「JAPAN CON-TECH FUND」を設立したカシワバラ・コーポレーション
インフラメンテナンスや、マンション大規模修繕事業などを行う株式会社カシワバラ・コーポレーション。建設分野における技術革新の推進を目的として、建設スタートアップに投資する「JAPAN CON-TECH FUND」を設立、相次いで資本提携を結び、塗料業界、インフラ設備、建機レンタル業界との支援、連携を深めている。
「JAPAN CON-TECH FUND」の設立や建設DXの戦略の狙いはどこにあるのか。カシワバラ・コーポレーションのCONTECH プロジェクトリーダー山田氏と、プロジェクトメンバー兼弊社 DX グループリーダー岡崎氏に建設DX戦略の話を聞いた。
今、なぜ建設DX戦略なのか?
――会社全体での建設DX戦略から伺ってよろしいでしょうか。
岡崎氏 これからの建設業は、アナログで行ってきたことをデジタルへと置き換え標準化する視点が大切になります。その理由は、若年層就業者数の減少、高齢層就業者数の増加傾向から建設業界の人材不足の悪化が進んでいるためです。とくに、2025年には団塊の世代がすべて75歳以上になり労働力人口の減少がさらに加速することが見込まれており、デジタルの活用は大前提です。
その一方で、建設業界のデジタル化は他業界と比較し遅れています。それはテクノロジーへの投資・導入コストよりも、労働集約型で働き手の人件費が安かったこともありますが、ここ最近では価値観も大きく変わり、土日が休みでなければ人も集まらなくなってきています。だからこそ、テクノロジーを全面的に活用することは大きな流れであると言えるでしょう。
とくにデジタルネイティブと言われる20代の世代はデジタルを使用する働き方が前提になっておりますので、効率化が遅れると採用にも課題が生まれることになります。
これから建設や不動産テックとの協業、連携は増加へ
――建設スタートアップに投資する「JAPAN CON-TECH FUND」を開始した意図は。
山田氏 建設会社は今後、建設や不動産テックとの連携が増えると考えています。当社としても建設分野での技術革新の推進を目的として、建設スタートアップに投資する「JAPAN CON-TECH FUND」を、2019年3月より当初投資枠50億円で開始しました。
テクノロジーを活用し、建設業全体をより良くしていこうという趣旨で、当社とシナジーのあるスタートアップ企業に対して、資本もしくは事業提携しています。優れた技術開発が実現できれば、当社グループの現場に導入できる効果もあり、投資・事業提携のプロジェクトとしてスタートしています。現在、6社に出資しているほか、さまざまな企業と実証実験を行い、連携を深めています。
2019年3月に「JAPAN CON-TECH FUND」を設立
――狙いとしては、建設業の従事者が高齢化していることへの対応でしょうか。
山田氏 もちろん、人手不足や作業員の高齢化への対応もありますが、建設業界は他の産業と比較してアナログの現場も多く、生産性が低い。そこでテクノロジーを活用し、生産性を向上しようと考えています。
旧態依然の塗装流通でデジタル活用
――具体的なDXの取組みとしては。
岡崎氏 当社は、インフラメンテナンスやマンション大規模修繕事業を通じて、塗料業界に強みがあります。出資した会社に塗料業界に特化したSaaS開発を行うPaintnote株式会社がありますが、クラウド型販売管理システムである「Paintnote」、クラウド型受発注システムである「Paintnote EDI」を開発・提供されています。
「塗料・塗装白書2019」によると、日本国内の塗料流通業界は、販売事業者数3,000以上、年間流通額約2兆円と莫大な規模ではありますが、紙や電話というアナログなコミュニケーションが色濃く残る企業が多いのが実情です。
実際、発注のやり取りも、電話で「明日もってきて」ということがよくあります。ただ、こうしたやり取りは記録されておらず、ミスも少なくありません。そこで業務管理ツールを活用し、ログが残る形のインターネット型の発注に順次切り替えています。
塗装側では、発注ログが残ることによる分析や、現場に慣れていない新人の管理者であれば、リストの中から塗料を選択できるなど、教育コストの削減にも効果があり、塗料販売店側からすると、電話で呼び出されなくて済むなど、塗料流通全体で効率化していくことを考えており、カシワバラでも順次発注方法をデジタルに切り替えるために営業所で導入を進めています。
塗料販売業界でもデジタルの波が押し寄せる / Paintnote株式会社Webサイトより引用
ドローンの活用により点検も効率的に
――ドローンの活用により、どれだけ便利になりましたか。
山田氏 施工管理者が従来、目視や検知で行ってきた壁面のさびの点検ではドローンを飛ばして、自動化する技術も共同で実施しています。当社のお客様は官民両方と多様ですので、いろいろと提案をしています。現在、ドローンでは、工場関係の工事で引き合いが多いですね。
しかし、まだ完全に自動化できるレベルではありません。たとえば、マンション大規模修繕の世界では、赤外線付きドローンを導入しても検査全体を完全に自動化することは、現状は難しい。むしろ、プラントのサビの検知や、人間が通りにくい橋の下では、ドローン点検や画像解析をすることで、効果が上がっています。
効率的な点検により、メンテナンスを行えば、水管橋の落橋が防止できた可能性も / 出典:国土交通省近畿地方整備局HP
また、工場では配管が通る場所も多いですから、その下側をドローンで点検しています。建設DXでの取組みは、今後、業務の生産性が上がるという実証実験の段階であり、業務全体を切り替えるまでには至っておりませんが、この技術を使えば、今までできなかったことが簡単になる可能性があるという段階で、クライアント様が求める技術と現段階の技術のせめぎ合いの所です。最近では徐々にクライアント様からの満足度も高まっています。
メインと周辺領域を連結し、新しい価値を
――いろいろな業態との提携の効果は。
山田氏 議論を深めていく中でドローン事業の強化があります。また、データ連携を行う上で、業務と業務が連結し、新しい価値を生むこともあります。個々の業務をデジタルに置き換えることはスムーズに進んでいますが、それをどう当社グループ全体で最適化していくかがポイントになります。
個別的な話では、建機レンタル業界のDXを支援するSORABITO株式会社に出資しています。150の国と地域からアクセスされる中古建機のオンライン取引所「ALLSTOCKER(オールストッカー)」、建機レンタル業向け業務管理サービス「i-Rental(アイレンタル)」と建機レンタル業界の課題に向き合っている点が強みになります。当社と建機レンタル会社とはお付き合いがあり、修理した建機を売りたいというお声がけもあります。メイン業務ではないものの、周辺領域であることから、出資しています。
SORABITOはさまざまな大手企業と連携 / SORABITO株式会社Webサイトより引用
メインと周辺領域が連結することにより、当社グループも新しい価値を生み出し、イノベーションを実現していきたいという想いがあります。
施工のDX化は現場ファースト
――これから施工面でDXにより改良していきたい点は。
岡崎氏 協力会社を含めてヒアリングをしている段階ですが、現状では紙や電話でコミュニケーションをしている部分が多いです。これからはそれをデジタルに置き換え、施工管理も最適化できるようにしたい。電話も緊急対応では効果はありますが、その比率をこれから下げていきます。そのために、協力会社とも連携した施工管理アプリを現在開発しています。
当社内で完結するDXと、協力会社も包含したDXがうまく連携し、スピード感を持った意思判断や新しい価値を創造することが最終的なゴールですので、その準備を開始したばかりです。
ただ、我々は現場ファーストですので、不便にならない範囲でデジタル化を進めている段階です。協力会社からは、「こういうのは不便ですから改良してほしい」というお声もいただいており、着実に改善を行っています。
協力会社も問題意識を強く持っているものの、実施できていない点があり、それを当社が音頭を取って改善することに歓迎している声も大きいです。現場管理についての改善意欲はあっても現実的に着手できていない点で悩んでいる協力会社も多いのです。
建設業におけるイノベーションのジレンマ
――最後になりますが、建設業はアナログが得意技であったため、さらにアナログを深化させたことでデジタル化が遅れるというイノベーションのジレンマに陥っていたと考えます。
岡崎氏 理想と現実のギャップが大きい点があります。当社もゼネコン事業だけではなく、プラント塗装の専業業務があり、その中で作業員は一人親方や高齢の方など、デジタル化を進められていない点があります。そのような方へのデジタル化は時間をかけて進めたい。
ただ、コロナ後になってからは現場の意識も大きく変わり、現場に出る必要のないメンバーはテレワークが基本で、現在は書類のデータ化、ワークフロー化もスムーズに進んでいます。以前は、現場でも「そんなの無理だよ」という拒否反応も一部ありましたが、前向きになっている点が大きな前進と受け止めています。
今まではアナログを極めて業務を進めてきましたが、デジタル化によってさらに多くの成果を生み出し、イノベーションのジレンマから一刻も早く脱していきたいですね。