苦手な理系の会社を選んだ理由
私は、東京にある電気設備会社で事務員として勤務している。
この会社を選んだ理由は、「職場が自宅に近いから」。それ以上でもそれ以下でもない。
それどころか、もともと理系は一番不得意なジャンルだった。
技術系の求人なら迷わずパスしていたのだが、派遣会社から提示されたこの会社の求人像が「社員が現場に行っている間、事務所内を守ってくれるような人」だったので、それなら…と応募した。
PCはそれなりに得意だったし、以前にデザイン系の仕事をしていたこともあり、現在は当初のお留守番と経理事務の仕事、その他、CAD図面の作成や会社HPの制作、IT担当などもやっている。
派遣で入社し、正社員に昇格してから、かれこれもう15年が経つ。とはいえ、いまだに理系は苦手だし、皆さんのやっている電気設備にも正直興味はない。
それでも、特に大きなストレスもなく勤務していられるのは、この会社が私にとって居心地が良い場所だからだ。
死活問題。消えゆく若者の謎…
だが、そんな居心地の良い会社も「建設業界」というジャンルで括ると、たちまち”3K上等”みたいな、できれば長居したくないイメージに染まってしまうらしい。
御多分に洩れず、我が社もその建設業界が抱える「若者不足」という問題をずっと引きずっている。
私が入社した頃は、まだ何人か若者が在籍していた。でも皆、それが分岐点であるかのように結婚を機に消えていった。ご祝儀袋と共に…。
なぜか?
理由は分からないでもない。おそらく奥さんから言われるのだろう。
「今まで積んだ経験を生かして、もっと待遇の良い、休みがきちんと取れる大手に転職してほしい」と。
働き方改革だなんだと言われているが、確かにうちの会社は休みが取り難い。改修の仕事は人が休んでいる間に行うことが多いので、土日に仕事が入るのは当たり前。夜間作業もたまにある。
そうかといって、平日も設計や積算業務があるので、のんびりとはしていられない。世の中の風潮である「家事・育児の夫婦分業」とはかけ離れた会社だなあ…と思う。
でも、それはうちの会社に限ったことではなく、この業界全体に言えることではないだろうか。いつの間にか消えていく若者の転職先は、おそらく他業種ではないかと推測する。やはりこの業界では、若者は育たないのだろうか。
そもそも仕事のやりがいって何?
うちの会社にいるベテランたちも、当たり前だが昔は若者だった。新卒で入社した人もいるようだが、ほとんどは中途採用で入った人たちだ。中には、大手企業からの転職者もいる。
彼らはなぜうちの会社を選び、ここで仕事をしているのか?
1つは、給料が他業種よりも良いから。資格が必要な仕事は、危険を伴う仕事でもあり、責任を要する仕事でもあるから給与が良いのだろうか?
もう1つは、好きな仕事だから。これは納得だ。専門職は好きじゃないと務まらない仕事だと私は思う。
そして最後にもう1つ。これは私の考えだが、彼らの仕事継続の原動力になっているのは、「人との信頼関係が築けていること」だと思う。
うちの会社は中小企業なので、クライアントとの打合せから設計積算~施工管理まで、全て1人で行うことが多い。長く仕事をしていれば、クライアントからの信頼は厚く、下請けの職人さんとの連携もスムーズだ。
良い意味で忖度できているから、仕事を上手く回すことができるのだと思う。次の現場もぜひ!と指名が来るようになれば、やりがいも生まれるだろう。
もちろん、そこに至るまでには、相応の努力と経験とスキルが必要なのだろうけれど。
有事のときこそ人材確保のチャンス!?
新型コロナウイルスの影響で世界中が不況にある中、幸いうちの会社はそれほど大きな打撃を受けなかった。
前述したように、人が休んでいる間に働く会社だから…ということもあるが、それ以前に、建設業はインフラに基づく職種であり、私たちはモノではなく「技術」を有する会社でもあるからだ。
有事のときに沈まないのは、やはり手に職を持った人たちなのだと実感した。
と同時に、今こそ若者をゲットできるときなのでは!?と思った。
そんな私の思惑を知ってか否か、先日上司から「人材派遣の会社を探してくれ」との依頼があった。なんでも、この秋口から大きな現場が重なっていて、今いる社員だけでは回しきれないらしい。
「今年こそは良い人材の確保を!」と言い続けてはや数年…。幹部もこのままではいかんと思っていたらしく、昭和に作られた就業規則も令和な感じに改定されたと聞く。
とは言え、人との出会いはお見合いに限らず「ご縁」だと思う。
今このタイミングで、中小企業に就職したいと思っている有能な若者は見つかるのだろうか。仮に我が社に入社してくれたとして、結婚しても会社に居続けてくれるだろうか…。
秋の大型現場開始まであと2ヶ月。これまで以上に熱い夏が始まろうとしている。