日本最大級の木造マンションプロジェクトが進行中
三井ホーム株式会社が建設中の「(仮称)稲城プロジェクト」(東京都稲城市)。1階はRC造だが、2階から5階は木造枠組壁工法を採用し、完成すれば日本最大級の木造マンションとなる。
家を建てる時のCO2排出量を比較すると、木造はRC造の約1/2という試算もあり、再生可能な循環資源である「木材」を利用した建築への期待が高まっている中、注目すべき動向と言えるだろう。
「(仮称)稲城プロジェクト」では、壁倍率30倍超という国内最高レベルの高強度耐力壁や、高性能遮音床システムなど、中層建築物の木造化への課題を克服する普及性の高い要素技術を各所に採用。「国土交通省 2020年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」にも採択された。優れた断熱性能を持つことから、入居者の快適な居住性と一次エネルギー消費量削減に役立つBELS「ZEH-M(Oriented)」の認定を取得済みだ。
「(仮称)稲城プロジェクト」は2021年11月に完成予定
これまで医療、介護、文教施設などの木造施設建築を国内中心にこなしてきたが、満を持して木造マンションプロジェクトを本格始動することになった三井ホーム。「(仮称)稲城プロジェクト」を皮切りに、「MOCXION(モクシオン)」という新ブランドのもとで「木造マンション」という新たなカテゴリーを創出し、中層建築物の木造化・木質化を促進することで、さらなるCO2排出量削減や脱炭素社会に貢献していく方針だ。
大規模中層木造マンション実現の裏には高強度耐力壁の開発
中層賃貸マンション「(仮称)稲城プロジェクト」は、 5階建ての延床面積 約3,738m2で、 2020年11月に着工。2021年11月に完成予定だ。劣化対策等級、断熱等性能等級、一次エネルギー消費量等級では、住宅性能表示制度における3つの最高ランクを取得、高い耐久性と省エネ性能を実現する。「ZEH-M(Oriented)」の認証基準を超え、「一次エネルギー消費量」は約30%低減、木造のためCO2の排出量も大幅に削減している。
これらを実現した背景には、各種の技術開発があった。例えば、国内で中層の建築物を木造化する場合、規定の構造性能と耐火基準を満たすために、構造壁が厚くなることが設計上の課題であった。この課題を解決するために、国内最高レベルの壁倍率30倍超の高強度耐力壁を開発。従来比で壁厚は半分に減少、建物の有効床面積が増加し、設計の自由度も高まった。
国内最高レベルの壁倍率30倍超の高強度耐力壁を開発
「耐火性や強度を確保する上でどうしても厚くなってしまう壁の問題をクリアするためには、壁倍率30倍超の高強度耐力壁が必要だった。結果的に、デザインの自由度とマンションの住み心地が向上し、木造マンションの実現の一歩となった」(三井ホーム)
「NLT」材を採用し、自由度の高い設計を
さらに、「(仮称)稲城プロジェクト」では、RC造と同等クラスの高性能遮音床システムを導入したほか、木造建築に新たな可能性を拡大する「NLT(Nail Laminated Timber)」材を一部の床組みとして採用している。
北米で100年以上前から利用されてきた「NLT」材は、製材品を小端立てにして積層し、釘や木ねじで留め付けた構造材。日本では、2020年8月に日本ツーバイフォー建築協会がNLTの床版・屋根版の準耐火構造大臣認定を取得し、準耐火建築物への木の「あらわし」での使用が可能になった。
「NLT」材は、短い製材を継いで長尺のパネルが製作できるため「大空間」の設計で利用可能なことに加え、特別な生産設備が不要であり、資材調達におけるコストメリットもある。また、シンプルで強固な構造材としても知られ、集成材やCLTなどと同じ木材を集層した大断面部材で、釘接合でつくれるため、大掛かりな製造機械が不要で、突きつけ接合により、鋼材長さより長いスパンの床版、屋根版ができるほか、天井をあらわし仕上げにできるという高い意匠性も持つ。
「NLT材」を導入し、施工の研修も実施
加えて、同プロジェクトでは国内初の試みとして、国産材(信州カラマツ)による大断面の枠組壁工法用製材(2×10材)を床組みの一部として採用。また、三井不動産グループの保有林(北海道)で伐採適期を迎えた木材や間伐材を軒裏や内装材として活用する。
木造のマンションやビルがありふれた未来に
これまでも三井ホームは、オーダーメイドの注文住宅を軸に、低層の賃貸住宅や5,000棟を超える施設系建築(非住宅)など、24万5千棟を超える多様な用途での木造建築を手掛けてきた。
2016年には、延床面積で約3,000坪、全160室という国内最大級の木造福祉施設(特別養護老人ホーム)では、木造の中高層化が進むカナダで開発された高強度耐力壁「ミッドプライウォールシステム」を国内で初めて実用化。そのほか「ウッドデザイン賞2020」を受賞した「三井ホーム熊本支店新築工事」など、これまでも様々な中層施設の木造化に三井ホームグループとして取り組んできた。
こうした中層木造建築で実績を積み上げ、今回、木造マンションを日本に普及すべく、「MOCXION」を立ち上げ、第一号物件として「(仮)稲城プロジェクト」をスタートさせた三井ホームは「これからは、木造のビルやマンションがありふれた建物として街中にあふれている未来を目指していきたい」と話す。
都内高齢者向け施設でも木造化を実現
同プロジェクトは「国土交通省 2020年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択された。これは生産可能な循環資源である木材を大量に使用する大規模な木造建築物等の先導的な整備事例と国が認めたもので、内容を広く国民に示し、木造建築物等の技術の進展に貢献するとともに、普及啓発を図ることを目的としている。
国も民間建築の木造化を後押し
国も、建築の木造化に本腰を入れている。かねてより「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」により、「5階建て以下の低層の公共建築物については、原則としてすべて木造化を図っていく」としており、2018年度では国が整備を行った対象となる低層の建築物の木造化率は90.6%となり、法の施行以降、最高の木造化率となった。
問題は民間建築工事だが、同法がこのほど改正され、現在の低層の公共建築物から民間建築物にまで拡大したほか、法の目的として「脱炭素社会の実現に資すること」との文言を新たに追加することになった。施行は木材利用促進月間の始まりに合わせ、2021年10月1日で、改正後は「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」と法律名も変更することになる。
こうした背景も後押しし、三井ホームの本気度は新ブランドにも表れている。CO2の排出量を大幅に低減することが可能な木造建築物の普及を促進し、脱炭素社会の実現に寄与することを目指し、サステナビリティブランド「&EARTH with WOOD」を立ち上げた。
三井ホームの木造建築への挑戦は今後とも続き、街のありようも一変する可能性を秘めている。