「NLT」材を採用し、自由度の高い設計を
さらに、「(仮称)稲城プロジェクト」では、RC造と同等クラスの高性能遮音床システムを導入したほか、木造建築に新たな可能性を拡大する「NLT(Nail Laminated Timber)」材を一部の床組みとして採用している。
北米で100年以上前から利用されてきた「NLT」材は、製材品を小端立てにして積層し、釘や木ねじで留め付けた構造材。日本では、2020年8月に日本ツーバイフォー建築協会がNLTの床版・屋根版の準耐火構造大臣認定を取得し、準耐火建築物への木の「あらわし」での使用が可能になった。
「NLT」材は、短い製材を継いで長尺のパネルが製作できるため「大空間」の設計で利用可能なことに加え、特別な生産設備が不要であり、資材調達におけるコストメリットもある。また、シンプルで強固な構造材としても知られ、集成材やCLTなどと同じ木材を集層した大断面部材で、釘接合でつくれるため、大掛かりな製造機械が不要で、突きつけ接合により、鋼材長さより長いスパンの床版、屋根版ができるほか、天井をあらわし仕上げにできるという高い意匠性も持つ。

「NLT材」を導入し、施工の研修も実施
加えて、同プロジェクトでは国内初の試みとして、国産材(信州カラマツ)による大断面の枠組壁工法用製材(2×10材)を床組みの一部として採用。また、三井不動産グループの保有林(北海道)で伐採適期を迎えた木材や間伐材を軒裏や内装材として活用する。
木造のマンションやビルがありふれた未来に
これまでも三井ホームは、オーダーメイドの注文住宅を軸に、低層の賃貸住宅や5,000棟を超える施設系建築(非住宅)など、24万5千棟を超える多様な用途での木造建築を手掛けてきた。
2016年には、延床面積で約3,000坪、全160室という国内最大級の木造福祉施設(特別養護老人ホーム)では、木造の中高層化が進むカナダで開発された高強度耐力壁「ミッドプライウォールシステム」を国内で初めて実用化。そのほか「ウッドデザイン賞2020」を受賞した「三井ホーム熊本支店新築工事」など、これまでも様々な中層施設の木造化に三井ホームグループとして取り組んできた。
こうした中層木造建築で実績を積み上げ、今回、木造マンションを日本に普及すべく、「MOCXION」を立ち上げ、第一号物件として「(仮)稲城プロジェクト」をスタートさせた三井ホームは「これからは、木造のビルやマンションがありふれた建物として街中にあふれている未来を目指していきたい」と話す。

都内高齢者向け施設でも木造化を実現
同プロジェクトは「国土交通省 2020年度サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択された。これは生産可能な循環資源である木材を大量に使用する大規模な木造建築物等の先導的な整備事例と国が認めたもので、内容を広く国民に示し、木造建築物等の技術の進展に貢献するとともに、普及啓発を図ることを目的としている。