環境技術が次々と現場導入へ
脱炭素・低炭素時代に本格的に突入する中、投資家も環境面等に配慮している企業へのESG投資を積極的に進めている。この流れを受け、ゼネコン各社も環境面に配慮した材料などの研究開発に注力しているが、その材料の一つに環境配慮型コンクリートがある。
株式会社長谷工コーポレーションは、独自開発の環境配慮型コンクリート「H-BAコンクリート」を横浜市の新築マンションの一部に初採用したことで注目が集まった。従来、環境配慮型コンクリートは地下構造物に導入されることが多かったが、今回はマンションの中庭の回廊という地上構造物に採用されたからだ。他社製品と比べて、汎用性が高く、通常コンクリートと同等の強度を持つ「H-BAコンクリート」の今後の普及動向に注目だ。
今回、長谷工コーポレーションの脱炭素についての動きと「H-BAコンクリート」を中心とした材料の動向について、技術推進部門技術企画室の藤田昭チーフエンジニアと技術推進部門技術研究所建築材料研究室の金子樹さんに話を聞いた。
脱炭素の取組みやCO2の排出量を積極開示
――長谷工コーポレーションでの、脱炭素社会に向けた基本的な考え方について教えてください。
藤田昭氏(以下、藤田) 建設業界は鉄鋼、セメント業界とともにCO2排出量が高いとされる産業なので、脱炭素に貢献できる研究開発を推進し、ステークホルダーにも適正な情報開示を行っていくことが会社としての基本的な考え方になります。
情報開示については、CSR報告書やホームページ上にて、CO2排出量を含めたESGデータや、具体的な脱炭素への取組みの開示を行っています。
世界的な脱炭素の潮流の中で、当社に於いてもサプライチェーン全体を把握しつつ、さらに踏み込んだCO2排出削減技術の研究開発を進めるとともに、気候変動関連の国際的イニシアチブ等への賛同、認証取得についての検討を進めています。
――建設現場では、どのような取組みをされていますか?
藤田 ハイブリッド重機の採用や、ダンプ等の輸送効率を高めることで、軽油由来のCO2削減、建設廃棄物の削減・リサイクルの取組みを強化しています。
中でも、産業廃棄物については、現場でのポスター掲示による啓発活動による意識向上や、リサイクル可能な梱包材の採用、建設現場で排出される木くずを燃料にしたバイオマス発電による再生可能エネルギー利用に関する検証を2020年11月から開始しています。
再生可能エネルギー利用を取り込んだ資源循環の仕組み
盛り上がるゼネコン各社の環境配慮型コンクリートの開発・実採用
――今回、現場に導入された「H-BAコンクリート」とは?
金子 近年、建設業界各社で環境配慮型コンクリートを研究開発、実採用されていますが、「H-BAコンクリート」は長谷工コーポレーションのオリジナル技術になります。
通常、建設現場で打ち込むコンクリートは生コン工場で製造しますが、一般的には一種類のセメントを使用します。ですが、「H-BAコンクリート」は「普通ポルトランドセメント」と「高炉セメントB種」を混合使用して製造するため、コンクリート材料に由来する二酸化炭素の排出量を約8.2%から18.5%削減することが可能です。
ゼネコン各社の環境配慮型コンクリートは、セメントの60~70%を高炉スラグに置き換えるものもあり、CO2削減には効果がありますが、コンクリートの性能が変わってしまいます。「H-BAコンクリート」は、高炉スラグの使用量は少ないものの、強度発現性および耐久性能といった性能が一般のコンクリートと同等であるため、使用する場所を選ばないメリットがあります。つまり、CO2削減効果はほかの環境配慮型コンクリートよりも少なくても、数多くの現場で使用できるのです。
長谷工コーポレーションのH-BAコンクリートは汎用性とより多くの現場への普及を目的としており、その観点では、他社の環境配慮型コンクリートと差別化を図れると考えています。
「H-BAコンクリート」の製造方法
「H-BAコンクリート」は、汎用性と普及しやすさに力点
――実導入して、いかがでしたか?
金子 元々、長谷工コーポレーションで施工するマンションはほぼ鉄筋コンクリート造(RC造)であり、他社と比較しても建設現場でコンクリートを打ち込む量は多いので、地上建築物にも使用できる汎用性がポイントでした。それに加え、使用する現場を増やせればCO2の削減効果も期待できることからで、現場での普及のしやすさもポイントと考えています。
「H-BAコンクリート」を建築物に初採用したのは、(仮称)横浜市戸塚区吉田町計画新築工事(ルネ横浜戸塚)で、鉄筋コンクリート造地上7階建ての建設現場です。
(仮称)横浜市戸塚区吉田町計画新築工事(ルネ横浜戸塚)の完成予想図
――施工で手間取ったことはありましたか?
金子 施工面では、一般のコンクリートと同様ですので、苦労したことはありませんでした。施工においても特別な配慮をせず、一般のコンクリートと同様の調合設計で同様の仕上がりとなっていると、現場の職方から感想をもらっています。
――コスト的にはいかがでしょうか。
金子 まだ一般的なコンクリートではないため、現場数や使用箇所数により変動します。そのため、「この価格でできる」と明言しにくいところはあります。
ただし、1点強みがあるとすれば、「H-BAコンクリート」に使用する「普通ポルトランドセメント」と「高炉セメントB種」の双方とも全国の生コン工場のほぼすべてが常備しているセメントですから、その点で生コン工場も余計な手間やコストは掛からないことが優位性としてあります。だから普及しやすいんですね。
こうした手間はコストに跳ね返ってきますので、比較は難しいですが、恐らく他社製品よりもコストは落とせると思います。
コンクリートで求められる環境性能
――かなり使い勝手がいいですね。
金子 従来の環境配慮型コンクリートはほぼ地下構造物でしか使用できず、人が居住するマンションに使える技術はほとんどありませんでした。その理由は、先ほど申し上げたようにコンクリートの性能が変わってしまうためです。
しかし、「H-BAコンクリート」は地上構造物でも使用可能ですし、使用の頻度が向上すれば、コストも抑えることができます。”普段使いできる技術”を念頭に、導入することでデメリットが生じないことを大切にしています。現場で使えなければ、技術だけあっても仕方がありませんから。
今までコンクリートの性能を維持しながら環境配慮に努めるという研究は、なかなか注目されていませんでした。その意味で、普段使用しているコンクリートに新しい視点が加わったのではと考えています。
――「H-BAコンクリート」の普及については。
金子 徐々に進めていくことになります。今回の物件で建築基準法の適用事例はできたのですが、マンションを建築していく上では「品確法」における劣化対策等級を取得する場合に、「H-BAコンクリート」が扱えるかは明確ではありません。今後この点のクリアを目指していく予定です。
「ルネ横浜戸塚」での導入も、建築物ではありますがマンション本体ではなく、中庭の回廊でした。次回は柱、床や壁などマンション本体に導入し、採用できる物件を増やし、広いエリアでも使っていきたいので、技術面でもやることはたくさんあります。
――長谷工コーポレーションでは、「H-BAコンクリート」以外にも環境配慮型コンクリートを展開しているが。
金子 ええ。CELBIC(環境配慮型BFコンクリート)というコンクリートです。長谷工コーポレーションを幹事とするゼネコン13社で構成するCELBIC研究会で開発したもので、普通ポルトランドセメントに対して10%~70%の範囲で高炉スラグ微粉末を使用しています。地下であればCO2をより多く削減する「CELBIC」を、地上であれば「H-BAコンクリート」をそれぞれ適材適所に使い分けていければと考えています。
――これから環境技術は一層進化していきそうですね。
金子 はい。まだやることはたくさんあります。最近では二酸化炭素回収有効利用(CCU)という技術に注目しており、二酸化炭素の排出量を削減するのではなく、二酸化炭素を吸収できる技術の研究も次の課題としてあげています。