建設業界で働く若手女性社員の本音
豊富な専門知識が必要で、一人前になるまで約10年かかるともいわれている建設業界では、長期的な目線での人材育成が最重要となる。
建設業界では、女性の入職促進や就労継続に向けた様々な取組みが実施されているが、総務省統計局の労働力調査結果によると、建設業における女性の割合は17.6%(2021年10月時点)で、全体平均43.3%に比べて大幅に少ないのが現状だ。
著者も、建設コンサルタントで5年弱の就業経験があるが、体力的な負担が大きく、退社した経緯がある。
建設業界で働く女性が少ない理由を探るため、現在建設コンサルタントで働く入社5年以内の若手女性社員に、働き方についての率直な意見を聞いた。
インタビューしたのは、著者の元同僚にあたる3名である。
- Aさん:入社2年目、橋梁の設計を担当
- Bさん:入社4年目、砂防施設の設計を担当
- Cさん:入社5年目、砂防施設の設計を担当
土木を選んだ理由、やりがいを感じる瞬間
――土木の仕事を選んだ理由は何ですか?
Aさん 土木構造物の設計に興味があったからです。大学で土木の勉強をしており、就職先に関しても土木分野以外の選択肢は考えていませんでした。
Bさん 大きな構造物に興味があったため、土木の仕事を選びました。もともと高専で土木の勉強をしており、建設コンサルタントに入社するため、大学に編入したという経緯があります。
Cさん 土木は、人の生活に直結する分野であり、機械や電気よりイメージがつきやすく、高校生の頃から興味を持っていたからです。
――仕事をしていて、やりがいを感じるのはどのような時ですか?
Aさん 検討結果や提案を、上司や発注者に認めてもらった時にやりがいを感じます。自分が設計をした構造物が施工された事例があれば、それがやりがいにつながるのでしょうが、まだそういった経験はありません・・・。
Bさん 担当している業務を納品した時に、「戦いが終わった・・・。」と安心すると同時に、やりがいを感じます。
Cさん AさんとBさんと同じ答えになってしまいますが、検討結果や提案を発注者に説明して承諾をもらえた時と、業務を納品した時にやりがいを感じます。
――仕事は楽しいですか?ずっと続けていこうと考えていますか?
Aさん 土木に関する知識が増えていくことに、楽しさを感じています。ただ、拘束時間が長く、現在働いている会社でずっと働き続けるというイメージはあまり湧いていません。
Bさん 仕事は労働なので、楽しさを求めることではないと考えています。土木業界では、時代とともに新技術が次々導入されていますが、自分が新技術の導入についていけなくなった時に退職を考えると思います。
Cさん 楽しいと思うことは少ないです。苦手な上司からの言葉や態度に意気消沈しながら、日々、淡々と仕事をしています。しかし、一部の人以外は皆優しく、仕事がしやすい環境だと思うので、可能な限り仕事を続けていきたいと考えています。
結婚や出産で働き方はどう変わるのか
――将来、結婚・出産した場合、そのまま建設コンサルタントで働き続けようと考えていますか?
Aさん 結婚した場合は、このまま働き続けようと考えていますが、出産した場合は、働き続けることは難しいと考えています。現在の仕事は拘束時間が長く、育児のための時短勤務や育休からの復帰をスムーズに行うことができないと思うからです。
Bさん 今のところ、退職する予定はありません。人材不足が大きな課題となっているので、仮に結婚や出産をした後も、育児などに関する補助はしっかり整えてくれるのではないかなと思っています。
Cさん 結婚・出産後も、しばらくは働いてみようと思っています。まだ産後復帰した事例が少ないため、どのくらい融通が利くのか不安はありますが、挑戦してみたいです。周囲の理解が得られなかったり、肩身が狭くなったりして働き続けることが難しくなったら、転職しようと思っています。
――私が働いていた時は、体力的な負担が大きかったですが、体調を整えるために何かしていることなどはありますか?
Aさん 睡眠をしっかりとることです。毎日8時間程度の睡眠時間を確保しています。
Bさん 私は、仕事後に1時間ほどスポーツジムでヨガをしています。
Cさん 体調が優れない時は、なるべく残業せず、早く帰ることを意識しています。また、肩こりが頭痛の原因となることが多いので、マッサージに通っています。
建設コンサルタントの働き方について
――働き方に関して、感じている課題はありますか?
Aさん 先ほどから述べているように、拘束時間が長く、平日の自由時間が少ないことです。平日は家に帰っても寝るだけのような生活を送っており、趣味の時間が取れません。週に一度のノー残業デーは、早めに帰宅することもできますが、次の日に備えて早く寝てしまい、自由時間がほとんど取れません。
Bさん 人材不足が大きな課題だと感じています。業務を効率的に進めるには、業務が終わらないからといって全員の労働時間を延ばすのではなく、仕事の難易度と個人の能力を把握し、それぞれのバランスをとることが重要だと考えています。
Cさん 夏期休暇や年末年始の休暇は取りやすいですが、繁忙期の有休が取得しづらいことです。また、繁忙期の休日出勤は、外せない予定があれば休めますが、予定が無ければほとんど毎週、休日出勤をすることになるため、体力的にも精神的にも疲れが溜まります。
昨今は、公共工事の業務平準化が進み、夏頃に工期を迎える業務が増えてきていますが、それにより年中忙しくなり、1年に繁忙期が2回来るようになっただけのように感じています。
――働き方に関して、よかったことや期待していることはありますか?
Aさん 働き方とは少し違うかもしれませんが、残業をしている分、平均より給料が高いため、貯金の計画が立てやすいことです。
Bさん サービス残業が許されない雰囲気ができつつあることです。
Cさん 先日、社内で設計担当の女性社員に向けて、産休育休や介護休暇についての説明がありました。これまでは特に説明がなく、もし自分が休暇を取る立場になったらどうすればよいのだろうと不安でしたが、社内の規定を説明してもらい、少しイメージができるようになりました。
また、育休から復帰した方に相談に乗ってもらえる環境があることも知ることができ、良い機会となりました。
――将来的にはどのような仕事をし、どういった働き方をしたいと考えていますか?
Aさん 今の会社で今後も働き続けるかは分かりませんが、土木もしくは大学で少し学んだ建築の分野で、設計に関わる仕事は続けたいと考えています。
Bさん 現在担当している、砂防分野の知識や技術を磨いていきたいと考えています。自分が持っている専門知識・技術を増やしていくことで、現在働いている会社に依存することがなくなり、将来的に人生の選択肢が広がると考えています。
Cさん 可能であれば建設業に携わっていたいとは思いますが、結婚や出産後に、家庭を大切にしながら働ける環境があれば、どんな業種でも構わないと思っています。
働き続けるための秘訣やアドバイス
――仕事とプライベートの両立で意識していることはありますか?
Aさん 休日は仕事のことを考えず、好きなことをして過ごすよう意識しています。業務の納期がいくら迫っていても、考えないようにしています(笑)。
Bさん Aさんと同じように、休日や帰宅後は、仕事のことを考えないようにしています。
Cさん 繁忙期以外は、残業する必要がなければ定時で帰るようにしています。残業するにしても、2時間を目安に、ダラダラと残業をしてしまわないように目標を決めています。
また、休日は仕事を忘れられるように予定を入れるようにしています。なかなか外出ができなくても、運動、料理や掃除など、やりたいことを決めてリフレッシュするようにしています。
――建設業に従事している方の中で、仕事を辞めたいと思っている方に対して、働き続けるための秘訣やアドバイスがあれば教えてください。
Aさん 『自分がした仕事が今後の世の中を支えていく』という想いをモチベーションに、仕事を続けています。あとは、休日に楽しみや目標をつくることで平日を乗り切っています。
Bさん 建設コンサルでしか働いたことがないため、建設コンサルに特化した話になってしまいますが、担当している分野(河川、道路、橋梁など)に興味を持つ他に、仕事を続けていく道はないと思っています。
建設コンサルタントの業務は、自学自習が重要なので、興味が持てないのであれば仕事を続けていくのはつらいと思います。
Cさん 仕事で関わりの少ない同僚や、同じ建設業で働く学生時代の同級生などに、胸の内を話してみるといいと思います。一緒に仕事をしている人よりも気楽に話すことができ、同業種であるため悩みを理解してもらえることも多いです。
人に話すことで、少し心が軽くなると思います。モヤモヤとした気持ちを溜め込まないことが大切だと感じています。
土木は好きだけど、働き方の改善点がまだまだある
インタビューを通して全員に共通していたのは、土木・建設分野が好きということだ。3名とも、今後も土木・建設業に携わっていきたいと考えていることが分かった。
その一方で、仕事を楽しいと感じている人は少なかった。仕事はそもそも楽しむものではないと、いう考え方もあったが、今回の取材で、仕事が楽しくない理由として挙がった拘束時間の長さや人材配置に関しては、改善の余地があると考えられる。
社員が仕事を楽しむことができる機会や環境を増やすことで、社員の満足度が上がり、長期の人材確保にもつながるため、会社にとっても好都合ではないだろうか。
また、働き方に関する期待やよかったこととして、サービス残業が減りつつあることや、給与の高さなどが挙げられた。国の政策の一つである働き方改革に合わせて、働き方の改善を図っていることが期待・よかったことに直結しているようだ。
一方で、拘束時間の長さや人材不足、有給休暇の取りにくさなど、働き方に関する課題も挙げられた。働き方の改善を図ってはいるものの、人材不足や業務量の多さによる自由時間の少なさが、いまだ大きな課題となっていることが分かった。
その他、結婚や産休・育休に対しての意見が多数挙がった。内閣府によると、第一子出産後も就業を継続する女性の割合は50%を超えており、出産後も就業を継続することは一般的になってきている。
だが、インタビューした3名が働く会社では、女性社員が出産後に就業を継続した事例がほとんどなく、3名とも復職してみないと実情が把握できないようである。おそらく、こうした悩みを抱いている女性社員は、どこの会社でもいるのではないだろうか。
育児と仕事の両立や、育児休暇からの復帰に対する懸念を感じさせないためにも、事例を増やし、出産を経ても働き続けられる支援体制を早急に構築する動きが会社には求められる。
なお、3名とも同じ会社に新卒で入社し、現在まで働いているため、意見が多少偏っている可能性がある点にはご留意いただきたい。