影響力も大変大きいものです。ですが、地方建設業界紙のことをお話する前に、まず全国建設業界紙2紙についてお話したいと思います。
「日刊建設工業新聞」と「日刊建設通信新聞」が、建設業界では両雄といわれる2紙です。どちらも内容は細かく正確に取材されており、弊社としても新入社員には、必ず一度読むように指導しています。
とはいえ経営的には楽ではないようです。これはある営業担当者から話を伺ったのですが、かつてはWTO案件について国は必ず、全国建設業界紙3紙に公告を出稿する決まりがあり、国からの収益が1社あたり1億円にも上っていたとのことです。ただ、この公告について会計検査院から指摘があり、最終的に廃止され、各紙とも困っているお話でした。
建設業界紙にとって、1億円の売上が消滅することは経営的にかなり厳しく、これが遠因で建設業界3大紙だった「日刊建設産業新聞」が廃刊となったとのことでした。
また、IT化も部数減の要因です。パソコンが普及する前は、工事ニュースは業界紙から得ていましたが、それが次第にネットに移行し、高い業界紙を購読してまで読む意欲がなくなっているとのことです。工事ニュースに特化したネットニュースもあり、かなりこちら読まれているとのことです。もちろん、これはすべての紙媒体に言えることだと思いますが。
3月31日の廃刊の社告
一方、地方建設新聞ですが、やはり有名なのは「建通新聞」です。建設業界紙を東京、神奈川、静岡、名古屋、大阪、岡山、四国で発行しています。次に有名なのが日本工業経済新聞社。埼玉、千葉、群馬、栃木などで発行しています。ほか、宮城の建設新聞、北海道の北海道建設新聞、北陸建設工業新聞、中国の中建日報、九州の九建日報が地方有力建設新聞といえます。
ただ、業界紙は業界の発展とともにあります。業界の景気に左右されることは当然ですが、いずれも全盛期の部数にはとても届かないとのことです。ちなみに、部数については各社の公称部数はまったくあてにならないですと、ある方がホンネを漏らしていました。畳みかけて、「それじゃあ、実部数は?」と聞きましたが、教えてもらえませんでした。
「『日刊建設産業新聞』は綺麗に廃刊した」
「日刊建設産業新聞」は廃刊となりましたが、いち読者としては「日刊建設工業新聞」と「日刊建設通信新聞」と比較すると、申し訳ありませんが、やはりニュース、企画、営業のいずれも勝てないと薄々思っていました。
今年3月31日に廃刊することに伴い、ある方がご挨拶に来られましたが、その方のお話では、内実は厳しく、いつかは廃業することは分かっていたとのことでした。苦笑いしながら、「もうちょっと廃刊は伸びて欲しかったですねえ」と言っていました。続けて、大手の建設業界紙は3紙も並立時代ではないとシビアに話され、代表や役員の高齢化なども廃刊の要因としみじみと語っていました。
もともと、部数もほかの2紙と大きく水をあけられ、とても勝負にならないという本心も吐露され、いくぶんなりとも気の毒な思いもありました。
ただ、一応対面的には「日刊建設通信新聞」と吸収合併されることになり、後日伺った話では数名を雇ってくれたとのことです。それ以外の社員は分かりませんが、それぞれの道を歩むことになると思います。代表をはじめとする役員は総退陣でみなさん隠居されたという話も聞きました。
建材ビルの4~5階に本社を置いていた日刊建設産業新聞社
実は、何年か前に一度、代表も廃業を決意しましたが、同じくらいの年齢の同業他社の方が励まし、70周年を一つのけじめとして頑張ろうと思い、70周年記念号を発刊したことで自分の仕事を完了したという思いがあったのでしょう、というお話も風聞として聞きました。その方からは「綺麗な廃刊」という言葉も聞きました。
倒産の時は、何もかも投げ出してどうしようもなくなって紙一枚の告知文が張られている世界ですが、少なくとも一定の雇用にも尽力しましたし、「日刊建設産業新聞」の最終日には社告を行い、「日刊建設通信新聞」に引き継いだことは悪いことではなかったと強調されておりました。
高齢化が進む建設業界紙の未来
これは現役の記者の方からの受け売りで恐縮なのですが、これからの建設業界紙が長く続くかどうかは組織としてしっかりし、商圏をしっかりと持っていることがカギになるとのことです。
たとえば、社長が最大の営業マンだと社長個人の力に依存するので、高齢化すると、やはり持続可能の面では難しくなるとのことでした。その点で、「日刊建設産業新聞」は営業も編集の方も高齢化しており、若い人が入社しても辞める方も多く、経営も厳しかったとのことです。地方にはいくつかそういう建設業界紙があるとのことで、こうしたところは淘汰される可能性があるとのことでした。
そこで、「日刊建設産業新聞」のように体力のあるうちに廃刊を選ぶか、それともどうにもならなくなって倒産するケースもあるではないでしょうか。いずれにしても、建設業界紙は地方の衰退とともに、地方紙から始まると個人的に予想しています。