増加が予測される木造の中高層建築
建築部門の2022年の主役は木造だろう。
現在、高層ビルや公共施設でも木造建築が増えている。すでに、国も「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」を昨年10月1日に施行し、木材利用を促進する対象をこれまでの公共建築物から民間建築物にまで拡大した。
法施行と同時に、「建築物木材利用促進協定制度」を制定した。内容は、建築主や建築物に関係する事業者・団体が建築物の木材利用促進に関する構想を実現できるよう、国や地方自治体と協定を締結できる制度だ。その第一号が国土交通省と公益社団法人日本建築士会連合会が「木造建築物の設計・施工に係る人材育成等に関する建築物木材利用促進協定」を締結した。
今後、増加していくと予測される木造の中高層建築の今を追った。
なぜ今、木造建築がフォーカスされているのか
木造建築は、「木のぬくもり」という点からかねてより注目をされてきたが、大きなトピックスは政府が「2050年のカーボンニュートラル」をめざすことを表明したことが大きい。全産業にわたり、脱炭素を進めることになった。そこで、二酸化炭素を吸収、蓄積する木材の利用をさらに促進する必要がある。
その中で、民間企業の木造の技術開発に注目が集められている。2021年12月には一般社団法人ウッドデザイン協会も設立され、会長には建築家の隈研吾氏が就任。ゼネコンからは株式会社竹中工務店、ハウスメーカーからは住友林業株式会社が参加している。
民間企業の詳細な動向は後述するが、いずれにしても、世界的な世論の高まりを受けて、自然や国産材等の自然資源を最大限に活かす視点が重要視されている。SDGs(持続可能な開発目標)の一環としても、木造建築の技術開発に取り組んでいる事業者はゼネコンやハウスメーカー、地域工務店など多数おり、2022年もこの流れは進んでいくことは確実であることは念頭に置くべき動向と言える。
官民連携で進む木造利用の促進
それでは、国はどのような取り組みを行っているのか、改めて俯瞰しよう。
「建築物木材利用促進協定制度」の第一号は、国土交通省と日本建築士会連合会との締結であった。同連合会の構想によると、木造建築物の設計・施工の人材育成や普及促進で連携し、木材利用の促進に貢献する。中大規模木造設計セミナーの開催、「木の建築賞」等の表彰制度を全国7ブロックで巡回実施し、川上から川下まで連携した木造建築技術者の育成を行う。このほか、都道府県各建築士会と地方自治体との協定の働きかけも実施、セミナーについては、2024年度までに全国で1,000人以上の受講をめざす。
一方、国は同連合会の構想達成に向けて、講師の派遣、取組みの周知・広報に関する協力、自治体との協定締結等の連携促進についての支援等を行う。有効期限は2025年3月31日までで対象は全国だ。狙いとしては木造建築に強い建築士人材を育てていく。
こうした動きもあり、木造について知識を蓄えた建築士から、木造建築へのさまざまな提案がなされるものと予想される。国としても同制度を活用し、多くの団体との木材利用促進の締結を果たし、官民連携で行っていく方針だ。
木造の技術開発ではさまざまなものがあるが、特に注目されているのがCLT(直交集成板)だ。構造は単純で、ひき板(ラミナ)を並べた後、繊維方向が直交するように積層接着した木質系材料。最近では、中層建築物の共同住宅、高齢者福祉施設の居住部分、ホテルの客室等に導入されている。最近では、CLTとRC造のハイブリッド建築により、さらなる高層化をめざす動きもある。
直交集成板・CLTの利用拡大に期待が集まる
国もCLTの利用促進を進めていく方針だ。政府の「CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議」では国土交通省や、林野庁の支援取組み状況も報告された。同会議の資料によると、CLTの活用は年々上昇傾向にあり、竣工件数は、2021年度に累計で710件強に達する見込みだという。
CLTを活用した建築物の竣工件数の推移 / 内閣府
近年の中規模建築でも「銀座8丁目計画」(ヒューリック)、「東洋木のまちプロジェクト」(東洋ハウジング)「大和ビル」(大和興業)、「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」(三菱地所)、「GREENable HIRUZEN)」(三菱地所、岡山県真庭市、隈研吾建築都市設計事務所)などがあり、デベロッパーの取り組みなどが注目された。
大阪・関西万博日本館でCLTを活用
同連絡会議では、議長である岡田直樹内閣官房副長官が「今後のプロジェクトとしては、大阪・関西万博日本館でCLTの活用を進めるための取組みが関係省庁の連携のもとで進められており、こうしたモデル的なプロジェクトを積極的に推進していただきたい」と語っている。また、和泉洋人内閣総理大臣補佐官からは「CLTパネル等の寸法等の規格化の推進、住宅性能表示制度におけるCLT向けの基準の整備、設計者への一元的サポート体制の整備等が関係各省庁で進められている。今後ともしっかり取り組んでいってほしい」という積極的な意見があった。
さらに、会議では2021~2025年度の普及に関するロードマップも確認し、政府内で共有した。「モデル的なCLT建築物等の整備の促進」、「コスト改善」、「設計・施工等をする担い手確保」等の課題も改めて浮かび上がっている。
特にコスト面では、製造施設の整備を急ぎ、年間50万m3のCLT生産体制をめざすほか、CLTパネル等の寸法等の規格化に向けた連携体制の構築、低コストの接合方法等の開発・普及により、CLT製品価格が7~8万円/m3となり、他工法と比べコスト面でのデメリットが解消されることを期待している。
各民間企業の挑戦的な取組み
それでは現在、民間企業はどのような取組みを展開しているのか。木造の中高層建築を後押しするため、技術的にはCLTを構造物に採用する動きも出始めている。
たとえば、三菱地所の「ザ ロイヤルパーク キャンバス 札幌大通公園」は昨年10月1日に、札幌市・中央区に開業、国内初の木造とRC造を組み合わせた高層ホテルとして注目を浴びた。
構造躯体の木材使用量は約1,060m3(外装材等も含めると約1,200m3)となり、そのうち8割強が北海道産⽊材だ。CLTは床材に採用、構造躯体に使用する木材量は国内最大規模となり、建物全体をRC造とした場合と比べ約1,380tのCO2発生を抑制している。ちなみに、国土交通省のCLT工法等先導的な設計・施工技術が導入される建築物の木造化プロジェクトに対する支援である「令和元年度 第2回募集 サステナブル建築物等先導事業(木造先導型)」に採択されている。
さらに、三菱地所は、建築用木材の製造、施工、販売といった、川上から川下までの統合型ビジネスモデルを構築する新会社・MEC Industry株式会社を設立している。将来的には直交集成板・CLTとS造・RC造などの複合化により、中層から高層建築化への展開を進めていくという。
野村不動産株式会社は、オフィスビル「野村不動産大手町北ビル」を2021年6月21日に竣工しているが、基準階専有部の一部に国産材の CLTを採用、木材を用いることで、比較的簡易に床解体ができるため、コミュニケーション向上を目的とした貸室内屋内階段や吹抜けの設置がしやすいメリットがある。
三井ホーム株式会社は、「MOCXION(モクシオン)」という新ブランドのもとで「木造マンション」という新たなカテゴリーを創出した。高強度の耐力壁「MOCX wall(モクスウォール)」を開発し、木造マンション「MOCXION INAGI(モクシオン稲城)」に導入しているが、こちらも同先導事業に採択された。
また、大林組は、横浜市・中区に世界的にも類を見ない、構造部材(柱・梁・床・壁)すべてを木材とした、高層純木造耐火建築物の建設中だが、こちらも同先導事業に選定されている。
こうした動きは、大手企業だけではなく、地域工務店でも始まっている。千葉県鎌ケ谷市に本社を置く、株式会社東洋ハウジングは、CLTパネル工法による14層(1階RC造)の15階建て店舗・事務所併用の高層共同住宅を建設する「東洋木のまちプロジェクト(高層棟)」を始動した。
CLTを構造体として活用した民間の中高層建築物の事例 / 内閣府
実は、CLTの民間プロジェクトは書ききれないほど多数ある。どこも相当な意欲をもって取り組んでいるのだ。
課題はコストと流通にある
政府や民間企業でも木材利用の機運が高まっている中でも、課題も多い。特に、2021年は「ウッドショック」があり、同時に建材が高騰化し、材料全般がインフレ化している。建材メーカーの中でも、現在の情勢に耐え切れず、値上げを公表した企業もある。
そこでCLT材はRC造やS造と比較すると、コスト的には不利であり、耐火関連の法規制の関係もあり、事業者側はCLTの採用に戸惑いの声も聞こえる。つまり、耐火時間を定めた建築基準法施行令では15階以上は、3時間の耐火性能を求めている点も高層化が進まない理由の一つと指摘する声もある。
政府は一気呵成として建築の木造化を進めたい意向だが、コスト高騰をめぐり、事業者、利用者、投資家という不動産業界の三者の間では、CLT採用に向けてそれぞれ思惑があるのが実情だ。例えば、投資家サイドから考えれば、不動産投資では短期間で収益を上げたいところだが、物件がコスト高になればそれが実現できないということになるからだ。しかし、一方、利用者サイドから見ると、「木のぬくもりは何事にも代えがたい」という声もあり、さまざまだ
実際、CLTの耐久性は、RC造と同等と言われつつも、木造の減価償却資産の耐用年数は、RC造やSRC造と比較すると、半数以下になっており、これが金融機関からの資金調達に課題があるのが実情のようだ。
それでも政府は積極的に木造建築を推進
上記のように課題も多いが、それでも政府としては、木材の利用促進に注力する方針に変更はない。
2022年度のCLT関連予算概算要求にはさまざまなメニューがある。たとえば、林野庁は都市部でもCLT等の木材需要の拡大を図るため、CLT製造事業者と設計・施工者等の連携によるモデル的な建築実証や土木分野への利用等に関する技術開発への支援を、また、国土交通省はカーボンニュートラルの実現に向け、炭素貯蔵効果が期待できる木造の中高層住宅・非住宅建築物を対象とする優良なプロジェクトへの支援をそれぞれ盛り込んだ。
サステナブル建築物等船頭事業(木造先導型) / 国土交通省
さらに、林野庁では、地域材利用のモデルとなるような公共建築物の木造化・内装木質化に対し支援することも要求している。対象は、教育・学習施設関係、医療・社会福祉施設や、観光・産業振興関係などの各施設が上がっている。そのため、今後、民間施設に加えて、公共施設でも、CLT材が導入されるケースが数多く見られそうだ。
これから政府としてはCLTの設計者と施工者の担い手を積極的に増やす方針であり、また、CLT単独で建築工事を実施するよりも、RC造等とのハイブリッド建築を実施するケースが増加してくることは予想される。
これから設計者や施工者は、CLTを軸としたハイブリッド建築についての知識や技術を吸収していくことがカギになるだろう。